報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナ組はまだ少し滞在」

2019-07-05 18:55:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日23:45.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生家の玄関前に1台のタクシーが停車した。
 種別表示は『定額』となっている。
 明らかに空港定額タクシーであった。
 大抵、空港までタクシーの需要がある地域のタクシー会社ではどこでもやっているサービスだ。
 その為、タクシー会社の公式サイトを見れば大抵載っている。

 マリア:「タクシーが来たようです」

 マリアは外にいたメイド人形からの知らせを聞いて報告した。

 稲生勇太:「父さんが通勤に使っているハイヤーの所の会社か」
 稲生宗一郎:「そういうことだ。本当はタクシーではなく、ハイヤーを手配して差し上げたかったんだが、さすがに直前の申し込みはダメだったようだ」

 空港定額タクシーも事前予約制である為、これまたタイミングが悪い(直前過ぎる)と断られることがあるという。
 しかし今回はOKだったようだ。
 地元のタクシー会社を利用するし、そもそも宗一郎がそこのタクシー会社(日本交通?飛鳥交通?)のハイヤーを利用しているので融通が利いたのかも。

 稲生:「先生、タクシーが到着しましたよ」
 イリーナ:「了解。ベイカーさん、準備はOK?」
 ベイカー:「私はいいんだけどねぇ……」
 マリア:「ルーシー。ほら、ベイカー先生をお待たせしてるから早く!」

 ルーシーは思いっ切り後ろ髪を引かれる思いで、客間から出て来た。

 稲生:「ルーシー、帰りたくないのは分かるけど、先生がお帰りになるんだから」
 ルーシー:「分かってるわよ……」

 玄関に行って、そこに置いていた自分のキャリーバッグを取った。
 因みに稲生家で休憩中、ベイカー組は稲生家の風呂を借りている。
 夜中の1時55分に羽田空港を離陸し、現地のロンドンヒースロー空港には朝7時前に到着するダイヤだ。
 文字通りの夜行便と言えるが、もちろん日本とイギリスとでは時差が大きいので、実際の所要時間は【ハーイ!ナビタイム!】。

 宗一郎:「もし宜しかったら!」

 宗一郎はベイカーに贈答品を渡した。

 ベイカー:「あらまぁ、却って気を使って頂いちゃって……」
 イリーナ:「うちの新弟子の御両親は、私達の活動に理解力のある方々なんですよ」
 勇太:(というより、強大な力を持ったこの先生方に媚びているだけだと思うけど……)
 マリア:(あの包装紙からして、中身は『温泉の素』か……)

 イリーナとマリアが日本の温泉を気に入ったことを知った宗一郎が、贈答用の『温泉の素』を用意しているという話を勇太がしていたのを思い出したマリアだった。
 イリーナはともかく、マリアの場合は体の傷痕を治す為の湯治の意味合いが大きいのだが。
 そして今回、ルーシーも結果的にはである。

 ベイカー:「ルーシー、あなたのバッグの中に入れといて」
 ルーシー:「はい」

 玄関の外に出ると、手を前に組んで立っていた運転手が恭しく助手席後ろのドアを開けた。
 タクシーに使われているごく普通のクラウンセダンだが、コンフォートと違い、シートはグレーのモケットである。
 そして、トランクを開けた。

 運転手:「お荷物、お預かりします」

 運転手はルーシーの白いキャリーバッグを持ち上げると、それをトランクの中に入れた。

 イリーナ:「それじゃルーシー、ベイカー先生の言う事をよく聞いて頑張るのよ」
 ルーシー:「はい。色々と……ありがとうございました」
 マリア:「また来なよ。永住は無理かもしれないけど……。観光ビザなら、いつでも来れるからさ」
 ルーシー:「先生の許可が無いと、国外へは出れないのよ」

 マリアが日本への永住権を取ったのは、イリーナからの無言の圧でもある。
 つまり、“魔の者”の脅威が無くなるまで、マリアは逆に帰国できないとうことだ。

 マリア:「それもそうだな……」

 ベイカーは運転席の後ろに座り、ルーシーは助手席の後ろに座った。
 ドアが閉められる。
 ルーシーはパワーウィンドウを開けた。

 稲生:「気をつけて。また来てくださいよ」
 マリア:「一番の理想は、ルーシーが代わりに“魔の者”を倒してくれるとすっごくラクなんだけど」
 ルーシー:「後ろのベルフェゴールの代弁をするんじゃない」

 キリスト教の七つの大罪の悪魔達ですら、“魔の者”のことは知らない。
 別次元の悪魔であろう、ということだけ。
 別次元、それは別の宗教ということでもある。

 最後に握手を交わすと、タクシーは走り去って行った。
 方向的に首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に向かったものと思われる。
 首都高に入ってしまえば、よほどのことが無い限り、ほぼ羽田空港までそれで行ける。
 空港定額タクシーは通常のメーター料金が定額というだけで、高速代は別料金らしい。
 だからメーターは回さない。
 種別表示の『定額』とは、空港定額タクシーとして走行中という意味だ。

 イリーナ:「それじゃ見送りもしたし、私達もそろそろ寝ようかねぃ……」
 稲生:「そうですね」

 イリーナ組は稲生家に入って行った。

 稲生:「先生、ベイカー先生とルーシーは帰りの飛行機はビジネスクラスですか?」
 イリーナ:「そういうことになるだろうね」

 弟子が師匠と同じ席に座れるのは、『師匠による引率』或いは『師匠の付き人』として乗る時。

 イリーナ:「ああ、稲生君。私達の帰りの足も確保してくれた?」
 勇太:「ええ。まさか、先生も御一緒に帰られるとは……」
 イリーナ:「何とか仕事が一段落したからね。帰りは私に『付いて』くれればいいよ」
 勇太:「分かりました」
 イリーナ:「悪いね。手数取らせちゃって」
 勇太:「いえ。僕としては高速バスをキャンセルして、代わりに新幹線を手配すればいいだけなので……」
 イリーナ:「そうかい。私達も明日……ああ、そろそろ日付変わるね。明日には帰るから、よろしく」
 勇太:「はい」
 マリア:「了解しました」
 イリーナ:「それまでは自由時間よ」

 イリーナは目を細めて言った。
 この直弟子達はもちろん、同門の他の組の者でさえも、イリーナが目を細めているうちは大丈夫という認識が伝わっている。
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“大魔道師の弟子” 「大宮に到着」

2019-07-05 15:18:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日19:46.天候:晴 福島県福島市栄町 JR福島駅・新幹線ホーム]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、福島です。山形新幹線、山形線、阿武隈急行線と福島交通飯坂線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。福島の次は、郡山に止まります〕

 稲生達を乗せた各駅停車の“やまびこ”は、2つ目の停車駅に近づいた。

〔「……福島の駅で通過列車の待ち合わせを致します。5分ほど停車致します。発車までしばらくお待ちください」〕

 列車が上り副線に入線する。
 通過列車は“はやぶさ”“こまち”である為、同じ編成で各駅停車のE5系とE6系を同じ編成のE5系とE6系が追い抜くわけである。

〔福島、福島です。ご乗車ありがとうざいました。……〕

 稲生:「ちょっと家に電話して来ます」
 マリア:「うん、よろしく。ルーシー、ちょっと降りてみる?」
 ルーシー:「通過するのはそっちでしょ。ホームに降りても無理よ」
 マリア:「いや、まあ、そりゃそうだけどさ……」

 ルーシーが不機嫌なのは何も動物園に行けなかったからではなく、先ほどイリーナからベイカー組の帰国が突然伝えられたからだ。
 それも翌日なのだが、翌日も翌日。
 夜中の出発になる。
 確かに羽田空港や成田空港には深夜・早朝発着の便もあるのだが、ロンドン行きにもそういうのがあるようだ。

 稲生:「あー、父さん?僕だけど……」

 デッキに移動して電話する稲生。

 稲生:「いや、『オレオレ詐欺』じゃないから!そっちの電話機に僕の番号出てるでしょ!そうじゃなくて!……タクシーを予約しておいて欲しいんだ。いや、家から羽田空港まで。夜中に出発する人達がいて……」

 稲生は経緯を父親の宗一郎に伝えた。
 その間、“はやぶさ”と“こまち”が轟音を立てて通過して行く。
 振動と風圧で、停車中の“やまびこ”が大きく揺れる。

 稲生宗一郎:「……つまり、空港定額タクシーをその時間に予約すればいいんだな?」
 稲生勇太:「そういうこと」
 宗一郎:「その間、イリーナ先生の同僚の方とお弟子さんが家で休憩したいということなんだな?」
 勇太:「そういうこと」
 宗一郎:「そういうことなら任せてくれ」
 勇太:「よろしく」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「マリアさん、父さんにタクシー頼んでもらうようにお願いしておきました」
 マリア:「ありがとう。多分、ベイカー先生のことだから、うちの師匠みたいにカードで支払うと思う」
 稲生:「ええ。もちろん、カードの使えるタクシー会社にほぼ100%連絡すると思いますので」
 マリア:「それなら大丈夫」

〔「お待たせ致しました。19時51分発、東北新幹線“やまびこ”220号、東京行き、まもなく発車致します」〕

 発車の時間が迫る。
 外からはオリジナルの発車メロディ、“栄冠は君に輝く”が流れて来た。

 ルーシー:「帰りたくない……」
 稲生:「えっ?」
 ルーシー:「帰りたくないよ……」

 客終合図が聞こえて来て、ドアが閉まるのが分かった。
 そして、最新型のインバータの音が響いて来て発車する。

 マリア:「ルーシー。気持ちは分かるけど、ベイカー先生の方針じゃ、しょうがないだろう」
 ルーシー:「マリアンナはいいよね。“魔の者”の眷属を倒したんだから……」
 マリア:「眷属程度じゃ、何とも……。また襲って来るかもしれないのは、日本もイギリスも同じさ」

 日本でベイカー組が襲われたわけだが、ルーシーだけが生き残り、イリーナが代わりに眷属を倒したことになっている。
 しかし、イギリスに行けば“魔の者”本体が待ち構えているかもしれないのだ。

 稲生:「どうしてこう正体が分からないものなんですかね」
 マリア:「そりゃ姿を現さないからさ。“魔の者”に関しては、あの大魔王バァルでさえも正体が分からないというよ?」
 稲生:「大師匠様と同輩の老翁がねぇ……」
 マリア:「危なくなったら、日本に避難してくればいいよ。飛行機に乗ってしまえば、こっちのものだ」

 飛行機に乗ったりして、墜落させられないかと思うが、何故か今“魔の者”はそこまでしてこない。
 以前はしてきたことがあった。
 イリーナがそれに巻き込まれたものだ。
 しかし結局その手法は魔道師には通用しないと分かったのか(墜落前に瞬間移動魔法で脱出してしまえばそれまでなので)、今ではあまり飛行機を墜落させるという手法は使って来ない。
 昔ながらの手法、才能のある者の芽を早めに摘むという手を使っているようだ。

 ルーシー:「この国にいたい……」
 マリア:「別の意味で帰りたくないのか!?」
 稲生:「沈没!?」

[同日21:14.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、京浜東北線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 利根川のトラス橋を渡って埼玉県に入ると、進行方向左手にラウンドワンのボーリングのピンが見える。
 それからしばらく走ると、今度は東北自動車道と立体交差する。
 オレンジ色の街灯がズラリと並んだ区間を越える所は印象的である。
 夜だと分かりにくい上、左手に上越新幹線・北陸新幹線、更にはニューシャトルの軌道が並行するが、ちゃんと鉄道博物館の横を通るのも一応分かる。
 そこまで来れば、大宮駅はもう間近だ。
 作者は大栄橋と『カニトップ』の看板が見えたら、デッキに移動するようにしている。

〔「ご乗車ありがとうございました。おおみや〜、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。14番線の電車は21時14分発、東北新幹線“やまびこ”220号、東京行きです。上野、終点東京の順に停車致します。……」〕

 ドアが開くと稲生達はホームに降り立った。

 稲生:「それじゃ一旦、僕の家まで行きましょう。そこでお時間まで御休憩ください」
 ベイカー:「お手数掛けるわねぇ……」

 大宮駅でもニューシャトル以外は発車メロディが導入されて久しいが、新幹線は相変わらずのベルである。

〔14番線から、“やまびこ”220号、東京行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色いブロックまで、お下がりください〕

 ベイカー:「最後に目に焼き付けておきなさい。日本にはしばらく来れないのだから」
 ルーシー:「はい……」
 マリア:(私は永住者で良かったんだなぁ……)

 ルーシーにとっては今日が最後の新幹線となる。
 それを見送ってから、改札口へと向かった。
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“大魔道師の弟子” 「Yagiyama Zoological Park」

2019-07-03 21:28:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日10:10.天候:晴 宮城県仙台市太白区八木山本町 仙台市地下鉄八木山動物公園駅]

 青葉山駅を出た電車は仙台屈指の自殺の名所竜の口渓谷を渡ると、再びトンネルの中に入った。

〔「本日も仙台市地下鉄東西線をご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点、八木山動物公園、八木山動物公園です。お出口は、左側に変わります。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れる場合がございます。お立ちの際は吊り革、手すりにお掴まり下さい」〕
〔八木山動物公園、八木山動物公園、終点です。お出口は、左側です。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意願います。本日も仙台市地下鉄をご利用頂き、ありがとうございました〕

 稲生:「地下鉄を起点から終点まで乗り通すの、久しぶりだなぁ……」
 マリア:「勇太、他にもあるの?」
 稲生:「ありますよ。東京メトロ東西線も、中野から西船橋まで乗り通したことがありますよ。威吹と一緒に」
 マリア:(無理やり付き合わされたんだろうなぁ……)
 ルーシー:(私にはできない……)

 今度は札幌市地下鉄東西線にチャレンジしたいそうである。

〔八木山動物公園、八木山動物公園、終点です〕

 ドアが開くと稲生達は電車を降りた。

 稲生:「この駅は『日本一高い場所にある地下鉄駅』ということでも有名なんですよ」
 マリア:「明らかにトンネルの中だぞ、ここは」
 稲生:「確かにホームは地下階にありますが、そもそも1階が海抜0メートルにあるとは限らないわけです」
 マリア:「するとこのホームは……」
 稲生:「ここ、海抜136メートル地点ですよ」
 ルーシー:「全然地下じゃないね」
 稲生:「そういうことです」

 要は地下トンネルではなく、山岳トンネルということ。
 実際、ホームから改札階に上がるエレベーターにも動物の絵と共にそのように書かれている。

 稲生:「動物園に行く前に、標高を楽しんでみましょう」

 この駅には『てっぺんひろば』という場所がある。
 階層的には5階に当たり、こちらにも『日本一標高の高い地下鉄駅 八木山動物公園駅』の文字が展望台に掲げられている。
 夜は市街地の夜景が拝めるということもあり、ちょっとしたデートスポットにもなっている。

 ルーシー:「標高136メートルか。初心者のホウキ乗りの高度みたいね」
 マリア:「ホウキ乗りの試験、100メートル以上上がれないと失格だっけ?」
 ルーシー:「あまり高度が低いと失速する恐れがあるからね。100メートルでも低いくらいよ」
 稲生:(そういえばエレーナ、今度は『東京スカイツリー越えにチャレンジする』とか言ってたっけ……)

 東京タワー越えと都庁越えには成功したようである。
 どうして大騒ぎにならないのだろう?
 一応ここでも記念撮影をする魔女達だった。
 尚、この2人はホウキ乗りではない(ルーシーは特別講習で、一応教わっている)。

 稲生:「それじゃ、早速入園しましょう」

 ここで稲生達、とんでもない事実に気づく。

[同日19:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅]

 イリーナ:「思わず、ついつい買っちゃったねぃ……」
 ベイカー:「さすがにルーシーに呆れられるわよ。まあ、殆どが空輸にしたからそっちに迷惑は掛けないわ」
 イリーナ:「さすがは私の先輩」
 ベイカー:「さて、そろそろ弟子達が来る時間帯よ」

 イリーナはローブの中から金色の懐中時計を取り出した。
 宗一郎が稲生や威吹に送ったそれは和風の装飾が施されているが、こちらはラテン語がびっしりと刻まれたものだ。

 イリーナ:「そうね」

 そして、時間通りに稲生達がやってきた。
 しかし、その表情は皆複雑なものだった。

 イリーナ:「どうしたの?」

 目を細めていたイリーナが、その目を開いた。

 稲生:「……ヤンヤンヤヤー♪八木山の〜♪ベニーランドででっかい夢が♪はずむよ〜♪はねるよ〜♪ころがるよ♪……」
 イリーナ:「な、なに?」

 仙台市民なら絶対に歌えなければモグリとさえ言われる、『八木山ベニーランドのテーマソング』を稲生は口ずさんでいた。
 尚、これのフルコーラスがこれ。

 https://www.youtube.com/watch?v=JavZBvrbVzI

 尚、さすがにフルコーラスを知っていれば上級者であるという。

 ルーシー:「とんだ御破算ですよ!!」
 ベイカー:「何かあったの?」
 稲生:「八木山動物公園、月曜日は休園日でした」
 マリア:「通りで電車も駅前も空いてると思ったよ!」
 イリーナ:「あらまあ……」

 しょうがないので、遊園地である八木山ベニーランドに行ってみたそうである。

 イリーナ:「ええっと……。それじゃ、最後のアトラクションに乗ってみましょうか」
 稲生:「新幹線ですね。こちらは既に押さえております」

 稲生は全員分の新幹線のキップを取り出した。

 稲生:「先生方はグリーン車です。僕達は普通車です。それでいいですね?」
 マリア:「妥当だと思う」
 ルーシー:「やっぱり“はやぶさ”じゃないんだ」
 稲生:「すいません。“はやぶさ”は混んでて、人数分取れそうに無かったんですよ。“やまびこ”は空いていたので……」

 しかも各駅停車タイプ。
 これなら確かに空いているだろう。
 駅を豪快に通過して行くシーンは拝めないが、しかし車両はE5系だ。

 稲生:「取りあえず、行ってみましょう」
 イリーナ:「お腹が空いたね。何か駅弁買っていきましょうか」
 ベイカー:「日本の駅弁は美味しいわね。是非ともまた食べてみたいところだったのよ」
 イリーナ:「勇太君?」
 稲生:「あ、はい。仙台駅の駅弁は、種類が日本で最も多いことで有名です。売店はラチ内コンコースの中にあるので、早速入ってみましょう」

[同日19:17.天候:晴 JR仙台駅・新幹線ホーム]

〔14番線に停車中の電車は、19時17分発、“やまびこ”220号、東京行きです。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、11号車です。自由席は1号車から3号車と12号車から16号車です。この電車は、各駅に止まります。……〕

 そう、後部にE6系を連結したフル編成である。
 恐らく、間合い運用だろう。
 本来なら、“はやぶさ”と“こまち”で運転されるべき編成なのだが、列車番号220Bは“やまびこ”として運転される。

 ルーシー:「……!」

 ルーシーはE6系の車両にも目を見開いて写真を撮ったり、車内に入ったりしている。

 ベルフェゴール:「ふふ……。赤はボクの嫌いな色だ。やはり色は目に優しい緑に限る」

 いつの間にか現れた、マリアの契約悪魔ベルフェゴール。
 相変わらず、英国紳士のコスプレをしている。

 マリア:「そんなこと言ったら、ベルゼブブにブッ飛ばされるぞ」
 稲生:「赤はベルゼブブの色なんですね」
 マリア:「今、ベルゼブブと契約しているのって誰だろう?」

 イリーナとベイカーは9号車のグリーン車に乗り、弟子達は隣の8号車に乗り込んだ。

 稲生:「往路のE2系“やまびこ”よりもシートピッチが広いんですよ。で、座席にはピロー付き」
 マリア:「なるほど。この前乗った東海道新幹線と同じくらいだな」
 稲生:「そうです。シートピッチはどちらも107cmです」

 因みにE2系は98cmである。
 3人は発車の時間が迫るまでホームにいて、壮大な発車メロディが流れる頃、車内に入った。
 そして、列車は定刻通りに発車した。
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本日の添書登山 20190702

2019-07-02 22:16:17 | 日記
 先日の日記にも書いた通り、願い事が成就した御礼参りに大石寺まで行ってきた。
 伊勢神宮に御礼参りに行った人は新幹線テロに巻き込まれて死亡してしまったが、大石寺へ行く分にはしっかり守られるようである。
 ちゃんとダイヤ通りに運転した。

 
(こだま号の出発するホームに上がったら、ぞろぞろと修学旅行の中学生が乗り込んで行った。N700系になっても、『修学旅行』の表示はあるようで。惜しむらくは英語表記が無いこと。あったら多分、『School trip』とかいう表記になるのだろう。この辺も“大魔道師の弟子”で取り上げれば良かった。尚、修学旅行の習慣の無い欧米人にとって、これは奇異な光景に見えるのだそうだ)

 
(本日の新富士駅発9時50分の登山バス。いすゞ・エルガ。外観からでは分からないが、車内は2人席が多く配置され、シートベルトも設置された『ワンロマ』である。西富士道路は今や無料の自動車専用道路だが、制限速度80キロということもあり、そこの区間だけはシートベルトを着用するよう放送があった。シートベルトの無い普通のタイプのヤツだと、恐らく時速60キロ走行に自主規制されるのだろう)

 因みに作中で稲生と鈴木が乗った登山バスは上記の便。
 で、魔女達が乗っていったバスというのは、下記の便である。

 
(上記のタイプよりも最新のいすゞ・エルガ。ワンロマかどうかは、外観からではよく分からない)

 オレンジ色のLEDじゃ、スマホで撮る時にどうしても擦れてしまうね。

 
(えー、三門です。相変わらずのプレハブです。でも、もうちょっとで完成します)

 
(本日の大石寺14時40分発、新富士駅行きの下山バス。今や希少価値の高くなったツーステップバスで、しかも後ろ扉タイプです)

 
(このように、もう1つのドアが後ろに寄っている。昔は東武バスでも中型車に見られたが、今は既に除籍されている。“私立探偵 愛原学”の『霧生市のバイオハザード』編で、霞台団地駅に突っ込んで停車している霧生市営バスと同車種)

 尚、上記の便はワンロマである。

 
(15時ちょうど発の新富士駅行き。こちらはワンステップバスで、やはりワンロマ使用。基本的にワンロマでノンステップバスは存在しないようだ)

 
(14時58分発の東京駅日本橋口“やきそばエクスプレス”号。最新型のいすゞ・エルガで、私の中では大当たり車両。USBタイプの充電ポートが座席に付いているはずである。また、行き先もフルカラーLEDで、スマホで撮っても擦れることが無い。因みにこの富士急バスのフルカラーLEDは、“バスターミナルなブログ”様でも取り上げられていた。確か、富士山の画像も表示できるとか……)

 
(私が乗車した富士宮営業所18時発の東京駅行き最終便。旧型の日野・セレガRであるが、加速力に優れていることもあり、ヒュンダイ・ユニバースなんかと比べても、当たりな方である)

 今回の旅行で乗車した公共交通機関にあっては、全てがダイヤ通りの運行であった。
 鉄道は元より、バスでさえもである。
 新富士駅から乗った登山バスも、富士宮営業所から乗った高速バスもダイヤ通りに運転してくれた。
 実に奇跡的なことだ。
 もしも大渋滞に巻き込まれていたら、多分今日のレポは諦めていたことだろう。

 登山だが、どんよりと曇ってて蒸し暑かったものの、雨には当たらずに済んだ。
 小雨が降ったりはしたものの、傘を差すほどのものではない程度に。
 一応、私なりに大御本尊様に成就の御礼を申し上げ、今後とも何卒1つ御加護のほどを……というようなことを御祈念してきた。

 明日からは新しい現場に初出勤。
 人手不足で休みは少なくなるようだが、前の現場と違い、業務内容は私の手に負えるものであることを願うばかりだ。
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“大魔道師の弟子” 「卯酉地下鉄道」

2019-07-01 19:03:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日09:30.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区福室 ホテルキャッスルイン仙台]

 ホテルをチェックアウトした稲生達は、ホテル前に止まっている予約したタクシーに乗り込んだ。
 陸前高砂駅ではたまたまタクシー乗り場に止まっていた普通のタクシー2台に分乗したが、今回はホテルに頼んでミニバンタイプのタクシーを予約してもらった。
 これならわざわざ分乗する必要は無いし、料金も普通のタクシーより割高なものの、それの2台分の料金よりは安くなるはずだ。

 運転手:「お荷物、お積みします」
 ルーシー:「ありがとう」
 イリーナ:「ルーシーはうちの弟子達よりも、ひときわ大きなケースを持って来てるのね」
 ルーシー:「マリアンナが『買い物するなら、これくらいの物を持って来た方がいい』と言ってましたので」
 稲生:(爆買い用!?)

 弟子達のローブには師匠用と違い、四次元ポケットのようなものが無いので、必然的に荷物は普通の人間と同じになる。
 稲生やマリアの荷物がルーシーより少ないのは、そもそも稲生にとってはただの国内旅行だし、マリアも永住者である以上は似たようなものだからだ。
 因みに爆買い用のケースは、しっかり稲生の実家に置いている。
 アナスタシア組の面々を見ると、わざわざ山奥に屋敷を建てる必要は無かったのではと最近思う。
 その組はタワマンのてっぺんに拠点を構えたからだ。
 確かにある意味、近づきにくい場所ではあるし、ホウキ乗りの発着場としてもちょうどいい。

 運転手:「それでは出発します」
 稲生:「お願いします。荒井駅まで」
 運転手:「かしこまりました」

 黒塗りのアルファードタクシーは、ホテルの前を出発した。

[同日09:45.天候:晴 仙台市若林区荒井 仙台市地下鉄荒井駅]

 ルーシー:「もう一度乗らなくてはダメですか……?」
 ベイカー:「ガイドの稲生君がこのルートを選択した以上、外来者はそれに従わなければならないの。どうしてもダメなら、あなた一人でルゥ・ラで追い掛けなさい」
 イリーナ:「行き先の動物園に行ったことがあるのなら、簡単に飛べるよ」
 ルーシー:「……ありません」
 ベイカー:「じゃ、決まりね。稲生君、ガイドお願い」
 稲生:「は、はい。じゃあちょっと、キップを買って来ますので」

 稲生は急いで券売機に向かった。

 マリア:(うちの組がどれだけユルいか分かるってもんだ)

 マリアは俯き加減になるルーシーの肩を叩いて励ました。
 そして稲生がイリーナとベイカーの分の乗車券を買って来ると、そこから改札口へ向かう。
 朝のラッシュも終わり、始発駅ということもあってか、ホームに停車している電車内はガラガラだった。

〔お知らせします。この電車は、八木山動物公園行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕

 一応、テロに遭いやすい先頭車とその次の2両目は避け、最後尾に乗車するという配慮はしている。

〔「9時45分発、仙台方面、八木山動物公園行きです。まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 発車の時間が迫り、運転士の肉声放送が流れた後でホームから自動放送が流れる。

〔2番線から、八木山動物公園行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 短い発車サイン音が流れた後、ホームドアと車両のドアが一緒に閉まった。
 駆け込み乗車は無く、すぐに発車する。

〔次は六丁の目、六丁の目、サンピア仙台前です〕
〔The next stop is Rokuchonome station.〕

 ルーシー:「私は……どうやってトラウマを克服すればいいんだろう……?」
 マリア:「地下鉄によく乗って慣らすしか無いんじゃないかなぁ……?」
 ルーシー:「無理よ、そんなの」
 マリア:「じゃあ、こうすればいい。私も『狼』共に復讐した。ルーシーも地下鉄テロ犯に復讐すればいい。私達はそういう力を持っているんだから」
 ルーシー:「でも、レイプと違って、そういうテロはそうそう無い。ましてや、日本なら尚更」
 マリア:「まあね。だからこそ、のんびりと慣らしていけるんじゃないかなぁ?」
 ルーシー:「他人事みたいに……」

[同日10:00.天候:不明 仙台市青葉区一番町 地下鉄青葉通一番町駅]

〔次は青葉通一番町、青葉通一番町、藤崎前です〕
〔The next stop is Aoba-dori Ichibancho station.〕
〔本日も仙台市地下鉄をご利用頂き、ありがとうございます。お客様にお願い致します。……〕

 イリーナ:「勇太君。この『藤崎』というのもデパートのこと?」
 稲生:「そうですよ。ちょうど10時だから、開店時間ですね」
 イリーナ:「ベイカーさん」
 ベイカー:「ちょっと降りてみましょうか」

 すっくと立つ大魔道師2人。

 稲生:(バーゲンに向かう臨戦態勢のオバちゃん!?)
 マリア:(ブラックカードとプラチナカードを翳すグランドマスターが何いきり立っているんだろう……)
 ベイカー:(久しぶりに気合いの入る先生見たなぁ……)

 仙台駅を出た電車はそこで大量の乗客を降ろし、再び閑散とした状態で西の郊外へ向かった。
 閑散といっても、立ち客がいなくなったという意味で、座席はそこそこ埋まっている。
 だが、車内の雰囲気を見るに、やはり郊外まで乗って行くのは稲生達くらいのようなものだ。
 朝のラッシュであれば東北大学のキャンパスに向かう大学生、休日であれば動物園に向かう行楽客で賑わうのだろうが……。

〔青葉通一番町、青葉通一番町、藤崎前。出入り口付近の方は、開くドアにご注意ください〕

 電車がホームに滑り込む。

 イリーナ:「それじゃ、また後でね」
 稲生:「あ、はい。お気をつけて」

 デパート巡りを楽しむ大魔道師達は、この駅で降りて行った。
 他にもやっぱり買い物客と思しき乗客達も混じっている。

〔2番線から、電車が発車致します。ご注意ください〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 稲生:「買い物を楽しむのは今も昔も変わらないものなんですね」
 マリア:「変なモノ買ってきたら、大師匠様にチクってやろう」
 ルーシー:「まあまあ」

 再び電車が走り出す。

〔次は大町西公園、大町西公園、菓匠三全本店前です〕
〔The next stop is Omachi Nishi-koen station.〕

 稲生:「僕達は僕達で楽しんでいいみたいですね」
 マリア:「プランを師匠に提出して承認を得ているからね」
 稲生:「ん?」
 マリア:「魔道士の世界は契約社会。それは師弟関係も同じ。約束事は絶対に守らないといけない」
 稲生:「何度も言われて来ましたよ」
 ルーシー:「帰りの列車など、きちんと予約するのはその為よ。もっとも、国によっては予約システムなんて無いに等しい所もあったりするから、そこはケースバイケースだけど」

 つまりだ。
 イリーナ達が航空機や新幹線のグリーン車に乗るのは、何も魔力の温存の為な上に金も持っているからというのは表向きで、計画通りに事を進ませる為の外堀埋めであるということだ。

 稲生:「そうでしたか。奥が深い」

 まだまだ新弟子扱いの稲生にとっては、ただ単に言われたことをホイホイやるだけなので、そこまで考えが及ばなかったようだ。
コメント (1)
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