報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「思い出の地」

2017-08-11 19:30:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月1日06:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「ふうーっ!」

 敷島は洗面台でバシャバシャと顔を洗っていた。

 アリス:「なに、もう起きたの?」
 敷島:「ああ。長く休んでいて皆に迷惑を掛けたからな。朝一の電車で行きたい」
 アリス:「ねぇ、いっそのこと都内のワンルームマンション借りるのやめて通勤にしたら?新幹線定期、買おうと思えば買えるんでしょ?」
 敷島:「まあ、それはそうだが……」
 シンディ:「確かに経費はその方が安いです」
 アリス:「ほら、シンディもそう言ってることだし」
 敷島:「その代わり、東京駅からは都営バスだな」
 アリス:「何でそうなるのよ……」
 敷島:「ま、今日だけは新幹線だ」
 シンディ:「もうKR団も完全崩壊して、他のテロ組織も逃げて行きました。もう心配は無いと思いますが」
 敷島:「しばらく考えさせてくれ」

 敷島は首を横に振った。

[同日06:38.天候:晴 JR大宮駅・新幹線ホーム]

 朝日の差す新幹線ホームで始発列車を待つ敷島とシンディ。

 敷島:「だいたい、今のマンションじゃ狭くなるだろう。そういった意味もあって、平日限定でワンルームマンション暮らしをしていたんだぞ」
 シンディ:「確かにそうですねぇ。やっぱり私が代わりに記念館暮らしを……」
 敷島:「それだと平賀先生が却って怒るから」
 シンディ:「ああ……」

〔14番線に、“なすの”252号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、上野に止まります。……〕

 敷島は目を凝らして、臨時ホームの方を見た。

 シンディ:「何です?」
 敷島:「いや、昨夜見たのは何だったのかなぁ……ってさ。どう見ても200系だったんだが……」
 シンディ:「疲れていて、目の錯覚でも起こしたのでしょう。私のカメラには映っていませんよ」

 シンディは自分の右目を指さして言った。
 因みにロイド達の目、実際にカメラとして稼働しているのは片目だけである。
 もう片目は人間そっくりに見せる為だけのダミー。
 カメラではない片目はライトになっている。
 あと、電源ランプとして白目の部分が淡く光っている。
 暗い所だと、白目の所が淡く緑色に光るので分かるのだが、明るい所だと分からない。
 が、暗い所で白目の部分が淡く緑色に光っている様は不気味であることは否めない。
 他にも暗視機能を使用している際、瞳に当たる部分が赤く光る為に、それも多少不気味な所で改善が望まれている。
 ……といっても、これは現時点での話。
 実は点検などでカメラの位置が右目から左目に移されることもあるし、両目に設置されてライトが取り外されることもある。

〔「14番線、ご注意ください。“なすの”252号の到着です。9号車のグリーン車以外、全て自由席です。黄色い線まで、お下がりください」〕

 東北新幹線では古参のE2系電車が入線してくる。

 敷島:「“最終電車”ならぬ、“始発電車”」
 シンディ:「は?」

 敷島達は先頭の1号車に乗り込んだ。
 1つ手前の小山駅始発で、朝一の電車ということもあって、車内は空いていた。
 2人席に座る。
 こちらは西側なので、夏の日差しが差し込んでくることはない。
 今ではもう発車ベル(電子電鈴)は新幹線ホームだけとなった。
 列車は1分だけ停車すると、すぐに発車した。

 敷島:「実を言うとな、ボーカロイドの皆に早く会いたいというのもあるんだ。早くても、9時には出発するスケジュールとかあるだろ?」
 シンディ:「確かにそうですね。……あ、でも、今日は無いですよ。1番早くて、KAITOが9時半に敷島映画撮影所に入る予定になっています」
 敷島:「そうか。KAITOのヤツ、映画出演の話が来ていたな」
 シンディ:「はい。あと、同じ時間でMEGAbyteが四季エンタープライズ自社番組、『ピコピコドン!ブレインパワー』の収録があります」
 敷島:「MEGAbyte?あれ、Lilyが……」
 シンディ:「LilyのMEIKOとのユニットは兼任ですよ。MEGAbyteを抜けたわけではありません」
 敷島:「そうか。概要は聞いてるんだけど、やっぱ俺が寝てた間に色々とあったみたいだな。やはり早目に会社に行くことにして正解のようだ」
 シンディ:「そうですね」

[同日07:04.天候:晴 JR東北新幹線“なすの”252号1号車内]

 列車は上野駅の地下深いホームを出発した。
 新幹線ホームが地下になっている駅は、上野駅以外知らない。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 地下トンネルを進んでいた列車は、秋葉原駅の横で地上に出る。
 秋葉原駅中央口バスプールのすぐ横だ。
 だから、ヨドバシアキバも車窓によく映る。
 列車は隣を走る通勤電車とほぼ同じ速度で東京駅を目指すわけだが、高架部分としてはそこよりも一段高い場所を走る。
 大手町のオフィス街が見えて来たら、もう到着だ。
 そんな中、シンディは車窓から、あるビルをずっと見つめていた。
 建設されてから僅か数年しか経っていない、新しい超高層ビルである。

 敷島:「あれは……かつて、ウィリーが東京決戦の時に潜んでいたビルだな」
 シンディ:「ええ」

 もちろん当時のビルは十条伝助の奸計により大爆発・崩壊の憂き目に遭っており、跡形も無くなっている。
 今のビルはその跡地に建てられた、全く別のビルである。
 元々が取り壊しが予定され、テナントも全部引っ越した後のビルであった。
 だから大崩壊の際も、直接巻き込まれたことによる死傷者はいなかった。
 ただ、それに巻き込まれたウィリーの死体だけが回収不能となっただけだが。

 敷島:「ちょっとだけ寄って行くか?」
 シンディ:「ですが……」
 敷島:「まあ、いざとなったらタクシーで向かえばいいさ」
 シンディ:「分かりました」

[同日07:20.天候:晴 東京都千代田区大手町 某オフィスビル敷地内]

 ビルの公開空地となっている部分の一画に、小さな神社が建てられている。
 これは東京決戦で犠牲になった人々への鎮魂を願ったものだという。
 更に、回収できなかったウィリアム・フォレスト博士の遺体が残された場所ということで、その供養も目的とされている。

 シンディ:「こんな、大きなビルの一画に、こういうものがあったなんて知りませんでした……」
 敷島:「意外とあるよ、こういうの。どこかのビルには、その屋上に神社があったりとかな。それもまた外国人にはカルチャーショックなんだって」
 シンディ:「まさか、ウィリアム博士まで供養してれるなんて……」
 敷島:「死者に鞭打たないのが日本人の美徳でね。ま、俺的には黙っててもあのマッドサイエンティストは地獄行きだろうから、それで化けて出て来られても困るんで、こういう神社でも建ててやるから、化けて出るなよー的に思ってるんだけど」

『……これは俗に「東京決戦」と呼ばれ、当時世界的なマッドサイエンティスト(狂科学者)として有名なウィリアム・フォレスト容疑者が側近のガイノイド(女性型の人間型ロボット)とロボット軍団を使役し、東京都心において大規模なテロ活動を行った……』

 神社内に設置された説明文にはシンディの名前が出てこなかった。

 シンディ:「あれ?私の名前が出てこない……」
 敷島:「ああ。最初は出す予定だったんだがな。後期型のお前が稼働を始めて、それが贖罪の為としてちゃんと動いているのが分かったんで、俺から頼んで、お前の名前は伏せてもらうことにした」
 シンディ:「そうだったんですか……」
 敷島:「そこで初めて平賀先生と大ゲンカだよ。丸1日口論した」
 シンディ:「ああ……。何か、申し訳ないです。私ごときの為に……」
 敷島:「いや、いいんだいいんだ。でも、時々思うよ。いつの日か、お前やアリスに復讐しに来るヤツがいるんじゃないかってさ。最初、KR団がそうかなと思ったんだが、どうやら違うみたいだ」
 シンディ:「社長……」
 敷島:「そろそろ行くか。タクシーで」
 シンディ:「はい」
コメント (9)
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