ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

cuocaはブッシュ・ド・ノエルの作り方を伝授します

2010年11月30日 | 汗をかく実務者
 ケーキなどのお菓子やパンの材料と器具を販売する事業を展開するクオカプランニング(徳島市)は地方発ベンチャー企業のお手本です。
 愛称「cuoca」(クオカ)のブランド名で、お菓子やパンの材料や料理器具などを、Webサイトによる通信販売、東京都の自由が丘などでの直販、ロフト(LOFT) や東急ハンズなどへの委託販売の3形態で事業展開しています。一見平凡な通販主体の小売業にみえますが、よく練り上げた事業計画を実践し、急成長しているベンチャー企業です。


 cuocaとはイタリア語で“料理上手のお母さん”という意味だそうです。お母さんが手作りするお菓子やパンは美味しく、子供は愛情を感じ、幸せを感じます。この幸せを支援するのが、創業時のコンセプトのようです。斉藤賢治代表取締役社長は体格がいいため、お菓子屋の親父(おやじ)にはあまりみえません。斉藤さんは、プロがつくるケーキやパンがなぜ美味しいかを真剣に考えました。普通の方がケーキをつくる時に、入手できる小麦粉は、薄力粉か中力粉、強力粉の3種類程度です。これに対して、お菓子職人(パティシュエ)はそのケーキに適した小麦粉などの材料取りそろえて使います。その上で、職人としてのいろいろな業(わざ)を用いるため、当然美味しいわけです。

 斉藤さんは「美味しいケーキをつくるには、それに適した小麦粉などの材料を入手することが美味しいケーキをつくるコツ」と気が付きました。このため、ビジネスモデルは、小麦などを提供する真面目な生産者と、手づくりケーキやパンを子供に食べさせたい願う消費者をつなぐ橋渡し事業としました。各ケーキやパンに適した小麦粉などの材料を提供する事業は、例えばパン向け粉を154種類、製菓用の粉を28種類、バターを22種類、チーズを22種類などと品ぞろえしています。有名なのは、チョコレートの品ぞろえです。パティシエが愛用する9社・48種類の製菓用チョコレートを取りそろえてあり、垂涎(すいぜん)の的になっています。

 しかし、豊富な品ぞろえだけでは、一部のマニア向けで終わってしまいます。そこで、いろいろなケーキやパンをつくるレシピとつくり方をWebサイトや小冊子で公開しました。見本にいただいた小冊子「Chismas Book」はブッシュ・ド・ノエルのつくり方を丁寧に教えてくれます。




 ロールケーキをうまく巻くためにシートスポンジの用意の仕方、クリームの塗り方などと、プロの業・コツを教えてくれます。そして、シートスポンジのココア味に、デザートソース、トッピング用のココアなど必要な材料は、すべて用意され、入手できる仕組みです。これならは私にもできそうと思えるほど、しっかりと用意されています。

 各レシピは、cuocaのWebサイトや直営店などに用意された小冊子などが教えてくれます。さらに、cuoca公認のツィッターからも伝えられます。この仕掛けが、徳島発ベンチャー企業が急成長している秘密です。もちろん、東京都内の自由が丘と新宿の直営店に、福岡市、高松市の店舗での消費者の生の声も大事にしているようです。cuocaのWebサイトには、社長宛てに直接伝える仕掛けもあります。「社長は必ず読みます。ただし、返事はしません」と表記してあります。

 クオカプランニングの設立は2000年(平成12年)7月です。斉藤さんは大学を卒業後に、まずCM制作プロダクションに入社し、アサヒビールを経て、「これからは地方の時代だ」という声を信じて実家に戻りましたった。ご実家は創業132年の老舗の食品卸売り会社です。業者向けに砂糖や小麦粉を卸している卸売りでした。古い革袋に、新しい何を入れれば、老舗を基にした新規事業として何が展開できるか考え抜きました。その答えは、Webサイトによる通信販売であり、消費者に最適なお菓子などの材料を品ぞろえして販売する事業でした。この販売事業をレシピを提供するというサービスによって差異化させ、ヒットさせました。

 クオカプランニングが成長した理由は、徳島市の実家を基に、地方で地道に事業を成長させ、直営店も第一号は高松市で開店するなどと、最初は事業基盤を慎重に築きました。そして、競争力がついたと判断すると、東京都内の自由が丘に直営店の旗艦店を開店し、勝負に打って出ます。同社は現在、年間売上げが29億円と、成長中です。

 レシピといえば、急成長しているクックパッド(COOKPAD、東京都港区)が有名です。同社のWebサイトは89万種を超える日本最大の料理レシピサイトで成長中です。実は創業時のビジネスモデルはまったく異なっていました。レシピを求める消費者が多いことに気が付き、ビジネスモデルを転換し、大成功しました。身近なところに事業の成否を決める“差異化ツール”がある典型例です。
 

冬桜を神川町の城峯公園で楽しみました

2010年11月29日 | 季節の移ろい
 冬桜で有名な神川町(かみかわまち)の城峯公園(じょうみねこうえん)に行ってきました。噂通りに、紅葉と冬桜を、同時に見ることができました。





 冬桜の名所として有名なのは群馬県藤岡市の三波川にある桜山公園です。市町村合併する前は、鬼石町(おにしまち)の桜山公園として知られていたため、今でも「鬼石の冬桜」と呼ばれることもあります。冬桜を題にした歌謡曲もできているそうです。

 鬼石の桜山公園は有名なので、駐車場が大変混むことが問題です。山道にあまり慣れていない方が運転して来るため、いろいろなことが起きます。ところが、似たような冬桜の名所として、埼玉県神川町の城峯公園もあることを知りました。藤岡市三波川のごく近くなので、気候が似ているため、冬桜が咲くのだろうと想像して出かけました。

 桜山公園と城峯公園は、向かい合っている山同士の山頂でした。“流湖”とも呼ばれる下久保ダムの湖面を挟んで向かい合っています。しかも、藤岡市から流川沿いに南下して行くと、まず「この先、桜山公園」の看板が出てきます。「冬桜祭り」の看板も出ています。多くの車は、有名な桜山公園に向かう道に入っていきます。ここまで藤岡市です。さらに南下すると、「城峯公園こちら」の看板が出てきます。

 城峯公園に向かう道は山を登ります。片側は険しい崖です。トンネルを抜けた所に、「城峯公園はこちら」と左折するように指示します。その先は、下久保ダムの堰(せき)の上の道路でした。ダムの堰は“橋”となっていて、藤岡市から向かい側の神川町側に渡ります。神川町側はかなりの山里という感じです。道幅が狭いので、城峯公園までは一方通行との表示が出ています(この看板を見逃し、逆走する車があって危険でした)。

 その先の山頂に城峯公園がありました。ここはバンガローなどが並ぶキャンプ場にもなっています。冬桜はどちらかというと、山頂部の冬桜は既に咲き終わっていて、下側の方が満開でした。





 城峯公園が冬桜の名所になったのは、地域の方々のボランティアによる長年の手入れの賜物だそうです。みんなで紅葉と冬桜を同時に楽しめればと、手入れに努めたそうです。今年も11月1日から12月5日まで、夜はライトアップしています。妙に観光地化していない点が気に入りました。なお、この冬桜は4月も開花するとのことです。桜の二毛作です。春の冬桜も見てみたいものです。

DeNAの南場社長の講演話の続きです

2010年11月28日 | 汗をかく実務者
 DeNAの南場智子代表取締役社長はベンチャー企業を成長させる基本原則を話されました。「事業に成功した時にこそ、その成功体験に呪縛(じゅばく)されないことが重要」といいます。この点は、今回初めて拝聴した内容です。
 11月26日に慶応義塾大学三田キャンパスで開催された第19回ベンチャー・プライベート・コンファレンスでの基調講演での話です。


 DeNA(ディー・エヌ・エー、東京都渋谷区)は2006年2月に携帯電話機向けの「モバゲータウン」というソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Network Service、SNS)のプラットフォームを提供し始めました。その利用者数は2008年に1000万人を超え、2009年末には1500万人を超したそうです。この時点で、先行して事業化した携帯電話機向けオークションサイト「モバオク」の利用者数を上回り、事業モデルを代えたことになります。利用者数の増加は、2009年9月から自社でモバゲータウン向けのゲームを開発し提供し始めた効果が効いていると分析できます。その後は2010年中ごろに2000万人を超す急成長を続けています。

 ゲームは原則、無料です。しかし、DeNAが利益を上げられる仕組みは、ゲームの主人公などに着させる衣装や武器を有料で提供しているからと聞いています(こうしたゲームをしないので、南場社長の以前の講演で聞いた話です)。南場社長によると「1日当たり1億円売り上げた」こともあるそうです。

 今回の講演では、DeNAが2010年9月に自社のPC向けモバゲータウンを終了させ、Yahoo!モバゲータウンに完全移行した理由を説明されました。「DeNAの事業のコアは、広義の“ソーシャルメディア”事業だ」といいます。つまり、「ソーシャル・ネットワーキング・サービスの仕組みとなるプラットフォームを提供することが自社の強みと判断した」と説明します。米国のソーシャル・ネットワーキング・サービス大手のFacebook、日本最大のmixi(ミクシィ)との違いは、ゲームを組み合わせた点にあります。

 自社でゲームを開発しユーザーに提供すれば、そこからの利益は100%自社に入ります。一方、他社がゲームを開発し、DeNAのプラットフォームを提供する場合は、「利益の約30%しか入らない」そうです。しかし、ゲームの中でヒットするのは一部です。特にメガヒットするのはごく一部です。このため、自社以外のゲームを提供するオープン化を実施し、メガヒットゲームを当てるのが同社の戦略です。

 DeNAはゲームの場を、パソコン向けにはYahoo!に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス向けにはmixiなどに開放しています。


  あくまでも同社はソーシャル・ネットワーキング・サービスの仕組みとなるプラットフォームを提供することをコア事業に定めた決断の結果です。

 この決断をした理由は、ゲームを提供し始めた時に売上げが伸び、同社内には安定志向が強まった空気を、南場さんは敏感に感じ取ったようです。しかも、売上げの鈍化も始まりました。「自社のコア事業はプラットフォームの提供と見極め、他社のゲームに場を公開するとの決断をした」そうです。当然、社内には収益が高い自社製ゲームに固執する意見が多かったそうです。この点は難しい判断ですが、日本の多くの大手企業が事業の成功体験の呪縛から抜け出せず、ピーク後に事業収益の悪化に苦しんでいる点からは、他山の石となる話だと思います。

 DeNAの売上げ高は、2006年3月に約64億円を達成してからは急成長し、2010年3月に481億円に達しています。経常利益は2006年3月に約18億円を達成し、2010年3月には215億円に達しています。同社が経常利益を黒字化したのは2004年3月期です。この結果、2005年2月に東証マザーズに上場しています。

 1999年3月に創業した後もオークションサイトの仕組みであるプラットフォームなどの事業投資に努めた結果、2000年当時に集めた19億円はどんどん減っていきます。オークション事業に成功するには、追加投資が必要と金策に走り回ります。ベンチャーキャピタル(VC)などのあらゆる金融機関に追加投資をお願いします。すると、担当者は「今審議中です」と結論を引き延ばし「今月末までに連絡がなければ、だめだった思ってください」との電話連絡を受け、そのままになる対応が多かったとのことです。相手の電話での通告の仕打ちを無念とは感じたそうですが、南場さんは「事業の世界は、要は金次第」と割り切ったそうです。

 2001年3月ごろに、ソニー系インターネットプロバイダーのソネットと、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)、以前勤務していたマッキンゼー・アンド・カンパニーの大先輩の3者は合計5億7000万円の追加投資をしてくれます。この追加投資を受けて事業投資を続け、DeNAは2004年に経常利益を黒字化し、売上げ高を急成長させます。ここに至るまでは、「当社はIT系ベンチャーの負け組と揶揄(やゆ)されていた」と語ります。

 この追加投資の話は、ベンチャーキャピタルの担当者の先見性を物語ります。単なる担当者意識ではなく、対象企業のコア事業の強みは何かを考え、時期が合っているかを考え続けるのが仕事になります。この点で、独立系ベンチャーキャピタルの日本テクノロジーベンチャーパートナーズは独自の存在感を持っているといわれています。代表の村口和孝さんは、DeNAが資金調達で苦しんでいた時に、追加投資に応じたことで、先見性を持つとの実績を示しました。


 村口さんと南場さんがパネルで並んだ写真です。

 2005年2月にDeNAが東証マザーズに上場した際に得た上場益を、日本テクノロジーベンチャーパートナーズは次のベンチャー企業投資に用いています。DeNAも上場で得た資金調達を用いて、自社に必要な技術や事業を持つIT系ベンチャー企業を次々と買収しています。そして、最近は米国のIT系ベンチャー企業を買収したり、出資したとしています。自社が持つゲームとソーシャル・ネットワーキング・サービスのプラットフォーム事業を米国で展開するためです。

 最近は、日本で急成長したベンチャー企業は、米国や中国などの大市場に打って出る傾向を強めています。例えば、ユニクロや楽天は海外市場展開を急いでいます。国内市場での頭打ち感が強いからです。

DeNAの南場社長の講演をまた拝聴しました

2010年11月27日 | 汗をかく実務者
 「モバゲータウン」などで有名なDeNA(東京都渋谷区)の南場智子代表取締役社長の講演を拝聴しました。たぶん、講演を聞くのは4、5回目です。
 11月25日と26日の2日間にわたって、慶応義塾大学三田キャンパスで開催された第19回ベンチャー・プライベート・コンファレンスの目玉の講師をお務めになりました。

 多忙な南場さんは、慶応三田キャンパスに3時間30分も滞在しました。かなりのサービスです。有名人の南場さんの話を聞こうと、慶大生が多数聞きに来ていました。




 今年の就職試験状況からみると、就職試験時の面接で話すネタを仕入れに来ているようです。あるいは同社に就職希望を持っているのかもしれません。

 南場さんに講師を依頼した、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)代表の村口和孝さんは、DeNAが資金調達で苦しんでいた時に、追加投資に応じた恩人です。その一方で、2005年2月にDeNAが東証マザーズに上場した際に、日本テクノロジーベンチャーパートナーズは上場益を十分得たといわれています。

 最近のDeNA(正確にはディー・エヌ・エー)は「怪盗ロワイヤル」などの携帯電話機向けなどの無料ゲームで有名なベンチャー企業です。

 
 現在、DeNAは資本金約43億円、東証一部に上場する中堅会社に成長しています。現在、社員数も単体で453人、連携で861人と大きな会社になっています。出身地の新潟市にモバゲータオン新潟カスタマーセンターを設けるなど、地域の雇用拡大にも貢献しています。

 講演内容は、いつものように1999年3月に同社を信頼し合える3人で創業し、オークションサイト「ビッターズ」を立ち上げる前後の苦労話でした。面白おかしく話します。この話ぶりは、話芸を感じさせるほどです。親しみやすい雰囲気を漂わせながらも、説得力のある表現の中に、コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンで有能なコンサルタントとして活躍していたときの片鱗をみせます。

 南場さんら創業者3人は、渋谷に借りたアパートの1室で午後6時になると、練り上げた事業計画書や仕様書などを見せに、東京都中央区銀座にあるリクルートの支援部門に出向きます。渋谷から銀座に向かうタクシーの中の約30分間が仮眠時間だったほどの激務でした。翌日の午前6時までリクルートの支援者と打ち合わせた後、近くの吉野家で牛丼を食べて、タクシーで渋谷に戻る毎日でした。当然、帰り道の約30分間も貴重な仮眠時間です。アパートに戻ると,指摘された事業計画の不備を修正する作業に没頭する繰り返しだったそうです。

 この激務を数カ月間続け、1999年11月にビッターズを立ち上げ、事業を始めます。ところが、オークションサイトを支えるプログラムの使い勝手があまり良くなかったのです。同プログラムの作成は、外部会社に依頼したのが敗因でした。このため、サイトなどのプラットフォームの仕掛けプログラムを作成できる優秀な人材確保に奔走します。

 南場さんは慶応大学などの大学でよく講演します。その理由は優秀な学生に入社試験を受けてもらいたいからです。もちろん、ベンチャー企業ですから少数精鋭です。多数受験してもらって、肝が据わった頑張り屋を採用する狙いです。ベンチャー企業は人材が一番の武器ですから。

 DeNAは携帯電話機向けのオークションのプラットフォームに注力した点が着眼点であり、幸運でした。ライバルのヤフー(Yahoo)や楽天がパソコン主体だった時に、携帯電話機に眼を向けた点が今日のDeNAをもたらせました。
(やはり長くなったので、これ以降は明日にします)

水ビジネスのベンチャー企業の話を聞きました

2010年11月26日 | 汗をかく実務者
 水ビジネスのベンチャー企業のビジネスモデルを伺いました。当初予想した以上に奥深いビジネスモデルである点に驚きました。
 日本は地方自治体が上水・下水道の事業を展開し、実は収益性をあまり考慮していないビジネスモデルに反省の機運が高まっています。この結果、日本の新成長戦略として、上水・下水道インフラストラクチャー輸出の政策を打ち出しています。

 水ビジネスのベンチャー企業の話と聞いて、外国の上水・下水道のインフラストラクチャーを請け負う例の事業かなと、想像していました。しかし、まったく違っていました。

 飲料水としての天然水販売事業を展開するウォーターダイレクト(東京都品川区)と、世界中の飲料水を世界中に提供する事業を展開する水広場(東京都文京区)の事業内容を伺いました。

 11月25日と26日の2日間にわたって、恒例の第19回ベンチャー・プライベート・コンファレンスが慶応義塾大学三田キャンパスで開催されました。主催は慶応大学の知的資産センター(承認TLO)とビジネススクール、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP、東京都世田谷区)の3者です。26日の午後に「水と空気の環境技術で急拡大する100兆世界市場」というセッションに、水ビジネスのベンチャー企業であるウォーターダイレクトと水広場の2社の代表取締役が登場し、講演しました。

 ウォーターダイレクトは12リットル入りのPET製容器に天然水を入れて通信販売して成長しているベンチャー企業です。時々見かける“サーバー”と名付けた容器ボトルを固定する器具から飲料水を供給する仕掛けを利用するものです。


 そのビジネスモデルは、富士山麓の地下200メートル下から湧き出る天然水を、富士吉田工場内で精密フィルターを通して殺菌する非加熱処理を施し、美味しさを保った天然水を最長2日後に直接届ける「直販」です。米国のデルコンピューターの直販システムを真似し、天然水を容器に詰めると、迅速にユーザーに届けるものです。バナジウム入りの美味しい天然水をすぐに届ける、天然水の味で勝負する直販システムです。

 そのカギはPET製の大型ボトルに天然水を12リットル充填して届けるという“返却不要方式”を採用したことです。PET製大型ボトルは水を出すと、その分だけ体積が収縮するエアレス構造を採っており、ボトル内部に空気が入らないので、水の鮮度が保たれることです。そして、使い終わったPET大型ボトルは資源ゴミとしてペットボトル廃棄回収のゴミとして捨てられます。

 伊久間努代表取締役は「使用後のPET大型ボトルを回収しないビジネスモデルなので全国展開できた」といいます。もし、従来の発想によって丈夫なポリカーボネート製ボトルを用い、天然水を詰めて配送し、使用後はボトルを回収してていたら、その回収態勢を築くために、販売範囲は数10キロメートル程度になるだろうと解説します。トラックなどによる回収システムを維持する販売方法は大量販売には向いていないと判断したそうです。

 2006年10月に創業し、4年目の今年度は販売先12万件を確保し、美味しいので約80%がリピーターになっているとのことです。この結果、売上げ35億円まで伸びたそうです。リーマンショック後は、小型のPETボトル入りの飲料水の売上げは減少傾向にあるのに対して、同社のPET大型ボトルは順調に増えているとのことです。スーパーなどで飲料水を購入すると、その重さに自宅まで持ち帰るのに苦労します。この点で、同社の大型PETボトルは「自宅まで配送してくれるので便利な点が受けている」といいます。

 同社の水ビジネス事業は成長すると判断したベンチャーキャピタルの日本テクノロジーベンチャーパートナーズと、事業成長支援のリヴァンプがそれぞれ同社に投資しています。このため、リヴァンプの玉塚元一さんが同社の代表取締役会長に、日本テクノロジーベンチャーパートナーズの代表の村口和孝さんが同社の取締役に就任しています。


村口さんがこのコンファレンスの仕掛け人です。

 創業当初はチラシなどの広告で宣伝したがまったく売れなかったとのことです。ある時に、電機製品の量販店であるヨドバシカメラの店舗の一部に、水供給のサーバーを置いてもらい、「通りかかった方に試飲してもらう“キャッチセールス”手法に切り替えてから売れ出した」といいます。現在は、「イオングループなどの大手スーパーなどに400個所に同サーバーを置かせてもらう販売促進体制をとっている」と説明します。天然水の美味しさを試飲によって確かめてもらうのが一番販売につながるようです。

 もう一つの水ビジネスベンチャー企業のグローバルウォーター(東京都文京区)はWebサイトの「水広場」を展開し、世界中のさまざまな飲料水のボトル詰めを販売する事業を展開しています。世界中には硬水や軟水、pH(ペーハー)などがいろいろな水があり、多彩な味の飲料水を求めるユーザーに供給する事業を成立させると意気込みを語ります。同社は国内・国外から飲料水をお取り寄せするWebサイト「水広場」を運営しています。代表取締役の堀内拓矢さんは「美味しい日本の飲料水を外国に売る事業を目指している」といいます。新しい視点と感心しました。美味しい水が日本の名産品になればいいと思いました。

 同社は水源開発の専門家として、水源開発のコンサルタント事業を展開しています。例えば、バングラディシュの地下水の多くにはヒ素が含まれるため、ヒマラヤ山脈近くの奥地で水脈を探し、水源として利用する事業に参加しているといいます。世界各地の水源は、「バングラディシュの地下水のようにそのままでは飲めない水も少なくない」とのことです。

 美味しい水が飲める日本は幸せな国であると再確認しました。日本は、水道水がそのまま飲める数少ない国であることに感謝したいと感じました。