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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

それは秘密のやりとりだったのかー

2020-10-01 14:40:32 | 好きな本

先日ギャラリーらふとでのクロヌマさん作品展の時に、
この本の装丁の秘密(?)を知ったので、早速図書館から
借りてきて読みました。




クロヌマさんにお目にかかった時に、今読んでるところです、
って言えたらよかったし、自分が読了してたなら、「クロヌマさんも
この本読みましたか?」と是非とも訊いてみたかった内容でした。



表題作の『口笛の上手な白雪姫』をはじめ、全部で8編の短編が
収められています。

『先回りローバ』
『亡き王女のための刺繍』
『かわいそうなこと』
『一つの歌を分け合う』
『乳歯』
『仮名の作家』
『盲腸線の秘密』
『口笛の上手な白雪姫』


小川洋子さんの作品を読むのはとても久しぶりでしたが、
ああそうこういう感じだった、と程なく思い出しました。

吃音癖があり、思うようにしゃべることができない僕の前に
箒と塵取りを持った「お婆さん」が現れる『先回りローバ』。

廃線が危ぶまれている、通称「盲腸線」に、毎日乗りに行く
曾祖父とひ孫だけが知っていた『盲腸線の秘密』。

赤ちゃんの愛らしさ、赤ちゃんと呼ばれる時期だけが備える
みなぎる生命感が、その物語の、静かに生きる女性と対照的な
『亡き王女のための刺繍』と『口笛の上手な白雪姫』。

感受性豊かな少年期にだけ「見える」『かわいそうなこと』と
『乳歯』。


見えるものと見えないもの、生きている人(もの)と
もう生きていない(もの)の境目を、そもそも境界線など
始めからなかったかのごとく、それぞれの物語の登場者は
越えていきます。それはなぜ?

本の終盤、『口笛の上手な白雪姫』の中にこんな文章がありました。

自分を必要とする客がやって来るとすぐさま察知し、
控えめな視線だけで、もしよろしければどうぞご遠慮なく、
という合図を送った。(中略)ただ小母さんを求める人々との
間にのみ行き交う、秘密のやり取りだった。

こちら側とあちら側(あるいはわたしとあなた、あるいはAとB)で
秘密のやり取りがあったから。

やり取り‥すなわち交換であり交感が存在していたのだと思うと、
それまでに読み終わった短編の諸々が、胸の内側にきれいに収まって
いったのでした。


表紙の白鳥たち。好き勝手な方を向いているようでありながら、
交感されたものをひっそり反芻しているように見えてきませんか。



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