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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

清らか。

2018-05-29 17:21:36 | 好きな本

気が付けば息をつめていて、周りの空気もとまっているような。
真剣で。入りこんでいて。先を知りたいけれど、終わってしまう
のはとても困る。

‥1年に1度か、もしかしたら数年に1度、そういう読書時間を
持てることがあります。



(図書館で予約して、かなり待ちました。文庫が出ているのを知ってたら
買ったのにーと、読み終わってから思いました。)


主人公の外村(とむら)は、17歳のある日あるとき、
体育館のグランドピアノを調律しに来た人を、先生に頼まれて案内した。
何をしにきたのかも、ピアノの蓋があくということも知らなかったのに、
調律する音が聞こえてきたら、その場を動くことができなくなった。


森の匂いがした。夜になりかけの、森の入口。

そう思う感性を持っているのに、本人はまるでなんにも気が付かない。

その日がきっかけとなり、調律師への道を歩み出してても、
こんなふうに自分を思う。


ピアノに出会うまで、美しいものに気づかずにいた。知らなかった、という
のとは少し違う。僕はたくさん知っていた。ただ、知っていることに
気づかずにいたのだ。

そして記憶の中からいくつもの美しいもの(祖母がつくってくれたミルク紅茶や
泣き叫ぶ赤ん坊の眉間の皺や裸の木)を発見し、美しいと呼ぶことを知った。
それだけで解放されたような気持ちだ。美しいと言葉に置き換えることで、
いつでも取り出すことができるようになる。美しい箱はいつも身体の中にあり、
僕はただその蓋を開ければいい。

ピアノが、どこかに溶けている美しいものを取り出して耳に届く形にできる
奇跡だとしたら、僕はよろこんでそのしもべになろう。



17歳でピアノを「知った」青年が、職場で出会った調律師や、ピアノを弾く
人たちを通して、人生の入口にやっと立ったと実感できるところに(私も)
立ち会えた、と思う、清々しさと、美しいものに対するピュアな感性を前にして
思わず息を飲み、そのまま吸う吐くを忘れてしまったような胸の苦しさを、
読みながらも、読み終わった後も覚えました。
それはずっと前に通り過ぎた時間への、甘美というよりは苦みがまさる
懐かしさなのかもしれません。



::::


ちょうどこの本を読んでいた頃、前出のアトリエ倭さんの個展がヒナタノオトで
あって、以前から約束していた通り、稲垣哲さんの靴を娘とともに選びました

 
サイズも色もぴったりでした


このタイミングで、彼女がこの靴を選んで、喜んで履いていることが
嬉しくてなりません。(こういう気持ちなんというのでしょうね~)


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