ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ハリラヤの慈悲に抱かれて

2012-08-26 02:23:21 | アジア

 ”Persembahanku”by Lucky Resha

 ポップ・ムスリム、ということで、インドネシアのイスラム教徒のあいだで愛好されている世俗宗教歌(?)のアルバムであります。インドネシアのキリスト教徒におけるロハニみたいな存在、というと話が逆なのか、それでいいのか。

 イスラム歌謡とはいっても濃厚にコーラン経由のコブシが入ったりヌスラットばりにハードなボーカリゼーションを繰り広げるとか、そういうことはないんであって、むしろロハニなんかとも共通する部分も多い、清純なバラードがメインであります。
 が、ロハニに比べると歌唱もバックの演奏も、より粘っこいというかディープでアーシーな手触りを感じないでもない。そして、そのあいだに一曲、二曲と混じってくる、いかにも東アジアポップスらしいマイナー・キイの哀愁溢れる歌謡曲っぽい作品が、何やら生々しい感情を伝えてくる。インドネシア語の響きも、ロハニよりもしっくりと楽曲に馴染んでいるように感じられます。まあ、この辺、微妙すぎる話だけれど。

 ジャケに紹介されている彼の地のイスラムの人々の暮らしぶりを伝える写真など見つつ、あまり強力にイスラムっぽさを伝えてくる作品集ではないところが逆に当方のような異教徒にも親しみやすいこれらムスリム歌謡に耳を傾けていると、体にまとわりつくこの夏のクソ暑い大気の感触も、遥か南の島の人々と共有するイベントと納得しておこうか、などという気に一瞬はなりかける、この辺も神の加護でありましょうか。

 そしてふと、ずっと以前に読んだ「怪傑ハリマオ」のモデルとなった人物の伝記の終章など思い出すのです。マレーで生まれて育った一人の日本人が第二次世界大戦のさなか、歴史の波に翻弄され、「大日本帝国」のために働くが、その人生の終わり、自ら望んでマレーの地のイスラム教徒のための墓所に埋葬される、そんなエピソードを。