報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「テラフォーマーズ?」

2019-07-19 19:10:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月12日20:00.天候:雨 某県山中 妖伏寺トンネル工事現場]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事で地方の山中へやってきた。
 何でもトンネル工事現場で、クリーチャーの目撃例が多発しているらしい。
 私は高橋とリサを伴って、現場へとやってきた。
 トンネルの外側までは工事が進んだものの、肝心の中が掘り進められず困っているとのこと。
 現場監督との最中調整を終えた私達は、そのトンネルへと向かった。
 東京から乗って来た車は工事事務所に置いて、今度は工事車両であるトラックに乗り換える。
 リアシートの付いたダブルキャブだ。
 監督の運転でトンネルに向かったのだが、途中で三重ものバリケードを開けなければならなかった。
 あの、ビル建設工事現場でよく見かける、蛇腹状のバリケードだ。

 愛原:「ここまで厳重にしなければならないとは……」
 山辺監督:「実は私、一度だけ化け物を見たことがあるんです。あれはまるで、黒い植物のような化け物でした」
 愛原:「黒い植物!?何ですか、それは!?」
 山辺:「私にも分かりませんよ。もちろん私だけでなく、他の作業員も目撃しているんです。気のせいなんかじゃなく、奴らに重機を壊されたり、作業員が襲われてケガをしたりしているんです。もちろん警察には通報しましたが、警察が来ると奴らは現れないんです。このままでは、現場の私達の責任にされてしまいます。だからどうか愛原さん、何とかお願いします」
 愛原:「分かりました。警察にはビビッている奴らでも、探偵には襲って来るでしょうからね。私達にお任せを。因みにその黒い化け物、他に何か特徴はありませんでしたか?」
 山辺:「特徴ですか?人型であるとしか……。ああ、あと、他の作業員からは、四つん這いに這って来たヤツに襲われたなんて話もあります」
 愛原:「リッカーかな!?」

 私は霧生市の大山寺という寺で遭った化け物、リッカー達を思い出した。
 人間のゾンビが更に進化したヤツであり、四足歩行で行動する。
 しかもヤモリのように壁を張ったり、天井に張り付いたりすることもできる。
 私達はそんな奴らの女ボス、“逆さ女”とも対峙した。
 アメリカでは“サスペンデッド”とか言うらしいが、日本では妖怪・逆さ女でいいだろう。

 愛原:「この近くにあるのが逆女峠というくらいだから、逆さ女が潜んでいるのかもしれないな。その目撃例は?」
 山辺:「ありません」
 愛原:「あらっ!?」

 私はズッコケた。

 愛原:「ま、まあ、誰も見ていないから絶対いないとも言い切れませんからね」
 山辺:「その通りです。あとは、その黒い化け物からはカビの臭いがしたということですかね」
 愛原:「カビ!?」

 黒い人型のクリーチャーで、カビの臭いを放つ者に私は心当たりがあった。

 愛原:「モールデッド!?」

 アメリカのルイジアナ州に現れた新型BOW“エブリン”が駆使した特異菌とは、新型のカビであるとされる。
 それに感染した者の中には、全身が黒カビに覆われ、最後は男か女かも分からないほどに転化するのだという。
 私達が群馬県で襲われたのはその亜種ではないかとされるが、もしかしてモノホンがここに投入されていたのだろうか。

 愛原:「新型のクリーチャーがいるのか……」
 高橋:「先生、大丈夫です!俺に任せてください!」

 高橋はそう言うと、手持ちのマグナムに弾を込めた。
 もちろん本物ではなく、改造エアガンであるが、しかし恐らく高橋のことだ。
 殺傷能力を持たせた違法改造エアガンであろう。
 ここに来るまで、警察の職務質問に遭わなくて良かった。
 まあ、いざとなったら善場氏に国家権力を発動してもらうけどw

 愛原:「本当か?」
 高橋:「モールデッドだかゴールデンバットだか知りませんが、俺のマグナムで蜂の巣にしてみせます!」
 リサ:「私も頑張るー」

 まあ、この2人がやる気を出せば何とかなるだろう。

 高橋:「先生。先生も一応、持っててください」
 愛原:「お、おう」

 高橋は私にショットガンを持たせた。
 因みにこのショットガン、猟銃用のもので本物である。
 ああ、そうとも。
 この仕事の為だけに、わざわざ許可取ったよ。
 高橋の場合は前科があり過ぎて、許可が取れなかった。
 霧生市で拾ったものはポンプアクションの為、慣れないとリロードに時間が掛かってしまっていたが、こちらはセミオートである。
 これでだいぶリロードが楽になった。

 高橋:「それじゃ早速、中に入りましょう」
 愛原:「大丈夫か、高橋?モールデッドは今、BSAAで確認されたクリーチャーの中でも一番新しいタイプだ。ヘタすりゃ更に進化して、そこでもデータに無い新型がいるかもしれないぞ?」
 高橋:「大丈夫です!どんな新型が出ても、あの“座敷童”を倒した先生が御一緒なら心強いです!」
 愛原:「いや、実際に倒したのは俺じゃないんだが……」
 リサ:「じゃあお兄ちゃん、逃げちゃダメだよ?」
 高橋:「分かってるって!それはオマエもだぞ?先生をお守りするんだ。逃げたら罰金ってことでどうだ?」
 リサ:「オッケー」
 愛原:「おいおい、危なくなったら逃げていいんだぞ?俺らはBSAAでもテラセイブでもないんだから……」

 私は半ば呆れながらトンネルの中に入った。

 愛原:「うわ、まだ全然素掘りじゃん」

 入ると入口付近はコンクリートの壁が出来上がっていたものの、少し進んだだけでもう土壁が露出していた。
 奥行はだいぶありそうなので、取りあえず掘り進められる所まで掘り進めたといった感じだな。
 この辺りの地盤は堅固なのだろう。
 落盤の心配は無さそうだが、高橋のマグナムの威力や化け物達に暴れ方によっては、それも警戒しなくてはならない。

 ザザッ!

 愛原:「誰だ!?」

 しかしそれは影だけで、姿を現さなかった。
 だが、トンネルの横坑に逃げ込んだのだけは分かった。

 愛原:「高橋!そこに逃げ込んだぞ!」
 高橋:「任せてください!」

 私は後ろを振り向いた。
 まだトンネルの入口は見えている。
 そんな所でもうクリーチャーに遭遇するとは……こりゃ想像以上の大掃除になるかもしれないな。

 高橋:「出て来やがれ、オラァーッ!!」

 高橋は非常口である横坑のドアを蹴破った。
 いや、蹴破っちゃマズいだろ、全く……。

 モールデッド?:「じょうじ?」
 高橋:「は!?」

 それは確かに全体的に黒い人型の姿をしていた。
 んでもって、確かにカビの臭いはする。

 モールデッド?:「じょうじ!」
 愛原:「り、リアルテラフォーマー!?」

 そのテラフォーマーみたいな化け物はうずくまっていたのだが、私達の姿を見つけるとすっくと立って走って来た。

 高橋:「うわ、何だコイツ!?気持ち悪ィ!」

 高橋は一気に退散した。
 確か高橋、虫が苦手なんじゃなかったっけ?
 分かっていて現れたヤツに関しては不快な顔をし、殺虫剤を両手に持って対応するが、いきなり現れたヤツに関してはフリーズしていたように記憶している。

 愛原:「おい、待て高橋!?」

 高橋が退散したのを見て私も後を追った。

 テラフォーマー?:「じょうじ?じょうじ!」

 トンネルの外に出た私と高橋は肩で息をしていた。

 高橋:「せ、先生!ゴキブリがいるなんて聞いてませんよ!?」
 愛原:「もしかしたら、人型というか、ゴキブリの化け物がいたってことか!?」
 高橋:「こりゃとんでもない仕事になりそうですよ!?」
 愛原:「問題なのは今のテラフォーマーみたいなヤツが、“テラフォーマーズ”のゴキブリみたいな強さかどうかってことだな。特殊な人体改造や訓練を受けていた隊員達でさえ、バタバタと死んでいく漫画だぞ?素人の俺達じゃ対応しきれない」
 高橋:「こりゃ一度、対応策を……って、リサがいない!?」
 愛原:「なにいっ!?バカ、お前!!リサを置いて来たのか!?」
 高橋:「先生だって真っ先に逃げてたじゃないスか!」
 愛原:「早く戻るぞ!リサを助けに!」
 高橋:「は、はい!」

 ところがそこへリサがやってきた。
 リサは鬼娘の姿になって、両手にあのテラフォーマーの生首を2つ持っていた。
 2つ!?
 やはり、どうやらいたのは一匹だけじゃなかったようだ。

 リサ:「結構弱いよ、コイツら?」
 愛原:「ええっ!?」
 リサ:「頭をゴンって叩いてやったらすぐにノビちゃったし、もう一匹も襲って来たけど、殴ったら簡単に死んじゃったし。一応、首を引きちぎって持って来た」
 愛原:「一応持って来る物じゃないからな?」

 改めてリサもBOWなんだと実感させられる。

 高橋:「な、何だ。それじゃ、これなら安心だな。弾切れにさえ気をつければ……」
 リサ:「ていうか、お兄ちゃん?」

 その時、リサが冷たい声で言った。

 リサ:「逃げたよね?逃げたらどうするんだったっけ?」
 高橋:「え、えーと……」
 愛原:「高橋、観念してリサに有り金全部渡してやれ」
 高橋:「マジっすか!?まさかのカツアゲされる側に回るとは……!」
 愛原:「悪事は必ず自分に返って来るということだな」

 とにかく、リサを連れて来て良かったと私は思った。
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“私立探偵 愛原学” 「トンネル工事現場事務所に到着」

2019-07-17 19:05:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月12日19:00.天候:雨 とある県境山中(逆女峠)・トンネル工事現場]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事の依頼を受けて、東京から車で3時間走った所にある山あいの峠を訪ねた。
 この峠は冬期通行止めになる険しい峠で、既存の道路は先述の通り、貧弱なものであった。
 しかしながら物流や行楽の円滑化を図る為、新道並びに峠を穿つトンネルの工事が行われている。
 新道は順調に峠まで工事が進んだようだが、問題はトンネル。
 トンネルの長さは数キロにも及ぶ長大なものになるとのことだが、中間辺りで怪奇現象が多発するようになったという。
 例えばトンネルに入った作業員の数と出て来た作業員の数が合わないとか……。
 あとは幽霊の目撃例が多数発生しているとか、そんな感じだ。
 そんな調査を引き受ける探偵会社などあるわけもないが、そこを私達が引き受けたというわけだ。

 高橋:「先生、ナビだとそろそろですよ」
 愛原:「そうだな」

 オレンジ色のセンターラインが引かれた道路は舗装が古い。
 途中までは広くて新しいバイパスができていたのに、峠の手前で現道に強引に引き込まれてしまった。
 つまりトンネルが開通するまでは、この道も新しくできないのだろう。
 その峠も特にカーブの所でタイヤ痕が無数にあったり、ガードレールが壊れていたりとヒドい有り様だ。
 まるで廃道のようであるが、しかしトンネルが開通するまでは現道のはずなのだ。
 しかし、私達はこの峠に向かう道路に入ってから、ただの1度も対向車とすれ違うことは無かった。
 何故ならこの峠、名前を逆女峠(さかさおんなとうげ)という。
 何でも江戸時代、この峠の中間地点には一軒の宿屋があったそうだが、そこの女将というのが妖怪・逆さ女を正体とし、宿泊した旅人の男達を天井にぶら下がって物色してはその肉棒……もとい、肉を食らっていたという伝説がある。
 その後、逆さ女は旅の侍に返り討ちにされたものの死に切れず、再び復活して旅人を襲っていたが、今度は旅の僧侶に法華経の力を持って調伏され、ついにこの世から姿を消すことになったのだという。
 だとしたら、この峠の名前は逆さ女を退治した英雄たる僧侶の名前から取っても良さそうだが、その僧侶が固辞したか、或いはそれでも逆さ女による恐怖の方が勝っていたのかもしれない。
 で、この峠を越えると、あの霧生市になるのだ。
 後で知ったことだが、確かに私達が霧生市を訪れた時は大雨であった。
 この峠の先には川が流れているのだが、その川が大雨で増水し、老朽化していた橋が流されてしまったそうである。
 元々こちら側は大雨に警戒して道路が通行止めになっていたので、それによる被害は無かったのだが、不幸中の幸い、橋が流されたおかげでゾンビやクリーチャーが橋を渡って隣町までやってくることはなかったというわけだ。
 但し、足止めをされてしまった霧生市からの避難者はゾンビ達に捕まって食い殺されてしまったそうだが……。

 愛原:「! 高橋、あそこ!」

 私は左前方を指さした。
 舗装がいきなり真新しくなったかと思うと、現道は真っ直ぐ行くのに、それだけは左折するようになっている。
 恐らくそれがトンネルへのアクセス道路なのだろう。
 そこはバリケードがしてあったのだが、監視小屋からヘルメットを被った警備員が出て来た。

 警備員:「探偵の愛原様ですか?」
 愛原:「はい、愛原です」

 私が助手席から名刺を出すと、警備員は大きく頷いた。

 警備員:「監督から聞いております。この道を真っ直ぐ行かれまして、右側に工事事務所がありますので、そちらまでお願いします」
 愛原:「分かりました」

 そう言うと警備員は可動式のバリケードを退かしてくれた。

 愛原:「よし、行こう」
 高橋:「はい」

 私達は真新しい舗装の道路に足を踏み入れた。
 それまでは大型車同士がすれ違おうとすると減速しなければならないくらい狭い道路だったが、ここは白いセンターラインになっており、道幅も広くなっていた。
 大型車同士であっても余裕ですれ違えるほどだ。

 高橋:「先生、あのプレハブのことですかね?」
 愛原:「そうだろうな」

 入口にいた警備員の言う通り、右側に2階建てのプレハブ小屋がいくつか建っている箇所を見つけた。
 実際入口まで行くと、『妖伏寺トンネル(仮称)工事事務所』と書かれていた。
 ん?逆女峠に穿つトンネルだから、つい私は『逆女トンネル』という名前になるものと思っていたが、違うのだろうか?

 山辺:「愛原さんですか?」

 私達の車に気づいたのか、プレハブ小屋の1つから作業服姿の中年男性が現れた。
 年の頃は50歳くらい。
 頭のハゲた気のいいおっちゃんといった感じだ。

 愛原:「はい。東京から来た愛原です」
 山辺:「お待ちしてました。私、現場監督の山辺です」

 車を止めて降りると、雨が降り出して来た。

 愛原:「うわ、降って来た。やっぱり持たなかったか……」
 高橋:「しょうがないですよ。梅雨ですし……」
 山辺:「ん?このコは……?」

 山辺監督はリサに気づいて、不思議そうな顔をした。

 愛原:「ああ、すいません。これでもうちの事務所のコなんです。よくテレビなんかでも、少年探偵団とかいるでしょう?」

 私は取り繕うように笑ったが、山辺監督は不審そうだった。

 愛原:「とにかく、詳しいお話を伺いましょう」
 山辺:「どうぞ、中へ」

 山辺監督は私達を事務所の中へ通した。
 こういう所でも応接セットが用意された空間はあるもので、そこへ通された。

 山辺:「どうぞ。よろしかったら、一服でもしながら……」
 高橋:「ヘヘ、それじゃお言葉に甘えまして……」

 高橋は煙草に火を点けた。
 最近のレンタカーは禁煙車が多く取り扱われており、高橋が借りて来た車もそうだったので、車内ではタバコが吸えなかった。
 山辺監督も愛煙家なのか、やっぱりタバコに火を点けている。
 自分が吸いたいだけだったか、もしかして?
 リサはもちろん、私も禁煙者なので副流煙を吸い込むことになる。

 愛原:「俺は許可してないからな?w」
 高橋:「ああ゛っ!すす、すいませんっしたーっ!!」
 愛原:「別にいいよ」
 山辺:「面白いですね」
 愛原:「事務所じゃ、いつもこんな感じです。それで、仕事の話ですが、何でもお化けが出るとか……」
 山辺:「笑っちゃう話でしょう?でも、本当の話なんですよ」
 愛原:「分かります。特にこの辺は、あの山を越えれば、あの霧生市ですからね。町から出ようとして豪快に挫折した化け物が潜んでいてもおかしくはありません」
 山辺:「やっぱりそうですか。何でも愛原さんは、その霧生市が化け物だらけだった所から見事に生還されたとか……」
 愛原:「そうです。いや、あれは地獄でしたよ」

 日蓮正宗では現世は地獄界ではないという。
 しかし、私はこの現世も八大地獄とまでは行かなくても、それらに付随するとされる十六小地獄のいずれではないかと思っている。

 愛原:「それにても、逆女峠……でしたっけ?その迂回トンネルの工事なのに、名前が何とかというお寺から取っているみたいですが……」
 山辺:「ええ。位置的には、逆女峠からはだいぶ離れています。愛原さん方は、この峠に来られる際、麓にお寺があったのを覚えてますか?」
 愛原:「あ、そういえばあったような……。そのお寺の名前から取ったわけですか」
 山辺:「ええ。あの峠には逆さ女という人喰い妖怪がいたそうなんですが、それを退治した旅のお坊さんがいたそうです。喜んだ村人達が、そのお坊さんの為にお寺を建立して寄進したそうです。そのお寺の名前というのが、『怪を調してくれたお坊さんのいる』という意味で、『妖伏寺』という名前になったそうです」
 愛原:「へえ……」

 とはいえ、私達はその江戸時代のお坊さんみたいに神通力は持っていないので、妖怪(クリーチャー)退治のヒントにはならなさそうだな。
 もっとも、逆さ女とは私と高橋は一戦交えている。
 もちろん、江戸時代に現れたという妖怪としての逆さ女とはだいぶ毛色は違うだろうが、しかし天井からぶら下がって人間を食らうという化け物女という点においては一致している。
 それがあのトンネルの中にも出るというのなら、少し厄介だな。
 私は山辺監督からの話を聞きながらそう考えていた。
 
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“私立探偵 愛原学” 「夕方の出発」

2019-07-15 20:48:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月12日16:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はいよいよ出発の日だ。
 クライアントの依頼で、霧生市まで行って来る。
 正確に言えば霧生市の隣町のトンネル工事現場である。
 しかしながら山1つを隔てただけの町であり、よくゾンビやクリーチャーが山を越えて行かなかったものだとつくづく思う。
 そんな町に行こうとしている。

 高橋:「先生、お待たせしました」

 高橋がレンタカーショップで、日産NV200バネットを借りて来た。
 事務所の裏に車を止める。

 愛原:「おう、ご苦労さん」
 高橋:「運転も俺に任せてください」
 愛原:「大丈夫か?煽り運転禁止だぞ?」
 高橋:「分かってますって」
 愛原:「早いとこ荷物を積み込もう」
 高橋:「はい。……リサはどうしました?」
 愛原:「学校から帰って来て、制服から私服に着替えさせている所さ。クリーチャーに対して『リサ・トレヴァー』であるところの脅威を見せてもらう為に、あの時着ていたセーラー服と仮面でも着けてもらいたいところだ」
 高橋:「逆に俺達が危なくないスか、それ?」
 愛原:「冗談さ。だけど仮面の方は制御装置の意味合いもあるらしいので、それは必要じゃないかなと思ってる」

 と、そこへ……。

 リサ:「お待たせ」

 リサがやってきた。

 高橋:「遅かったじゃねーか。先生を待たせてんじゃねーぞ、コラ」
 愛原:「そういう高橋も、今来たところだろうが」
 高橋:「サーセン」
 愛原:「仮面は持って来たか?」
 リサ:「うん」
 愛原:「セーラー服は着てこなかったか」
 リサ:「着てみたら少しキツかった。私、太った?」
 愛原:「違うよ。体が成長してるんだよ。初めてリサと会った時、いくつだった?」
 リサ:「確か、12歳くらい……」

 あれから1年半くらい経っている。
 成長期の子にあっては、十分なギャップだろう。
 アメリカにいたオリジナル版は14歳でクリーチャー化したものの、実年齢(40代半ばから後半くらいらしい)に見合わず、肉体は殆ど老化していなかったという。
 ここにいるリサはそのウィルスを更に改良したものを投与した派生版ということだが、基本は同じである為、リサももしかしたら不老不死くらいの勢いなのかもしれない。
 にも関わらず、肉体の成長は常人と同じようだ。
 もしかしたら派生版というのは、オリジナル版より人間の面影を残す為に却って弱体化しているのかもしれない。
 いや、よくは分からないが。

 愛原:「それじゃしょうがないよ。正直な話、リサ、少し背が伸びたぞ?」
 リサ:「ほんと!?」
 愛原:「ほんとほんと。高橋もそう思うだろ?」
 高橋:「それはまあ、そうですけど……」

 その時、高橋の脳裏にフラッシュバックが……。

『背が伸びたなぁ、お前』
『お兄ちゃんより高くなるかもね!?』
『アホかw』

 愛原:「どうした、高橋?」
 高橋:「あ、いえ、何でも……」
 愛原:「いいから早いとこ荷物を積み込んで出発しようよ?殆どがお前の秘密兵器だぞ?」
 高橋:「あ、はい。サーセン」

 ぶっちゃけ、職務質問でも受けて車の中を詮索されたらヤバそうなものを高橋は積み込んでいたが。

 高橋:「大丈夫です。これらの銃はモノホンではありませんので」

 とか言ってるが、実態は【お察しください】。

 高橋:「全部アキバで調達したものです」
 愛原:「それを違法改造したってわけか」
 高橋:「そこは【お察しください】」
 愛原:「全く……。あ、リサ。お前は車に乗ってていいぞ。リアシートでいいか?」
 リサ:「うん」

 高橋が借りて来たのは5ナンバーのワゴンタイプだった。
 タクシーで使われるタイプだと言えば分かるだろう。
 但し、本当のタクシー仕様ではないので、車椅子を乗せられるリフトが付いているわけではない。
 車高の低いライトバンと比べれば積み込めるスペースは大きいので、高橋の秘密アイテムの数々が乗せられるわけだ。

 高橋:「お待たせしました。それでは行きましょう」

 高橋はバンッとハッチを閉めると運転席に乗り込んだ。

 愛原:「一応、ナビはセットしておいた」
 高橋:「さすが先生!あざっす!」
 高野:「気をつけて行って来てくださいね」
 愛原:「ああ。事務所の方はよろしく」
 高野:「この前の時みたく、関係無さそうに見えて実はバイオハザードだったってこともありますから。ましてや今度の行き先は、あの霧生市との市境ですからね」

 バイオハザードに直面しそうな町でありながら、現場自体は無関係だったら楽なんだけどな。

 愛原:「こっちにはトゥルーエンドを迎えた高橋と、ラスボスを張れる勢いのリサがいるから大丈夫だ」
 高橋:「先生のおかげです」
 リサ:「元ラスボスの意地、任せて」
 高橋:「『元ラスボス』って……。ガチの御本人が言うことじゃねーからな?」
 愛原:「リサ、ちゃんとシートベルト締めてな?」
 リサ:「はーい」

 どんな大事故でも恐らくリサだけは生き残るだろうが、さすがに道路交通法ってもんがあるからな。

 高橋:「それじゃ出発していいっスか?」
 愛原:「頼むよ。安全運転でな?」
 高橋:「任せてください」

 高橋は車を走らせた。

 高橋:「高速行きますよね?」
 愛原:「当たり前だよ。高速で行っても2〜3時間掛かる距離だぞ?高速代とかも、ちゃんとクライアントに請求するから。そういう契約になってるからな」
 高橋:「サーセン。いや、ナビが『一般道優先』になってたもんで」
 愛原:「あ、マジで!?ゴメン、俺がミスってた」

 私は急いで『高速優先』に設定を変えた。

 愛原:「これで大丈夫だ」
 高橋:「了解です。あとは俺に任せてください」
 リサ:「夕ご飯はどうするの?」
 愛原:「途中で食べるさ。高速のサービスエリアか、パーキングエリアにでも止まった時でいいだろう」
 高橋:「どこのパーキングがいいか、先生の指示でお願いします」
 愛原:「分かったよ。リサもトイレとか行きたくなったら言ってくれよ?」
 リサ:「うん、分かった」

 こうして私達は夕方の都道を、まずは首都高速目指して走った。
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“私立探偵 愛原学” 「仕事の依頼」

2019-07-14 20:49:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日09:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原:「ここ最近ずっと曇や雨のせいか涼しいな」

 私はそう呟きながら事務所の窓を開けた。
 確かにそんなに暑くはないものの、ムワッとした湿気が事務所の中に入って来る。

 高野:「先生。不快指数が上がりますので、エアコン使って下さいな」
 愛原:「あ、はい」

 私は窓を閉めてエアコンのスイッチを入れた。
 まあ、確かにこちらの方が涼しくて良い。
 電気代は掛かるが。

 愛原:「それよりどうする?この仕事、引き受けるか?」
 高橋:「俺は先生のご判断に従います」
 高野:「私としては仕事を受けて下さった方が事務所の財政が良くなって助かるんですけども」
 愛原:「分かった分かった」

 怪しい仕事であっても引き受けなければならないところが、零細事務所の弱い所だ。

 高橋:「結局、どういう仕事なんですか?」
 愛原:「工事中のトンネルを調べて欲しいんだと」
 高橋:「トンネル!?」
 愛原:「そう。何か出るらしい」
 高橋:「それ、メチャクチャホラーっすよ!?マジで言ってんスか!?」
 愛原:「それがマジなんだな。怖いか?」
 高橋:「先生、何言ってんスか?俺らはあの地獄の霧生市から生還したんスよ?今更幽霊くらい怖くないっスよ」
 愛原:「それは頼もしい。それじゃ、引き受けるという返事をボスにするからな」

 私はファックスに仕事を引き受ける旨の文章を書いて、探偵協会に返信した。
 返信先がそこなのだから、ボスはやはり探偵協会の人なんだろうか。

 高野:「それじゃ今日の予定ですが、特にありません」
 愛原:「マジかよ。浮気調査と身辺調査とかでも来てないの?」
 高野:「それくらいうちでなくても、他の事務所に依頼が行ってしまうんですね」
 愛原:「全く。リサの面倒を看るという契約が無かったら、とっくにうちは潰れてるな」
 高野:「いや、全くですよ」

 そこへ事務所に電話が掛かって来た。

 愛原:「ああ、いいよ。俺が出る」

 私は電話に出た。

 愛原:「はい、愛原学探偵事務所です」
 依頼人:「あ、あの、所長さんですか?」
 愛原:「はい。所長の愛原と申します」
 依頼人:「あの、私、トンネル工事会社の現場責任者の者ですが……」
 愛原:「ああ、クライアントの方ですね。当事務所を御指名頂き、ありがとうございます」
 依頼人:「変な依頼で申し訳ないんですが、お引き受け下さるということで、よろしくお願いします」
 愛原:「いえ、とんでもない。こちらこそ、よろしくお願いします。御依頼の詳しい内容や契約のことについてお話させて頂きたいんですけれども、そちら様の御都合は如何でしょうか?」
 依頼人:「昼間の作業が終わった後でしたら、いつでも結構です」
 愛原:「了解しました。それでは早速今日、お話を伺いましょう」
 依頼人:「もう引き受けて下さるんですか?」
 愛原:「ええ。こちらはヒマでしょうがない……もとい、予定が空いておりますので」
 依頼人:「そうですか。それじゃ、すぐ本社に言って、本社の人間にそちらの事務所に行くよう伝えておきます」
 愛原:「ありがとうございます。……それでは、よろしくお願いします」

 私は電話を切った。

 愛原:「どうやら協会からクライアントの所に電話が行ったらしい。喜んで電話掛けて来たよ」
 高野:「よっぽどお困りのようですね」
 高橋:「先生、思いっ切り足元見れますよ、それ」
 愛原:「こら、高橋」

 とはいえ、相手は大手ゼネコン。
 高額の依頼料は期待できそうである。

[同日13:00.天候:雨 同事務所]

 午後からついに雨が降ってきた。

 高橋:「先生、ついに雨降って来ましたよ」
 愛原:「そうか。洗濯物は大丈夫か?」
 高橋:「俺はいつも休みの日にやってますから。夜やる時は乾燥機使ってますんで」
 愛原:「それもそうだな」

 リサも最近は高橋の家事を手伝うようになってきた。
 1番最初にやり始めたのが洗濯。
 段々と自分の服や下着を洗ってもらうことに抵抗を感じるようになってきたのだろうか。
 自分の部屋も自分で掃除するようになってきた。
 学校で誰かに言われたのか、はたまた本当に自主性でやっているのかそれは分からない。
 因みに服とかは同級生と一緒に出掛けたり、或いは高野君の買い物に付き合ったりしている時に買っているようだ。
 小遣いは善場氏が所属する部署から出ている。
 その時、事務所の外にあるエレベーターが到着する音がした。
 幸いエレベーターはチャイムが鳴ったり、音声ガイド付きなので、事務所が静かだとすぐに分かる。

 高野:「どうやら大手ゼネコンの担当者が来られたみたいですね」
 愛原:「どれ、ちゃんと話を進めなきゃな。高橋、失礼の無いようにしろよ?」
 高橋:「はい!」

 私は高橋にスーツを着させたのだが、どう見ても裏稼業の人のようになってしまう。
 明るくさせようとするとホストになり、シックに決めさせようとすると、どこかの組の人のように見えてしまう。
 やはり、10代の時に矯正施設や更生施設に入り浸っていた人間は違うな。

[同日15:00.天候:雨 同事務所]

 約2時間の話を終えて、大手ゼネコンの担当者達が帰って行った。

 愛原:「おいおい、場所があの霧生市の近くかよ……。何かヤバくね?」
 高橋:「確かにあそこなら、化け物が出てもおかしくはないでしょうねぇ……」
 高野:「でも、霧生市は今でも自衛隊が直に閉鎖と警備に当たっているわけでしょう?化け物が町から出ようとすると、すぐに射殺されると思いますけど」

 そこが福島第一原発と違う所である。
 霧生市は未だに化け物が跋扈している町だというイメージが付いてしまっている。
 それは私達が政府関係者と一緒に荒廃した市内を探索している時、自衛隊や在日米軍の掃討作戦から逃れたゾンビが未だに生き残っていたことが世間を震撼させた。
 もっとも、『歩く死体』が『まだ生き残っている』という日本語もおかしいとは思うが。

 愛原:「ま、行ってみないと分からないさ」

 本当は今夜にでも行ってみたいところだが、場所が場所なだけに周到な準備をしておく必要がある。
 これは本当にリサの出番かもしれない。
 だから私達が行動するのは、今週末ということにさせて頂くことにした。
 金曜日の夜ならリサもとっくに学校から帰って来てるし、『強力な武器』も揃えられると思ったからだ。

 愛原:「そういうわけだ。高橋、準備の方よろしくな?」
 高橋:「はい!任せてください!」
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“私立探偵 愛原学” 「朝の一時」

2019-07-12 21:01:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日07:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 枕元の目覚まし時計がけたたましいベルを鳴らす。

 愛原:「うーん……」

 私は手を伸ばして目覚まし時計を止めた。

 愛原:「もう朝か……。あの仕事の依頼、どうしようかなぁ……」

 そんなことを考えていると、ふと布団の中がゴソゴソ動いた。

 愛原:「……って、うぉっ!?リサ!またか!」

 私が掛け布団を跳ね上げると、リサが中にいた。
 頭に角を2本生やし、体の色も赤銅色に変化した“赤鬼娘”の姿で……。
 これが適度に力を解放し、落ち着く形態なのだという。
 私はこれを『第一形態』と呼んでいる。
 因みに、完全に人間の姿に戻る時は『第0形態』と呼ぶ。

 リサ:「お腹空いたら、いつの間にか愛原さんのベッドの中に潜り込んでた」
 愛原:「俺を食う気か!」
 リサ:「お腹空いた……」
 愛原:「分かった分かった。高橋が朝飯作ってるだろうからもうちょっと待て」

 このままでは本当に私が食い殺されてしまう。

 リサ:「お腹空いた……」

 リサは足を崩し、右手の指を噛んで目を潤ませた。
 もしかして、空腹というのは性的な意味で!?

 リサ:「お腹一杯にさせて……?」
 愛原:「早く着替えて朝飯だ!」

 私はリサを追い出すと部屋の鍵を掛けた。
 部屋の鍵を掛けるのを忘れてしまっていたか。
 もっとも、リサが本気を出せばドアを破ることなど容易いことだろう。
 そう言えば中学生と言えば、とっくに異性を意識する年頃だ。
 リサの中学校は共学校だから男子生徒もいるはずだが、リサに告るヤツとかいないのだろうか?
 あ……いや、1人いた。
 だが残念なことに、それは斉藤絵恋さんという女子生徒であるのだ。
 善場氏からはリサの恋愛に関して、特に禁止命令は聞いていない。
 むしろ政府関係者や研究者からは、恋愛感情における形態の変化という実験でもしたいのではなかろうか。
 少なくともムラムラしている時点では、せいぜい第一形態が……って!
 学校でムラムラして第一形態にでもなったら大騒ぎだぞ!?大丈夫なんだろうか。

 高橋:「先生!大丈夫ですか!?」

 そこへ高橋が飛び込んで来た。

 愛原:「あ、いや、大丈夫だ」
 高橋:「リサのヤツ、先生に何てことを……!」
 愛原:「言っておくが、マグナム程度では効かないからな?」
 リサ:「ううん。愛原さんの『マグナム』なら効くと思う」

 リサは私の下半身を指さして言った。

 愛原:「やめなさい!そういう言葉、どこで覚えて来るんだ!?」
 リサ:「学校で男子達が喋ってた」
 愛原:「なにぃっ!?」

 しかし、高橋は意外にも大きく頷いた。

 高橋:「そういうのを勉強するのも、中学校って所です。そして、それを実践するのが高校という所……」
 愛原:「高橋はちょっと黙っててくれ。リサ、取りあえずその男子達が喋っていたこと、一旦全部リセットしようか?」
 リサ:「うん?どうして?」
 愛原:「そ、それは……」
 高橋:「先生の御命令だ!文句あっか!」
 愛原:「そ、そう。俺の命令……じゃダメかな?」
 リサ:「うん、分かったっ!愛原さんの言う事なら何でも聞く」
 愛原:「そ、そうか。偉いぞ」

 私は取り繕うようにリサの頭を撫でた。
 その時、角にも触れたが、角は想像していたよりも柔らかく、まるで軟骨のようだった。
 これが第二形態、第三形態とかになると触手が生えてくるんだっけか。
 そして最終形態は、もはや原型を留めないほどの化け物と化すと……。
 今はまだ一応、誤魔化せる姿形ではあるが……。

 愛原:「じゃあ、早速朝飯にしようか。高橋、飯できてる?」
 高橋:「バッチリです!今日はベーコンエッグにキャベツ、御飯と味噌汁です」
 愛原:「和洋折衷だな。だが、それもいい。リサ、取りあえず食べるぞ」
 リサ:「はーい……」
 高橋:「おい、学校で女子達とは喋んねーのか?」
 リサ:「喋る」
 高橋:「エロい話とかしねーのか?」
 リサ:「しようとすると、何故かサイトーが割って入って来る」
 高橋:「先生、普通は女子もこの時くらいにオ○ニーを他のヤツから聞いたりするものです。リサのヤツ、ムラムラしてもオ○ニーの方法を知らないが為にあんなことになるんですよ」
 愛原:「お前も朝から堂々とそういう話をするなぁ。てか、何でそんな話知ってるんだよ?」
 高橋:「俺がゾッキーやってた頃、仲間内の女がそう言ってたんです」

 今は暴走族も数少ない集団になり、多くは解散したが、残りは旧車會として残ったり、半グレになったりしている。
 昔の暴走族は男女別れているのが普通だったが、今は男女混合になることもしばしばのようだ。

 高橋:「あの女に邪魔させず、リサも自然と他の女子達の輪に入れば先生を襲うことも無くなりますよ」
 愛原:「対策が分かっても、俺達じゃ何にもできないだろう」

 と、その時、リサのスマホが鳴った。

 リサ:「あっ、食事中……」
 愛原:「いいよ。電話は急用だろうから出て」
 リサ:「うん」

 食事中のスマホ禁止を私が命令した経緯がある。
 高橋もそんなことしていたので、私が一斉に注意した。

 リサ:「はい、もしもし?……あ、はい」

 恐らく相手は噂をすれば何とやらで斉藤さんかと思ったのだが、どうやら違うようだ。
 学校からの連絡網だろうか?

 リサ:「……分かりました。それじゃ、お大事に」

 リサは電話を切った。

 愛原:「誰からだった?」
 リサ:「サイトーの所のメイドさん。サイトー、今日は具合悪いから休むって」
 愛原:「ほお。そりゃ心配だなぁ……」
 高橋:「生理にでもなったんですかね?」
 愛原:「オマエ、特異菌に感染してから少し変わったな。以前なら、『リサが何か感染させたんじゃないですか』とか言いそうなのに」
 高橋:「昔の俺とは違います」
 愛原:「その程度の違いで済むならいいんだけどな」

 私は味噌汁をズズズと啜った。
 少年刑務所で習ったとされる料理のスキルについては、感染後も大して変わっていない。
 さて、事務所に行ったら仕事を受けるかどうか決めないとな。
コメント (2)
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