”Nabil Shuail 2007”by Nabil Shuail
クェートの大歌手だそうです。”大”ったって歌手としての実力もそうだが、体型がそれ以上に凄い。添付したジャケ写真をご覧いただけばお分かりの通り、相撲取りみたいな強力な存在感を放っております。こういう見かけの面白い人のCDは、文句なしで即、買ってしまうなあ。
歌のほうも見かけをまったく裏切らない豪快なもので、ワイルドな節回しとリズムの乗りの典型的アラビアン・ポップスでぶっ飛ばす。非常に男っぽいガラガラ声に、太った人特有の甲高い倍音が含まれ、アルバムが繰り出す音の”異文化の産物”感をいやがうえにも盛り上げます。
バックで鳴り渡る民俗打楽器も、なんだか歌手の個性に合わせて大きめの物を使っているんではないかと思ってしまう、レンジいっぱいに溢れんばかりの重量感と突撃力。
ともかくその豪快な音楽性に恐れ入って聴き入るよりないんだが、こんなのは、たとえばパリあたりでアラブ移民によって作られた、お洒落なエスニック・ポップスの世界からは絶対に出てこないでしょう。
このような音楽の構成要素は鋭利な時代感覚やら状況を射抜くセンスとかそんなものじゃなく、畑から抜いて来たばかりの野菜についている泥みたいな天然のパワー。
小ざかしい事を言わんでドワァーッとやってしまったらええやんか、みたいな世界ですなあ。こういう土着のパワーに、インテリ音楽家はかないません。
ことに。何度も聴いて行くうちに存在感を増して行くのが、アルバム中盤あたりから入ってくるバラード物。これはもう、アラブ演歌とでも表現するしかないもので、野太い声で切々と歌われるんだが、リズムで乗せられるダンスナンバーはともかく、こういった歌ものは、異邦人たるこちらとしてはどのように納得したら良いやら。
現地の人々、こんな岩みたいな歌でしみじみしちゃうの?そのわけの分からなさに、不思議に胸がときめきます。
このような”そびえ立つ異文化の壁”を前にして感ずる血の騒ぎは、まさにワールドもののファンとしての大いなる喜びでありましょうなあ。
上品に言えば知的好奇心、なに、要するに根っからのヤジウマ根性なのでしょうが。サラーム・アレイコム。
理解できないようなワケのわからなさを持った音楽、非常に魅力的だと思います。気になるブツです。
見た目の不思議な人の盤で、不思議な音に出会う機会も多いですしね。そりゃ、きれいなオネーサンも大好きではありますが(笑)