報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「埼玉へ向かう」

2019-07-30 19:04:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月20日08:31.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事の依頼を受けに、斉藤社長の家に向かうこととなった。
 場所は埼玉県さいたま市。
 取りあえず最寄りの地下鉄駅から電車に乗り、JRの駅に向かうところだ。

〔まもなく1番線に、各駅停車、京王多摩センター行き電車が10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください。この電車は途中、岩本町で急行の通過待ちを致します〕

 高橋:「迎えを寄越さないとは、先生をナメてますね?」
 愛原:「そんなことは無いと思うけど。こちらは仕事を受けに行く方なんだから」
 リサ:「きっと、サイトーが話を付けてくれたんだと思う」
 愛原:「もしそうなら、尚更こちらから出向かなきゃあ」
 高橋:「はあ……」

 トンネルの向こうから強風と轟音を立てて、交通局の車両がやってきた。
 リサの黒いボブヘアとスカートがそれに靡く。

〔1番線の電車は、各駅停車、京王多摩センター行きです。きくかわ〜、菊川〜〕

 車両のドアだけでなく、ホームドアも開いて私達は電車に乗り込んだ。
 昨日のこの時間帯よりは空いているが、ドアの横に立つことになる。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 各駅停車しか停車しないこの駅はすぐに発車する。
 急行の通過待ちはしても、乗り換えの接続は無い。
 その為、この電車の乗客が急行に乗り換えたい場合は、急行電車の停車駅で降りることになる。
 この電車の場合、馬喰横山駅ということになる。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita(S11).Please change here for the Oedo line.〕

 愛原:「リサ、いたずらはやめなさい」
 リサ:「はーい」

 リサはドアの窓に向かって、力の解放と抑止を繰り返してみた。
 ドアの窓に、瞳の色が赤くボウッと光るリサの姿が映った。
 今は完全に抑止の状態で、瞳の色も元の黒いものである。
 もちろん、姿形も人間そのものだ。

 高橋:「今度フザけたマネしやがったら、マグナム撃ち込む」
 愛原:「オマエは関係無いだろ」

 どうしても関係したい男、高橋。

[同日08:55.天候:晴 東京都新宿区西新宿 京王(新線)新宿駅→JR新宿駅]

〔「まもなく新宿、新宿です。京王線新線ホーム4番線に到着致します。お出口は、右側です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、よくお確かめください。この電車は京王線直通、区間急行、京王多摩センター行きです。各駅停車で参りましたが、京王線内は区間急行となります。引き続き京王線ご利用のお客様は、停車駅にご注意ください。本日も都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 乗換駅は新宿にした。
 これだと多少遠回りにはなるが、乗り換えは1回で済む。
 待ち合わせ時間が少し遅ければ、都営バスで楽して東京駅から乗ることもできたのだが、今回は致し方無い。
 今は座席に座っている。
 さすがに都心に入ってから、乗客が一瞬少なくなった。
 そしてまた新宿に向かう乗客で賑わっている。

〔「ご乗車ありがとうございました。新宿、新宿です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。4番線の電車は8時57分発、区間急行、京王多摩センター行きです。停車駅は笹塚までの各駅と……」〕

 ここで降りる乗客は多い。
 私達も一緒に降りた。

 高橋:「ここでバイオハザードが起きたりしたら大変でしょうね」
 愛原:「そうだな」

 他人事ではない。
 日本では霧生市で起こり、アメリカではラクーン市やトールオークス市で起きた。
 後者はさすがアメリカと言うべきで、滅菌作戦と称して核ミサイルを撃ち込んで強制的に収束させたという。
 収束というか、終息というか……。
 これらはほんの人口10万人前後の地方都市であったが、5年くらい前には中国の大都市でもバイオハザードが発生した。
 テレビで見る限り、香港によく似た町だったのだが……。

 愛原:「抑止力として、リサみたいなコを配置したいんだろう」

 核の抑止力として核を。
 バイオテロの抑止力として、BOWか。
 日本は内外の圧力で核兵器を持てないので、代わりにBOWを持ちたいのかもしれない。
 リサのように普段は人間として生活し、イザとなったら持てる力を解放して……って感じか。
 ……何だか“AKIRA”みたいだな。

 高橋:「BSAAじゃダメなんですかね?」
 愛原:「あいにくとBSAAはバイオテロが起こった際の鎮圧部隊で、抑止力としての存在ではないから」
 高橋:「それで俺達よりも行動が遅いんですね?」
 愛原:「いや、俺達が早過ぎるだけだと思う」

 私達は地上に上がると、JR新宿駅に移動した。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の電車は、9時7分発、各駅停車、大宮行きです。次は、池袋に止まります〕

 愛原:「埼京線は後ろの車両の方が空いてる」
 高橋:「さすが先生です」

 だから平日は女性専用車両になったりするのだろうな。

〔まもなく4番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色いブロックまでお下がりください。次は、池袋に止まります〕

 私達が乗る電車は当駅始発ではない。
 新木場からやってくる電車だ。
 それでも車両はモスグリーンが目を引くJRの車両だった。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、池袋に止まります〕

 車内は賑わっていたが、この駅でゾロゾロと降りて来る。
 さすがは都内でも屈指のターミナル駅だ。
 私達は最後尾の車両に乗り込み、モスグリーンのモケットが目を引く座席に腰掛けた。

〔この電車は埼京線、各駅停車、大宮行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Omiya.〕
〔「9時7分発、埼京線各駅停車の大宮行きです。途中駅での快速の待ち合わせはございません。発車まで2分ほどお待ちください」〕

 リサ:「サイトーにLine送ったらすぐ来る」
 愛原:「おー、そうか。それは良かったな」
 リサ:「菊川駅と新宿、北与野駅でLineすることになってる」
 愛原:「定時連絡か。リサもしっかり者だなぁ……」
 リサ:「サイトーがそうしろって」
 高橋:「プッw」
 愛原:「……親父さんの影響かな?」

 恐らく斉藤さんとしては、常にリサとLineしたいのだろう。
 だが、それが正に中高生が今問題になっているスマホ依存症の1つの原因となっている為、保護者の対策が求められている。
 斉藤さんにあっては、父親から『定時連絡のみ』と厳命されたのかもしれない。
 リサの方はまだ受動側のせいか、そこまでスマホをイジっているわけではない。
 ぶっちゃけこれ、政府エージェント側からリサへの監視ツールの1つであったりもする。
 ただのスマホではない、ということだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「埼玉へ向かう前日」

2019-07-30 15:11:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月19日17:30.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は私の体に関する検査結果を聞きに、都心まで行って来た。
 私がゾンビウィルスは元より、最新のカビを利用した特異菌にすら感染しないことに驚いた善場氏達が是非とも本格的な検査をしたいということだった。
 で、今は帰りのタクシーに乗っている。
 もちろん、料金は向こう持ち。
 渡されたタクシーチケットを手にしている。
 向こうさんからの協力依頼なので、ここまでしてくれたようだ。
 都心の事務所だと、向こうさんの車で送迎してくれるのだが、それ以外だとタクシーになるようだ。

 愛原:「あ、すいません。そこのビルの前で止めてください」
 運転手:「かしこまりました」

 タクシーが私の事務所が入居しているビルの前で止まる。
 外は雨。
 ワイパーが規則正しい動きで、フロントガラスの雨粒を拭き取っている。

 愛原:「タクシーチケットで払います」

 タクシーチケットへの記入は乗客本人が行うのが基本。
 これは後で運転手が料金を誤魔化したりしないようにする為なんだそうだ。
 結局、これも料金が後払いの為に起こる問題である。

 運転手:「ありがとうございます。こちら、領収証です」
 愛原:「はい、どうも」

 メーターを確認して料金を書き込んだ後は、それを運転手に渡し、代わりに領収証を受け取る。
 そうすることで、互いの不正を防止するのである。
 私はかつて会社勤めをしていたことがあるが、その当時、バブル時代を体験していた上司から聞いた話だ。
 何でもタクシーチケットは使いたい放題で、よく冗談交じりで運転手に、『チップとしてゼロ1個書き足しておこうか?』なんて言っていたそうである。
 さすがに、実際その話に乗った運転手は皆無だったらしいが。
 でもやろうと思えばできたことだから、もしかしたら当時は問題になったのかもしれないな。
 今はメーターの性能も良くなっているし、車内監視カメラもあるから、尚更そういう不正もしにくくなったことだろう。
 私はそんなことを思い出しながら、高橋と一緒にタクシーを降りた。

 高橋:「先生、濡れてしまいます!早くビルの中に!」
 愛原:「おーう!」

 私達はタクシーを降りると、急いでビルの中に入った。

 愛原:「まさかこんなに降るなんてな!」
 高橋:「梅雨はいつになったら明けるんでしょうね?」
 愛原:「まさか、このまま明けなかったりしてな?」
 高橋:「ええっ!?」

〔上に参ります〕

 下りて来たエレベーターに乗り込む。

〔ドアが閉まります〕

 高橋:「それにしても、こんなに時間が掛かるなんて……」
 愛原:「まあ、しょうがない。終業時間までに帰れて良かったよ」

 事務所に到着すると、高野君が1人で留守番をしていた。

 高野:「先生、お帰りなさい」
 愛原:「ああ、ただいま。何かあった?」
 高野:「いえ。今日も依頼は無しです」
 愛原:「……だろうな」
 高野:「あ、でも私田(ワタシダ)さんから電話がありましたよ。もしかしたら、私田さんから仕事の紹介があるかもですね」
 愛原:「なるほど」

 高野君が言伝を聞いていないのは、恐らくボスが高野君にイジられるのを拒否したからだろう。

 高野:「検査の結果はどうでした?何か、とんでもない抗体が見つかったとか?」
 愛原:「だとしたら、俺は記者会見でもしなきゃいけないだろうな。それが見つからなかったんだよ」
 高野:「ええっ?!」
 愛原:「Tウィルスの抗体は見つかった。ただ、あれはそんなに珍しいことじゃない」

 人間を生きたままゾンビ化させるTウィルスはとても恐ろしいウィルスのように見える。
 しかしとても不完全なもので、元々は筋ジストロフィー症の特効薬として開発されていたものの失敗作なんだそうだ。
 一言で言えば代謝機能が暴走するということだな。
 で、これの抗体を持つ人間は10人に1人いるという。
 つまり、なんてことはない。
 霧生市でゾンビに噛まれても感染しなかったのは、私も高橋も高野君も、たまたま10人に1人の人間だったというわけだ。
 大山寺で高橋が一時ダウンしたのも、あれはウィルスに感染したわけではなかったことが後に判明した。

 高野:「それ以外は?」
 愛原:「だから見つからなかったんだよ。高橋は色々と感染していたから、今の新しい特異菌とやらに抗体があるのも頷けるけどさ。俺は無いんだよ」
 高野:「感染はしたんですよね?でも先生は発症しなかった。だから、抗体を最初からお持ちなんじゃないかという検査だったわけですよね?」
 愛原:「そう。だけど無いってさ」
 高野:「本当はお持ちなんですけど、『ある』ということがバレると面倒臭い組織がある為に、あえて『ない』ということにしたんですかね?」
 愛原:「あ、なるほど。そういうことも考えられるな」

 未だにバイオテロで飯を食おうとする組織は存在する。
 でなければ、今頃BSAAは解散しているだろうし、『過去の罪の清算』を目的に今では民間軍事会社として再開したアンブレラも存在しないだろう。
 と、そこへ電話が掛かって来た。

 愛原:「きっとボスからだな。俺が出る」

 私は電話に出た。

 愛原:「はい、愛原学探偵事務所です」
 ボス:「私だ」
 愛原:「あ、やっぱりボスでしたか」
 ボス:「愛原君、仕事の紹介だ。クライアントは全日本製薬(株)代表取締役社長の斉藤秀樹氏だ」
 愛原:「斉藤社長ですか。了解しました。お引き受けしましょう」
 ボス:「それではこれから依頼書をFAXするので、よく確認するように」
 愛原:「ボス」
 ボス:「何かね?」
 愛原:「絶対、探偵業ってこんな仕事の依頼の受け方しないですよね?」
 ボス:「その話は前にもしたはずだが?フィクションだからいいのだ

 私は電話を切った。
 程なくしてFAXが受信される。
 依頼人はやはり斉藤絵恋さんの父親の斉藤秀樹社長。
 明日の10時に埼玉の家まで来て欲しいという。
 特記事項にリサも来ていいみたいなことが書いてあるから、明らかに娘さんの遊び相手もキボンって感じだな。
 斉藤社長も金払いの良い方だから、当然ながら私は受けることにした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする