”LE DANZE DI DIONISO”by CARLO FAIELLO
50~60年代のイタリア映画などを見ていると、突然、画面に映っている俳優たち全員が声を合わせての大合唱のシーンが始まったりしたものだ。子供の頃は「わけの分からない歌が始まっちゃったなあ」などと迷惑半分で見ていたものだが、今思えば、それは、イタリア南部の香り馥郁たるトラッド・ナンバーだった、と思える。
あれはおそらく戦後の復興が進むイタリアで、南部から景気の良い北の都会へ働きに出て来た人々が映画の観客のかなりの部分を占めるようになった、それゆえ彼らへのサービスとして、そのようなシーンを映画の最中に置く必要の出て来たのだろう、などと想像するのだが。
もっと真面目にあの辺を見ておけば良かったな、などと言っても、それはイタリア音楽に興味を持った後の感想であって、当時のガキにそりゃ無理だね。
イタリア南部の民謡に興味を持って聴きだしたのは、その方面の音楽を掘り下げたマウロ・パガーニのソロアルバムがきっかけで、”ヨーロッパ文明、一皮剥けばオリエント”みたいなその響きが非常にエキゾティックなスリルを感じさせ、音楽上の冒険物語を読む気分だったのだ。
その後、南イタリアの音楽をあれこれ買い集めてみたのだが、特徴的な巨大タンバリンで叩きつけるように奏でられるタランテッラのリズムや、頭の血管ブチ切れそうになりながら天高く歌い上げられるイスラムの香りのするメロディなどにすっかり酔い痴れてしまったものだった。地中海特有の太陽パワー、光と影の乱舞するイスラム世界とキリスト教世界の乱交場面に大いに血を騒がせたものだった。
で、さて、このアルバム、”ディオニソスの踊り”だけれど、もうジャケを見ただけで南イタリアものだろうなと見当が付く因果なもの(?)さっそく呪術的なタランテッラのリズムやら”地中海土着派”っぽい野卑な(この場合、褒め言葉です)歌声が、ちょっぴり暗っぽい音像の中に木霊し、期待通りに手に汗を握らせてくれる。
もっともこのアルバム、ディオニソスの名なんか持ち出すあたりさほど天然ではなく、結構インテリっぽく地中海世界の音楽上の古地図解析を行なっているようだ。
その歌声も時にはややクールにコブシを廻しつつ、南イタリアから北アフリカに及ぶ音楽伝播の道を辿って見せ、あるいはアコーディオンなども民俗音楽っぽいアプローチの中に、ややジャズっぽいアプローチというか”インプロヴィゼイション”を決める部分もあったりして、そのあたり、パガーニのあのアルバムの続編的なものを感ずる。
というのは褒めすぎにしても、なかなかに妖しい地中海音楽の旅に誘ってくれるアルバムなのだった。