”Fellini Jazz”by Enrico Pieranunzi
何年前だったか、イタリアの映画監督、フェデリコ・フェリーニ没後10周年企画として製作されたアルバム。すべての収録曲の編曲も担当している、ヨーロッパ・ジャズ界の大物ピアニスト、Enrico Pieranunziが中心となり、アメリカジャズ界の応援を得て製作した、フェリーニの映画音楽をジャズってみよう、という趣旨の作品だ。ベースがチャーリー・ヘイデン、ドラムスがポール・モチアン、といった結構シリアスな(?)編成である。
フェリーニの映画音楽、ということで収められた11曲中8曲がニーノ・ロータの作曲になるもの。だからどう演奏したってこうなるというか、ホーン勢はちゃんと吹いてるのに、なぜか調子外れっぽく鳴り渡ってしまう、みたいな味をはからずも出すスローものが良い。イタリアの場末にいつの間にか夕陽が差し込んでいる、みたいなダルい哀感が、そこら一面に漂う。
ことに中盤、”アマルコルド~カビリアの夢~甘い生活”と続くあたりが、このアルバムのハイライトか。”あのころ”のイタリア映画に流れていた空気感が蘇るようで、たまらない気分だ。ただレコーディングのためにローマに呼ばれてテナーを吹いているだけのはずのクリス・ポッターの、”カビリアの夜”におけるソロには、気がつけばいつの間にか、イタリア庶民の喜怒哀楽がベッタリ染み付いている。
”甘い生活”において、どこか関節の狂ったみたいなリズムパターンを繰り返すリズム隊とホーン・セクションとのやり取りは、なんともニヤニヤさせれられてしまうのだが、”あの時代”は濃厚にジャズの時代だったんだなあ。フェリーニの映画に、そこまでジャズが鳴り響いていたわけでもないのに、このジャズアルバムには、フェリーニの映画が持っていた体温みたいなものが横溢してるんだ。
9曲目、”ラ・ストラダ”の終わり近くであの忘れがたいジェルソミーナのテーマが浮かび上がるところが恰好いい。
また、次の曲、”カビリアの夜”のテーマ提示をなにやら歌謡曲チックに決めて見せるところはイタリア気分横溢。あっと、この曲は旅芸人やらジプシー気分を暗示しているのかな?
ラスト、フェリーニに捧げたワルツはいかにもイタリア映画のエンディングに流れそうな泣かせの旋律で、その、いかにものそれらしさにニヤリとさせるのだが、聴き終えればイタリア映画の一本も見に行きたくなってしまう一作なのだった。それもDVDなんか借りて来たんじゃダメだ。ちゃんと映画館に行って見たい。