[8月11日13:00.天候:晴 宮城県宮城郡利府町 セキスイハイムスーパーアリーナ]
セキスイハイムスーパーアリーナは命名権導入を機に付けられた名前で、正式名称は宮城県総合運動公園総合体育館という。
東日本大震災発生後しばらくの間、メインアリーナは遺体安置所として使用され、サブアリーナは支援物資保管庫として使用された過去を持つ。
だが、今はそんな過去があったことさえ忘れられるような、そんなライブが行われようとしていた。
スタッフA:「すいません、出演者の皆さん。場当たりしたいと思いますので、ステージまで集合してください」
初音ミク:「はい!」
ステージでは巡音ルカが発声していた。
巡音ルカ:「あーっ♪あーっ♪あーっ♪……すいません、私の声の開始をもう少し低くしてもらえませんか?」
スタッフB:「了解です。調整します」
ルカ:「お願いします」
貴賓室でその様子を見る敷島と平賀。
平賀:「敷島さん、取りあえずボーカロイド達の整備状況は良好です。いつでも行けますよ」
敷島:「いつもありがとうございます」
平賀:「いえいえ」
と、そこへエミリーが急いでやってきた。
エミリー:「失礼します!」
敷島:「どうした?」
エミリー:「これを見てください!」
敷島:「手紙?」
エミリー:「今日、こちらに届いたそうです」
茶封筒で、日曜・祝日でも配達される簡易書留で送られていた。
差出人は書いていない。
エミリーが開けて中を確認した為に開封はされている。
そこに入っていた手紙には、こう書かれていた。
『人殺しロボットがのうのうと活動することは許されない』
とだけ。
敷島:「これは……脅迫状か?何だこれ?」
平賀:「恐らく、シンディ宛てじゃないですかね」
エミリー:「私もロシアにいた時は、反乱分子達の粛清に当たったりもしましたが……」
平賀:「いや、人間の殺傷数はシンディの方が明らかに上だ。しかも、わざわざ日本語で書かれてる。エミリーは日本に来てからは殺人をしていない。シンディならしていた」
敷島:「前期型ね。後期型の今はしていませんよ」
平賀:「しかしあまりにもデザインが前期タイプと同じな上、贖罪の為とはいえ、前期型のデータをそのまま受け継がせたということで、被害者を中心とした批判が残っているのもまた事実です」
敷島:「あれだけマスコミを使って、アピールしたのになぁ……」
平賀:「どうします、敷島さん?このことは……」
敷島:「あくまでライブ開催に対する脅迫状ではないわけですから、黙殺します」
平賀:「それでよろしいんですか?」
敷島:「もちろん、エミリーやシンディには警備強化と、あとここの施設の管理者の皆さんにも伝えて来ます。手紙の内容が、本当にシンディを指しているかどうかも分かりませんしね」
平賀:「分かりました」
[同日17:00.天候:雨 セキスイハイムスーパーアリーナ]
シンディ:「皆、予定通り開場したわ!お客さん、一杯よ!」
鏡音リン:「おお〜!」
MEIKO:「ほんと、ファンってありがたいよね」
KAITO:「ボク達が初ライブをした時は、本当数えるだけしかお客さん来なかったのにね」
初音ミク:「わたしの時は、まだ研究所の事務員だった社長が……」
ルカ:「私のデビューは小さいとはいえライブハウスだったけど……」
ライブ前から盛り上がるボカロ達。
その様子を見ていたシンディは少し悲しそうな顔をして、廊下に出た。
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「せっかく有名になって、こんな立派なアリーナでライブまでできるようになったのに、私のせいで足を引っ張ることになるかと思うと、何だか申し訳無くて……」
敷島:「あの手紙のことか?まだ、お前のことだと確定したわけじゃない。むしろ、あれじゃないか。今でもどこかでバージョン・シリーズは活動しているだろう?一部はセキュリティロボットとして転用されたりもしているが、世間的にはテロ用ロボットとしてのイメージが物凄く強い。そいつらを一刻も早く何とかとしてくれっていう意味かもしれない。何しろあいつら、警察官のハンドガンじゃ歯が立たないからな」
シンディ:「まあ、そうですね」
敷島:「とはいえ、万が一のこともあるから、警戒は怠らないでくれよ」
シンディ:「かしこまりました」
[同日18:00.天候:雨 同アリーナ]
シンディ:「皆様、大変長らくお待たせ致しました。『夏休みボーカロイドライブ 2017』を只今より開催させて頂きます。……」
シンディはヘッドセットにインカムを付けて進行役をやっていた。
敷島:「よし、行けっ!」
敷島はミクの背中を押した。
ボカロ達がステージへ走る。
まずは全員で歌うのがセオリー。
井辺:「社長」
敷島:「おっ、井辺君」
井辺:「試しに会場の周りを回ってみましたが、怪しい人物などは見かけませんでした」
敷島:「そうか。だけども、警備員でも警察官でもない井辺君に怪しいとバレる人物なんて、そうそういないだろう」
井辺:「まあ、そうですね。ただその代わり、これが落ちていたんですが……」
井辺はある金属片を取り出した。
敷島:「何かの部品か?」
井辺:「恐らくは……」
敷島:「よし。シンディは進行やってるから、エミリーに鑑定させよう」
敷島と井辺は一旦控え室に戻ることにした。
平賀が待機している貴賓室に行く。
敷島:「平賀先生」
平賀:「おっ、敷島さん。井辺プロデューサーも一緒か」
敷島:「これが何だか分かりますか?」
敷島が平賀に金属片を見せた。
平賀:「いや……?でも、何だかロボットの部品にも見えますね」
敷島:「やはりそうですか。会場の近くに落ちていたそうです」
井辺:「私が見つけたのはこれだけです」
敷島:「今、エミリーを呼び戻していますから、エミリーに鑑定させようと思うんです」
平賀:「それが確実ですね」
しばらくしてエミリーが戻って来た。
エミリー:「何かありましたか?」
敷島:「エミリー。ちょっとこれを見て欲しいんだ。これが何の部品だか分かるか?」
エミリーはその部品をスキャンした。
エミリー:「バージョン4.0の部品です」
敷島:「なにっ!?」
エミリー:「右胸に内蔵されている自爆装置の一部だと思われます」
井辺:「すると、バージョン4.0がこの近くにいたということですね」
平賀:「それは危険ですね」
エミリー:「私が探し出して、破壊しましょうか?」
敷島:「待て待て。その度にデカい音出してたら、いくら何でも騒ぎになるだろう。お前の言う事聞くんだったら、速やかに会場から離れさせるんだ」
エミリー:「分かりました」
井辺:「すると社長、先ほどの手紙はシンディさんへの当てつけではなく、バージョン4.0に対する警告だったのでしょうか?」
敷島:「いや、現時点ではまだ何とも言えない。取りあえずは、バージョン4.0の活動に注意することにしよう」
井辺:「分かりました」
平賀:「…………」
セキスイハイムスーパーアリーナは命名権導入を機に付けられた名前で、正式名称は宮城県総合運動公園総合体育館という。
東日本大震災発生後しばらくの間、メインアリーナは遺体安置所として使用され、サブアリーナは支援物資保管庫として使用された過去を持つ。
だが、今はそんな過去があったことさえ忘れられるような、そんなライブが行われようとしていた。
スタッフA:「すいません、出演者の皆さん。場当たりしたいと思いますので、ステージまで集合してください」
初音ミク:「はい!」
ステージでは巡音ルカが発声していた。
巡音ルカ:「あーっ♪あーっ♪あーっ♪……すいません、私の声の開始をもう少し低くしてもらえませんか?」
スタッフB:「了解です。調整します」
ルカ:「お願いします」
貴賓室でその様子を見る敷島と平賀。
平賀:「敷島さん、取りあえずボーカロイド達の整備状況は良好です。いつでも行けますよ」
敷島:「いつもありがとうございます」
平賀:「いえいえ」
と、そこへエミリーが急いでやってきた。
エミリー:「失礼します!」
敷島:「どうした?」
エミリー:「これを見てください!」
敷島:「手紙?」
エミリー:「今日、こちらに届いたそうです」
茶封筒で、日曜・祝日でも配達される簡易書留で送られていた。
差出人は書いていない。
エミリーが開けて中を確認した為に開封はされている。
そこに入っていた手紙には、こう書かれていた。
『人殺しロボットがのうのうと活動することは許されない』
とだけ。
敷島:「これは……脅迫状か?何だこれ?」
平賀:「恐らく、シンディ宛てじゃないですかね」
エミリー:「私もロシアにいた時は、反乱分子達の粛清に当たったりもしましたが……」
平賀:「いや、人間の殺傷数はシンディの方が明らかに上だ。しかも、わざわざ日本語で書かれてる。エミリーは日本に来てからは殺人をしていない。シンディならしていた」
敷島:「前期型ね。後期型の今はしていませんよ」
平賀:「しかしあまりにもデザインが前期タイプと同じな上、贖罪の為とはいえ、前期型のデータをそのまま受け継がせたということで、被害者を中心とした批判が残っているのもまた事実です」
敷島:「あれだけマスコミを使って、アピールしたのになぁ……」
平賀:「どうします、敷島さん?このことは……」
敷島:「あくまでライブ開催に対する脅迫状ではないわけですから、黙殺します」
平賀:「それでよろしいんですか?」
敷島:「もちろん、エミリーやシンディには警備強化と、あとここの施設の管理者の皆さんにも伝えて来ます。手紙の内容が、本当にシンディを指しているかどうかも分かりませんしね」
平賀:「分かりました」
[同日17:00.天候:雨 セキスイハイムスーパーアリーナ]
シンディ:「皆、予定通り開場したわ!お客さん、一杯よ!」
鏡音リン:「おお〜!」
MEIKO:「ほんと、ファンってありがたいよね」
KAITO:「ボク達が初ライブをした時は、本当数えるだけしかお客さん来なかったのにね」
初音ミク:「わたしの時は、まだ研究所の事務員だった社長が……」
ルカ:「私のデビューは小さいとはいえライブハウスだったけど……」
ライブ前から盛り上がるボカロ達。
その様子を見ていたシンディは少し悲しそうな顔をして、廊下に出た。
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「せっかく有名になって、こんな立派なアリーナでライブまでできるようになったのに、私のせいで足を引っ張ることになるかと思うと、何だか申し訳無くて……」
敷島:「あの手紙のことか?まだ、お前のことだと確定したわけじゃない。むしろ、あれじゃないか。今でもどこかでバージョン・シリーズは活動しているだろう?一部はセキュリティロボットとして転用されたりもしているが、世間的にはテロ用ロボットとしてのイメージが物凄く強い。そいつらを一刻も早く何とかとしてくれっていう意味かもしれない。何しろあいつら、警察官のハンドガンじゃ歯が立たないからな」
シンディ:「まあ、そうですね」
敷島:「とはいえ、万が一のこともあるから、警戒は怠らないでくれよ」
シンディ:「かしこまりました」
[同日18:00.天候:雨 同アリーナ]
シンディ:「皆様、大変長らくお待たせ致しました。『夏休みボーカロイドライブ 2017』を只今より開催させて頂きます。……」
シンディはヘッドセットにインカムを付けて進行役をやっていた。
敷島:「よし、行けっ!」
敷島はミクの背中を押した。
ボカロ達がステージへ走る。
まずは全員で歌うのがセオリー。
井辺:「社長」
敷島:「おっ、井辺君」
井辺:「試しに会場の周りを回ってみましたが、怪しい人物などは見かけませんでした」
敷島:「そうか。だけども、警備員でも警察官でもない井辺君に怪しいとバレる人物なんて、そうそういないだろう」
井辺:「まあ、そうですね。ただその代わり、これが落ちていたんですが……」
井辺はある金属片を取り出した。
敷島:「何かの部品か?」
井辺:「恐らくは……」
敷島:「よし。シンディは進行やってるから、エミリーに鑑定させよう」
敷島と井辺は一旦控え室に戻ることにした。
平賀が待機している貴賓室に行く。
敷島:「平賀先生」
平賀:「おっ、敷島さん。井辺プロデューサーも一緒か」
敷島:「これが何だか分かりますか?」
敷島が平賀に金属片を見せた。
平賀:「いや……?でも、何だかロボットの部品にも見えますね」
敷島:「やはりそうですか。会場の近くに落ちていたそうです」
井辺:「私が見つけたのはこれだけです」
敷島:「今、エミリーを呼び戻していますから、エミリーに鑑定させようと思うんです」
平賀:「それが確実ですね」
しばらくしてエミリーが戻って来た。
エミリー:「何かありましたか?」
敷島:「エミリー。ちょっとこれを見て欲しいんだ。これが何の部品だか分かるか?」
エミリーはその部品をスキャンした。
エミリー:「バージョン4.0の部品です」
敷島:「なにっ!?」
エミリー:「右胸に内蔵されている自爆装置の一部だと思われます」
井辺:「すると、バージョン4.0がこの近くにいたということですね」
平賀:「それは危険ですね」
エミリー:「私が探し出して、破壊しましょうか?」
敷島:「待て待て。その度にデカい音出してたら、いくら何でも騒ぎになるだろう。お前の言う事聞くんだったら、速やかに会場から離れさせるんだ」
エミリー:「分かりました」
井辺:「すると社長、先ほどの手紙はシンディさんへの当てつけではなく、バージョン4.0に対する警告だったのでしょうか?」
敷島:「いや、現時点ではまだ何とも言えない。取りあえずは、バージョン4.0の活動に注意することにしよう」
井辺:「分かりました」
平賀:「…………」