ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

東京芸術大学教授の宮廻正明さんの“クローン文化財”の新作「バベルの塔」を拝見しました

2017年09月01日 | 汗をかく実務者
 東京芸術大学大学院美術研究科の教授の宮廻正明さんのグループが進めている絵画などのデジタル復元(“クローン文化財”)の新しい作品の「バベルの塔」を拝見しました。

 研究プロジェクトの研究リーダー(RL)をお務めになっている宮廻正明さんは、今回はオランダのボイスマンス美術館が所蔵する、ブリューゲルさんが描いた「バベルの塔」を“再現”しました。

 オリジナルの「バベルの塔」は絵画ですが、今回は立体化した造形物の「バベルの塔」を再現しました。



 造形物の「バベルの塔」の上半分です。



 単純に立体化した造形物ではなく、人間を模した人形などを配置するなどの立体化も行っています。





 また、バベルの塔の構造物の中身も、映像によって可視化しています。

 この造形物の「バベルの塔」を再現するために、オランダのデルフト工科大学が開発した蛍光X線装置を用いて、オリジナルの「バベルの塔」の各色合いに用いられている顔料(絵の具)の分析を丹念にし、それを忠実に再現しました。

 例えば、空の青色部分からはコバルト(Co)成分が、雲の中の青色部分からは銅(Cu)成分が検出されたことから、空の青色部分は当時のガラス質系の人工顔料のスマルトが、雲の中の青色部分は同様に人工顔料のアズライトがそれぞれ塗られていることを突き止めました。同様に、海の青さはスマルトとアズライの両方を用いて表現していることを明らかにしました。

 こうしてオリジナルの絵画「バベルの塔」に用いられた各色を表現した顔料を明らかにし、その顔料を用いた油絵の具を塗って、各部分の色合いを再現しました。

 参考として展示してあったオリジナルの「バベルの塔」の模写品(たぶん)です。



 オリジナルは意外と小さいもののようです。 、

 東京芸術大学大学院美術研究科教授の宮廻正明さんのグループは、文部科学省と科学技術振興機構が進めている「The Center of Innovation Program」の中で、「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション」を実施しています。

 今回展示された“クローン文化財”は、このプログラムの研究成果です。

 東京芸術大学大学院美術研究科教授の宮廻正明さんのグループが進めている“クローン文化財”の話は、弊ブログの2016年7月14日編をご参照してください。

東京芸術大学教授の宮廻正明さんが進めているデジタル復元画などの話を伺いました

2016年07月14日 | 汗をかく実務者
 東京芸術大学大学院美術研究科教授の宮廻正明さんのグループが進めている絵画などのデジタル復元の話を伺いました。

 宮廻正明さんは、この研究プロジェクトでは研究リーダー(RL)をお務めになっています。



 その最近の研究成果は、アフガニスタンのタリバンたちに破壊された「バーミアン東大仏天上壁画」のデジタル復元です。破壊される前に撮影されたデジタル画像とその破片などに残っていた顔料・染料などの絵の具などの分析から、まず画像を忠実に再現したそうです。

 さらにその推定した顔料・染料などの絵の具を基に、高精細インクジェットプリンターなどで壁画を再現したものを作製されました。その出来映えは、多くの関係者を驚かせました。

 さらに、奈良県生駒郡斑鳩町の法隆寺の金堂壁画第6号壁も高精細複製し、本物と原則同じ“クローン文化財”を再現したとの話を伺いました。この金堂壁画は、1949年の火災で焼損しています。

 この2点のデジタル復元には、東京芸術大学大学院美術研究科が長年、培ってきた美術品修復技術の集積が効果を上げているそうです。

 今回、宮廻正明さんが解説された話から分かったことは、科学技術振興機構の別館1階に現在、飾ってある浮世絵、2点のことです。

 この1階ロビーには、ここ半年ほど、普通の大きさの浮世絵とそれを40倍に拡大した複製画がそれぞれ2組、飾られています。

 この浮世絵は、米国ボストン市にあるボストン美術館が所蔵する「スポルディング・コレクション」の複製画でした。たまたま、ボストン美術館とNHKが共同で「スポルディング・コレクション」のデジタル画像を撮影したデジタルデータがあり、これを基に各浮世絵の復元を図った作品でした(この過程については、いずれNHKがドキュメンタリー番組として放映するそうです)。



 この浮世絵は喜多川歌麿の作品です。左側にある額縁に入ったものが本来の大きさです。右側は約40倍に拡大したものです。細部が見えます。

 飾られてるもう一点の浮世絵です。



 この「スポルディング・コレクション」は、製糖業で巨万の富を築いた米国人スポルディング兄弟が、明治時代末期から大正時代にかけて日本などで収集した浮世絵約6500点のことです。

 この米国人スポルディング兄弟は、この浮世絵約6500点をボストン美術館に寄贈する際に、「このコレクションは一般公開しないこと」という注文をつけました。このために、このコレクションは見ることができない作品たちです。

 この結果、この浮世絵約6500点は、光や熱などでほとんど劣化することなく、保存されています。このため、この「スポルディング・コレクション」は“浮世絵の正倉院”と呼ばれているそうです。

 実際に、この「スポルディング・コレクション」では各浮世絵の色合いがよく保存されています。

 以下の浮世絵の左側が「スポルディング・コレクション」のもので、右側が日本で保存されているものです。こちらは色合いが消えています。



 東京芸術大学大学院美術研究科の教授の宮廻正明さんのグループは、文部科学省と科学技術振興機構が進めている「The Center of Innovation Program」の中で、「『感動』を創造する芸術と科学技術による共感覚イノベーション」を実施しています。

 今回解説された“クローン文化財”は、どれもこのプログラムの研究成果です。各研究成果のデジタル復元画は国際的に高く評価され、賞賛されています。

(追記)
 今回、デジタル復元され、その“クローン文化財”が作製された「スポルディング・コレクション」の浮世絵群は、東京芸術大学とボストン美術館がそれぞれが互いに保有し、いずれはその“クローン文化財”を一般公開する計画を進めています。
 これによって、初めて「スポルディング・コレクション」の浮世絵の“クローン文化財”を一般の方々が見ることができます。
 実際には、“クローン文化財”なので、その浮世絵には触ることができます。江戸時代の浮世絵は、現在のブロマイドであり、包み紙でした。版画なので、微妙に浮き上がった絵の具の触感が重要な要素だったそうです。
 “クローン文化財”なので、多くの方が触って痛んだら、また作製すればいいそうです。 

ライフロボティクスが製品化した多関節ロボット「CORO」の話を伺いました

2016年07月05日 | 汗をかく実務者
 ライフロボティクス(Life Robotics Inc.東京都江東区)を経営する尹祐根(ゆんうぐん)さんから、同社が2015年12月に製品化した多関節ロボット「CORO」のお話を伺いました。

 尹さんは、公的な研究開発機関の産業技術総合研究所の主任研究員です。2007年に独自の多関節ロボットの研究開発成果を基に、ベットの側で、患者の意思に従って動くロボットアームのプロトタイプを開発しました。患者が水の入ったペットボトルがほしいと指示すると、その水入りペットボトルをつかんで患者に渡すなどの補助動作をします。

 尹さんは、まず2007年12月にライフロボティクスを産総研のある茨城県つくば市で創業し、翌年の2008年1月には産総研から「産総研技術移転ベンチャー」との称号を取得します。

 複数のベンチャーキャピタル(VC)の方々の勉強会で、尹さんにお目にかかったのは、このころです。

 その後、日本の有力なベンチャーキャピタルである日本テクノロジーベンチャーパートナーズから出資を約束されたようで、2015年4月に現在の事業拠点がある東京都江東区富岡に引っ越します。

 さらに、2015年11月には、日本テクノロジーベンチャーパートナーズなどから出資を受け、資本金を合計約2億8000万円まで増資します。

 日本テクノロジーベンチャーパートナーズは創業時のDNAに出資したことなどの実績豊かなベンチャーキャピタルです。

 2015年12月には、独自の多関節機構を持つ「CORO」を発表し、発売します。



 「CORO」の本体質量は26キログラムで、可搬質量は2キログラムです。

 尹代表取締役COE(最高経営責任者)は「従来の多関節ロボットのように“肘”(ひじ)部分を持っていない機構のために、ロボットの近くで人間が協調作業をしても安全」と説明します。

 この結果、食品や化粧品などをつかんで(ピッキングして)、目的に場所に置くなどの軽作業が得意だと説明します。

 尹代表取締役COEは少子高齢化が進む日本では、化粧品などの日用品や食品などを詰める作業などの“軽作業”を担う人材が少なくなっていると説明します。

 実際に、ロイヤルホストや吉野家などの外食産業大手から、「CORO」の引き合いがきていると説明します。もちろん、オムロンやトヨタ自動車などの大手メーカーからの引き合いがきているそうです。

 少子高齢化が進む日本では、軽作業を担当する工程で人手不足になり始めています。こうした軽作業向けの、人と一緒に働く軽作業ロボットが求められています。

 日本は、自動車の溶接工程などの生産工程向けの産業用ロボットはお家芸で、多くのロボットメーカーが市場をつかんでいます。このロボットの多くは“肘”部分を持つ多関節ロボットです。人間との協調作業には適していません。

 これに対して、軽作業用ロボットは動作のエネルギー(力)を控えめに設計し、人間との協調作業ができる仕組みにしています。

 ロボットに実際の動作を教える“ティーチング”用ソフトウエアも簡単だそうです。

 ライフロボティクスの尹代表取締役COEから、軽作業用に性能などを絞り込んだ「CORO」の製品化のお話しをお伺いしてから約1週間経ちました。

 2016年7月3日に発行された日本経済新聞紙の朝刊には見出し「トヨタ、家庭用ロボ量産」との記事が掲載されました。2019年度から高齢者向けの生活補助用途に商品化するそうです。

 また、ソニーもロボット再参入を発表しました。

 これからは頑丈な産業用多関節ロボットではなく、人間の側で働く軽作業用ロボットの商品化が盛んになる模様です。

 ベンチャー企業のライフロボティクスが独自の市場をつかむことを祈念しています。

富山県立大学教授の浅野泰久さんが実施している酵素研究の成果話を伺いました

2016年01月27日 | 汗をかく実務者
 先日、富山県立大学生物工学研究センターの教授として、新規の酵素などの研究開発を担当されている浅野泰久さんから、その研究成果のお話しを伺う機会がありました。

 浅野さんの研究成果の中で昨年2015年に話題を集めたのは、節足動物の多足類のヤスデが新規の酵素を持っていることを見つけたことです。将来、新薬などの候補になる可能性があると、話題をかなり集めたそうです。
 
 浅野さんは、文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)が支援する戦略的創造研究推進事業のERATOとして「浅野酵素活性分子プロジェクト」を2011年3月から2017年3月まで実施しています。



 このERATOプロジェクトとは、日本では比較的大きな研究資金が提供されることで有名な研究開発プロジェクトです。
 
 生物がそれぞれ体内に持っている各種酵素による“酵素活性分子”を探査しています。実は、地球にいる動物、植物、真菌、原生生物、真正細菌、古細菌などが持っている酵素については、ほとんど分かっていません。動物の半分以上を占める昆虫などが持つ酵素はほとんど解明されていません。こうした多様な酵素は「膨大な遺伝子資源」です。
 
 浅野さんが目指す研究開発目標を、かなり大胆に概略を説明すると、2015年11月にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学の特別栄誉教授の大村智さんが土壌の中から発見したバクテリアから新薬候補を発見した話に似ています。多様な酵素の中から、産業用に有効な酵素を見つけ出し、医薬や農薬などの原料になる合成化合物をつくる酵素を見つけ出したいそうです。
 
 浅野さんは節足動物の多足類のヤスデがヒドロキシニトリルリアーゼ活性を持つ酵素を持っていることを見つけました。この時に見つけた酵素が新規酵素であることを見いだし、タンパク質当たりの比活性が非常に高いので、産業応用に適していることを見いだしたそうです。
 
 実際には、ヤンバルトサカヤスデが大量発生した時に、大量に採取して、体内物質を抽出し、ほしい酵素をある程度の量を確保して、カラムクロマトグラフィーという化学手法で精製して、やっと構造解析などができる分量を確保したそうです。

 そして、この得られたヒドロキシニトリルリアーゼのアミノ酸配列と遺伝子配列を解析し、これまでに知られているアミノ酸配列と異なることを見いだしたそうです。

 こうした新発見された酵素を大量生産する“遺伝子組み換え酵母”などの技術開発が進み、将来の生物利用の技術開発の可能性が見えてきたそうです。

 日本には、節足動物などから新規酵素を見いだすという新規の発想を持っている研究者はほとんどいないそうです。


名古屋大学教授の東山哲也さんが進めている、生きた植物細胞観察の話しです

2016年01月06日 | 汗をかく実務者
 日本の有力大学・大学院は、基盤研究で優れた研究成果をいくつも上げています。こうした基盤研究で優れた研究成果を上げている教員・研究者の代表格のお一人が名古屋大学のトランスファーマティブ生命分子研究所(ITbM)の副所長・教授をお務めの東山哲也(ひがしやまてつや)さんです。

 この“トランスファーマティブ生命分子研究所”は、文部科学省が有力大学に設置した「世界トップレベル研究拠点(WPI)」として設置された合計9カ所の研究所の一つです。

 平成19年度(2007年度)に設置された、世界トップレベル研究拠点(WPI)の一つは、東京大学の国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)です。この研究機構には、2017年10月にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章 (かじたたかあき) 教授が主任研究員として参加しています。こうした最先端研究を担う研究所・研究機構が日本でも活動しています(影の目的は、日本人を含めた各国のノーベル賞受賞者を増やすこととみられています)。

 以下は、名古屋大学のトランスファーマティブ生命分子研究所で研究されている東山哲也さんの研究成果の“さわり”です。研究内容はかなり難しく、学術用語の説明だけで終わりそうです。

 2015年12月に、東京都内にある某機構で、東山哲也さんのミニ講演を伺いました。実は3年前にも一度、お話を伺っています。理解するのが難しい研究テーマです。



 トランスファーマティブ生命分子研究所の研究目標は、かなり大まかに説明すると「動植物の生産性や生体機能を精密制御する分子を開発する」「生命現象を自由自在に可視化する画期的なバイオイメージング」などを実現することです。そのゴールは生命科学・技術を根底から変える革新的機能分子「トランスフォーマティブ生命分子」を生み出すことだそうです。

 東山さんが担当する研究内容の一番の核心部分の一つは植物の受精です。めしべの先に、おしべの花粉が付くまでは、誰でも知っていることですが、その後に、花粉から花粉管が伸びて、めしべの根元にある胚珠に向かって伸びていきます。胚珠は“種になる部分の基”です。この花粉管が胚珠に向かって伸びて行く“方向を決める仕組み”がよく分かっていません。
 
 花粉管が、胚珠の中の助細胞に到達すると、花粉管先端から二つの“精細胞”が放出され、その“精細胞”の一つは“卵細胞”と受精し、胚(根、茎、葉などの基になるもの)をつくります。もう一つの“精細胞”は胚珠(種子が発芽する際の栄養分)になります。

 実は、植物は動物のように脳や神経を持たないために、植物全体を構成する個々の細胞は、全体での役割を担うために、ホルモンを使った細胞間同士のコミュニケーション(ホロニックコミュニケーション)をしていますが、その実態はまだよく分かっていません。

 植物の細胞間同士のコミュニケーションの始まりである受精や発芽、成長の仕組みを解明するために、植物の生きた細胞での受精卵を生きた状態で観察するライブイメージング技術を確立し、受精卵を生きたままで観察することに成功しています。

 ここまでが研究成果の“入り口”です。植物の生体を構成する各細胞と全体の相互作用の解明は始まったばかりです。

 興味深いのは、東山さんは植物の細胞を生きたまま観察する手段として、レーザー顕微鏡とマイクロデバイスという装置・仕組みを自分たちで開発している点です。工学的な手法を開発し、植物の基本を解明しています。ここでいう、“マイクロデバイス”とは、半導体分野のものとはかなり違います。工学応用の利用法という程度の説明しか、ここではできません。植物の基本を解明するために「異分野融合が不可欠」と、東山さんは説明します。
 
 こうした植物の細胞間同士のコミュニケーションを解明するために、東山さんは文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)から戦略的創造研究推進事業のERATO「東山ライブホトニクス」プロジェクトを任されています。
 
 以下は独断的な説明です。

 最近、研究成果として応用が出始めているiPS細胞も、現時点での応用分野は薄いシート状です。実は動物の細胞が各機関の構成細胞をどうつくっていくかもあまり解明されていません。人類は解明すべき生命現象の入り口に立っている感じです。