報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「最終電車」 北海道新幹線

2017-08-10 15:47:06 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月31日18:30.天候:晴 JR新函館北斗駅・北海道新幹線ホーム]

 上りの東京行き最終列車“はやぶさ”38号が11番線に停車している。
 敷島はホームに降りて、自分のスマホで会社に電話していた。
 バックボーンである事務職は既に就業時間は過ぎているのだが、ボーカロイド達は『倉庫』に保管しているからだ。

 鏡音リン:「ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われてませんYo〜!」
 敷島:「そうか。そいつは残念だ。また後で掛けるとしよう」
 リン:「どわわーっ!?社長!?」
 敷島:「仕事は終わったのか?」
 リン:「うん!あのねあのね、リン頑張ってるYo!今日はねぇ、新しいCDジャケの撮影したんだYo!リンも夏真っ盛りのきわどいビキニ着たからね!」
 敷島:「(白と黄色のチューブブラに、せいぜいデニムのショートパンツを上にはいてるってとこか……)そうか、そりゃ感心だなぁ。後で頭を撫でてやろう」
 リン:「エヘヘ……」
 敷島:「事務所には他に誰もいないのか?井辺君とかは?」
 リン:「IP君(リンの井辺に対する新しいニックルネーム。Inobe Producerから)ね、めーりん(MEIKO)とりりん(Lily)の仕事に立ち会ってるよ」
 敷島:「そうか。新しいユニットを組んだって聞いたな。それまでの枠に囚われない、新しい流れか。四季エンタープライズのノリだが、悪くは無いのか」
 リン:「そうだね!……おっと!ちょっとちょっと……」
 敷島:「ん?どうした?」

 電話の向こうで何かあったようだ。
 そこへ、こちらも12番線に下り列車が到着したことで、急に賑やかさが増す。

 初音ミク:「あ、あのっ、たかおさん……!」
 敷島:「おっ、ミクか。北海道では色々ありがとうな」
 ミク:「いえ。今、帰ってらっしゃるところなんですか?」
 敷島:「ああ。今、新函館北斗駅だ。これから新幹線に乗って帰るよ。といっても、終電だから着くのは夜になるからな。取りあえず今日は家に帰るから、明日そっちに顔出すよ」
 ミク:「はい。お待ちしてます……」
 敷島:「じゃあな」

 敷島はピッと電話を切った。
 下り列車の乗客達が在来線乗り換え改札口へと殺到する為、それと直結している11番線ホームも賑やかになる。

 敷島:「増えたなー、メイドロイド」

 メイドロイドの多くは、メイド服を着ているのですぐに分かる。
 敷島がグリーン車の9号車に戻ると、既に隣に座っているアリスが弁当を食べていた。

 敷島:「もう食ってるのか」
 アリス:「お腹空いたんだもん」
 敷島:「食ってる割には、太らないのが助かるけどな」
 アリス:「科学館の地下に、フィットネスルームができたの。それで運動もしてるしね」
 敷島:「金持ってんなぁ、DCJ……」

 エミリーとシンディは、通路を挟んで隣の席に座っている。
 座席のコンセントにコードを繋いで充電をしていた。

 敷島:「まあいいや。俺も食うか」

 敷島はホタテやイクラなどの海産物をふんだんに使った駅弁の蓋を開けた。

 敷島:「あー、そうか」
 アリス:「なに?」
 敷島:「この前、アメリカに行った時さ……。せっかくだから、向こうの列車に乗ってみても良かったな」
 アリス:「アムトラック?」
 敷島:「そう、それ。駅弁はやっぱりデッカいステーキでも入ってるヤツとか……」
 アリス:「え?そんなの聞いたことないよ」
 敷島:「ん?」
 アリス:「いや、だからアメリカじゃ、こういうの売ってないって」
 敷島:「そうなのか!」
 アリス:「駅弁が無い代わりに、向こうはダイニングカー(食堂車)があるけどね」

 日本では食堂車が廃止された代わりに、駅弁が充実化した。
 大陸などの長距離列車は本当に乗車時間が長い為、2食以上分の食料は確保しなくてはならない。
 その為、一食分だけの駅弁だけでは却って効率が悪い。
 そういう場合、食堂車の方が良かったりする。

 そういうことを話しているうちに、当日最終の東京行きが発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR北海道をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は北海道新幹線、“はやぶさ”号、東京行きです。次は、木古内(きこない)に止まります。……〕

 敷島:「いいか?次の木古内駅をよしんば通過したら、まずは最後尾の乗務員室を目指すぞ」
 アリス:「また夢の話?いい加減にしてよ」
 シンディ:「大丈夫ですよ、社長。今回は私達がいますから。いざとなったら、私達が何とかしますわ」
 敷島:「そうだな。お前達がいれば、ドアもこじ開けられるし、列車も強制停車させられるだろう」
 シンディ:「はい、お任せください」
 アリス:「エマージェンシーの時だけにしてよ、それは」

 駅弁を食べ終わったアリスは、ペットボトル入りの紅茶を飲んだ。
 偏見かもしれないが、コーラより紅茶を飲みたがる辺りから、やはりアリスはイギリス出身ではないかと思う敷島だった。

[同日18:49.天候:晴 JR北海道新幹線“はやぶさ”38号9号車内]

 外はだいぶ暗くなってきた。
 いかに夏とはいえ、さすがにもう暗くなる時間だろう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、木古内です。道南いさりび鉄道線は、お乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。木古内の次は、奥津軽いまべつに止まります〕

 列車が速度を落として行く。
 東京行き最終列車ということもあり、北海道新幹線内は各駅に止まる列車である。

 敷島:「通過したらお前達の出番だぞ」
 エミリー:「はい!」
 シンディ:「お任せください!」
 アリス:「タカオの精神世界では、クルーもアナウンスも無いミステリートレインだったわけでしょう?これは違うわよ」

 アリスは呆れた顔をした。
 因みに先ほど、ちゃんと車掌が巡回に来たし、新函館駅で乗り込む際にアテンダントの姿も見えた。
 尚、昔はグリーン車にもシートサービスがあったのだが、今はグランクラスのみとなっている。

 で、ちゃんと列車は木古内駅に停車した。

 アリス:「ほら、見なさい。ちゃんと止まったでしょ?」
 敷島:「いや、これはほんの序の口だ。大宮駅を通過したら……」
 アリス:「シンディ、ちょっと頭に電気ショックが必要かもよ、こいつ」
 シンディ:「かしこまりました」
 敷島:「こらこらこら!」

 楽しい上りの旅を満喫しているようである。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「上りの旅」 3

2017-08-10 12:39:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[月日不明 時刻不明 天候不明 東京都江東区東雲 マンスリーマンション]

 敷島:「お?今日はシンディが俺の当番か」
 シンディ:「はい。姉さんがオーバーホールに入りましたので、私が代理です」
 敷島:「まあ、以前はお前がメインだったんだがな。それにしても珍しいな。お前がゲームやってるなんて。リンとレンはよくやってるけど」
 シンディ:「ええ。そのリンから借りてきました」
 敷島:「で、何のゲーム?」
 シンディ:「“スーパーロボットハンター”です」
 敷島:「自虐か!」
 シンディ:「いや、別にそこは所詮ゲームですから」
 敷島:「お、気持ちいいくらいにスッパリだな」
 シンディ:「割り切りは現代社会に必要なアイテムです。姉さんもそのように言ってましたし」
 敷島:「さすがは同型の姉妹機だな。設定された性格は違うものの、思考は同じか」
 シンディ:「それに、プレイヤーの名前を社長にしていますので、ダメージを与える度に私を攻めて下さっているような気がして……」
 敷島:「高度なマゾプレイだな!……てかお前、本来は完璧なドSだろ?本当ならプレイヤーの名前はお前自身にして、あのザコロボット達をブッ壊して行くのがセオリーだろうが。……あっと、そこでボス戦か。ボスは何だ?……あー、人間型のロイド。……うーむ、金髪ロングに碧眼の所がお前そっくりか……」
 シンディ:「そうなんですよ!セーブしてやり直しして、何度もヤッてるんです!」
 敷島:「無限ループか!」
 シンディ:「な、何とも言えない快感が……」

 と、プレイヤーキャラ、ボスの女ロイドから顔面に銃撃を受ける。

 シンディ:「下等で愚かなロボットよ!社長の顔に傷を付けるとはいい度胸だ!その罪、鉄塊と化して償うがいい!!」

 シンディ、両目をギラリと鋭く光らせる。

 敷島:「おい!いきなりキャラ変えるな!……つか、俺じゃねーし!」
 シンディ:「何でしたら現実に嬲って頂いても構いません。いや、むしろお願いします。さあ、この電気鞭で私を引っ叩いて!」
 敷島:「だが断る!」
 エミリー:「ちょっと待った!」

 エミリー、玄関のドアを蹴破って入って来る。

 エミリー:「社長、シンディは所詮私の代理!今しがた研究所で、私用の電気鞭を作ってもらいました!私から先にこれで引っ叩いてください!」
 シンディ:「ダメ!私が先よ!」
 エミリー:「社長!これで私を!」
 シンディ:「私にはローソクを垂らして頂いても構いませんわ!」
 エミリー:「ならば私は亀甲縛りを!」
 シンディ:「さあさあ!」
 エミリー:「さあさあ!」
 シンディ:「さあさあ!」
 エミリー:「さあさあ!」
 敷島:「わーっ!」

[7月31日18:05.天候:晴 JR函館本線特急“スーパー北斗”16号3号車内→JR新函館北斗駅]

 敷島:「わっ!」

 そこで目が覚める敷島。

 アリス:「びっくりした。なに?どうかした?」

 隣の席に座るアリスが目を丸くして敷島を見た。

 敷島:「戦ってる夢を見た。丸腰なのに、クソ化け物のように強いロボット2機に追い詰められて……」
 アリス:「もうKR団は完全に崩壊したわ。KR団と手を組んでいた極左ゲリラとか、国際テロ組織も次々摘発されてる。だからもう何も心配することも無いのよ」
 敷島:「あ、ああ。そうだな」

〔♪♪♪♪。まもなく新函館北斗、新函館北斗に到着致します。北海道新幹線は、お乗り換えです。新函館北斗の次は、五稜郭に止まります〕

 アリス:「ちょうどそろそろ駅に着く頃ね。良かったわね。シンディに起こされなくて」
 敷島:「なに?」
 シンディ:「社長、奥様が私に、『普通に起こして起きなかったら、電気ショックで起こせ』との御命令でした」
 敷島:「殺す気か!」

 エミリーは荷棚に置いたキャリーバッグを軽々と下ろした。
 その際、左手からギギギと金属の擦れる音がする。

 敷島:「エミリー、左腕どうした?」
 エミリー:「中の部品が……」
 アリス:「動き自体は悪くないみたいね。分かった。明日、診てみましょう」
 エミリー:「お手数お掛けします」
 敷島:「それじゃ、しょうがないから、明日はシンディが代わりに俺と来てもらおう」
 シンディ:「かしこまりました」
 敷島:「あくまでエミリーの代理だから……あれ?」
 シンディ:「どうされました?」
 敷島:「いや……」

 一瞬、敷島の頭の中で、先ほどの夢がフラッシュバックで蘇った。
 列車が在来線ホームに滑り込む。

〔「ご乗車ありがとうございました。新函館北斗、新函館北斗です。北海道新幹線ご利用のお客様は、乗り換え改札口をご利用ください。東京行きの最終列車に接続しております。お乗り換えのお客様は、お乗り遅れの無いようお気をつけください。……」〕

 ここで降りる乗客は多い。
 もちろん、目当ては北海道新幹線だ。

 アリス:「ここで途中下車はしないの?」
 敷島:「しねーよ」
 アリス:「でも、お腹空いたんだけど」
 敷島:「車内で弁当のサービスが……ああっと!グリーン車は無いのか。グランクラスだけだ」
 エミリー:「シンディ、だから言っただろう?こういう所で差が出るんだ」
 シンディ:「でも、あまり予算を使うと本社から……」

 お金の計算はシンディの方がシビアらしい。
 エミリーの場合は必要とあらばと判断すれば、どんどん計上するのだが。
 その為、南里研究所時代は常に敷島が調整しなくてはならなかった。

 敷島:「まあまあ。それに、グランクラスの弁当は軽食サービスなわけだから、アリスは腹一杯にならんだろう」
 エミリー:「まあ、そうでしょうね」
 敷島:「あそこに弁当屋があるだろ。あれを買ってきてくれ」
 シンディ:「かしこまりました。何がいいですか?」
 敷島:「昼はジンギスカン食ったからな、今度は海鮮系で」
 アリス:「肉」
 シンディ:「かしこまりました」

 敷島は財布の中からシンディに紙幣を渡して買いに行かせた。

 敷島:「俺の今の指示、昔の七海だったら間違えただろうな」
 アリス:「なに?」
 敷島:「駅弁屋ごと買おうとする」
 アリス:「まさか、そんなことが……」
 エミリー:「いえ。昔の七海でしたら、その確率が高いです」
 アリス:「そうなの」

 そして、そこはマルチタイプ。
 ちゃんと敷島とアリスの希望通りの物を購入してきたのである。

 シンディ:「お飲み物までは購入しませんでしたが……」
 敷島:「あ、いや、それはいい。向こうの自販機で買うさ」

 4人は最北の新幹線ホームへと足を進めた。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「上りの旅」 2

2017-08-07 19:09:50 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月31日14:34.天候:晴 JR札幌駅→特急“スーパー北斗”16号車内]

〔お待たせ致しました。まもなく7番線に、14時45分発、函館行き、特別急行“スーパー北斗”16号が入線致します。……〕

 ディーゼルカーのアイドリング音が響くホームに、自動放送が響き渡る。

 敷島:「あー、食った飲んだ飲んだ食った……」
 アリス:「いい快気祝いだったわね」
 敷島:「あれ、快気祝いかよ?」
 アリス:「どうせ会社でもやってくれるんでしょ?」
 敷島:「あー、そうか……。俺の快気祝いじゃなくて、俺がむしろ迷惑を掛けた……何というか、お詫び会にしたいくらいだな」
 アリス:「立場上、快気祝いされる側なんだから、おとなしく受け取っておきなって」
 敷島:「んー……」

 そこへ列車が入線してきた。
 どこかで整備してきたものなのか、折り返し運転ではなく、当駅始発である。
 “ライラック”の789系0番台の先頭部分はJR北海道のコーポレートカラーである萌黄色だったが、それとよく似た先頭形状を持つキハ281系はコバルトブルーである。
 これは噴火湾をイメージしたものとのこと。
 JR北海道では単に281系と呼んでいるが、これだとJR西日本の電車281系と混同する為、一般にはキハ281系と呼ばれることが多い(他例では、721系というとJR北海道のそれとJR東日本のそれがある。両者とは全く設計が違うが、混同を避ける為、後から製造された東日本の方において頭にEを付ける)。
 グリーン車の乗降ドアの横に車掌室へのドアがあり、そこに白い制服姿の車掌が乗り込むとドアが開いた。

 敷島:「今度もちゃんと車掌が乗ってるな、うん。よし。これも黄泉の国行きではない」
 アリス:「何言ってるの。夢の続きは寝てからにして」
 敷島:「いや、アリス。本当に俺は、昔の埼京線の電車に乗ってだなぁ……」
 アリス:「はいはい。見事なグッドエンディングだったわね」
 敷島:「ったく、他人事だと思って……」

 前の乗客に続いて乗り込むと、車掌室がオープンカウンターのようになっているのが目についた。
 そこで車掌が忙しく発車の準備を行っている。

 敷島:「今度はちょっと雰囲気が違うな」

 “ライラック”の789系のグリーン席はレザーシートだったが、こちらはモケットである。

 敷島:「変わった構造だな」

 グリーン車は2人席に通路を挟んだ1人席が特徴の3列シートであり、“ライラック”とは違って1両まるごとグリーン車であるのだが、中央で2列席と1列席が左右逆になるという構造だった。
 重心を均等にする為の対策なのだろうが……。

 敷島:「こいつらのせいで、しばらくの間、重心が傾くだろうなぁ……」

 敷島はエミリーとシンディを見て呟いた。

 敷島:「まだお前ら、自重100キロ超えしたままだよな?」
 エミリー:「私は130キロまで軽量化できました」
 シンディ:「私は150キロ」
 敷島:「何で20キロも違うんだ?見た目の体型は同じなのに」
 シンディ:「私の方が、姉さんよりも、ジェットエンジンの航続距離が延びたからです」

 シンディは自分の足を指さして言った。

 敷島:「何でまた?」
 シンディ:「いざとなったら、北海道までアリス博士を抱えて飛べるようにと……」
 敷島:「ああ、そう……。DCJさんにも謝っておこう」
 アリス:「御礼という発想は無いの!?」

[同日14:45.天候:晴 特急“スーパー北斗”16号3号車内]

 尚、鋼鉄姉妹においては席順が変則的になっている。
 具体的には敷島とアリスが仲良く2人席の4Cと4Dなのだが、エミリーとシンディは1人掛けの4Aと5Aである。
 この姉妹は座席を向かい合わせにした。
 考えてみると、この方が護衛になっているかもしれない。

 アリス:「今度は仕事しないの?」
 敷島:「150通くらいあったメールのチェックと、その返信だけで今日はいいだろう。それに、昼飯を思ったよりも食べた上、サッポロビールまで行っちゃったからな。少し寝てるよ」

 列車は定刻通りに発車した。
 新型車両ではあってもディーゼルカーなのだから、走り出す際に大きなアイドリング音がするはずだが、この車両においては微かに聞こえてくる程度だった。
 敷島はグリーン車自慢の角度の深い座席を倒した。

 アリス:「着いたら起こすよ。シンディの電気ショックで」
 シンディ:「お任せください」

 シンディはニヤッと笑った。

 敷島:「普通に起こしてくれ!」
 エミリー:「あ、思い出した。シンディ、前に借りて来た電気鞭返す」
 シンディ:「姉さん、今頃……」
 アリス:「エミリーにも電気鞭作ってあげようか?」
 エミリー:「私ですか?」
 アリス:「シンディとお揃いで新しいの作るよ?」
 エミリー:「それではお願いしてよろしいですか?」
 アリス:「ええ。タカオが浮気しそうになったら、それで引っ叩いていいからね」
 エミリー:「はあ……」
 シンディ:「博士。その役回りはむしろ私ですよ」
 アリス:「あら、そう?」

 Sぶりはどちらも変わらないとされているが、シンディの方が最近はSっ気が上になりつつある。

 敷島:「何だか爆睡するのが怖くなったから、ラジオでも聴いてるよ」

 グリーン車には、今や珍しくなったオーディオサービスがある。
 航空機のそれのように、チューブ式のイヤホンを差して聴くタイプだ。

 敷島:「あれ?ボーカロイドの歌だ」

 敷島が起き上がった。

 アリス:「ほんと?何チャンネル?」
 敷島:「えーと……このチャンネルだ。普通にポップ系で流されるとは……」
 アリス:「初音ミクの歌?」
 敷島:「そうだな。俺が寝てる間に、新曲出したんだな」
 エミリー:「夏に見合った曲です。井辺プロデューサーが、さる有名な音楽家さんに作曲を依頼できたそうです」
 敷島:「井辺君もできる男だなぁ……。あれ?ここの旋律……」
 アリス:「なに?」
 敷島:「いや、“初音ミクの消失”に似てたような気がするんだが……」
 エミリー:「さる有名な音楽家さんとのことですので、もしかしたら、その筋の方なのかもしれません」
 敷島:「なるほど。そういうことか……」

 北海道だからこそ、むしろ初音ミクという発想に敷島は口角を上げた。
 それがこういう列車のオーディオに流れていることから、ミクの有名さに驚いたりもした。
 ミクを売り出していたのは、敷島自身であるのだが……。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「上りの旅」

2017-08-07 10:27:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月31日11:25.天候:晴 特急“ライラック”16号→JR札幌駅]

 車内チャイムが流れる。
 “ハイケンスのセレナーデ”の一部をオルゴールにしたものだ。
 抑揚の無い男声の自動放送が流れた後で、東北・北海道新幹線と同じ声優(ジーン・ウィルソン)と思われる女性の英語放送が流れる。

 敷島:「この英語、聞き取れる?」
 アリス:「ええ」
 敷島:「だろうな」

 敷島が頷いたのは、発音やアクセントがアリスの喋る英語とよく似ていたからである。
 学会関係(創価じゃないよ!)でよく海外にも行く平賀に言わせると、アリスはアメリカの南部育ちだった割に、喋る英語はイギリス人のそれに近いという。
 アリスが育った児童養護施設の運営者はアメリカ人ばかりであり、その後引き取ったウィリアム・フォレスト博士は北部出身とはいえ、やはりアメリカ国籍だから、それがどうしてイギリス英語になるのかが分からない。
 実際の出身地が不明である為、もしかしたらイギリス生まれではないのかというのが敷島の予想である。
 まるで映画やドラマのように、白人の男女が突然児童養護施設を訪れて、アリスを預けて行ったのだという。

 ただ、ウィリアム博士が引き取った後で、当時から既に稼働していたシンディ(前期型)が幼いアリスの姉・母親代わりだったことを考えると……。
 シンディが、居合わせた外国人客と何か英語で話をしている。
 そのシンディの英語が、さっきの放送のイギリス英語とそっくりだったもので、もしかしたらシンディのせいではないかという疑いも……。

 敷島:「イギリスのBBCのアナウンサーと、アメリカのニュースキャスターじゃ、確かに喋り方が違うな!」
 アリス:「そうね」
 エミリー:「到着しました」
 敷島:「おっ、じゃあ降りよう」

 ホームに降り立つ。
 因みに荷物は大きいものだが、鋼鉄姉妹達が軽々と持っている。
 旭川駅以上にディーゼルエンジンを唸り立てる列車が喧しいが、これも北のターミナル駅ならではの風物詩か。
 これでも学園都市線が電化されたということもあって、だいぶディーゼルカーの数は減ったとのこと。

 アリス:「で、どうやって行くの?」
 敷島:「任せておけ。……エミリーに」
 エミリー:「お任せください」
 アリス:「……ま、そうなるわね」
 敷島:「札幌駅からなるべく近くて、ジンギスカン食える店だ」
 エミリー:「かしこまりました」
 敷島:「歩くグーグル先生w」
 エミリー:「いや、グーグルは場所と行き方までしか教えないけど、こっちは先導や護衛までしてくれるから」
 敷島:「……と、その前にだ」

 札幌駅も自動改札機が設置されているが、敷島達はそこには行かず、有人改札口へ向かう。

 敷島:「ちょっと途中下車したいんですが……」

 乗車券は大宮までだが、敷島達はここまでの特急券(“ライラック”16号)も添えて差し出した。

 駅員:「それでは……」

 駅員は乗車券に札幌駅のハンコを押した。
 途中下車の制度に足枷を掛けてくる『大都市近郊区間』(この区間内においては途中下車が認められていない)であるが、札幌都市圏は該当しない(時刻表のどこを見てもそんなことは書いていない)。

 エミリー:「こちらです」

 エミリーの先導で現地に向かう。
 尚、途中下車の歴史はとても古く、東海道本線が全通した明治時代のことである。
 長距離のキップを持った乗客において、当時の鉄道当局が正式に途中下車を認めたとのこと。
 東海道本線全通直後はまだ列車の速度も遅く、設備も貧弱だったことから、夜に途中下車して駅前の旅館に泊まり、朝そこから再出発するという旅客が多かった背景がある。
 乗り鉄の中には、この途中下車印を集める者もいる。

[同日同時刻 天候:曇 東京都内某所 某テレビ局]

 Lily:「Welcome to my HELL♪闇夜の世界へ♪」
 MEIKO:「『お前は私に暴言を吐いた。ただそれだけの理由だ。死んでも悔しがれ』」
 Lily:「私達が乗ってしまった♪地獄行きの列車♪途中で降りることは♪できない♪」
 MEIKO:「冥界行きのキップ♪それは決して♪手にすることのできない♪手にしてはいけない♪魔法の紙♪」

 ロックが得意なLilyにMEIKOが新ユニットとして組んだら、随分とダークな内容になった件。

 AD:「はい、オッケーです!」

 歌番組の収録だった。

 MEIKO:「お疲れさん」
 Lily:「いえ、お疲れさまです」
 MEIKO:「ロックなんて久しぶりよ。今はディナーショーでバラードとかの方が多いからね」
 Lily:「そうなんですか?」
 MEIKO:「ロックって言えるのかどうか微妙だけど、最近歌ったのが“悪食娘コンチータ”?ミュージカルの」
 Lily:「あのミュージカル、私も観てました!MEIKOさん、素敵でした!」
 MEIKO:「ボーカロイドが、どうやって食事をするシーンをやるのか不思議だったけどねぇ……」

 主演を張ったMEIKO。
 但し、悲劇の悪役であるが。
 キリスト教七つの大罪の悪魔の1つである“飽食の悪魔”(ミュージカルでは“悪食”となっている)ベルゼブブに取り憑かれた女領主バニカ・コンチータの半生を描いたもの。
 悪魔に取り憑かれた彼女は食人鬼となり、最後には自害してしまう。
 その自害の仕方というのが……。
 巡音ルカ演じる魔道師が突入した際には、既に自害していたバニカと彼女が産んだ赤ん坊が1人だけ残されていたという。

 Lily:「私も主演で出たいです」
 MEIKO:「うん、頑張って。悪役の私を倒す役がいいかしら?」
 LIly:「いえ、そんなことは……」

 控室でそんなことを話していると、スタッフがやってきた。

 スタッフ:「すいませ〜ん、次の準備お願いします〜」
 Lily:「あ、はい!」
 MEIKO:「分かりましたー」

 MEIKO達は席を立った。

 MEIKO:「社長達、今どこかしら?」
 Lily:「エミリーさん達のGPSによると、札幌市内ということです」
 MEIKO:「飛行機ならあっという間だけど、電車だと一日掛かりね。社長達も大変だね」
 Lily:「そうですね」

[同日12:30.天候:晴 北海道札幌市街 某ジンギスカン料理店]

 敷島:「おい、アリス!俺の分まで食うな!」
 アリス:「ランチだからって、量が少ないのよ。お代わりいい?」
 敷島:「食い過ぎだ、オマエは!サーセン、ビールお代わり!」
 アリス:「そういうあなたは飲み過ぎだから!」

 大変というわけでもなく、結構良い旅のようである。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「敷島の復活」 3

2017-08-06 19:42:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月26日14:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 四季グループ本社 会長室]

 敷島峰雄:「……ああ、うちの孝夫なら旭川の病院に移ったよ。脳には異常が無いのが分かったので、今度は肉体的なリハビリだ。何しろずっとベッドの上で過ごしてきたわけだから、筋肉の衰えがあったということだ。あと、少なからずケガもしていたからな。寝てる間にそういう傷は治ったみたいなんだが……。ああ、それじゃ」

 峰雄は机の上の電話を切った。

 峰雄:「早いとこ帰ってきてもらいたいものだがねぇ……」
 敷島俊介:「まあまあ、兄さん。『こちらのことは気にするな。万全を期して帰ってこい』って言ったじゃないか」
 峰雄:「まあな。しかしリハビリなら、こっちに帰って来てからでもできそうなものだが……」
 俊介:「今月中には、それも終わって帰って来れるんだろう?なら大丈夫だろう」
 峰雄:「そうだな。これでお前の任命責任を問う必要も無くなったわけだ」
 俊介:「やめてくれよ。……まあ、事実だけど」

 敷島エージェンシーの創立を決定し、孝夫を社長に担ぎ上げたのは敷島の叔父でもある敷島俊介である。
 JARA財団時代のプロデュースの腕前を買ったものだ。
 もちろんプロデューサーと、実際の経営者とではだいぶ違う。
 そこで経営に関するサポートは俊介が行うことにし、敷島には経営者とプロデューサーの兼務でスタートということになった。
 今ではもう経営のことに力を入れるだけで良くなりつつあった。

 峰雄:「もちろん、あれは事故のようなものだし、孝夫の勝手な冒険ということもある。俺としては弟を切りたいとは思わないが、他の役員達や株主さんがどう思うかだからね」
 俊介:「任命責任を問うて、私も一緒に辞任とは……」
 峰雄:「まあ、これでまたしばらくの間は日本に平和が訪れるだろう」

 峰雄は応接セットの上に新聞を置いた。

 『国内潜伏のテロリスト、続々と海外へ逃亡!?』『「不死身の敷島」こと、敷島孝夫氏の回復を受けて?』『成田空港で出国間際のテロリスト逮捕!』『国際テロ組織ヤング・ホーク団団長、ジャック・シュラ・カッパー容疑者か!?』『写真「怨嫉謗法はやめなさい!それより功徳を語りましょうね!」と、意味不明なことを叫びながら警察官に連行されるジャック容疑者』

 俊介:「公安警察まで仕事取られて泣いてるんじゃないのかい、これは?」
 峰雄:「その方が税金も節約できていいだろう」
 俊介:「兄さんもシビアだねぇ……」

[7月31日09:50.天候:晴 北海道旭川市 JR旭川駅]

 敷島:「やっと帰れるんだ……。何だか、浦島太郎の気持ちが分かるなぁ……」

 敷島は駅舎を見上げて呟いた。

 アリス:「ちょっと。なに爺臭いこと言ってんのよ」
 敷島:「いやあ、まさかあんなことになるなんてなぁ……」
 エミリー:「社長、本当に大丈夫ですか?宜しかったら、肩をお貸ししましょうか?」
 敷島:「いや、もう大丈夫。伯父さん……会長からも、万全になったら帰って来いと言われたからな」
 シンディ:「申し訳ありません。本当でしたら飛行機ですぐにでも帰京したいところでしょうが、私達が飛行機に乗れないものですから……」

 乗れないこともないのだが、当然客席には乗れない。
 初音ミクが北海道から移送される際、体がバラバラの状態だったのは移送に飛行機を使った為。
 『精密機械』という名目で貨物室に入れられたのだが、つまりロイドを移送したい場合にはバラさないとダメだということ。
 その為、そういう制約の無い他の交通機関を使うことになる。
 前回、KR団との戦いの時はフェリーを使ったが……。

 敷島:「行きと同様、全区間鉄道か……」
 エミリー:「大宮到着は22時……」
 敷島:「いや、言わなくていい。うん、日本もなかなか広いよ」
 アリス:「そうね」(←アメリカ合衆国テキサス州育ちのアリス。テキサス州だけで日本の国土の【お察しください】)

 真新しい駅舎の中に入り、予め購入しておいた乗車券を自動改札機に通す。

 敷島:「俺がリハビリしている間に買ってきてくれたのか」
 エミリー:「そうです。新幹線をグランクラスにするかどうかでシンディとケンカしました」
 敷島:「おいw 俺なんか普通車でもいいくらいだぞ」
 シンディ:「そういうわけには行きませんよ。私は本社の社長や会長がグランクラスなのだから、そこから一歩引くべきだと思ったのです」
 エミリー:「いや、お前は分かっていない。グランクラスの窓は防弾ガラスになっている(※)。テロリストからの攻撃を防止する為にも、グランクラスにするべきだった」

 ※あくまで噂です。天皇陛下がご乗車になる場所だけ防弾ガラスという話もあります。

 敷島:「で、結局どうしたの?」
 シンディ:「ブラックジャックで決めて、私の案になりました」
 敷島:「ブラックジャックかよ!ディーラーは?」
 アリス:「私」
 敷島:「……だろうな」
 エミリー:「今度は射撃で勝負だ」
 シンディ:「望むところよ」
 敷島:「あー、今度の科学館さんの夏休みイベントでやってくれい」

 高架ホームに上がると、既に列車が停車していた。

〔「3番線に停車中の列車は10時ちょうど発、札幌行きの特別急行“ライラック”16号です。グリーン車は1号車、指定席は1号車と2号車です。……」〕

 ディーゼル列車の音も響いている中、“ライラック”は静かなのは電車だからだろう。
 日本で電化されている鉄道の最北地でもある。
 進行方向上、グリーン車があるのは最後尾である。
 元々は青函トンネルを通っていた特急車両で、北海道新幹線が開通した為に用済みとなり、札幌都市圏へと移ってきたもの。
 グリーン席が付いているのはその名残だ。
 とはいっても、車両の半分しか無い。

 シンディ:「向かい合わせにしますか?」
 敷島:「いや、このままでいいだろう」

 敷島とアリス、エミリーとシンディで座る。

 エミリー:「社長、1つ御相談が……」
 敷島:「何だ?」
 エミリー:「実は札幌駅で乗り継ぎ時間が結構あるのです。この列車の札幌到着が11時25分ですが、次の乗り継ぎが14時45分なんです」
 敷島:「おっ、そんなに!?」
 エミリー:「最後の乗り換えである新幹線の座席を確保するのに、こうなってしまいました。申し訳ありません」
 シンディ:「いいよいいよ。途中下車して、何か昼食でも取るよ」

 乗車券で片道100km以上のものは、途中下車できることになっている。
 特急券ではできないが、札幌駅で特急は降りるので問題は無い(その後、別の特急には乗るのだが、特急券が別な為)。

 敷島:「せっかくだから、ジンギスカンでも食うか」
 アリス:「OH!」

 そんな話で盛り上がっている間、エミリーが列車の外でコーヒーを買って来た。

 敷島:「おっ、ありがとう」
 アリス:「エミリー、Thank youね」
 エミリー:「いいえ」

 そんなことしている間に発車の時間になり、列車は静かに走り出した。
 ディーゼル列車がエンジンを唸り音を立てて走り出すのとは対照的だ。

〔この先、揺れることがありますので、お気をつけください。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。今日もJR北海道をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は函館線上り、札幌行きの特別急行“ライラック”16号です。途中、深川、滝川、砂川、美唄、岩見沢に停車し、終着札幌まで凡そ1時間25分です。……〕

 敷島はテーブルを出すと、その上にノートPCを置いた。

 アリス:「復帰は明日からってことになってるんだから、今日くらいゆっくりしたら?」
 敷島:「そうは行くか。まずはメールの確認からだ」
 エミリー:「あの、もし宜しかったら、私もお手伝いしますよ?」
 シンディ:「私も第2秘書として……」
 敷島:「いや、いいんだ。取りあえず、メールのチェックだけでいい。お前達はGPSで、今の位置情報を会社に送ってくれるだけでいいかから。ボーカロイド達が心配して、仕事中に余計なエラーでも出したら俺も困るし」
 エミリー:「かしこまりました」
 シンディ:「社長がそう仰るのなら……」
コメント (5)
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