報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「業務終了直前に……」

2019-07-11 19:33:13 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日18:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 事務所の掛け時計が終業のチャイムを鳴らした。
 一応、タイマーで始業時間と終業時間にチャイムが鳴るよう設定している。

 愛原:「今日の仕事、終わりかぁ……」
 高野:「今日は依頼、来ませんでしたね」
 愛原:「また最近、不景気になってきたかなぁ……」

 まあ、うちはリサを成人までBOWとバレずに面倒を看れば高額の報酬が政府から入る契約を結んでいるから、おまんまの食い上げってことは無いのだが……。
 と、そこへ事務所の電話が鳴った。

 高野:「はい、愛原学探偵事務所でございます」
 ボス:「私だ」
 高野:「渡田さん、どうもいつもお世話になっておりますぅ」
 ボス:「誰が渡田さんだ!全く、毎度毎度……」
 高野:「いい加減、名前を名乗って下さいな」
 ボス:「いいから、愛原君に変わってくれ」
 高野:「少々お待ちください。先生、ボスからお電話でーす」
 愛原:「了解」

 まあ、高野君の電話のやり取りで、ほぼ100パー予想はついたが。

 愛原:「はい、もしもし。お電話代わりました。愛原です」
 ボス:「私だ。まずは高橋君の退院、おめでとう」
 愛原:「おかげさまで」
 ボス:「営業時間外で申し訳無いのだが、そちらに依頼書をファックスさせてもらう。興味があったら、明日までに返信してくれ」
 愛原:「探偵業界、絶対こういう依頼システムじゃないですよね?」
 ボス:「うるさい!フィクションなんだからいいんだ!とにかく、着信したファックスを確認してくれたまえ。以上!」
 愛原:「仕事の斡旋、ありがとうございます」

 私は電話を切った。
 尚、サスペンス映画などで、よくミッション内容とかをカセットテープで送るという描写がある。
 そしてお決まりのセリフ、『尚、このテープは自動的に焼却処分される』という言葉の後に発火するというもの。
 あれの仕組みが未だに分からない。
 うちのボスでさえそんな依頼方法をしてこない所を見ると、インチキな描写なのだろう。

 高橋:「先生、ファックス着信です」
 愛原:「おう」

 私はファックスを見た。
 そこに書いてあったのは……。

[同日19:00.天候:晴 同地区 とある飲食店]

 愛原:「それでは高橋君の退院と快気を祝って、カンパーイ!」
 高野:「カンパーイ」
 リサ:「かんぱーい」

 私達は近所の飲食店に移動し、そこで高橋の快気祝いを行うことにした。
 リサも一緒だが、もちろん彼女だけジュースである。
 1度帰宅し、それからまた集合した。
 リサは中学校の制服から私服に着替えている。

 愛原:「どうだ、高橋?久しぶりの酒は?」
 高橋:「マジパねぇ味っス!最高っス!でも先生の盃を受けられたらもっと最高ッス!」
 愛原:「調子に乗んな」
 店員:「お待たせしました!こちらカルビとロースの盛り合わせになります!」
 愛原:「おっ、来た来た。さ、どんどん肉焼こう」
 高橋:「先生!俺に任せてください!」
 高野:「リサちゃん、そのお肉は生で食べちゃダメよ」
 リサ:「えっ?」

 生肉にがぶりつこうとしているその姿は、獲物を捕らえて食い付く直前のBOWであった。

 高野:「ちゃんと焼いてから食べなさい」
 リサ:「はーい……」
 高橋:「それで先生、ボスからの仕事は受けるんですか?」
 愛原:「まあ、返事は明日でいいって言うからな、明日まで考えてみるよ」
 高橋:「俺は何でもOKっスよ!」
 愛原:「それは頼もしい」

 仕事の内容はとても不可解な内容のものだった。
 見た目には簡単そうな内容なのだが、とても不可解。
 それで他の探偵会社には断られ、うちに回って来たらしい。
 依頼料は高額なものではあるのだが……。
 それと、これは善場氏と昼間話したことであるのだが……。
 もしも、今後の仕事の中において、バイオハザード絡みのものがありそうなら、リサを連れて行くと良いということだ。
 群馬県のバイオハザード事件だって、リサがいればまた違った結果になったであろうと……。
 それは確かにそうなのだが、強いBOW同士で戦わせてデータを取りたいという魂胆が見え見えだ。
 さすがにそれはリサにとっては酷ではないかと思う。
 もっとも、今回の場合はバイオハザードは関係無さそうだがな。

 愛原:「じゃんじゃん持って来てくれ。こいつら物凄く飲み食いするから」
 店員:「かしこまりました」

 まあ、今晩の所は盛り上がるとしよう。

 リサ:「私にもお兄ちゃんの飲み物、ちょっとだけちょうだい」
 高橋:「あぁ?ガキの飲むモンじゃねーよ。あと7年は待て」
 リサ:「ケチー」
 高橋:「教育だ、教育」

 何だかんだいってリサも高橋君には馴れたようだし、少しは安心である。
 それにしても本当、仕事の依頼どうしよう?

[同日22:00.天候:晴 同地区 愛原のマンション]

 リサ:「愛原さん、お風呂出たよー」
 愛原:「おーう」
 高橋:「先生より先に入るとは……」
 愛原:「まあまあ。子供は寝る時間だ」

 私が子供の頃はこの時間に塾から帰って来たものだが、塾通いしていないリサにはさっさと風呂に入ってもらおう。
 知能が高いのか、リサが殆ど家で勉強している所を私はあまり見たことが無い。
 せいぜい、事務所に寄って斉藤さんと宿題をやっているくらいだ。
 斉藤さんは習い事として空手と学習塾に通っており、リサと事務所に来るのは週1か2のペースだ。
 それでも斉藤さんがリサより良い点を取ることは無いという。

 リサ:「もう宿題は終わったよ」
 愛原:「知ってる。斉藤さんと一緒にやってただろ。……ところで、テスト勉強とかしていないみたいだけど、テストの点数とかはどうやって取ってるんだ?」
 リサ:「どうやってって……フツーに問題解いてるだけ。そしたら当たってるだけ」
 愛原:「授業で聞いた内容がそのまま頭の中に入ってるのか?」
 リサ:「多分……」
 高橋:「いるんスよねぇ。勉強しているように見えないのに、いっつもいい点取りやがるヤツ」
 愛原:「俺の時にもいたけど、そういうヤツは陰で必死に勉強していたというオチが付いている。リサの場合、本当にIQが高いからすぐに授業の内容を覚えてしまうんだろうな」
 高橋:「その割に金田一少年は赤点ばっかじゃないですか」
 愛原:「金田一一はそもそも勉強する気ゼロだからIQ180でも赤点続きなんだよ」

 リサには愛原達が何を話しているか分からなかった。

 リサ:「愛原さんの仕事に協力できるなら、私も喜んで協力するから。いつでも声を掛けてね」
 愛原:「あ、ああ。ありがとう」
 リサ:「おやすみ」
 愛原:「おう、お休み」
 高橋:「スマホ使い過ぎんじゃねーぞ」
 愛原:「そういう高橋はタブレットの使い過ぎに気をつけろ」
 高橋:「さ、サーセン!」

 かくいう私もPCの使い過ぎを高野君に注意されてしまっていた。
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“私立探偵 愛原学” 「都心からの帰宅」

2019-07-11 14:49:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日12:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 東京駅八重洲地下街]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 群馬県山中の屋敷において新型BOWによる特異菌に感染させられ、3ヶ月の入院を余儀なくされた高橋がようやく退院することになり、私と高野君とで迎えに行った。
 しかし病院で政府エージェントの善場氏達に捕まり、彼らの事務所がある都内の一等地のビルにて事情聴取を受けていたというわけだ。
 で、今は昼休み。
 昼食代をもらった私達はすぐ近くにある東京駅の地下街の1つ、八重洲地下街を訪れたというわけだ。
 平日の昼間ということもあり、近隣のビルや東京駅で働く人々で飲食店はどこも混雑している。

 店員:「お待たせしました!3名でご来店の愛原様、ご案内致します!」

 で、ようやく席に着く。

 愛原:「遠慮しないで好きなもの頼んでいいからな。よーし、俺はオールスター天丼だな」
 高橋:「俺も同じので!……できれば先生の食べ残しで」
 愛原:「おい、やめろ」
 高野:「私は上天丼で」
 高橋:「アネゴ、そこは空気読んで先生と同じものを……」
 高野:「別にいいじゃない。ねぇ、先生?」
 愛原:「そうだぞ。高橋、俺は最初に何て言った?」
 高橋:「先生!?今頃、特異菌の影響が!?」
 愛原:「そういうことじゃねぇ!……遠慮しないで好きな物頼んでいいって言ったろが!だから高野君の行動は正しいの!」
 高野:「そういうことよ。じゃ、注文しますね」
 愛原:「ああ、よろしく」

 高野君が店員を呼んで注文した。

 愛原:「本当に高橋、見た目が少し変わったな」
 高橋:「やっぱそうですか?」

 別に顔や体型が変わったわけではない。
 何というか、体の色素が抜けた感じになっている。
 元々高橋は色白な男だった。
 髪も金髪に染めていたのだが、今はそれが銀色に染めたかのような色になっているし、肌の色も余計に白くなっている。
 瞳の色も黒が抜け落ち、グレーに近い色になってしまった。
 つまり、アルビノのようになってしまったということである。
 実際、強い光の所ではサングラスが必要になってしまっている。
 私が地下街を狙ったのは、そういう太陽の光を避ける為でもあった。

 高橋:「俺も人間じゃなくなったんですかね?」
 愛原:「いや、そんなことはないと思うけど……」

 別に、リサみたいにBOWに変化するわけではない。
 それに、善場氏の話では、アメリカでも同じようなBOWが暴れ出し、危うくその特異菌によって死亡寸前までいった被害者がいたそうだ。
 その被害者は死亡する直前にワクチンを投与したことにより生還を果たしているが、やはり高橋と同じように髪の色が抜けたり、虹彩の色が抜けたりしたそうだ。
 これは特異菌が死滅する際、石灰化する現象があり、その影響であるという。
 石灰は白いので、そういうことだと。

 高橋:「まあ、いいです。これでリサがワガママ言い出しやがったりしたら、俺が対処できるということですよ」
 愛原:「……まあ、いざとなったらよろしく」

 ワガママ座敷童のエヴリンより、うちのリサ・トレヴァーの方がよっぽど素直でいいコだと思うのだが。

[同日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 車が都道50号線(新大橋通り)沿いにある私の事務所の前に止まる。

 善場:「それでは、今後とも御協力をお願い致します」
 愛原:「分かりました。できることなら、協力させて頂きます」
 高橋:「先生の貴重なヒマな時間を無駄に使わせたんだから、報酬はちゃんともらうぞ?」
 愛原:「高橋、日本語おかしいぞ。……それじゃ、送って頂いてありがとうございました」

 運転席と助手席には善場氏の部下と思しき黒スーツの男2人が座っている。
 彼らと比べると善場氏は華奢な女性のように思えるが、高野君曰く、なかなか隙の無い武闘派のように見えるという。
 ゾンビが1人や2人やってくる程度では、簡単に振り払って逃げられるくらいのスキルはあるだろうと。
 なるほどなぁ……。

 高野:「先生、事務所はどうなさいますか?」
 愛原:「いや、今から開けるさ。数時間程度でも、1件くらい依頼があるかもよ」
 高野:「あるといいですねぇ……」

 事務所に戻って来た。

 愛原:「どうだ、高橋?3ヵ月ぶりの事務所はァ……」
 高橋:「いや、マジで懐かしいですね。まあ、3ヶ月くらいじゃそうそう変わらない……ん?」

 その時、高橋は何かを見つけた。
 スーッとキャビネットの上を指で擦る。

 高橋:「アネゴ!埃が溜まってんじゃんかよ!?先生の事務所を埃塗れにしやがって!」
 高野:「お姑さんかオマエは!?」
 高橋:「先生!すぐに掃除します!」
 愛原:「いや、いいよ。明日からで」
 高橋:「いいえ!俺に任せてください!」
 愛原:「あ、そう。退院したばっかりなんだから、無理すんなよ」
 高橋:「はいっ!」

 と、そこへエレベーターが5階に到着する音が聞こえた。

 高野:「ん?誰か来ましたよ?」
 愛原:「おっ、依頼者かな?」
 リサ:「ただいま」
 斉藤絵恋:「お邪魔しまーす!」

 そうではなかった。
 BOWであるがちゃんと自己制御できている稀有な例、リサ・トレヴァーの亜種である。
 日本政府としては是非ともエージェント候補として囲い込みたいらしい。
 日本は核兵器を保持することができない(ことになっている)為、それに代わる軍事力の確保を模索しているようなのだ。
 核兵器がダメならBOWといったところか。
 そしてそれは、他国も同じことらしい。
 その為、リサは数少ない成功例として是非とも政府で管理したいということなのだ。
 但し、リサはまだ10代前半。
 しかも生い立ちが、元々人間だったものをアンブレラ・ジャパンが非人道的な方法で人体実験したものの産物である。
 バレたらそれを利用した政府も世論から非難轟々になることは明らかである。
 その為、成人になるまで私達が面倒看ることになった。
 まさか、名も無き探偵が管理しているとは誰も思わないだろう。
 で、今では近くの中学校に通っているというわけである。

 リサ:「お兄ちゃんが退院したって聞いて、家庭科でパウンドケーキ焼いたの。食べてください」
 高野:「あら、美味しそう」
 高橋:「食ったら即効ゾンビ化決定、ウィルス入りケーキじゃねーだろうな?」
 愛原:「高橋!」
 斉藤:「いーえ!リサさんの愛情てんこ盛りケーキでーっす
 高橋:「食ったのか!?」
 リサ:「お兄ちゃんの為に焼いたのに、サイトーが全部食べちゃったから作り直した」
 斉藤:「リサさん、お代わりちょうだい!お代わり早よ!」
 リサ:「ダメ。これはお兄ちゃんと愛原先生達用」
 高橋:「お、おい!オマエ、大丈夫か?体の方は何とも無いのか!?」
 リサ:「リサさんの愛情で、体がすっごい熱いんですよ……」
 高橋:「先生!こいつゾンビ化寸前です!早いとこ射殺を!」
 愛原:「落ち着け、高橋。ていうかお前、射殺の前にワクチンという発想が無いのか!」

 まあ、斉藤さんの場合、本当に感染したわけではなく、違う意味でゾンビ化寸前だろう。

 高野:「まあまあ、お茶入れるから皆で食べましょうよ」
 愛原:「そうだな。リサ、俺達も食べていいんだろう?」
 リサ:「うんうん」
 高橋:「お、俺もですか?」
 愛原:「オマエなぁ、こういう時こそ空気読むんだよ」

 高橋の場合、特異菌に感染したことで、それまでに世界を震撼させたゾンビウィルスのほぼ全てを無力化させるほどの抗体が付いたそうだ。
 凄い副産物である。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋の快復」

2019-07-09 19:05:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日09:27.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

〔まもなく1番線に、各駅停車、新宿行きが10両編成で参ります。ドアから離れて、お待ちください。急行電車の通過待ちは、ありません〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は全治3ヶ月のケガを負い、都内の病院に入院していた高橋を迎えに行く為、最寄りの地下鉄駅で電車を待っている。
 そう。ようやっと退院することになったのだ。
 群馬県山中の屋敷でバイオハザードに巻き込まれ、危うく高橋は両目を失明するところであった。
 政府エージェントの善場女史らの計らいにより、都内の大学病院に緊急入院することになったが、精密検査を受けたところ、やはり長期の入院が必要ということになった。
 それが快復し、私は事務員の高野君を伴って件の病院に向かうところである。

〔「1番線、ご注意ください。各駅停車の新宿行きが、長い10両編成で参ります。この電車は女性専用車の設定はこざいません。少しでも空いているドアからご乗車ください」〕

 既に9時を過ぎている為、女性専用車の運用は終了している。
 都営新宿線内の上り電車は、始発駅の本八幡を7時15分から9時までに発車する電車が全区間で行っている。
 つまり9時になったからと言って、すぐに解除されるわけではない。
 9時前に発車した電車は、9時を過ぎても新宿駅に着くまでは女性専用車が実施されるので注意である。
 東武アーバンパークラインの、9時になったら電車がどこを走っていようが一斉解除するのとは大違いだ。

 高野:「先生、帰りはタクシーにしませんと。高橋君の荷物が多いから大変ですよ」
 愛原:「うん、そうだな」

 電車が入線してくる。
 京王の電車がやってきた。
 元の鉄道線には戻らず、他社線内を折り返す運用のようだ。

〔1番線の電車は、各駅停車、新宿行きです。きくかわ〜、菊川〜〕

 朝ラッシュのピークは過ぎているが、それでも電車はそこそこ賑わっていた。
 私と高野君は乗り込むと吊り革に掴まることとなる。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 車掌の笛の音が地下駅内に響き渡る。
 車両のドアとホームドアがほぼ同時に閉まった。
 数秒のブランクがあって、電車が走り出す。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita.Please change here for the Oedo line.〕

 高野:「リサちゃんも行きたがってたらしいですね?」
 愛原:「まあな。だけどリサは学校があるから……」

 今日は思いっ切りド平日。
 中学校に通っているリサは、しっかり授業がある。
 学校に行きたがって行っているリサとしては、あまり強いワガママは言えないということだ。

 高野:「マサには内緒にしておいた方がいいですよ。結局のところ、マサの目を治した薬というのは、“エブリン”の被験体の組織サンプルでもって造られたワクチンだったなんて……」

 今やリサよりも脅威ではないかとされる“エブリン”。
 リサがウィルスなのに対し、このエブリンは特異菌(カビの一種)を駆使してバイオテロを起こすBOWなのだという。
 私達を襲ったのは座敷童でも何でもなく、やはりBOWの一種であった。
 その家に憑いて、まずはその家人を感染させるという手法らしいが、その家人達はまるで座敷童が住み着いてくれたかのように思ってしまうのだそうだ。
 で、今度はその家を訪れた客人達を感染させていき……。
 町1つ感染させたTウィルス等と比べるとセコい感染法に思えたが、本来はこれが正しい(?)やり方。
 いきなりのパンデミックは、それが加害者側から見ても想定外の事故以外の何でもないというわけだ。

 愛原:「しかし、いずれは分かることだぞ?それに、病院の先生が何て説明しているかだな」
 高野:「まあ、それはそうですけど……」

[同日10:00.天候:曇 東京都千代田区神田駿河台 日本大学病院]

 都営地下鉄新宿線で一本、小川町駅で降りた私達は、すぐに病院に向かった。
 尚、埼玉県にも小川町駅があるが、全く関係は無い。
 SuicaやPasmoの履歴には、そちらと混同しないよう、『都小川町駅』と出るのだそうだ。
 で、病室に行くと、既に私服に着替えていた高橋が病室で待っていた。

 高橋:「先生!おはようございます!」
 愛原:「やっと退院だな。おめでとう」
 高橋:「とんだヘマをして、先生を御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」

 高橋は土下座してきた。

 愛原:「いや、いいんだよ。悪いのは全部バイオテロだ。早く立って」
 高橋:「はい!」
 高野:「マサ、早くこのバッグに荷物入れて。早いとこ病室を引き払わないと」
 高橋:「分かってるよ、アネゴ」

 3ヶ月入院していた高橋の荷物は、確かに海外旅行に行くキャリーバッグ1つ分にはなった。
 もちろんそれを持って、朝ラッシュ終了直後の電車には乗れないので、小分けにして持って行くことにしていたのだが。

 高野:「ほら、マサはこれだけ持って」
 高橋:「お、おう」
 愛原:「病み上がりなのに高野君は厳しいなぁ……」
 高野:「あら?体の病気は1ヶ月で治ったのに、目がやられたせいでここまで入院が長引いたんですよ?よっぽど退屈してたんだもんね」
 高橋:「さすがアネゴだぜ」

 しかし、それでも高橋には後遺症があった。
 視力は回復したのだが、それでもあまり明るい所ではサングラスが必要になってしまったし、瞳の色も抜けてしまって、アルビノの瞳のようになってしまった。
 明るい所では赤い瞳のようになってしまう。
 それと……傷の治りが異常に早くなったことも後遺症として挙げられる。
 例えばカッター等で指を切ってしまっても、すぐに傷が塞がってしまうのだ。
 これはアメリカでも“エブリン”によって感染させられ、しかし生還した者に全て共通している現象なのだという。
 因みに私は感染しなかった。
 いや、感染しなかったというよりは……どうも抗体が元からあったらしく、感染しても発症しなかったというのだ。
 ウィルスではなく、カビで感染せずに発症しないというのもおかしい日本語だが……。

 善場:「お待ちしておりました」

 病室からホールに下りると、善場氏が待ち構えていた。

 愛原:「善場さん」
 善場:「退院したばかりで何なのですが、お話をお伺いできませんか?」
 愛原:「いいですよ」
 高橋:「退院したばっかりだというのに……」
 愛原:「別にいいじゃないか。ここの病院代、全部こちらの方達が出してくれたんだぞ?」

 もっとも、特異菌に感染した高橋の研究という名目もあっただろうがな。

 善場:「車を用意していますので、どうぞこちらへ」

 駐車場に行くと、黒いスーツを着た男2人が待ち構えていて、シルバーのアルファードに案内された。
 ここ最近梅雨寒とはいえ、暦の上では夏だというのに、黒スーツまたは紺色のスーツで大変だと私は思った。
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“大魔道師の弟子” 「イリーナ組も帰途へ」

2019-07-07 19:38:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月21日17:20.天候:曇 埼玉県さいたま市西区 湯快爽快おおみや]

 稲生:「先生、そろそろ送迎バスの出発する時間です」
 イリーナ:「んん……?そうかい。じゃあ、そろそろ行こうかねぃ……」

 午前中はイオンモールで爆買いしたイリーナ組。
 午後は市内の日帰り温泉に出向いていた。

 イリーナ:「しばらくはまた屋敷に引き籠る日が続きそうだよ。今のうちに外の空気でも吸っておきな」
 稲生:「敷地内でしたら、外には出られるでしょう?」
 イリーナ:「まあ、それはそうなんだけど……」

 因みに支払いはイリーナが持ってくれた。
 もっとも、風呂上がりのマッサージなど、イリーナが1番利用額が高い。
 支払いが終わって外に出た。

 稲生:「何だか降りそうですねぇ……」
 イリーナ:「降るよ。駅に着くまで持ってくれるといいねぇ……」

 空はどんより曇っていた。
 これから夏至に向けて日が長くなってくるのに、もう外は薄暗い。
 行きと同じく、送迎用のマイクロバスに乗り込む。
 1番後ろの席に並んで座った。
 因みに爆買いした物をしまい込んだバッグは、大宮駅のコインロッカーに置いてある。
 イオンから大宮駅を経由したのはその為。

 運転手:「それでは出発します」

 発車時刻の17時30分になり、運転手がエンジンを掛けてドアを閉めた。
 エアブレーキではないマイクロバスなので、ドアの開閉もエアではなく電動である。

 稲生:「それにしても、イオンでだいぶ買い込まれるとは……。仙台の三越でだいぶ買われたイメージなんですが……」
 イリーナ:「いやいや。アタシゃそんなに買ってないよ。ベイカーさんの買い物に付き合っただけ。ベイカーさんはだいぶ買ってたけどね」
 稲生:「なるほど……」

 車内のスピーカーからはラジオが流れている。
 ニュースが流れていた。

〔「……今朝、日本時間の○○時××分頃、イギリスのロンドンヒースロー空港で起きましたブリティッシュエアウェイズ機の着陸失敗事故ですが……」〕

 そのうちNHKはラジオでも受信料を取りそうな気がしてしょうがない。
 まだテレビが無かった頃は、ラジオで受信料を取っていたのだろうか。

 稲生:「このニュースを聞いた時にはびっくりしましたよ。確かルーシー達が乗ったのはJALだから違うとすぐに分かりましたけど……」
 イリーナ:「近しいけど無関係な飛行機や列車を事故らせることで、私達に警告を発する手法ね。ほんと卑劣だわ」

 ルーシー達は無事に帰国できたらしい。
 向こうは向こうで“魔の者”対策をするとのこと。

[同日17:45.天候:雨 さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 送迎バスが大宮駅西口のロータリー手前に到着する頃、雨が降り出して来た。
 幸い、まだ傘がいるほどのものではない。

 稲生:「急ぎましょう。強くなる前に」
 イリーナ:「そうね」

 バスを降りて高架歩道への階段を登る。

 稲生:「新幹線の時間も迫っているから、ちょうど良かったかもですね」
 イリーナ:「駅弁買う時間は?」
 稲生:「それはあります」

 駅構内に入る頃には傘が必要なほどに強くなってきた。
 哀れ傘を持っていない人々は、出入口付近で雨宿りを余儀無くされている。

 稲生:「長野は降ってないといいんですけどねぇ……」
 イリーナ:「何とかバスに乗り換えるまでは持ちそうだよ。でも、白馬に着く頃には降っているね」
 マリア:「白馬のバスターミナルに迎えを寄越させますから大丈夫ですよ」

 一旦、在来線改札口からコンコースに入る。
 再び今度は新幹線改札口からもう1つのコンコースに入った。
 尚、大宮駅には直に新幹線コンコースに入る改札口は無い。

 稲生:「ここで買えます」
 イリーナ:「おお〜」

 ホームには駅弁の売店がある。
 但し、需要のある下りホームのみ。

 イリーナ:「遠慮しないで好きな物買いなよ」
 稲生:「ありがとうございます」
 マリア:「…………」

 とは言いつつ、師匠より高い物は頼めない。
 イリーナが何を買うかを上手く見極めないといけない。
 イリーナが手にしたのは、“北海うまいもん弁当”である。

 イリーナ:「勇太君、白ワイン買ってきて」
 稲生:「あ、はい」

 稲生は“あったか牛タン弁当”とお茶を手にすると、イリーナにお使いを頼まれた。
 駅弁の売店ではワインまでは売っていない為、同じホーム上にあるNEWDAYSで買って来いということなのだろう。
 これから稲生達が乗る“あさま”号でも車内販売は無い為、全て駅構内で買い揃える必要がある。

〔18番線に17時58分発、“あさま”623号、長野行きが12両編成で参ります。この電車は熊谷、高崎、安中榛名、軽井沢、佐久平、上田、終点長野に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から7号車です。まもなく18番線に、“あさま”623号、長野行きが参ります。黄色いブロックまでお下がりください〕

 稲生がミニボトル入りの白ワインと、マリアの人形達にカップアイスを買っていると接近放送が流れた。

 稲生:「おっ、来た来た」

〔「18番線、ご注意ください。北陸新幹線“あさま”623号、長野行きが参ります。……」〕

 稲生は買い物を済ませると、ホームに出た。

 稲生:「先生、白ワインです」
 イリーナ:「ありがとう。海鮮系は白がいいのよね」
 稲生:「さすがです。あと、マリアさん、これミク達に」
 マリア:「おー、さすが勇太。分かるようになったね」

 E7系電車が青白いヘッドライトを光らせてホームに入線してくる。

〔「大宮、大宮です。18番線の電車は17時58分発、北陸新幹線“あさま”623号、長野行きです」〕

 イリーナ組は11号車のグリーン車に乗り込んだ。
 車内はE5系のそれとは違い、青いシートが目立つ。
 スペックはE5系と同じ。
 イリーナはA席に座り、稲生とマリアはその後ろのA席とB席に座った。
 イリーナの隣は空席になっている。

〔18番線から、“あさま”623号、長野行きが発車致します。次は、熊谷に止まります。黄色いブロックまでお下がりください〕

 ホームから発車ベルが響いて来る。

 稲生:「こうして紐を引き抜くと温かくなるシステムです」
 マリア:「凝ってるね。私のは?」
 稲生:「マリアさんのはそのままですね」

 マリアは味噌カツ・ひつまぶし風弁当を購入していた。

 稲生:「そのままでも美味しいですよ。駅弁って本来、そういう風に作られてますから」
 マリア:「本当にきれいな御弁当ね。イギリスじゃこういうの売ってないよ」
 稲生:「その代わり、食堂車が付いてるじゃないですか」

 そんなことを話しているうちに列車は走り出した。
 駅を出ると窓ガラスに雨粒が当たる。

 稲生:「雨に当たる前に乗れて良かったですねぇ……」
 マリア:「いや、全く」

 デッキに出るドアの上には大きな電光表示板が設置されていて、右から左へと列車の案内が流れている。
 最初は日本語で、次に英語で。
 ところが、何故かこの後でキリル文字、つまりロシア語が流れて来た。
 それを和訳すると、『極東の島国が本当に安全なのか確かめてやろう』というもの。
 明らかに“魔の者”からの宣戦布告であった。

 イリーナ:(ふっ。あの世界地図で描かれた日本の姿をそのまま信じている“魔の者”の方が哀れね)

 ヨーロッパやアフリカを中心に描かれた世界地図で見ると、確かに日本は1番東に小さく描かれているが……。

 イリーナ:(でも教えてやらない。だからこそ、あいつは日本海を越えてやってこれないのだから)

 いいか?東海(トンヘ)じゃなく、日本海だからな?
 朝鮮人達の戯れ言に耳を傾けてはならない。
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“魔女エレーナの日常” 「障魔は来ないで欲しいし、仏敵(てき)も来ないで欲しい」

2019-07-07 10:18:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月21日02:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナ:「飛行機は離陸したか……」
 マモン:「また、例の寺周辺に“魔の者”の眷属が現れたらしい。もちろん、こんな時間に魔道士なんかいないだろうけどね」

 エレーナは夜勤でホテルのフロントにいた。
 こんな真夜中に出入りがあるわけでもないし、ロビーに誰かいるわけでもない。
 話し相手は契約悪魔の“物欲の悪魔”マモンである。
 キリスト教における七つの大罪の1つを司る悪魔だ。
 金銭欲の強いエレーナにはピッタリの契約悪魔というわけである。

 エレーナ:「凄いリドル(謎掛け)だ。大魔王が知らなくて、あんた達も知らないと……」
 マモン:「私らは別次元の悪魔じゃないかと思ってる。……おっ、ルーシーが泣いてるぞ」
 エレーナ:「やれやれ。そんなに日本が好きになったかねぇ……」
 マモン:「それはエレーナも変わらないのでは?」
 エレーナ:「ふっ……」
 マモン:「とにかく夜中の便を狙ったのは、裏の裏をかいたということかな。ややもすると、夜中の便が狙われることもあるのだが」
 エレーナ:「あれか?何年か前、東南アジアのどこかから中国へ向かう飛行機が真夜中に行方不明になったヤツ」
 マモン:「そうだ。あの中には東アジア魔道団の幹部が搭乗していて、それが狙われたと言われている。結局はインド洋辺りに墜落したと言われているが……」
 エレーナ:「“魔の者”が狙うのは魔道士全般で、何もダンテ一門だけってわけではないか……」
 マモン:「ダンテ門流が一番デカいから、それだけ狙われやすくなる。何しろ的が大きいから」
 エレーナ:「だろうな。……ルーシー達は本当に大丈夫なんだろうな?」
 マモン:「先ほども言ったように、眷属が大石寺に現れた。今の“魔の者”は複数の眷属を同時多発的に派遣する力は残っていないだろうから、恐らく大丈夫だ。ベイカー師もそれを見越して、あえて深夜便にしたのだろう」
 エレーナ:「確か東アジア魔道団の中には、ボンさんのフりしているのもいるって話だな?」
 マモン:「元々は修行僧とか破戒僧とか、そういうのから入門したパターンが多いらしいよ、向こうは」
 エレーナ:「寺の周辺に現れた眷属……ボンさんが狙われた飛行機……。“魔の者”って何気に、仏教に近い所にいるんじゃないのか?」

 ズシン……!

 エレーナ:「おっ!?」

 下から突き上げるような揺れが発生したかと思うと、ユラユラと縦揺れと横揺れが発生した。

 エレーナ:「地震か。このタイミングで」
 マモン:「ククク、分かりやす過ぎる警告だ。エレーナ、どうやらあなたの発言は“魔の者”にとって地雷だったようだよ」
 エレーナ:「と、いうことは……」
 マモン:「エレーナの発言は正解であり、“魔の者”は今あなたを監視中ということだ」
 エレーナ:「ちっ、人の仕事ぶり勝手に覗いてるんじゃねーぜ。……ってか、マモンは気配を感じないのか!?」
 マモン:「実はその通り。“魔の者”ってのは本当に悪魔なのかい?」
 エレーナ:「んん?そういえばマリアンナ達が戦った時も、ベルフェゴール達は殆ど役に立たなかったというぜ!?」
 マモン:「うちの同僚達が役立たずで申し訳無いねぇ。でも、きっとそういうことだよ」
 エレーナ:「何かが繋がりそうだぜ……」
 マモン:「……東京は震度2だって。警告にもなりゃしない震度だね」
 エレーナ:「だが、地震なんか珍しい国から来た魔女をビビらせるには十分だぜ。私には効かないけどな。こう見えても私はマリアンナより長く日本にいて、しかも地震なんか関係無いホウキ乗りだぜ」

 但し、来日した時期がマリアより早いという意味であり、その後、エレーナに襲い掛かって来た“魔の者”の眷属と戦う為、すぐに渡米していたので、実際の在日歴はほぼ同じである。

 鈴木:「凄い揺れだったねぇ……」

 その時、エレベーターのドアが開いた。
 今日は鈴木が宿泊している。
 部屋備え付けの寝巻の上からジャケットを羽織っていた。

 エレーナ:「寝巻のまま部屋から出て来るんじゃねーぜ」
 鈴木:「緊急の場合は別だよ」
 エレーナ:「地震発生してる時にエレベーター乗るんじゃないっての」
 鈴木:「凄い揺れだったよ。震度4くらい?」
 エレーナ:「2だよ。日本人のくせに震度2くらいでビビってんじゃないぜ」
 鈴木:「全く。眠れないから部屋で唱題していたってのに邪魔されたよ。これは魔だな、魔」
 エレーナ:「鈴木の唱える御経ってのは、羊を数える感覚なのか」
 鈴木:「寝付きが良くなるのも功徳だし、悪くなるのも魔の働きだ」
 エレーナ:「都合の良い解釈しやがって。それだから宗教ってのは……ん?」

 その時、エレーナはハッと気づいた。

 エレーナ:「鈴木、今あんた『魔』って言ったよな?」
 鈴木:「言ったけど?」
 エレーナ:「魔って何だぜ?」
 鈴木:「おっ?エレーナもついに仏法に興味が?」
 エレーナ:「いいから答えろ!」
 鈴木:「魔というのは障魔のことだ。顕正会では魔障と呼んでいるがね。仏道修行を妨害する様々な障害のことを、全部ひっくるめて魔と呼ぶんだ」
 エレーナ:「ん?すると、それは悪魔の一種ではないのか?」
 鈴木:「全部ひっくるめるとおかしくなるね。でも、中には人の心に入り込んで妨害するタイプもある。ぶっちゃけ、同じ信徒が魔の手先として怨嫉してくる場合もある。だから油断ならないんだよ。……みーんな、敵ぞ……“あっつぁの顕正会体験記”……名無し氏ね……」
 エレーナ:「今最後、作者の恨み節出てたぜ?ポリ銀さんだけは作者に謝ってくれたらしいけどな……って、いや、そんなことより、私達は“魔の者”と戦ってるんだぜ。私達は悪魔の一種だと思っているんだが、当の悪魔達は知らないというぜ。鈴木は何か知らないか?あんたも寺で眷属に襲われただろ?」
 鈴木:「いや、ゴメン。そこまでは知らないなぁ……。あの時は俺も何が何だかワケ分からん状態で……」
 エレーナ:「そうか……」
 鈴木:「悪いね、お役に立てなくて。でも、エレーナが仏法に興味を持ってくれるなんて嬉しいなぁ。今度、エレーナも大石寺に連れて行ってあげるからね」
 エレーナ:「別にいいよ。てか、私は一度行ってるんだが……」

 まだエレーナがイリーナ組と敵対していた時の話だ。
 登山中の稲生を襲う一環でエレーナ、何と御開扉中に奉安堂を爆破しようとしていた。
 屋根に上って爆裂魔法(イオナズン?)を使用する直前、稲生の護衛として一緒に来ていた威吹の妖刀に背中から体を貫通されて阻止された。
 もちろんそこは魔道士。
 それだけで死ぬことは無かったが、その時に使用していた体はもう使い物にならなくなってしまった。
 その後、しばらくエレーナが物語から退場することになったのは、体を交換しにウクライナへ強制送還されていたからである。

 鈴木:「えっ?」
 エレーナ:「あ、いや、何でもないぜ」
 鈴木:「稲生先輩もマリアさんに折伏しているみたいだけど、けんもほろろに断られているらしいんだ」
 エレーナ:「そりゃそうだろ」
 鈴木:「マリアさんの場合、何でもイギリスにいた時、既に折伏されたことがあったらしいんだ。だから少しは稲生先輩の信仰について知っていたんだね」
 エレーナ:「何だって!?」

 エレーナはいきなり核心に触れたことを実感した。
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