[7月16日17:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
昨日は徹夜での仕事であったが、何とか寝落ちせずに済んだ。
愛原:「おうちの人が心配してるといけないから、そろそろ帰りなさい」
斉藤:「はーい」
私は事務所に遊びに来ていたリサの親友、斉藤絵恋さんに声を掛けた。
苦手な数学の宿題をリサとやりに来ていた。
愛原:「冬だともう真っ暗な時間だよ」
高野:「そうだね。それに、もうすぐ雨が降りそうだから、雨が降る前に帰った方がいいよ」
斉藤:「分かりました」
斉藤さんはテーブルの上に広げたノートやら教科書やらを片付け始めた。
斉藤:「ここは静かで勉強するには最適な環境ですね」
愛原:「そりゃ事務所だからな。ゲーセン並みに賑やかなわけないだろう」
高野:「斉藤さんのおうちは静かじゃないの?」
斉藤:「お目付け役がうるさくて……」
愛原:「ああ、そういうことか」
斉藤さんの実家は、さいたま市でも屈指の高級住宅街にある。
そこから東京中央学園に通う為、この近くのマンションを借り、親元を離れて住んでいる。
とはいえ、そこは中学生。
1人暮らしをしているわけではなく、斉藤家に雇用されているメイドさんが1人、世話役として派遣されているらしい。
それが斉藤さんには、お目付け役のように口うるさいメイドが送られたかのように思っているようだ。
ま、メイドさんを雇えるような金持ちの家で、尚且つ子供の教育に熱心な所はそうだろう。
“アルプスの少女ハイジ”のクララだって、口うるさいハウスキーパー(原作ではそれよりも更に地位の高いバトラー)に辟易していただろう。
あんな感じを私はイメージした。
ここでは斉藤さんがクララで、リサがハイジなのか。
いや、別に斉藤さんは足が不自由どころか空手の有段者だし、リサは【お察しください】。
斉藤:「愛原先生、8月の予定はどうなっていますか?」
愛原:「8月?いや、別に決めてないよ。特に、仕事の予定が入っているわけでもないし」
斉藤:「前みたいに、またリサさんと一緒に旅行に行ってもいいですか?」
高野:「ああ、さっきそういう話をしていたのね」
愛原:「銚子に行った時みたいにか。あれは突然、バイオハザード絡みの仕事が……」
高野:「先生、シッ!」
愛原:「おっと!」
いっけね!
斉藤社長には内緒にしなくてもいいが、ここにいる娘さんには内緒にしておかなくちゃいけないんだったっけ。
だから、リサの正体も彼女にバレてはいけない。
だから今、リサは完全に人間の姿に化けている。
いや、悪のアンブレラに体を改造される前はこれが正体だったのだが……。
斉藤:「何ですか?」
愛原:「いや、何でも無いんだ。分かった。行っといで。いつがいいかはリサの希望でいいから」
リサ:「愛原先生、そうじゃないの」
愛原:「ん?」
斉藤:「うちは両親が忙しくて、旅行に行くお金はあっても時間が取れないんです。だから……」
ああ、そういうことか。
つまり、銚子の時みたいに、また私達に連れて行ってもらいたいということか。
しかし、逆にこちらは旅行に行く時間はあっても、お金が【お察しください】。
愛原:「そうは言っても、この貧乏事務所じゃ予算が……」
斉藤:「それなら大丈夫です!父に頼んで出してもらいますから!」
愛原:「いや、そりゃ悪いよ。何だか俺達が斉藤社長にタカってるみたいだ」
斉藤:「大丈夫です!私に任せてください!」
高野:「何かいい方法でもあるの?」
斉藤:「はい!」
と、そこへ、黒いスーツに身を包んだ初老の男がやってきた。
斉藤家お抱え運転手の新庄氏だ。
新庄:「御嬢様、そろそろ御自宅へお帰りになる時間です」
斉藤:「ああ、分かったわ」
そうか。
斉藤さんは単身赴任のサラリーマンのように、金帰月来の生活をしている。
つまり金曜日に学校が終わったら実家へ帰り、月曜日の朝にそこから登校するというものだ。
もっとも、最近はそういう法則も崩れて来ているという。
実際、今日は訳あって東京のマンションではなく、埼玉の実家へ帰らなくてはならないという。
新庄:「今日は大奥様の誕生日でございます。お早くお帰りを」
斉藤:「分かってるって。それじゃ、あとは私に任せてください」
愛原:「あ、うん……」
確か斉藤さんにはお祖母さんがいるが、介護施設に入所しているとのことだった。
老い先短い老婆の、もしかしたら最後になるかもしれない誕生日を家族水入らずで過ごすのは当然だ。
リサ:「サイトー、また明日」
斉藤:「リサさんも、今度は私の家に遊びに来てね」
リサ:「分かった。今度お邪魔する」
リサはギュッと斉藤さんの両手を握った。
斉藤:「も、萌えぇぇぇぇええぇぇえっ!」
新庄:「御嬢様、悶えておられるヒマはございません。お急ぎを」
見た目は運転手だけでなく、執事も勤まりそうな新庄氏は如何なる時も冷静。
斉藤さんは事務所のビル裏手の駐車場に止められていたロールスロイス……に、よく似た光岡自動車のガリューに乗り込んで行った。
愛原:「一体、斉藤さんはどうするつもりだろう?」
リサ:「多分、サイトーのお父さんに依頼してもらうんだと思う。サイトーのお父さんが愛原先生に、『娘を代わりに旅行に連れて行ってくれ』って頼むように……」
愛原:「そっちか!」
高野:「それ、探偵の仕事ですか?」
愛原:「しかし、うちの事務所は弱小だから受けられる仕事は何でも受けないと……」
高野:「8月までまだ日がありますから、マサとも相談した方がいいですね」
愛原:「高野君はどう思う?」
高野:「私は先生にお任せしますわ」
愛原:「ちぇっ……」
因みに高橋は夕飯の支度の為に先に帰っている。
リサ:「愛原先生、高橋兄ちゃんからメッセージ。『夕食が出来ました』だって」
愛原:「ああ、そうか。まあ、終業時間になったから帰るから、それまで待てって返信しといて」
リサ:「承知」
旅行に連れて行くのはいいんだけど、また銚子の時みたいに変な仕事やらされたりしてなぁ……?
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
昨日は徹夜での仕事であったが、何とか寝落ちせずに済んだ。
愛原:「おうちの人が心配してるといけないから、そろそろ帰りなさい」
斉藤:「はーい」
私は事務所に遊びに来ていたリサの親友、斉藤絵恋さんに声を掛けた。
苦手な数学の宿題をリサとやりに来ていた。
愛原:「冬だともう真っ暗な時間だよ」
高野:「そうだね。それに、もうすぐ雨が降りそうだから、雨が降る前に帰った方がいいよ」
斉藤:「分かりました」
斉藤さんはテーブルの上に広げたノートやら教科書やらを片付け始めた。
斉藤:「ここは静かで勉強するには最適な環境ですね」
愛原:「そりゃ事務所だからな。ゲーセン並みに賑やかなわけないだろう」
高野:「斉藤さんのおうちは静かじゃないの?」
斉藤:「お目付け役がうるさくて……」
愛原:「ああ、そういうことか」
斉藤さんの実家は、さいたま市でも屈指の高級住宅街にある。
そこから東京中央学園に通う為、この近くのマンションを借り、親元を離れて住んでいる。
とはいえ、そこは中学生。
1人暮らしをしているわけではなく、斉藤家に雇用されているメイドさんが1人、世話役として派遣されているらしい。
それが斉藤さんには、お目付け役のように口うるさいメイドが送られたかのように思っているようだ。
ま、メイドさんを雇えるような金持ちの家で、尚且つ子供の教育に熱心な所はそうだろう。
“アルプスの少女ハイジ”のクララだって、口うるさいハウスキーパー(原作ではそれよりも更に地位の高いバトラー)に辟易していただろう。
あんな感じを私はイメージした。
ここでは斉藤さんがクララで、リサがハイジなのか。
いや、別に斉藤さんは足が不自由どころか空手の有段者だし、リサは【お察しください】。
斉藤:「愛原先生、8月の予定はどうなっていますか?」
愛原:「8月?いや、別に決めてないよ。特に、仕事の予定が入っているわけでもないし」
斉藤:「前みたいに、またリサさんと一緒に旅行に行ってもいいですか?」
高野:「ああ、さっきそういう話をしていたのね」
愛原:「銚子に行った時みたいにか。あれは突然、バイオハザード絡みの仕事が……」
高野:「先生、シッ!」
愛原:「おっと!」
いっけね!
斉藤社長には内緒にしなくてもいいが、ここにいる娘さんには内緒にしておかなくちゃいけないんだったっけ。
だから、リサの正体も彼女にバレてはいけない。
だから今、リサは完全に人間の姿に化けている。
いや、悪のアンブレラに体を改造される前はこれが正体だったのだが……。
斉藤:「何ですか?」
愛原:「いや、何でも無いんだ。分かった。行っといで。いつがいいかはリサの希望でいいから」
リサ:「愛原先生、そうじゃないの」
愛原:「ん?」
斉藤:「うちは両親が忙しくて、旅行に行くお金はあっても時間が取れないんです。だから……」
ああ、そういうことか。
つまり、銚子の時みたいに、また私達に連れて行ってもらいたいということか。
しかし、逆にこちらは旅行に行く時間はあっても、お金が【お察しください】。
愛原:「そうは言っても、この貧乏事務所じゃ予算が……」
斉藤:「それなら大丈夫です!父に頼んで出してもらいますから!」
愛原:「いや、そりゃ悪いよ。何だか俺達が斉藤社長にタカってるみたいだ」
斉藤:「大丈夫です!私に任せてください!」
高野:「何かいい方法でもあるの?」
斉藤:「はい!」
と、そこへ、黒いスーツに身を包んだ初老の男がやってきた。
斉藤家お抱え運転手の新庄氏だ。
新庄:「御嬢様、そろそろ御自宅へお帰りになる時間です」
斉藤:「ああ、分かったわ」
そうか。
斉藤さんは単身赴任のサラリーマンのように、金帰月来の生活をしている。
つまり金曜日に学校が終わったら実家へ帰り、月曜日の朝にそこから登校するというものだ。
もっとも、最近はそういう法則も崩れて来ているという。
実際、今日は訳あって東京のマンションではなく、埼玉の実家へ帰らなくてはならないという。
新庄:「今日は大奥様の誕生日でございます。お早くお帰りを」
斉藤:「分かってるって。それじゃ、あとは私に任せてください」
愛原:「あ、うん……」
確か斉藤さんにはお祖母さんがいるが、介護施設に入所しているとのことだった。
老い先短い老婆の、もしかしたら最後になるかもしれない誕生日を家族水入らずで過ごすのは当然だ。
リサ:「サイトー、また明日」
斉藤:「リサさんも、今度は私の家に遊びに来てね」
リサ:「分かった。今度お邪魔する」
リサはギュッと斉藤さんの両手を握った。
斉藤:「も、萌えぇぇぇぇええぇぇえっ!」
新庄:「御嬢様、悶えておられるヒマはございません。お急ぎを」
見た目は運転手だけでなく、執事も勤まりそうな新庄氏は如何なる時も冷静。
斉藤さんは事務所のビル裏手の駐車場に止められていたロールスロイス……に、よく似た光岡自動車のガリューに乗り込んで行った。
愛原:「一体、斉藤さんはどうするつもりだろう?」
リサ:「多分、サイトーのお父さんに依頼してもらうんだと思う。サイトーのお父さんが愛原先生に、『娘を代わりに旅行に連れて行ってくれ』って頼むように……」
愛原:「そっちか!」
高野:「それ、探偵の仕事ですか?」
愛原:「しかし、うちの事務所は弱小だから受けられる仕事は何でも受けないと……」
高野:「8月までまだ日がありますから、マサとも相談した方がいいですね」
愛原:「高野君はどう思う?」
高野:「私は先生にお任せしますわ」
愛原:「ちぇっ……」
因みに高橋は夕飯の支度の為に先に帰っている。
リサ:「愛原先生、高橋兄ちゃんからメッセージ。『夕食が出来ました』だって」
愛原:「ああ、そうか。まあ、終業時間になったから帰るから、それまで待てって返信しといて」
リサ:「承知」
旅行に連れて行くのはいいんだけど、また銚子の時みたいに変な仕事やらされたりしてなぁ……?