ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ラジオ主義者の明けない夜明け

2012-08-19 03:12:33 | いわゆる日記

 昨夜、ツイッターで以下のように発言していた人がいた。

 ~~~~~
時々オーディオに否定的な意見を言う人がいるが、生では一生聴けないであろう秘曲や死んでしまった人の名録音をより良い音で聴きたいというだけのことなのだが。そういった欲求がおかしいとでもいうのだろうか。
 ~~~~~

 さらに、それに対してこのように共鳴した人も。

 ~~~~~
好きな音楽なら少しでも「良い音」で聴きたいと思うのは、ごく自然な人情だと思います。
 ~~~~~

 まあ、人がどのような価値観で音楽を聴こうが勝手なのであるが、普遍的な「良い音」といったものが存在する、との認識があり、それを是とするのが自然な人情なのだ、と結論が出されてしまったら嫌だなあ、と思った。
 会話を交わしている方々はオーディオ・マニアの側面も持つ音楽ファン同志のようだが、高級なオーディオの生み出す音が良い音、なんて定説が出来上がるのはうんざりである。
 で、とりあえず下のようなコメントを発しておいたのだが。

 ~~~~~
私は「ラジオ的な音」が好きです。いわゆる「オーディオ的な良い音」は、ちょっと私にはやかまし過ぎるんですね。まあ、「良い音」の概念も人それぞれかと思います。
 ~~~~~

 以前も書いたが、私はそのような”ラジオ主義者”である。あまりにも装置が巨大すぎて玄関壊して自宅に運び入れた、なんて逸話を持つような超高級なオーディオの生み出す分厚い音響より、窓辺においたちっぽけなラジオから偶然好きな曲が流れ出た瞬間を愛したい音楽ファンである。

 そんな自分の特性に気がつかないでいた青春の日、マニアな人からは笑われるレベルではあろうが、それなりのオーディオ・セットをやっとのことで買い込み、聴いてみたのだが、どうも音が仰々しくて馴染めない、なんて体験をした。
 しょうがないからつまみを回してまず、最も鬱陶しく感じた低音域をカットした。それでもうるさいから高音域をカットし、さらに中音域をカットした。さらにボリュームも大幅に落としてみて、「しかしこれ、意味ないだろ?」と首をかしげた。
 時代は移り、世にラジカセなるものが流通するようになった。早速手に入れた私は、お気に入りの盤を外出時にも持って出られるとは便利なりと、愛聴していたアナログLPをカセットに落とし、そいつを出先で聴いてみたのだが。あっと驚いた。そこから流れ出たのがまさに、”私の理想としているレコード再生装置”の音であったから。

 うわあ、なんだい、私が求めていたのは、大層なオーディオ装置ではなく、はるかに簡素なラジカセの、つまりはラジオの音だったのである。そしてこの志向は今でも変わっていない。音楽を聴くのは常にちっぽけなCDラジカセ経由である。
 このような感性を持つに至ったのは、音楽ファンのなりたての頃、ひたすらラジオの洋楽ヒットパレード番組を追いかけて聴いていたからとか、もっと幼少時、針仕事をする母がいつも傍らに置き、聴いていたトランジスタ・ラジオの音色に馴染んでしまったから、とかいくつか仮説を立ててみたのだが、真相は分からず。そういえば思春期に熱中していた海外からの日本語放送傍受も、ラジオ趣味全開と言えるよなあ。さらには、私の”AKB48メンバーの中の推しメン”は、ラジオのトークを大得意とする佐藤亜美菜ちゃんである、という具合。
 いや、ラジオってホントに素晴らしいですねえ、と、つまらない締めの言葉しか思いつけないのが申し訳ないが。

 ラジオといえば先日のNHK・ラジオ深夜便が快感だった。第一部のジャズサックス特集は、ソニー・ロリンzスやスタン・ゲッツといったジャズ街道ど真ん中のプレイヤー連発で、いやあ、そんなにストレイトなジャズをこのところ聴いていなかったので、実に新鮮な驚きがあった。ジャズが一番かっこよかった時代のジャズを久しぶりに堪能した次第。
 また、司会のアナウンサーが良かったなあ。ジャズマニアであることを隠そうともせず、イヤミの一歩手前まで”通っぽさ”を押し出したトークは、深夜にジャズを聞くことの快楽を”秘儀”にまで至らしめてくれた。
 そもそも、あの番組で喋っているアナウンサーたちの素性って、どんなんだろう?日常、放送で馴染んでいる連中とは、なんかまとっている空気が違う。
 何十年も前に深い事情あって冷凍処置を施された者たちが深夜だけ蘇生を許され、地下の倉庫から這い出て喋っているみたいな響きを帯びている、そんなふうに感じてしょうがない時があるんだが、私には。

 そしてその日の第2部が笠置シズ子特集で、それは彼女の名前も歌も聞いた事はあるけれど、実はきちんとまとめて聴くのはこれが初めて、の私は、もう夜明けが近い部屋の中で一人、「ロックンロール!」などと見当違いな掛け声かけて一人盛り上がったのだった。凄い歌い手だったんだね、彼女。いやあ、まいった。

 ラジオ主義者の病は深い。癒えることはない。夜を飛び交うすべてのラジオ電波に栄光あれ。