報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「敷島の復活」 3

2017-08-06 19:42:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月26日14:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 四季グループ本社 会長室]

 敷島峰雄:「……ああ、うちの孝夫なら旭川の病院に移ったよ。脳には異常が無いのが分かったので、今度は肉体的なリハビリだ。何しろずっとベッドの上で過ごしてきたわけだから、筋肉の衰えがあったということだ。あと、少なからずケガもしていたからな。寝てる間にそういう傷は治ったみたいなんだが……。ああ、それじゃ」

 峰雄は机の上の電話を切った。

 峰雄:「早いとこ帰ってきてもらいたいものだがねぇ……」
 敷島俊介:「まあまあ、兄さん。『こちらのことは気にするな。万全を期して帰ってこい』って言ったじゃないか」
 峰雄:「まあな。しかしリハビリなら、こっちに帰って来てからでもできそうなものだが……」
 俊介:「今月中には、それも終わって帰って来れるんだろう?なら大丈夫だろう」
 峰雄:「そうだな。これでお前の任命責任を問う必要も無くなったわけだ」
 俊介:「やめてくれよ。……まあ、事実だけど」

 敷島エージェンシーの創立を決定し、孝夫を社長に担ぎ上げたのは敷島の叔父でもある敷島俊介である。
 JARA財団時代のプロデュースの腕前を買ったものだ。
 もちろんプロデューサーと、実際の経営者とではだいぶ違う。
 そこで経営に関するサポートは俊介が行うことにし、敷島には経営者とプロデューサーの兼務でスタートということになった。
 今ではもう経営のことに力を入れるだけで良くなりつつあった。

 峰雄:「もちろん、あれは事故のようなものだし、孝夫の勝手な冒険ということもある。俺としては弟を切りたいとは思わないが、他の役員達や株主さんがどう思うかだからね」
 俊介:「任命責任を問うて、私も一緒に辞任とは……」
 峰雄:「まあ、これでまたしばらくの間は日本に平和が訪れるだろう」

 峰雄は応接セットの上に新聞を置いた。

 『国内潜伏のテロリスト、続々と海外へ逃亡!?』『「不死身の敷島」こと、敷島孝夫氏の回復を受けて?』『成田空港で出国間際のテロリスト逮捕!』『国際テロ組織ヤング・ホーク団団長、ジャック・シュラ・カッパー容疑者か!?』『写真「怨嫉謗法はやめなさい!それより功徳を語りましょうね!」と、意味不明なことを叫びながら警察官に連行されるジャック容疑者』

 俊介:「公安警察まで仕事取られて泣いてるんじゃないのかい、これは?」
 峰雄:「その方が税金も節約できていいだろう」
 俊介:「兄さんもシビアだねぇ……」

[7月31日09:50.天候:晴 北海道旭川市 JR旭川駅]

 敷島:「やっと帰れるんだ……。何だか、浦島太郎の気持ちが分かるなぁ……」

 敷島は駅舎を見上げて呟いた。

 アリス:「ちょっと。なに爺臭いこと言ってんのよ」
 敷島:「いやあ、まさかあんなことになるなんてなぁ……」
 エミリー:「社長、本当に大丈夫ですか?宜しかったら、肩をお貸ししましょうか?」
 敷島:「いや、もう大丈夫。伯父さん……会長からも、万全になったら帰って来いと言われたからな」
 シンディ:「申し訳ありません。本当でしたら飛行機ですぐにでも帰京したいところでしょうが、私達が飛行機に乗れないものですから……」

 乗れないこともないのだが、当然客席には乗れない。
 初音ミクが北海道から移送される際、体がバラバラの状態だったのは移送に飛行機を使った為。
 『精密機械』という名目で貨物室に入れられたのだが、つまりロイドを移送したい場合にはバラさないとダメだということ。
 その為、そういう制約の無い他の交通機関を使うことになる。
 前回、KR団との戦いの時はフェリーを使ったが……。

 敷島:「行きと同様、全区間鉄道か……」
 エミリー:「大宮到着は22時……」
 敷島:「いや、言わなくていい。うん、日本もなかなか広いよ」
 アリス:「そうね」(←アメリカ合衆国テキサス州育ちのアリス。テキサス州だけで日本の国土の【お察しください】)

 真新しい駅舎の中に入り、予め購入しておいた乗車券を自動改札機に通す。

 敷島:「俺がリハビリしている間に買ってきてくれたのか」
 エミリー:「そうです。新幹線をグランクラスにするかどうかでシンディとケンカしました」
 敷島:「おいw 俺なんか普通車でもいいくらいだぞ」
 シンディ:「そういうわけには行きませんよ。私は本社の社長や会長がグランクラスなのだから、そこから一歩引くべきだと思ったのです」
 エミリー:「いや、お前は分かっていない。グランクラスの窓は防弾ガラスになっている(※)。テロリストからの攻撃を防止する為にも、グランクラスにするべきだった」

 ※あくまで噂です。天皇陛下がご乗車になる場所だけ防弾ガラスという話もあります。

 敷島:「で、結局どうしたの?」
 シンディ:「ブラックジャックで決めて、私の案になりました」
 敷島:「ブラックジャックかよ!ディーラーは?」
 アリス:「私」
 敷島:「……だろうな」
 エミリー:「今度は射撃で勝負だ」
 シンディ:「望むところよ」
 敷島:「あー、今度の科学館さんの夏休みイベントでやってくれい」

 高架ホームに上がると、既に列車が停車していた。

〔「3番線に停車中の列車は10時ちょうど発、札幌行きの特別急行“ライラック”16号です。グリーン車は1号車、指定席は1号車と2号車です。……」〕

 ディーゼル列車の音も響いている中、“ライラック”は静かなのは電車だからだろう。
 日本で電化されている鉄道の最北地でもある。
 進行方向上、グリーン車があるのは最後尾である。
 元々は青函トンネルを通っていた特急車両で、北海道新幹線が開通した為に用済みとなり、札幌都市圏へと移ってきたもの。
 グリーン席が付いているのはその名残だ。
 とはいっても、車両の半分しか無い。

 シンディ:「向かい合わせにしますか?」
 敷島:「いや、このままでいいだろう」

 敷島とアリス、エミリーとシンディで座る。

 エミリー:「社長、1つ御相談が……」
 敷島:「何だ?」
 エミリー:「実は札幌駅で乗り継ぎ時間が結構あるのです。この列車の札幌到着が11時25分ですが、次の乗り継ぎが14時45分なんです」
 敷島:「おっ、そんなに!?」
 エミリー:「最後の乗り換えである新幹線の座席を確保するのに、こうなってしまいました。申し訳ありません」
 シンディ:「いいよいいよ。途中下車して、何か昼食でも取るよ」

 乗車券で片道100km以上のものは、途中下車できることになっている。
 特急券ではできないが、札幌駅で特急は降りるので問題は無い(その後、別の特急には乗るのだが、特急券が別な為)。

 敷島:「せっかくだから、ジンギスカンでも食うか」
 アリス:「OH!」

 そんな話で盛り上がっている間、エミリーが列車の外でコーヒーを買って来た。

 敷島:「おっ、ありがとう」
 アリス:「エミリー、Thank youね」
 エミリー:「いいえ」

 そんなことしている間に発車の時間になり、列車は静かに走り出した。
 ディーゼル列車がエンジンを唸り音を立てて走り出すのとは対照的だ。

〔この先、揺れることがありますので、お気をつけください。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。今日もJR北海道をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は函館線上り、札幌行きの特別急行“ライラック”16号です。途中、深川、滝川、砂川、美唄、岩見沢に停車し、終着札幌まで凡そ1時間25分です。……〕

 敷島はテーブルを出すと、その上にノートPCを置いた。

 アリス:「復帰は明日からってことになってるんだから、今日くらいゆっくりしたら?」
 敷島:「そうは行くか。まずはメールの確認からだ」
 エミリー:「あの、もし宜しかったら、私もお手伝いしますよ?」
 シンディ:「私も第2秘書として……」
 敷島:「いや、いいんだ。取りあえず、メールのチェックだけでいい。お前達はGPSで、今の位置情報を会社に送ってくれるだけでいいかから。ボーカロイド達が心配して、仕事中に余計なエラーでも出したら俺も困るし」
 エミリー:「かしこまりました」
 シンディ:「社長がそう仰るのなら……」
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“Gynoid Multitype Sisters” 「ミクのメモリー」

2017-08-06 12:18:43 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月11日11:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 四季グループ本社]

 敷島峰雄:「敷島家の親族の1人であり、また、甥でもある敷島孝夫が生死の縁から生還したことは真に喜ばしい限りでございます」
 敷島俊介:「担当医の話によりますと、意識回復後は脳に障害らしき障害は全く無いとのことです。これは医学的に、とても珍しい事象とのことであります」
 記者:「孝夫社長は脳幹に何らかの衝撃を受けて昏睡状態だったとのことですが、それにも関わらず何の障害も無いということなんですか?」
 俊介:「担当医の話によれば、そういうことです」
 峰雄:「医学的なことに関しましては、私達は何もお答えできません」
 俊介:「ただ、2ヶ月以上もベッドに横になっていたことで、肉体的な弱体化と言いますか、そういうものはありますので、その状態から回復させる為にはしばらくの間、リハビリが必要とのことです」
 峰雄:「あくまで肉体的なリハビリであり、脳に障害は無い為にそちらでの問題はありません」

[同日同時刻 天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F]

 敷島エージェンシーの事務所にも、クライアントからの電話が殺到していた。

 井辺:「……はい。今、本社の方で役員による記者会見が行われておりますので、それをご覧頂ければと……。はい……はい……」
 緒方:「……確かに社長の意識は回復されましたが、退院や職場復帰の予定はまだ経っておりませんので、分かり次第追ってご連絡を……」
 篠里:「……まだこちらにも詳しい連絡は入っておりませんので、何とも申し上げられないのですが、恐らく本人から何らかの発表はあるかと思いますので……」

 総合プロデューサーの井辺だけでなく、たまたま事務所にいた初音ミクや巡音ルカのマネージャー達も総出で電話対応に当たっている。
 それだけではなく……。

 MEIKO:「はい、敷島エージェンシーでございます。……あ、はい。いつもお世話になっております」

 手の空いているボーカロイドまで。

 鏡音リン:「ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われておりませんYo〜!」
 エミリー:「!?」

 リンのイタズラ対応に、エミリーのゲンコツが飛ぶ。
 ジュニアアイドルに電話対応させるとこうなる?

 エミリー:「大変失礼致しました。敷島エージェンシーでございます」
 七海:「七海です。今、そんなに大変な状況なんですか?」
 エミリー:「七海か。どうした?」

 七海は平賀が製作した、本邦初のメイドロイドである。
 番号順ではない為、姉妹という感覚は無いのだが、他にも名前に“海”が入っているメイドロイド達を“海”シリーズと呼ぶ。
 特に七海の場合、本邦初ということもあり、最初は命令の内容を聞き間違えるなどのポンコツメイドぶりを発揮していた。
 今ではだいぶ学習し、やっと優秀なメイドロイドになっている。
 派生機はメイドだけでなく、敷島エージェンシーの事務員もやっている。

 七海:「平賀博士からの伝言で、『初音ミクを検査したい』と」
 エミリー:「初音ミクを?」
 七海:「敷島社長の昏睡の原因が脳幹への衝撃と聞いて、平賀博士が近くにいた初音ミクを疑っているようです」
 エミリー:「ほお……」

 エミリーは事務室の外にいるミクをチラッと見た。

 エミリー:「……おおかたの予想は付いているが、それで私は初音ミクをどうすれば良い?」
 七海:「明日、都内で講演があるので、その後で都心大学に連れて来てほしいと……」
 エミリー:「分かった。幸い明日の午後は、ミクの予定が空いている。マネージャーにも伝えておこう」

 エミリーは電話を切った。

 エミリー:(ミクのヤツ、社長のすぐ近くで『鉄腕アトム』でも歌ったのか……?)

[7月12日16:00.天候:晴 東京都区内某所 都心大学]

 ここで客員教授でもある平賀は、ミクを実験室に入れた。

 エミリー:「初音ミクの行動記録を調べるのですか?」
 平賀:「そうだ。人間の脳幹に影響を与える歌が歌えるのは、ミクしかいない」
 エミリー:「ミクのことですから、何も悪気があったとは思えませんが?」
 平賀:「分かってるさ。だが、脳幹に衝撃を与えておきながら、後遺症を全く出さないことが本当にできるのかが気になるだろ」
 エミリー:「……あなたは、脳科学は全くの別分野でしょう?」
 平賀:「もちろんだ。ただ、まだ俺もボカロのことを全部分かっちゃいない。それを知る為だ」

 平賀は初音ミクの目(カメラ)に映り、その記憶をたどり始めた。

 平賀:「これか!?これだ!」

 ミクの映像が不鮮明になる箇所がある。
 ミクもまた損傷を受けた。
 時折、画面が真っ暗になる時間もある。
 で、画面が物凄く荒っぽい状態になっている時だった。

〔ミク:「……皆……歌う……。だから……私も……歌います」
 敷島:「何が!?」
 ミク:「そーらを越えてー♪ラララ♪星のかーなたー♪」
 敷島:「こ、こら!その歌は……!」〕

 画像が不鮮明ながら敷島の声は聞こえている。
 そして、敷島が耳を塞いで伏せるのが何とか分かった。
 直後、大爆発音と共にミクの映像が切れた。

 平賀:「やっぱり……」
 エミリー:「実はマザーの動きが突然止まったことがあって、それで……それまで不利だった私の形勢が逆転することになったのですが……」

 エミリーのその時のメモリーとミクのメモリーを照合すると、見事に一致するのだ。
 ミクが歌い始めた時間と、マザーの動きが止まる時間と……。

 エミリー:「ミクも戦ったのですね。マザーと……」
 平賀:「だが、代償は意外と大きかったな。ま、それでも敷島さんが復活してくれて助かったけど……」
 エミリー:「ええ」
 平賀:「どれ、俺も北海道に行ってくるかな」
 エミリー:「行かれますか」
 平賀:「エミリー、お前も来るか?」
 エミリー:「私が……?いいんですか!?」
 平賀:「あー、向こうのDCJがシンディだけでなく、エミリーも見たいって言うからさ……」
 エミリー:「はい!是非!」

 平賀の誘いにエミリーの顔は明るくなった。
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