ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ベトナムの水中花

2011-04-11 00:47:33 | アジア

 ”The Best Of Nhu Quynh”

 70年生まれ、93年より米国在住のベトナム人歌手、Nhu Quynhの、2006年に編まれた2枚組みベストアルバムである。すぐに続編である、やはり2枚組の続・ベスト盤が出ているところを見ると、相当に好評だったのではないか。
 ベトナム同胞向けの歌を歌う人なのだが、さすがに在米歴の長い人ゆえバックのサウンドは、欧米の今日のヒットポップスと比べても遜色のない洗練のされ方。その中にベトナムの民俗楽器が巧妙に挿入され、ベトナムの伝統色濃い歌謡曲がしっとりと歌われて行く。

 冒頭の曲、少女たちによる読経みたいなコーラスが浮かび上がり、その狭間からNhu Quynhの歌声がゆらりと姿を現すあたりの演出など、このアルバムで彼女に初対面する者への演出は見事なもので、一発で彼女の世界に引き込まれる。
 もちろんアップテンポの陽気な曲もあるのだが、そいつも歌っているうちに粘り気を生じ、翳りを帯びてくる。やはり彼女は、この湿度の相当に高い独特の哀感溢れる世界の女王なのだろう。

 そのメロディラインは湿度の高いサウンド構成の中をアジア的哀感を振りまきながらヌルヌルとくねりまわり、かなりの時間をかけて締めのフレーズに着地する。このじれったさ、粘り気の内に醸成される情感の沼みたいなものにはまり込んだらもう出られない。水気の底から呼びかける、神秘なる妖気の揺らめき。

 ところで彼女、歌も上手いが楚々たる美人であり巨乳であり、その上、人気の絶頂期に突然未婚の母となってみたりと、ファンには相当に狂おしい想いも味あわせてくれる存在でもあって、そのあたり、大衆芸能の勘所を見事に捉えていると云えよう。もちろん本人、意識的にやっているわけではなく、自分なりに普通に生きていたらそうなっちゃった、なのだろうけど。
 う~ん、とか言ってる私も、この盤を聴いているうちにすっかり惹かれ、彼女の歌をもっと聴きたい、彼女の盤をもっと欲しくなって来ているのさ。うん、この性欲込みのじれったさ、まさしく大衆音楽の真実。