報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋の快復」

2019-07-09 19:05:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日09:27.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

〔まもなく1番線に、各駅停車、新宿行きが10両編成で参ります。ドアから離れて、お待ちください。急行電車の通過待ちは、ありません〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は全治3ヶ月のケガを負い、都内の病院に入院していた高橋を迎えに行く為、最寄りの地下鉄駅で電車を待っている。
 そう。ようやっと退院することになったのだ。
 群馬県山中の屋敷でバイオハザードに巻き込まれ、危うく高橋は両目を失明するところであった。
 政府エージェントの善場女史らの計らいにより、都内の大学病院に緊急入院することになったが、精密検査を受けたところ、やはり長期の入院が必要ということになった。
 それが快復し、私は事務員の高野君を伴って件の病院に向かうところである。

〔「1番線、ご注意ください。各駅停車の新宿行きが、長い10両編成で参ります。この電車は女性専用車の設定はこざいません。少しでも空いているドアからご乗車ください」〕

 既に9時を過ぎている為、女性専用車の運用は終了している。
 都営新宿線内の上り電車は、始発駅の本八幡を7時15分から9時までに発車する電車が全区間で行っている。
 つまり9時になったからと言って、すぐに解除されるわけではない。
 9時前に発車した電車は、9時を過ぎても新宿駅に着くまでは女性専用車が実施されるので注意である。
 東武アーバンパークラインの、9時になったら電車がどこを走っていようが一斉解除するのとは大違いだ。

 高野:「先生、帰りはタクシーにしませんと。高橋君の荷物が多いから大変ですよ」
 愛原:「うん、そうだな」

 電車が入線してくる。
 京王の電車がやってきた。
 元の鉄道線には戻らず、他社線内を折り返す運用のようだ。

〔1番線の電車は、各駅停車、新宿行きです。きくかわ〜、菊川〜〕

 朝ラッシュのピークは過ぎているが、それでも電車はそこそこ賑わっていた。
 私と高野君は乗り込むと吊り革に掴まることとなる。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 車掌の笛の音が地下駅内に響き渡る。
 車両のドアとホームドアがほぼ同時に閉まった。
 数秒のブランクがあって、電車が走り出す。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita.Please change here for the Oedo line.〕

 高野:「リサちゃんも行きたがってたらしいですね?」
 愛原:「まあな。だけどリサは学校があるから……」

 今日は思いっ切りド平日。
 中学校に通っているリサは、しっかり授業がある。
 学校に行きたがって行っているリサとしては、あまり強いワガママは言えないということだ。

 高野:「マサには内緒にしておいた方がいいですよ。結局のところ、マサの目を治した薬というのは、“エブリン”の被験体の組織サンプルでもって造られたワクチンだったなんて……」

 今やリサよりも脅威ではないかとされる“エブリン”。
 リサがウィルスなのに対し、このエブリンは特異菌(カビの一種)を駆使してバイオテロを起こすBOWなのだという。
 私達を襲ったのは座敷童でも何でもなく、やはりBOWの一種であった。
 その家に憑いて、まずはその家人を感染させるという手法らしいが、その家人達はまるで座敷童が住み着いてくれたかのように思ってしまうのだそうだ。
 で、今度はその家を訪れた客人達を感染させていき……。
 町1つ感染させたTウィルス等と比べるとセコい感染法に思えたが、本来はこれが正しい(?)やり方。
 いきなりのパンデミックは、それが加害者側から見ても想定外の事故以外の何でもないというわけだ。

 愛原:「しかし、いずれは分かることだぞ?それに、病院の先生が何て説明しているかだな」
 高野:「まあ、それはそうですけど……」

[同日10:00.天候:曇 東京都千代田区神田駿河台 日本大学病院]

 都営地下鉄新宿線で一本、小川町駅で降りた私達は、すぐに病院に向かった。
 尚、埼玉県にも小川町駅があるが、全く関係は無い。
 SuicaやPasmoの履歴には、そちらと混同しないよう、『都小川町駅』と出るのだそうだ。
 で、病室に行くと、既に私服に着替えていた高橋が病室で待っていた。

 高橋:「先生!おはようございます!」
 愛原:「やっと退院だな。おめでとう」
 高橋:「とんだヘマをして、先生を御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」

 高橋は土下座してきた。

 愛原:「いや、いいんだよ。悪いのは全部バイオテロだ。早く立って」
 高橋:「はい!」
 高野:「マサ、早くこのバッグに荷物入れて。早いとこ病室を引き払わないと」
 高橋:「分かってるよ、アネゴ」

 3ヶ月入院していた高橋の荷物は、確かに海外旅行に行くキャリーバッグ1つ分にはなった。
 もちろんそれを持って、朝ラッシュ終了直後の電車には乗れないので、小分けにして持って行くことにしていたのだが。

 高野:「ほら、マサはこれだけ持って」
 高橋:「お、おう」
 愛原:「病み上がりなのに高野君は厳しいなぁ……」
 高野:「あら?体の病気は1ヶ月で治ったのに、目がやられたせいでここまで入院が長引いたんですよ?よっぽど退屈してたんだもんね」
 高橋:「さすがアネゴだぜ」

 しかし、それでも高橋には後遺症があった。
 視力は回復したのだが、それでもあまり明るい所ではサングラスが必要になってしまったし、瞳の色も抜けてしまって、アルビノの瞳のようになってしまった。
 明るい所では赤い瞳のようになってしまう。
 それと……傷の治りが異常に早くなったことも後遺症として挙げられる。
 例えばカッター等で指を切ってしまっても、すぐに傷が塞がってしまうのだ。
 これはアメリカでも“エブリン”によって感染させられ、しかし生還した者に全て共通している現象なのだという。
 因みに私は感染しなかった。
 いや、感染しなかったというよりは……どうも抗体が元からあったらしく、感染しても発症しなかったというのだ。
 ウィルスではなく、カビで感染せずに発症しないというのもおかしい日本語だが……。

 善場:「お待ちしておりました」

 病室からホールに下りると、善場氏が待ち構えていた。

 愛原:「善場さん」
 善場:「退院したばかりで何なのですが、お話をお伺いできませんか?」
 愛原:「いいですよ」
 高橋:「退院したばっかりだというのに……」
 愛原:「別にいいじゃないか。ここの病院代、全部こちらの方達が出してくれたんだぞ?」

 もっとも、特異菌に感染した高橋の研究という名目もあっただろうがな。

 善場:「車を用意していますので、どうぞこちらへ」

 駐車場に行くと、黒いスーツを着た男2人が待ち構えていて、シルバーのアルファードに案内された。
 ここ最近梅雨寒とはいえ、暦の上では夏だというのに、黒スーツまたは紺色のスーツで大変だと私は思った。
コメント
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