ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ナポリに還る日

2012-08-24 02:36:24 | ヨーロッパ

 ”NOA:Noapolis - Noa Sings Napoli”

 ともかく。「日本の夏ってこんなにハードだったっけ?」とぼやきつつ、ブログの更新もままならない日々が続いているわけでありまして。いやホントに、この7月8月なんて、サボった日の方が多いくらいで、ひどいものだな。
 などと言っていたら酷暑に打ちのめされる体と心へのひと時の慰謝となる一枚がイタリア方面から現れた。ノア、という人はこれが初対面だけど、若手の地味な実力派、みたいなポジションの人だろうか。古いナポリの古謡というか大衆歌ばかりを弦楽四重奏をバックにじっくり歌い上げた、ナポリへの愛に溢れた一枚であります。

 冒頭に置かれた「はるかなるサンタルチア」が、もう好きな曲なんで嬉しくなってしまうんだけど、この曲名を挙げると、いわゆるイタリア民謡の有名な方の「サンタルチア」を思い出して、「ああ、それなら知ってる」なんて答えが返ってくるんで残念だ。私の手元にはこの歌の日本語訳詞の付された楽譜が載っている”世界の民謡”なんて古い本があり、おそらくは”歌声喫茶”の時代などに我が国でも愛唱されたんではないかと想像するんだが。
 ともかくこの歌は好きでした。歌に現れる、光あふれるナポリの港を恋しがる船乗りの想いと、遠く離れた南イタリアの地に憧れるこちらの気持ちがうまい具合に重なり合って、実に切ない。こんな歌を聴いていると、心底、ナポリの港に帰りたくなってくるねえ。いや、行ったことはないけどさ、そもそも。

 なんてことを言っていても仕方がないが。あ、「帰れソレントへ」も入っていますな。その種の、小学校で習ったような”イタリア民謡”と、後年、音楽ファンになってから、マニアックな店でやっと手に入れたイタリアの知る人ぞ知るトラッドバンドのアルバムに入っていた、ドロドロのアレンジで聴かせるナポリの伝承歌が、ごく自然に同居しているのがなんだか不思議なこのアルバム。そしてその両者が裏表でもなんでもなく、どちらも等価にナポリである、という当たり前の事実。
 現地ナポリの人々にはこのアルバム、どのように聴こえるんだろうか。

 ノア女史の歌唱は、ともかく掌のうちで慈しむように心を込めて、ナポリ伝統の美しいメロディを描き出すことだけを心がけているように感じられる。時に生ギターも加わる弦楽四重奏もイマジネーションにあふれるプレイを聴かせてくれ、安心して心を任せることができる。
 聴いていると、歌の主人公はほとんど南の陽光かとも感じられて来ますな。マイナー・キーで進行していた語りだしの部分が終わり、サビの部分でメジャーに転調。光あふれる。この展開って、元ネタはナポリじゃないかとまで思えてくるんだが。
 ともかく転調とともに地に満ち溢れる南の陽光のイメージ。それを全身に浴びて吹きこぼれ、天にまで伸び上がろうとする溢れる歌心、その想い。ナポリの人々って一体なぜ、ここまで深い憧れを胸に育んだのだろうか。

 懐かしいです。帰りたいです。古き、懐かしきナポリの街角に。うん、行ったことはないけどさあ。