予約日

あ、そういえば今日は歯医者さんに行く日だな。
９時半に予約してたっけ。

と思ったのが、１４時半。

しまった！
完全にすっぽかしてしまったぞ！

あ～あ。
しばらく通っていたのになぁ。
もうこうこれで行けなくなったわ。
一度すっぽかしてしまったら、気まずくって予約なんて出来やしない。

あっちにとっちゃもうボクは悪人だ。
予約を無視した犯罪者と言ってもいい。
そりゃもう顔出せないよね。

例えるなら、指名手配されてる男が呑気に警察へ免許更新とかに行くようなものだよ。
そんな間抜けな事は出来やしない。

ボクが思うほど向こうは何にも考えちゃいないんだろうけどね。
でもボクの気持ちの中では重要な事だ。

一度、敵と思ってしまったら、なかなか冷静な目では見れないもん。
怒られる事はないとしても、

「こいつ…こないだ来なかった奴だ」

なんて思われているかと思うと、おちおち口もあけていられないよ。

何か苦い液をたらされるかもしれない。
歯石を取るふりして、逆につけられるかもしれない。
歯を鶴の形に掘られるかもしれないし、銀歯をアルミホイルに付け替えられるかもしれない。

妄想が膨らむ一方だ。

もう既にボクの中では、あの歯医者さんはアニメとかに出てくる悪い発明家的なイメージになってきたよ。
地下室で人を鎖で動けなくして、人体実験をしているような人ね。
どんな制裁をくわえられるのかと考えると恐ろしくてたまらない。

だからもう行けないな。

かれこれ６、７回くらい真面目に通ったんだけどなぁ。
２０年ぶりくらいの歯医者で頑張ったんだけどなぁ。
これで終わっちゃったよ。

ま、行くキッカケになった虫歯はとっくに治療終わってるからいいんだけどさ。
恐らくその次に悪かったであろう箇所も治療終わったし。

最近は、歯を綺麗にするって段階になっていた。
だからもう行かなくてもいいでしょ。

歯医者の終わりなんて、だいたいこんなものだろうしね。
最後まで治療する事なんてない。
思い返してみれば、２０年前の歯医者も一度サボってから行かなくなったなぁ。

たぶん普通の人はそんなもんだと思うよ。

鉛筆を最後まで使い切る人なんて見た事ないのと一緒だ。
リップクリームを無くなるまで使い切る人がいないのと一緒だ。
ああいうのはいつの間にか無くなってしまって、それが買い替え時となる。

歯医者の最終回なんて存在しないんだよ。
サザエさんや、こち亀みたいなものだよ。
きっとそうだよ。

またいつか、目立つ虫歯が現れた時に行く事にしよっと。