ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

人気ミステリー作家の逢坂剛さんの最新単行本「百舌落とし」を読み終えた話の続きです

2019年12月08日 | 
 人気ミステリー作家の逢坂剛さんの最新単行本「百舌落とし」を読み終えた話の続きです。

 逢坂剛さんの人気ミステリーシリーズの「暗殺者百舌」シリーズの最後の作品です。狙った相手の後頭部を千枚通しで一突きで殺す暗殺者“百舌”(もず)の話です。

 この単行本「百舌落とし」を読み終えた話を弊ブログに載せてから約3週間強も経っています。野鳥・水鳥観察などにかまけていたからです。

 閑話休題。この単行本「百舌落とし」は、2019年8月30日に集英社が発行しました。価格は2000円+消費税です。正味のページ数は474ページという長さです。



 前回の弊ブログ(2019年11月16日掲載)で、この最新単行本「百舌落とし」を読み終えたことをご紹介した際に、この単行本の冒頭で、元民政党の茂田井茂(もたいしげる)が後頭部を千枚通しで一突きされて殺される事件から始まるとお伝えしました。

 この「暗殺者百舌」シリーズは、大まかには政治家、特に政党の幹事長が、国家公安委員会や検察庁などの警察組織の権力を増大させて、“警察省”などに格上げし、自分たちに都合がいい公安組織・国家権力に作り替えることを画策していることが背景にあります。

 こうした国家権力を手に入れようと画策した一人が 元民政党の茂田井茂でした。一方、暗殺者である百舌は、こうした政治家の手先の“暗殺者”だという役割です(そして各単行本ごとに百舌は最後は亡くなりますが、その後継者が現れるという仕組みです)。



 実際には、暗殺者である百舌の実態は紆余曲折(うよきょくせつ)があります。この変化球が面白い趣向になっています。

 この「暗殺者百舌」シリーズでは、警察庁警務局の津城俊輔(つき しゅんすけ)特別監察官(階級は警視正)は、佐賀県東松浦郡肥前町の沖合にある鷺(わし)の島で、悪投である民政党幹事長の馬渡久兵とその手先の紋屋貴彦(もんやたかひこ)警部補を射殺し、自分も亡くなります。警察組織の中に“正義派”もいれば、権力にすり寄る“悪党”もいるという設定です。

 この事件は、警察組織にもみ消され、証拠品もなくなります。事件そのものが不祥事として闇に隠され、事件は事実上はなかったことになります。ここまでが、「暗殺者百舌」シリーズの単行本「よみがえる百舌」のあらましです。

 その後に、この闇の中に葬られた事件を記事として暴き出そうとする東都ヘラルト新聞社の残間龍之介(ざんまりゅうのすけ)記者が次第に命を狙われます。、

 この「百舌落とし」の事実上の殺人事件の舞台は、民政党幹事長の三重島茂(みえしましげる)の別邸です。東京都府中市白糸台にある複雑な構造・建屋です。

 ここは、前作の単行本「墓標なき街」の事件の舞台となった邸宅です。前作の「墓標なき街」でも、ここで数人が殺されました。その犯人は州走まほろです。この州走まほろは、第5作目「のすりの巣」(注、単行本では、のすりは漢字です)の悪徳女性刑事だった州走かりほの妹です。

 設定がややこしいのですが、三重島茂の別邸の管理者は、オフィスまほろの弓削まほろと名乗っています。この女性は、実は三重島茂が愛人の芸者に産ませたひかるでした。しかも、このひかるは「弓削まほろ」を名乗っていてややこしい設定になっています。

 今回は、現在の百舌である州走まほろが殺人を重ねます。設定がややこしい割に。その最後のなりゆき・結末はやや不満が残ります。

人気ミステリー作家の逢坂剛さんの最新単行本「百舌落とし」を読み終えました

2019年11月16日 | 
 人気ミステリー作家の逢坂剛さんの最新単行本「百舌落とし」を読み終えました。

 逢坂剛さんの人気ミステリーシリーズの「暗殺者百舌」シリーズの最後の作品です。狙った相手の後頭部を千枚通しで一突きで殺す暗殺者“百舌”(もず)の話です。

 この単行本「百舌落とし」は、2019年8月30日に集英社が発行しました。価格は2000円+消費税です。正味のページ数は474ページという長さです。



 実は、この「百舌落とし」の一つ前に出た単行本「墓標なき街」(2015年発行、集英社)の未解決殺人事件の政治家の隠れ家がまた事実上の現場です。

 正確には、「暗殺者百舌」シリーズの第5弾の「のすりの巣」から話は続いています。そして、2015年発行の単行本「墓標なき街」が中途半端な終り方をしたために、熱烈な逢坂剛さんファンからは、約4年かけて書いた最終作品「百舌落とし」の評判は今いちとの声が多いようです。

 この「百舌落とし」の事実上の舞台は、民政党幹事長の三重島茂(みえしましげる)の別邸です。東京都府中市白糸台にある複雑な構造・建屋です。

 ここは、前作の単行本「墓標なき街」の事件の舞台となった邸宅です。前作の「墓標なき街」でも、ここで数人が殺されました。

 今回も探偵役は、私立探偵の大杉良太(以前は警視庁警部補)と国家公共安全会傘下の公共安産局参事官(前職は警察庁特別監察官)の倉木美希です。二人は、ある商社の不正武器輸出事件が起こっているとの探偵捜査などから、以前の公安警察がひた隠しにした百舌という暗殺者の事件を表に出そうという動きに巻き込まれていきます。

 おそらく、この「暗殺者百舌」シリーズをあまり読んでいないで、いきなり単行本「百舌落とし」を読むと、事件の背景や人間関係などが分からない部分があると思います。

 今回は、冒頭から殺人事件が起こります。,元民政党の茂田井茂(もたいしげる)は、下半身に怪我したことから事実上の政界引退に追い込まれ、悠々自適の生活をしています。

 茂田井の趣味は、バードウオッチングです。自宅近くの多摩川沿いにある公園で、超望遠レンズで野鳥を見ていると、奇妙な野鳥を見つけます。眼をテグスで閉じられたモズです。

 このモズは脚にテグスで縛ってあり、枝にくくりつけられています。不思議なモズを観察した茂田井は自宅に帰り、夜は休みます。

 すると夜になって、民政党幹事長の三重島茂からの使いという者が訪ねて来て、茂田井の若い妻が対応します。この使いは「オフィスまほろ 代表 弓削まほろ」という名刺を出します。

 そして、帰り際に、茂田井の若い妻にスプレーでガスを噴射し、この妻は気絶します。

 この妻が意識を取り戻すと、夫の茂田井は首筋に千枚通しを突き立てられ、絶滅していました。しかも、まぶたはテグスで縫われていました。

 首筋を千枚通しで殺す手口は、“百舌”の得意業です。

 今回、茂田井邸を訪ねた弓削まほろは、前作の「墓標なき街」で殺人犯ではないかと追及された女性です。同時に、その時に一緒にいた看護婦・お手伝いの山口タキも殺人犯ではないかと追及された女性です。

 前作の単行本「墓標なき街」での殺人事件の舞台が、民政党幹事長の三重島茂(みえしましげる)の別邸だったために、警視庁は政界に気を使い、この事件はあいまいなままで追究が終わったようです。

 この茂田井茂の暗殺事件を知って、本単行本の主人公である私立探偵の大杉良太と公共安産局参事官の倉木美希が集まります。この単行本の話が動き出します。

 警視庁などが闇にほおむった暗殺者“百舌”の事件を追っている東都ヘラルド新聞編集委員の残間龍之輔(ざんまりゅうのすけ)は、百舌がまた殺人事件を起こしたと、大杉亮太と倉木美希に伝えます。

 この単行本「百舌落とし」の最初の部分は、前作単行本「墓標なき街」のあらすじや登場人物・関係者の説明がしてあり、さらにその前の単行本「のすりの巣」(のすりは漢字ですが、当用漢字ではないので漢字表記できません)の主人公だった州走かりほという悪徳刑事が背景に関係していることも、なんとなく伝えています。このように、前作のストーリーの説明が欠かせない点が大きな課題です。

 この「暗殺者百舌」シリーズは、前作の中身をいくらか知らないと、読めないので、物語の途中にいくらか補足説明があります。31年間にわたって、前作を6冊書き、7作目で終わるので、いろいろな背景説明が織り込まれています。

なお、逢坂剛さんの前作の単行本「墓標なき街」を読み終えた話は、弊ブログの2016年2月15日編をご覧ください。

人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊単行本の「希望の糸」を再読した話の続編の続きです

2019年10月22日 | 
 人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊単行本の「希望の糸」を再読した話の続編の続きです

 関東地方に台風19号が近づく2019年10月12日は強風・雨の天気だったために“晴耕雨読”となり、新刊の「希望の糸」を再読しました。

 この単行本「希望の糸」は、2019年7月5日に講談社から発行された単行本です。価格は1700円+消費税です。



 この単行本「希望の糸」では、3家族のそれぞれの人生が交錯し、ある事件が起こります(正確には主に2家族の人生が交錯し、事件が起こります)。

 以下は、このミステリーのネタばらしのさわりです。この点を留意して以下をお読みください。

 そのミステリーの中核は、東京都目黒区自由が丘で喫茶店「弥生茶屋」を経営していた女性経営者の花塚弥生(はなづかやよい)が何者かに殺害された事件です。

 この事件を担当する警視庁捜査一課は、「自由が丘喫茶店主殺害事件特別本部」を設置し、捜査一課の松宮修平(まつみやしゅうへい)らが担当します。

 捜査一課の松宮刑事は、この殺人事件が起こった背景に気がつき、事件の解明によって「一人の少女の運命を変えてしまうような秘密を、その親以外の人間が暴いていいわけがない」と苦悩します。

 今回は「一人の少女の運命を変えてしまうような秘密」とは何かは明らかにしません。「人口受精時に起こった診療ミスが、その原因です」とだけ記述します。

 捜査一課の松宮刑事の上司は、松宮刑事の従兄弟の加賀恭一郎(かがきょういちろう)です。あの人気単行本「新参者」シリーズの主人公である日本橋警察署にいた加賀恭一郎は、数年前に警視庁捜査一課に異動していました。

 その加賀恭一郎は「刑事というのは、(事件を)解明すればいいというものではなく、取調室で暴かれるのではなく(事件に関係した)本人たちによって引き出される真実というものがある。その見極めに頭を悩ますのが、いい刑事だ」と伝えます。

 この加賀の言葉は、東野圭吾さんの名著ミステリーの「容疑者Xの献身」で、探偵役の天才物理学者・教授の湯川学もつぶやいたものです。

 この「希望の糸」では、最後の部分で、探偵役の松宮刑事の生い立ちも明らかになります。

 松宮刑事の父親の真次は、金沢市の老舗旅館「たつ芳」(たつよし)の一人娘と結婚します。この父親は腕前のいい料理人として、老舗旅館で仕事をしていました。

 老舗旅館を経営する夫妻から、松宮刑事の父親の真次は、跡取りをほしがる夫妻から「一人娘と結婚してほしい」といわれます。婿養子になります。そして、芳原亜矢子が生まれ、その後に成人し、「たつ芳」の女将になります。

 芳原亜矢子が6歳の時に、母親は乗っていた乗用車が事故を起こし、半身不随になります。この時に、父親の真次は料理人修行として関東地方の料亭に出ていました。

 この乗用車事故によって、父親の真次は金沢市の老舗旅館「たつ芳」に戻り、半身不随の妻を介護しながら、一人娘の亜矢子を育てます。

 実は、母親の正美は高校生時代に、同級生の女性と同性愛者として、愛し合うようになり、成人になってからは、お互いに偽装結婚し、それぞれ子どもを設けます。

 父親の真次もこの事実を知り、一人娘の亜矢子が成人したら、正式に離婚し、別の人生を歩むことで納得していました。このため、関東地方の料亭で料理修行中に、松宮刑事の母親と知り合い、事実婚になります。

 しかし、母親の正美の相手の女性の夫が怒って、この二人を乗用車に乗せて、無理心中を図り、母親の正美が生き残り、半身不随になます。

 このため、父親の真次は、まだ正式に結婚していなかった松宮刑事の母親に分かれを告げ、金沢市の老舗旅館「たつ芳」に戻ったのでした。

 今回の新刊「希望の糸」では、もう一つの人生の物語の謎解きが描かれていて、もの語りの中身に深みを与えています。

 人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊単行本の「希望の糸」を再読した話の続編は、弊ブログの2019年10月16日編をご覧ください。

人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊「希望の糸」を台風の天気の中で再読しました

2019年10月16日 | 
 人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊単行本の「希望の糸」を再読した話の続編です。

 関東地方に台風19号が近づく2019年10月12日は強風・雨の天気だったために“晴耕雨読”となり、新刊の「希望の糸」を再読しました。とても面白いミステリーです。

 この「希望の糸」は、2019年7月5日に講談社から発行された単行本です。価格は1700円+消費税です。



 この「希望の糸」は、3家族のそれぞれの人生が交錯し、ある事件が起こります(正確には2家族の人生が交錯し、事件が起こります)。以下は、このミステリーのネタばらしです。この点を留意して以下をお読みください。

 その話の中核は、東京都目黒区自由が丘で喫茶店「弥生茶屋」を経営していた女性経営者の花塚弥生(はなづかやよい)が何者かに殺害された事件です。

 花塚弥生は気配りのあるカフェ経営をしていたために、中高年にとって居心地がいい人気の喫茶店を運営していました。

 この事件を担当する警視庁捜査一課は、「自由が丘喫茶店主殺害事件特別本部」を設置し、捜査一課の松宮修平(まつみやしゅうへい)らが担当します。

 捜査一課の担当者は、遺族の了解を得て、花塚弥生のスマートフォンのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やメールアドレスの相手リストを検証します。

 すると、花塚弥生の別れた元夫の綿貫哲彦(わたぬきてつひこ)と約1カ月前に、電話で話している履歴が見つかります。

 そこで、元夫の綿貫哲彦の家を訪ねて、最近の花塚弥生との話した内容を聞きます。すると、元妻の花塚弥生から「会って話したいことがある」との連絡を受けたことが分かります。

 何を伝えたかったかは不明なままです。実は、元夫の綿貫哲彦は最近知り合った中年女性の中屋多由子(なかやたゆこ)と内縁関係になり、一緒に暮らし始めていました。

 そこで、松宮刑事は、花塚弥生が殺された日の、多由子の内縁の夫である綿貫哲彦のアリバイを、多由子に確認します。

 話が進むと、元夫の綿貫哲彦と花塚弥生が離婚した原因の一つは、二人になかなか子供ができないために、思い切って不妊治療を始め、人工受精や体外受精を受けたものの妊娠しなかったために、なんとなく気まずくなり、離婚したという過去が明らかになります。元夫の綿貫哲彦は「花塚弥生はかなり学歴が高く、自分で事業を始めて、子供がいないことを忘れようとした」と離婚した経緯を語ります。

 前回の弊ブログ(2019年10月13日編)では、この「希望の糸」の冒頭では、絵に描いたように幸せな親子4人の子どもが、両親が多忙なために、子ども二人で母親の祖父・祖母がいる新潟県長岡市に帰省しますと紹介しています。

 そして新潟県中越地震が起こって、古いビルに遊びに来ていた子ども2人が倒壊したビルの下敷きになり亡くなります。これが事件の遠い背景になっています。幸せな親子の両親は突然、途方に暮れます。

 この絵にかいたように幸せな親子4人の父親だったのは、汐見行伸(しおみゆきのぶ)です。二人の子供が亡くなり、途方に暮れます。

 その妻の玲子(れいこ)も生きる張りを失います。数年たって、やはり子供がいないことの寂しさに、不妊治療専門のクリニックを訪ね、人工授精・対外受精の話を聞き、悩んだ末に始めます。

 そして、その努力に甲斐があって萌奈(もな)という女の子が授かります。しかし、妻の玲子はその後に白血病を発病し亡くなります。

 偶然、汐見行伸は喫茶店「弥生茶屋」を知り、たまに行く客の一人になります。

 その喫茶店「弥生茶屋」のお客は大部分が中年女性だったために、中年・初老男性の汐見行伸が疑われます。

 そこで、松宮刑事は汐見行伸に会って、当日のアリバイなどを調べます。汐見にはアリバイがありました。

 また、汐見は花塚弥生には好意を持ったのですが、弥生の方から先手を打たれて「お互いに年齢が50歳になっているので、恋愛には興味がない」と、クギを刺さていたことを明かします。

 松宮刑事は汐見行伸の当日のアリバイを確認するために、13歳の中学2年生の萌奈にも会って話をします。

 その際に、テニス部員である萌奈からのリクエストによって殺された花塚弥生の顔写真の画像を見せます、すると「殺された花塚弥生が自分の中学校のテニスの練習を見に来ていた」と驚くような証言をします。

 ここで、元夫の汐見行伸と元妻の花塚弥生、そして別の夫婦の夫の汐見行伸の人生が交わる関係性が示唆されます。

 前回に、人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊単行本の「希望の糸」を再読した話は、弊ブログの2019年10月13日編をご覧ください。

人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊単行本の「希望の糸」を嵐の中で再読しました

2019年10月13日 | 
 人気ミステリー作家の東野圭吾さんの新刊単行本の「希望の糸」を再読しました。

 昨日2019年10月12日は一日中、関東地方に近づく台風19号による強風・雨の天気だったために“晴耕雨読”となり、新刊単行本の「希望の糸」を再読しました。

 この「希望の糸」は2019年7月5日に講談社から発行された単行本です。価格は1700円+消費税です。



 この単行本の「希望の糸」は、なかなかの傑作です。読み始めると、面白くて止められなくなります。このタイトルの「希望の糸」は複雑な意味を持っています。

 ただし、この小説に描かれた“因果関係”は確率的には起こりえないほど、奇跡的な出来事が重なるということが背景になっており、小説としてのつくりものです。

 この小説内で起こった殺人事件を主に担当する刑事は、警視庁捜査一課の松宮脩平(まつみやしゅうへい)です。あの人気単行本「新参者」シリーズの主人公の日本橋警察署にいた加賀恭一郎(かがきょういちろう)の従兄弟です。

 加賀も今は警視庁捜査一課に戻っています。この刑事の松宮の下に、金沢市の老舗旅館のたつ芳を経営する女将という吉原亜矢子(よしはらあやこ)から突然の電話があり「あなたの実の父親かもしれない男性老人が危篤になっている。末期癌で危篤になっている」と突然、伝えられます。この吉原という女性は、松宮によって見ず知らずの人物です。

 松宮は、母親からは「父親は小さいころに亡くなった」と聞いていて、父親の記憶はなったくありません。そして父親の墓もないことに気がつきます。

 すぐに母親に電話をかけると、今は千葉県の田舎に友人と一緒に住んでいる母親は「私の口からはいいたくない。いえない」と答えます。ますます当惑します。

 この松宮の生い立ちが、今回の殺人事件の背景を匂わす伏線になっています。この刑事の生い立ちを伏線になっていることが、東野圭吾さんの名人芸です。

 殺人事件の被害者は、東京都目黒区の自由が丘で喫茶店を経営する51歳の中年女性の花塚弥生(はなづかやよい)です。感じのいいカフェの「弥生茶屋」を経営し、近所や客から評判のいい女性でした。お客ごとに似合う、お手製のケーキを勧めるなどの居心地のいいカフェを運営していたからです。

 この花塚弥生の死体を発見した女性も「人からうらまれる人物ではない」と証言します。このため、恨みの犯行ではなく、流しの強盗殺人ではないかと推定されます。初期捜査ではの経緯です。しかし、・・。

 この「希望の糸」の冒頭は、絵に描いたように幸せな親子4人の子どもが、両親が多忙なために、子ども二人で母親の祖父・祖母がいる新潟県長岡市に帰省します。

 そして、新潟地震が起こって、古いビルに遊びに来ていた子ども2人が倒壊したビルの下敷きになり亡くなります。これが事件の背景になっています。幸せな親子の両親が突然、途方に暮れます。

 さまざまな事柄が絡んで、殺人事件が起き、自分の出世の秘密を探る松宮刑事が難事件を解決します。

 それぞれは関係ない事件や経緯ですが、その“赤い糸”があるところで、結び付きます。確率的には起こりえないことですが、かなり面白い中身です。

 このミステリーの本論は、続編で明らかにします。日本の社会で進む少子高齢化が背景になっています。