報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「卯酉地下鉄道」

2019-07-01 19:03:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日09:30.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区福室 ホテルキャッスルイン仙台]

 ホテルをチェックアウトした稲生達は、ホテル前に止まっている予約したタクシーに乗り込んだ。
 陸前高砂駅ではたまたまタクシー乗り場に止まっていた普通のタクシー2台に分乗したが、今回はホテルに頼んでミニバンタイプのタクシーを予約してもらった。
 これならわざわざ分乗する必要は無いし、料金も普通のタクシーより割高なものの、それの2台分の料金よりは安くなるはずだ。

 運転手:「お荷物、お積みします」
 ルーシー:「ありがとう」
 イリーナ:「ルーシーはうちの弟子達よりも、ひときわ大きなケースを持って来てるのね」
 ルーシー:「マリアンナが『買い物するなら、これくらいの物を持って来た方がいい』と言ってましたので」
 稲生:(爆買い用!?)

 弟子達のローブには師匠用と違い、四次元ポケットのようなものが無いので、必然的に荷物は普通の人間と同じになる。
 稲生やマリアの荷物がルーシーより少ないのは、そもそも稲生にとってはただの国内旅行だし、マリアも永住者である以上は似たようなものだからだ。
 因みに爆買い用のケースは、しっかり稲生の実家に置いている。
 アナスタシア組の面々を見ると、わざわざ山奥に屋敷を建てる必要は無かったのではと最近思う。
 その組はタワマンのてっぺんに拠点を構えたからだ。
 確かにある意味、近づきにくい場所ではあるし、ホウキ乗りの発着場としてもちょうどいい。

 運転手:「それでは出発します」
 稲生:「お願いします。荒井駅まで」
 運転手:「かしこまりました」

 黒塗りのアルファードタクシーは、ホテルの前を出発した。

[同日09:45.天候:晴 仙台市若林区荒井 仙台市地下鉄荒井駅]

 ルーシー:「もう一度乗らなくてはダメですか……?」
 ベイカー:「ガイドの稲生君がこのルートを選択した以上、外来者はそれに従わなければならないの。どうしてもダメなら、あなた一人でルゥ・ラで追い掛けなさい」
 イリーナ:「行き先の動物園に行ったことがあるのなら、簡単に飛べるよ」
 ルーシー:「……ありません」
 ベイカー:「じゃ、決まりね。稲生君、ガイドお願い」
 稲生:「は、はい。じゃあちょっと、キップを買って来ますので」

 稲生は急いで券売機に向かった。

 マリア:(うちの組がどれだけユルいか分かるってもんだ)

 マリアは俯き加減になるルーシーの肩を叩いて励ました。
 そして稲生がイリーナとベイカーの分の乗車券を買って来ると、そこから改札口へ向かう。
 朝のラッシュも終わり、始発駅ということもあってか、ホームに停車している電車内はガラガラだった。

〔お知らせします。この電車は、八木山動物公園行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕

 一応、テロに遭いやすい先頭車とその次の2両目は避け、最後尾に乗車するという配慮はしている。

〔「9時45分発、仙台方面、八木山動物公園行きです。まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 発車の時間が迫り、運転士の肉声放送が流れた後でホームから自動放送が流れる。

〔2番線から、八木山動物公園行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 短い発車サイン音が流れた後、ホームドアと車両のドアが一緒に閉まった。
 駆け込み乗車は無く、すぐに発車する。

〔次は六丁の目、六丁の目、サンピア仙台前です〕
〔The next stop is Rokuchonome station.〕

 ルーシー:「私は……どうやってトラウマを克服すればいいんだろう……?」
 マリア:「地下鉄によく乗って慣らすしか無いんじゃないかなぁ……?」
 ルーシー:「無理よ、そんなの」
 マリア:「じゃあ、こうすればいい。私も『狼』共に復讐した。ルーシーも地下鉄テロ犯に復讐すればいい。私達はそういう力を持っているんだから」
 ルーシー:「でも、レイプと違って、そういうテロはそうそう無い。ましてや、日本なら尚更」
 マリア:「まあね。だからこそ、のんびりと慣らしていけるんじゃないかなぁ?」
 ルーシー:「他人事みたいに……」

[同日10:00.天候:不明 仙台市青葉区一番町 地下鉄青葉通一番町駅]

〔次は青葉通一番町、青葉通一番町、藤崎前です〕
〔The next stop is Aoba-dori Ichibancho station.〕
〔本日も仙台市地下鉄をご利用頂き、ありがとうございます。お客様にお願い致します。……〕

 イリーナ:「勇太君。この『藤崎』というのもデパートのこと?」
 稲生:「そうですよ。ちょうど10時だから、開店時間ですね」
 イリーナ:「ベイカーさん」
 ベイカー:「ちょっと降りてみましょうか」

 すっくと立つ大魔道師2人。

 稲生:(バーゲンに向かう臨戦態勢のオバちゃん!?)
 マリア:(ブラックカードとプラチナカードを翳すグランドマスターが何いきり立っているんだろう……)
 ベイカー:(久しぶりに気合いの入る先生見たなぁ……)

 仙台駅を出た電車はそこで大量の乗客を降ろし、再び閑散とした状態で西の郊外へ向かった。
 閑散といっても、立ち客がいなくなったという意味で、座席はそこそこ埋まっている。
 だが、車内の雰囲気を見るに、やはり郊外まで乗って行くのは稲生達くらいのようなものだ。
 朝のラッシュであれば東北大学のキャンパスに向かう大学生、休日であれば動物園に向かう行楽客で賑わうのだろうが……。

〔青葉通一番町、青葉通一番町、藤崎前。出入り口付近の方は、開くドアにご注意ください〕

 電車がホームに滑り込む。

 イリーナ:「それじゃ、また後でね」
 稲生:「あ、はい。お気をつけて」

 デパート巡りを楽しむ大魔道師達は、この駅で降りて行った。
 他にもやっぱり買い物客と思しき乗客達も混じっている。

〔2番線から、電車が発車致します。ご注意ください〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 稲生:「買い物を楽しむのは今も昔も変わらないものなんですね」
 マリア:「変なモノ買ってきたら、大師匠様にチクってやろう」
 ルーシー:「まあまあ」

 再び電車が走り出す。

〔次は大町西公園、大町西公園、菓匠三全本店前です〕
〔The next stop is Omachi Nishi-koen station.〕

 稲生:「僕達は僕達で楽しんでいいみたいですね」
 マリア:「プランを師匠に提出して承認を得ているからね」
 稲生:「ん?」
 マリア:「魔道士の世界は契約社会。それは師弟関係も同じ。約束事は絶対に守らないといけない」
 稲生:「何度も言われて来ましたよ」
 ルーシー:「帰りの列車など、きちんと予約するのはその為よ。もっとも、国によっては予約システムなんて無いに等しい所もあったりするから、そこはケースバイケースだけど」

 つまりだ。
 イリーナ達が航空機や新幹線のグリーン車に乗るのは、何も魔力の温存の為な上に金も持っているからというのは表向きで、計画通りに事を進ませる為の外堀埋めであるということだ。

 稲生:「そうでしたか。奥が深い」

 まだまだ新弟子扱いの稲生にとっては、ただ単に言われたことをホイホイやるだけなので、そこまで考えが及ばなかったようだ。
コメント (1)
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“大魔道師の弟子” 「仙台最後の一夜」

2019-07-01 15:33:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月19日22:30.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区福室 ホテルキャッスルイン仙台]

 ホテルに到着した稲生達は、まずイリーナとベイカーのチェックインの手続きをした。
 外国人は宿泊する際にパスポートの提示を求められることがあるが、稲生がチラッと見た限りでは、やはりイリーナはキリル文字のパスポートを持っていたことから、やはりロシアの物であるらしい。
 もっとも、あのパスポートでさえ、世を忍ぶ為の単なるツールの1つに過ぎないのだろう。
 ベイカーは英語で書いてあるが、まあイギリスだろう。
 部屋に入った後、早速師匠2人もまた温泉に入ることにした。
 酔い潰れ掛かっている弟子3人は、さすがに再び入るのを躊躇ったくらいだ。
 ルーシーだけベイカーの付き人として、一緒に入った。

 ルーシー:(早く戻らなきゃ……)

 イリーナとベイカーは温泉施設内のリラクゼーションでマッサージを受けており、ルーシーは先に部屋に戻ることにした。
 静かな客室フロアでエレベーターを降り、奥まった所にある部屋に向かう。

 ルーシー:「ん?」

 すると部屋ではなく、非常階段の入口辺りの所に気配を感じた。
 そっとルーシーが覗いてみると……。

 ルーシー:(……!)

 2人で抱き合って、互いに何度もキスを交わす稲生とマリアの姿があった。

 ルーシー:(なるほど。この2人、やっぱりそういう関係だったか)

 2人とも積極的になっているのは、酒が入った勢いもあるのだろう。

 ルーシー:(邪魔しちゃ悪いね……)

 ルーシーは先に自分の部屋に戻った。
 自分のベッドの上に寝転がると、英語で書かれた手帳を開いた。

 ルーシー:(『体に刻み込まれた呪痕を消すには、女の悦びを味わうことが1番』か……。恐らくマリアンナはこれで……)

 すると、部屋のドアが開いた。

 マリア:「ああ、ルーシー。先に戻ってたの」
 ルーシー:「ええ」
 マリア:「ちょっと……出掛けてくるから。先に寝てて」
 ルーシー:「勇太の所に行くんでしょ?」
 マリア:「そ、それは……」
 ルーシー:「隠さなくてもいいよ。だからこの部屋、2人で使えばって言ったのに。勇太のヤツ、ソルマック買う時、ついでにコンドームも買ってたからね。それで多分……とは思っていたけど」
 マリア:「う、うん……」
 ルーシー:「ちゃんと避妊してくれるんだ。ロザリーもゼルダも、レイプされた時はそんなの無かったみたいだからね。マリアンナの時も」
 マリア:「そう……だね」
 ルーシー:「まあ、行っといで。私は適当に寝てるから」
 マリア:「うん。ありがとう」

 マリアはバスルームに行くと少しだけ準備をして、それから部屋を出て行った。
 そして、ベッドの上に横になる。
 と、また起き上がってライティングデスクの椅子に座った。
 手帳を取り出して、そこに英語でスラスラと何かを書く。
 日本語訳すると、こんな感じ。

『恐らく勇太は日本人男性の中でも、冴えないどころか、むしろダサイ方に分類されるだろう。しかしマリアンナにとっては、人間時代に1度も会わなかったタイプだと思われる。事実、ダンテ一門内でも数少ない男性魔道士にもいないタイプである。日本人だからなのかもしれないが、そうでないかもしれない。とにかく色々と複合的な原因と結果により、マリアンナは門内でも数少ないラッキーな魔道士になれたようだ』

 レポートでも書くつもりなのだろうか。
 恐らくタダで日本旅行はさせてもらえないだろうから、させてもらうからには何か課題を出されたのかもしれない。

[5月20日06:00.天候:晴 同ホテル・ルーシーとマリアの部屋]

 ルーシー:「……ん?」

 部屋に誰かが入って来る気配を感じた。
 しかしルーシーには、それがすぐマリアだと分かった。

 ルーシー:「お帰り、マリアンナ」
 マリア:「ただいま……」
 ルーシー:「どうだった?」
 マリア:「う、うん……」
 ルーシー:「気持ち良かった?」
 マリア:「気持ち良かった……」
 ルーシー:「そう。それは良かったね。少し寝たら?さすがの先生達もまだ寝てるみたいだし」
 マリア:「勇太の部屋で少し寝たからいいよ」
 ルーシー:「ま、いいけど。ちょっと体見せて」
 マリア:「?」

 ルーシーはマリアの上半身を脱がした。

 ルーシー:「フム……。やっぱり傷痕が消えている」
 マリア:「そうなの。師匠も目を見開いて驚いてたくらい」
 ルーシー:「『愛のあるセックス』を重ねると、トラウマは消える……か。なるほど」

 ルーシーは机の上に置いていた手帳に書き込んだ。

 ルーシー:「マリアンナとかはレイプによるトラウマの克服の為に、むしろ『愛のあるセックス』が1番ということかもしれないけど、そうでない私はどうしたらいいんだろう?」
 マリア:「共通しているのは『女の悦びを知る』ということらしいけど……」
 ルーシー:「私の方が難しそうねぇ……」
 マリア:「それより、一緒に温泉入りにいかない?傷痕に効くのは本当らしいから、何か効果があるかもよ?」
 ルーシー:「1回、2回入ったくらいじゃ変わらないと思うけど……」
 マリア:「いいから」

 2人の魔女は再び温泉に入りに行った。

[同日08:00.天候:晴 同ホテル・朝食会場]

 イリーナ:「いやあ、昨夜は飲み過ぎたねぇ……」
 ベイカー:「本当に日本は食事が美味しいというのは本当ねぇ」

 朝食は御多聞に漏れず、バイキング方式である。
 皿に山盛りにして食べるのはイリーナ。
 稲生は和食がメインだった。
 マリアはパンを千切って食べており、ルーシーは意外にもカレーだった。
 因みにカレーというとインドをイメージするだろうが、それをライスに掛けて食べるという発想はイギリスが最初なのである。
 なのでぶっちゃけ、『カレーライス』はイギリス料理と見なす場合もある。
 発祥の地インドを植民地にしていたイギリスに、そのカレーが輸入され、当時のイギリス海軍がそれをライスに掛けて食べるようになったという。
 それが日本に伝わり、日本には最初から『カレーライス』として入ってきたわけである。

 イリーナ:「勇太君達、今日の予定はどうするの?」
 勇太:「予てよりマリアさんの希望だった動物園に行こうと思います」
 イリーナ:「ほおほお。そう言えば前、そんなこと言ってたねぇ……」
 勇太:「幸い、地下鉄で終点まで乗って行けば自動的に動物園の前ですから」
 イリーナ:「そりゃあいい。帰りの新幹線に間に合うように帰って来てね」
 勇太:「分かりました。……先生方は別行動で?」
 イリーナ:「うん。市街地のデパートでショッピングの後、カフェでスイーツでも食べながらベイカーさんと語ろうかなぁと」
 勇太:(地元のお婆ちゃん!?)

 雲羽:「うちの死んだ祖母ちゃんの週末の過ごし方w 出没スポットは仙台三越とか、スイーツはクリームあんみつで決まり」
 多摩:「どうでもええわい!」

 さいたま市大宮区のお婆ちゃんは、高島屋派とそごう派で別れるのだろうか?
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