ITSを疑う

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EV化で自動車メーカーは消滅するのか?

2017年08月25日 | ITS
今更ながらEVについて。(一部過去記事と内容重複します)

ドイツのメルケル首相は、英国、フランスに続き将来のガソリン、ディーゼルエンジン自動車の廃止を示唆した。
ご承知の通りドイツは日本と並ぶ自動車生産国。内燃機関のパワーで他メーカーを凌駕してきたプレミアムブランドをもつドイツのトップのこの発言はかなりのインパクトがある。モーターの効率についてはもはやこれ以上の改善は望めないが、電池コスト・性能や充電等の技術革新の余地はまだありいずれ航続距離・コスト面から実用に十分耐えうるEVが出てくることは間違いない。もう舵はきられた、と見るべきだろう。

すべての車両のEV化には化石燃料燃焼量抑制と十分な電力供給の観点から原子力発電が必須であるという議論がある。これには色々な分析が有るが、再生可能エネルギーに限界がありまた原発の新設や再稼働が非常に難しい我が国では今後課題となるだろう。直感的には日本の全自動車がEVに置き換わるためには発電に関する考え方を変える必要があると思う。

一方で、EV化によりカーメーカーは消滅するという類の記事が未だに散見される。
その根拠は難しい設計生産及び制御技術が必要な内燃機関やトランスミッションから単純なモーターに置き換わるからモジュールを購入できれば後は組み立て工場があればいい、したがってカーメーカー以外でも車を作ることができる、という内容だ。
しかし、それは車という製品のほんの一部しか見ていない。操縦安定製、静粛性、走行フィーリング、乗り心地、ブレーキ制御、衝突安全性といった部分に自動車メーカーは相当な年月を費やして改善してきた。そしてそれらはモノコックボディ設計の時点から綿密に考慮されている。これはモジュール組み立て工場には真似ができない。長い経験の蓄積が必要だからだ。これは家電とはレベルが違う。
実際Googleは自社生産を諦めた。新興のテスラは自動車エンジニアの引き抜きで時間を買った自動車メーカーであり、単なる組み立て工場ではない。
したがっていくらEVになったところで、自動車メーカーが消滅するという考え方には同意できない。本当にそうなるのであればドイツは猛反対するはずで、ドイツの自動車産業はEV化にも自信があるということだろう。

しかし、EV化だけではなく自動運転、ひいてはシェアリングとなると話はまったく変わってくる。
自動運転車には操縦安定性、走行フィーリング、衝突安全性等の先に述べた自動車メーカーが蓄積してきたノウハウが不要になる。
なぜかと言えば、自動運転車は最高速度をまもり、カーブでは十分減速し、安全余地をもってブレーキをかける。また人間が運転しないから走行フィーリングとか乗り味も無縁だ。自動車メーカーは速度超過時の急なレーンチェンジとか、オーバースピードでカーブに侵入したときの挙動なども研究し最善のセッティングをしているが、こうしたノウハウは全く不要となる。
さらにアクセルを踏んだときの加速のリニア感とか、ハンドルを切ったときの運転者の意思と車の挙動とかを運転者が評価しなくなる、ということだ。また、自動運転車は原則として衝突しない。衝突安全への研究も無意味になる。

さらにシェアリングが進めば、ユーザーの車に対する愛着はなくなる。停めたタクシーの車種なんかだれも気にしない、ということだ。

以上の状況から、異業種の参入は容易となりかつユーザーはブランドに無頓着になるわけで、生産メーカーはコスト競争力が有る中国の大手になるかもしれないし、あるいは日立やシーメンスという運送機器メーカーになるかもしれない。勿論上位数社のカーメーカーは生き残るだろうが、強烈なコスト競争に巻き込まれるため大手は相当な危機感をもっている。
シェアリング中心となると、そのオペレーターが車種選定権を持つようになる。端的な例で言えば、中国で何百万台も投入されたシェアリング自転車のメーカーはオペレーターであるMobikeやofoによって決められている。

カーメーカーが有利に試合を進める唯一の方法は自らがオペレーターになることであり、最近ドイツメーカーやトヨタがシェアリングに乗り出している理由はそこにあるのだ。