[8月1日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館・研究室]
アリス:「はい、それじゃ左手見せてみて」
エミリー:「はい」
エミリーは台の上に左手を乗せた。
アリスが電動ドライバーを持ってきて、エミリーの左腕を開ける。
アリス:「……ちょっと、左手動かしてみて」
エミリー:「はい」
ギギギギギ……!
アリス:「ここのシャフト、曲がってる。どこかぶつけた?」
エミリー:「キュルキュルキュルキュキュル……。いいえ。記憶にありません」
アリス:「いや、待て。これは……内部からの衝撃……。あー、なるほど。有線ロケットパンチ用のワイヤーが引っ掛かったのか」
エミリー:「ローケットアームはここ最近、使用していません」
アリス:「そうなのよねぇ……。これも不要なら取り外して、もっと別なのにしましょうか」
エミリー:「あいにくですが、そのような決定権は平賀博士にあります」
アリス:「分かってる。ただ、シンディにも同じものが取り付けられてるわけだからね。シンディなら、私に決定権があるわ」
エミリー:「さようでございます」
アリス:「まあいいや。ワイヤーを巻き直して。多分、前回使った際、巻き方が悪くて緩んだ所に、シャフトが引っ掛かって、何かの衝撃で引っ張られた為に歪んだんだわ」
エミリー:「ちょっと失礼します。ロケットアーム!」
エミリーは明後日の方向に、左手の有線ロケットアームを発射した。
極細のワイヤーに繋がった手首から先が勢い良く飛ぶ。
それは壁に手をついて、衝撃を吸収するはずだった。
ブチィッ!ガッシャーン!!
エミリー:「うっ……ぐっ……!!」
何と!最大まで伸ばした際、ワイヤーが切れて、廊下に面した強化ガラス窓を突き破ってしまった。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
〔非常事態発生、非常事態発生。当館研究室エリアにおいて、武装ロボットの暴走が発生したもよう。関係者は直ちに展示室エリアより、エントランスホールへ避難してください。セキュリティロボットが緊急警備体制に入ります。速やかな退避が遅れた場合、安全の保障はできません〕
アリス:「ちょちょちょ!タイムタイム!ストップ!ストップ!」
エミリー:「ひ、左手が……」
エミリーの左手から火花が飛び散った。
バージョン5.0の量産先行機であるマリオとルイージが飛んできた。
これはウィリアム・フォレスト博士が設計だけしていたものを、養孫のアリスが組み立てたものである。
設計図通りに作った試作機はもっと不細工な面構えだったが、これは敷島の策略によって全機破壊された(敷島の乗った地方の電車を襲ったのだが、敷島のゴルフクラブ乱れ投げの真意が読めず、硬直していたところ、架線とボディをクラブが接触。交流2万ボルトの電流が一気に流れ込んで来たことで全機爆発した)。
赤と青の塗装が特徴のマリオと緑と青の塗装が特徴のルイージは、アリスが勝手にアレンジ設計したタイプである。
こちらの方がスマートで性能も良い為、量産型もこちらの先行機をモデルにしている。
マリオ:「エミリー様!ついにやってくれましたね!」
ルイージ:「我らが主を襲うとは!こちらにも考えがありますよ!」
アリス:「ちょっとあんた達、これは誤解だって!」
だがエミリー、下位機種のバージョン兄弟に居丈高に出られたことで表情を変える。
エミリー:「やってみろ!バラバラの鉄屑に変えてやる!!」
ルイージ:「『エミリー様の最上位機種としての横暴に耐えられません。先立つ不孝をお許しください』」
マリオ:「『死ぬ前に 1度は見たい 初音ミク 縞パン推しか 白パン推しか』」
エミリー:「遺書と辞世の句、誤字・脱字に気をつけてあの世に行くが良い!」
エミリーは残った右手を光線銃に変形させた。
アリス:「もうっ!いい加減にしなさい!!」
アリスは電話をガチャッと切った。
すると、警報が止まった。
〔ド♪ミ♪ソ♪ド〜♪「こらちは警備室です。先ほどの警報は、確認により、誤報と判明致しました。どうぞ、ご安心ください。これより、原因の調査に入ります。関係者の方は、調査にご協力ください。繰り返し、警備室よりお知らせ致します。……」〕
マリオ:「はーい……」
ルイージ:「はーい……」
エミリー:「さっさと正座!」
アリス:「エミリー、あなたも反省しなさい」
エミリー:「すみません。反省」
アリス:「大昔の猿芝居しないの!いいから早く、左手を回収してきなさーい!!」
[同日14:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー・役員応接室]
敷島:「まさか、平賀先生に御来社頂けるとは……」
平賀:「こちらのDCJに用事があったついでです」
平賀は大学教授であると同時に、DCJの外部執行役員でもある。
つまり、DCJ内における地位は主任クラスのアリスや鳥柴よりずっと上ということになる。
平賀:「いやホント、敷島さんが復活してくれてホッとしました。『不死身の敷島』の名前はダテじゃありませんね」
敷島:「いや、相変わらず悪運だけ強いってなだけですよ」
平賀:「意識が無くなっている間、幽霊電車に乗り込んでしまって、そこから脱出したんですって?」
敷島:「夢の話だと、誰も信じてくれないんです」
平賀:「知り合いの精神医学者に問い合わせてみたんですが、そういうことってあるみたいですよ」
敷島:「ええっ!?」
平賀:「敷島さんは乗り物、取り分け鉄道が大好きです。生死の境をさ迷っている間、いかにも幽霊電車のような電車に乗り合わせた夢を見て、そこから脱出できないと死ぬという自己暗示が掛かった状態だったと」
敷島:「は?」
平賀:「敷島さんは無事にそこから脱出できた。つまり、それで掛かった自己暗示を抜け出すことができたわけです」
敷島:「それじゃどうして自己暗示が掛かったのかの説明ができていないです……」
平賀:「おっと。そこまでは聞いて無かった」
敷島:(バカと天才は紙一重って本当だな……)
だが、とても厚い一重の紙であろう。
シンディ:「失礼します」
シンディはコーヒーを入れて来た。
敷島:「実は今朝、東京決戦の現場となったビルの一画に建立された祠を訪ねて来ましたよ。シンディも一緒に」
平賀:「そうですか」
平賀はそのままブラックでコーヒーを啜った。
が、そのままではやはり苦かったか、砂糖をスプーン一杯入れる。
敷島:「今さらながらですけど、シンディの名前を碑文から削除することに同意して頂いてありがとうございます」
平賀:「自分、実はシンディの自爆装置を取り外すことには反対でした。もしこいつがまたウィリーの意向を最優先にしようとしたら、自分がそいつの自爆装置を起動させてやる為です」
敷島:「しかし、取り外しは国家公安委員会からの命令ですよ」
平賀:「分かっています。一抹の不安はまだあるものの、敷島さんの管理下に置かれている以上は、敷島さんを信じたいと思います」
敷島:「私も責任重大ですね。分かりました。エミリーも私をマスターとしているわけですから、こうなったら2人まとめて……」
平賀:「それより、エミリーはどうしました?」
敷島:「ああ。エミリーは左手の調子が悪いので、アリスが修理しています」
平賀:「左手?何かしたんですか?」
敷島:「いえ、何も。……何も無いはずですが」
平賀:「まあ、左手の損傷くらいならアリスでも直せるでしょう。じゃあ、自分は代わりにシンディを診てみましょうか」
敷島:「無料点検ですか」
平賀:「後でシンディを貸してもらえませんか?」
敷島:「いいですよ。エミリーが戻ってきたら、交替ということにしますので」
平賀:「で、今調子の悪い所はあるか?」
シンディ:「はい。実はカメラの調子が……」
シンディは右目を指さした。
敷島:「なにっ!?」
平賀:「そうなのか」
敷島は驚愕し、平賀は悠然としていた。
その違いとは何だろうか?
アリス:「はい、それじゃ左手見せてみて」
エミリー:「はい」
エミリーは台の上に左手を乗せた。
アリスが電動ドライバーを持ってきて、エミリーの左腕を開ける。
アリス:「……ちょっと、左手動かしてみて」
エミリー:「はい」
ギギギギギ……!
アリス:「ここのシャフト、曲がってる。どこかぶつけた?」
エミリー:「キュルキュルキュルキュキュル……。いいえ。記憶にありません」
アリス:「いや、待て。これは……内部からの衝撃……。あー、なるほど。有線ロケットパンチ用のワイヤーが引っ掛かったのか」
エミリー:「ローケットアームはここ最近、使用していません」
アリス:「そうなのよねぇ……。これも不要なら取り外して、もっと別なのにしましょうか」
エミリー:「あいにくですが、そのような決定権は平賀博士にあります」
アリス:「分かってる。ただ、シンディにも同じものが取り付けられてるわけだからね。シンディなら、私に決定権があるわ」
エミリー:「さようでございます」
アリス:「まあいいや。ワイヤーを巻き直して。多分、前回使った際、巻き方が悪くて緩んだ所に、シャフトが引っ掛かって、何かの衝撃で引っ張られた為に歪んだんだわ」
エミリー:「ちょっと失礼します。ロケットアーム!」
エミリーは明後日の方向に、左手の有線ロケットアームを発射した。
極細のワイヤーに繋がった手首から先が勢い良く飛ぶ。
それは壁に手をついて、衝撃を吸収するはずだった。
ブチィッ!ガッシャーン!!
エミリー:「うっ……ぐっ……!!」
何と!最大まで伸ばした際、ワイヤーが切れて、廊下に面した強化ガラス窓を突き破ってしまった。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
〔非常事態発生、非常事態発生。当館研究室エリアにおいて、武装ロボットの暴走が発生したもよう。関係者は直ちに展示室エリアより、エントランスホールへ避難してください。セキュリティロボットが緊急警備体制に入ります。速やかな退避が遅れた場合、安全の保障はできません〕
アリス:「ちょちょちょ!タイムタイム!ストップ!ストップ!」
エミリー:「ひ、左手が……」
エミリーの左手から火花が飛び散った。
バージョン5.0の量産先行機であるマリオとルイージが飛んできた。
これはウィリアム・フォレスト博士が設計だけしていたものを、養孫のアリスが組み立てたものである。
設計図通りに作った試作機はもっと不細工な面構えだったが、これは敷島の策略によって全機破壊された(敷島の乗った地方の電車を襲ったのだが、敷島のゴルフクラブ乱れ投げの真意が読めず、硬直していたところ、架線とボディをクラブが接触。交流2万ボルトの電流が一気に流れ込んで来たことで全機爆発した)。
赤と青の塗装が特徴のマリオと緑と青の塗装が特徴のルイージは、アリスが勝手にアレンジ設計したタイプである。
こちらの方がスマートで性能も良い為、量産型もこちらの先行機をモデルにしている。
マリオ:「エミリー様!ついにやってくれましたね!」
ルイージ:「我らが主を襲うとは!こちらにも考えがありますよ!」
アリス:「ちょっとあんた達、これは誤解だって!」
だがエミリー、下位機種のバージョン兄弟に居丈高に出られたことで表情を変える。
エミリー:「やってみろ!バラバラの鉄屑に変えてやる!!」
ルイージ:「『エミリー様の最上位機種としての横暴に耐えられません。先立つ不孝をお許しください』」
マリオ:「『死ぬ前に 1度は見たい 初音ミク 縞パン推しか 白パン推しか』」
エミリー:「遺書と辞世の句、誤字・脱字に気をつけてあの世に行くが良い!」
エミリーは残った右手を光線銃に変形させた。
アリス:「もうっ!いい加減にしなさい!!」
アリスは電話をガチャッと切った。
すると、警報が止まった。
〔ド♪ミ♪ソ♪ド〜♪「こらちは警備室です。先ほどの警報は、確認により、誤報と判明致しました。どうぞ、ご安心ください。これより、原因の調査に入ります。関係者の方は、調査にご協力ください。繰り返し、警備室よりお知らせ致します。……」〕
マリオ:「はーい……」
ルイージ:「はーい……」
エミリー:「さっさと正座!」
アリス:「エミリー、あなたも反省しなさい」
エミリー:「すみません。反省」
アリス:「大昔の猿芝居しないの!いいから早く、左手を回収してきなさーい!!」
[同日14:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー・役員応接室]
敷島:「まさか、平賀先生に御来社頂けるとは……」
平賀:「こちらのDCJに用事があったついでです」
平賀は大学教授であると同時に、DCJの外部執行役員でもある。
つまり、DCJ内における地位は主任クラスのアリスや鳥柴よりずっと上ということになる。
平賀:「いやホント、敷島さんが復活してくれてホッとしました。『不死身の敷島』の名前はダテじゃありませんね」
敷島:「いや、相変わらず悪運だけ強いってなだけですよ」
平賀:「意識が無くなっている間、幽霊電車に乗り込んでしまって、そこから脱出したんですって?」
敷島:「夢の話だと、誰も信じてくれないんです」
平賀:「知り合いの精神医学者に問い合わせてみたんですが、そういうことってあるみたいですよ」
敷島:「ええっ!?」
平賀:「敷島さんは乗り物、取り分け鉄道が大好きです。生死の境をさ迷っている間、いかにも幽霊電車のような電車に乗り合わせた夢を見て、そこから脱出できないと死ぬという自己暗示が掛かった状態だったと」
敷島:「は?」
平賀:「敷島さんは無事にそこから脱出できた。つまり、それで掛かった自己暗示を抜け出すことができたわけです」
敷島:「それじゃどうして自己暗示が掛かったのかの説明ができていないです……」
平賀:「おっと。そこまでは聞いて無かった」
敷島:(バカと天才は紙一重って本当だな……)
だが、とても厚い一重の紙であろう。
シンディ:「失礼します」
シンディはコーヒーを入れて来た。
敷島:「実は今朝、東京決戦の現場となったビルの一画に建立された祠を訪ねて来ましたよ。シンディも一緒に」
平賀:「そうですか」
平賀はそのままブラックでコーヒーを啜った。
が、そのままではやはり苦かったか、砂糖をスプーン一杯入れる。
敷島:「今さらながらですけど、シンディの名前を碑文から削除することに同意して頂いてありがとうございます」
平賀:「自分、実はシンディの自爆装置を取り外すことには反対でした。もしこいつがまたウィリーの意向を最優先にしようとしたら、自分がそいつの自爆装置を起動させてやる為です」
敷島:「しかし、取り外しは国家公安委員会からの命令ですよ」
平賀:「分かっています。一抹の不安はまだあるものの、敷島さんの管理下に置かれている以上は、敷島さんを信じたいと思います」
敷島:「私も責任重大ですね。分かりました。エミリーも私をマスターとしているわけですから、こうなったら2人まとめて……」
平賀:「それより、エミリーはどうしました?」
敷島:「ああ。エミリーは左手の調子が悪いので、アリスが修理しています」
平賀:「左手?何かしたんですか?」
敷島:「いえ、何も。……何も無いはずですが」
平賀:「まあ、左手の損傷くらいならアリスでも直せるでしょう。じゃあ、自分は代わりにシンディを診てみましょうか」
敷島:「無料点検ですか」
平賀:「後でシンディを貸してもらえませんか?」
敷島:「いいですよ。エミリーが戻ってきたら、交替ということにしますので」
平賀:「で、今調子の悪い所はあるか?」
シンディ:「はい。実はカメラの調子が……」
シンディは右目を指さした。
敷島:「なにっ!?」
平賀:「そうなのか」
敷島は驚愕し、平賀は悠然としていた。
その違いとは何だろうか?