報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「ショーウィンドーのレイチェル」

2017-08-26 19:51:18 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月12日13:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 定禅寺通り]

 敷島:「あー、食った食った。ごちそーさんっと」
 エミリー:「それでは地下鉄で、旭ヶ丘駅まで向かいましょう。勾当台公園駅が近いです」
 敷島:「そうだな」

 敷島は昼食を取ると、エミリーを伴って定禅寺通りを歩いていた。

 敷島:「ん?」

 すると途中にブティックがあった。
 どうやら今日は休業日のようだが、何故か敷島は気になった。
 作業服を着ている男が2人入って行ったのだが、その作業服はDCJ技術員のユニフォームだった。
 背中に赤いアルファベット大文字で、『D.C.J』と書かれている。

 敷島:「高級ブティックにDCJ?何だか合わないなぁ……」

 東北一の大都会だ。
 ここにDCJの支社や支店があってもおかしくはない。

 エミリー:「社長。急ぎませんと、科学館様との事前打ち合わせに遅れます」
 敷島:「それもそうだな。俺は営業畑。技術のことは技術屋さんら任せればいい」

 敷島はそう言って平賀の顔を思い浮かべた。
 そう言えば平賀も科学館にいるはずだ。
 一緒に打ち合わせに出ることになっている。
 敷島達がそのブティックの前を通り過ぎようとした時だった。

 技術員A:「うわなにをするやめr」
 技術員B:「暴走だ!捕まえてくれ!!」
 敷島:「!?」
 エミリー:「!?」

 店の方を見ると、若い女性が店の外に飛び出そうとしていた。
 エミリーは即座にスキャン。

 エミリー:「ロボット!?」

 エミリーは行動素早く、そのガイノイドを捕まえた。
 まるでバージョン・シリーズを相手にするかのように、エミリーは殴りかかろうとしたので、

 敷島:「エミリー、やめろ!壊すな!!」

 敷島が慌てて制した。

 エミリー:「はい!」

 エミリーは振り上げた右手の拳は引っ込めたが、押さえつけるのだけはやめなかった。

 技術員A:「も、申し訳ありません!」
 技術員B:「ありがとうございました!」
 敷島:「いえいえ。取りあえず報酬は、平賀太一外部執行役員に……」
 エミリー:「社長!」
 敷島:「冗談だよ。何ですか、このロイドは?」
 ガイノイド:「放して!放してください!放して!」
 エミリー:「黙れ!おとなしくしないと、右腕をへし折るぞ!!」
 敷島:「お嬢さん。今あなたを押さえつけているのは、アンドロイドの世界では女帝の1人、マルチタイプ1号機のエミリーだ。ここはおとなしくした方がいいぞ」
 エミリー:「あと1人は?」
 敷島:「シンディに決まってんだろ!……ああ、因みにアルエットは女帝見習いな」
 店長:「申し訳ありません。あなた様は敷島エージェンシーの敷島社長でいらっしゃいますね。ボーカロイド専門の芸能事務所の……」
 敷島:「私もいつの間にやら有名になっていたようですね」
 エミリー:「あれだけマスコミに出れば、そうなります。いいか、お前?少し押さえつける力を弱めるが、逃げようとしたら……分かってるな?」

 エミリーは両目をギラリと光らせて威嚇した。

 ガイノイド:「…………」
 敷島:「一体、どうしたというんですか?彼女、まるでメイドロイド並みの出来ですが、何かあったんですか?」
 技術員A:「はあ……」
 敷島:「私はこう見えても、ボーカロイドを連れて営業している者です。その知識を利用して、何かお役に立てるかもしれません」
 ガイノイド:「私はレイチェルと申します」
 エミリー:「レイチェル!?7号機の!?」
 ガイノイド:「? いいえ。私は6号機です」
 敷島:「いや、エミリー。マルチタイプ7号機のレイチェルとは違うだろ。てかもうあれ、アルエットにぶっ壊されたし」
 店長:「ショーウィンドーのマネキンに代わって、デイライトさんの方で安価で出来の良いロボットが開発されたというので購入したんです」
 技術員B:「メイドロイドを簡素化させたものです。そうすることで、さらに安価に提供できるというものです」
 敷島:「マネキンにメイドロイドの廉価版?それでも何か勿体無い気がするが……。まあ、いい。それでこのレイチェルとやら、どこが調子悪いんですか?」
 店長:「シャットダウンしようとしても、弾かれるんですよ」
 敷島:「は?」
 エミリー:「キサマ、命令違反か!」
 店長:「敷島社長も御存知の通り、こういうロボットはかなり電気を食べます」

 その為、ボーカロイドやマルチタイプの充電は、深夜電力や合法的にタダで充電できるコンセントを使用している。
 東日本大震災直後は電力不足の為、ボーカロイドは稼働休止を余儀無くされ、初音ミクだけが何とか稼働できたくらいだ。
 それでも1日たった3時間という制約で。

 店長:「ですので閉店時間や休業日は電源を落とすようにしているんですが、何故かこの3連休に入ってからシャットダウン操作しても弾かれてしまうんです」
 敷島:「分かりました。そこはロイド同士、エミリーに尋問させましょう。……拷問はしなくていい!」
 エミリー:「は?」

 エミリー、既に電気鞭を取り出して地面にピシッと叩き付ける仕草をしようとしていた。

 エミリー:「拷問は禁止されたが、私に尋問する権限は与えられた。さあ、どうしてシャットダウン命令を拒否したのか?答えろ」
 レイチェル:「…………」
 エミリー:「あと10秒以内に答えないと左の指一本ずつへし折るが、良いか?」
 敷島:「だからエミリー、拷問は……」
 エミリー:「答えろ!!」
 レイチェル:「……KAITOさん」
 敷島:「ん?」
 レイチェル:「KAITOさんの歌が聴きたいです」
 敷島:「……あっ!」

 敷島はKAITOの予定表を見た。

 敷島:「……この近くのライブハウスで、MEIKOやLilyとは別にライブやることになってる。なに?キミ、KAITOのファンなのかい?」
 レイチェル:(´∀`*)
 エミリー:「フザけるなよ……!」

 エミリーはレイチェルの胸倉を掴んだ。

 敷島:「待て待て。よくよく考えてみたら、バージョン4.0や5.0の中にもミクのファンがいるくらいだ。逆にガイノイドがKAITOのファンになったっておかしくはないぞ」
 エミリー:「ですが、社長。だからといって、マスターの命令を違反して良い理由にはなりません」
 敷島:「それもそうだな。じゃあ、こうしよう。KAITOにライブハウスの仕事が終わったら、ここに寄るように伝えておこう。握手でもサインでもするように言っておく。但し、ちゃんと今後はマスターの命令を聞くと約束すること。それが条件だ」

 すると、レイチェルの動きが止まった。

 エミリー:「シャットダウンしましたね。何て単純なヤツだ」
 敷島:「今後はKAITOのファン対策に、ガイノイドも入れなきゃいけなくなりそうだ」
 エミリー:「あっ、社長!それより打ち合わせ!」
 敷島:「ああっと、そうだった!取りあえずまた後で様子を見に来させてもらいますから!」
 店長:「あ、ありがとうございました」
 敷島:「急げ!仙台市科学館だ!」
 店長:「裏口からですと、勾当台公園駅への近道です」
 敷島:「おおっ、助かります!KAITOもそこから入ってもらうようにしよう」

 敷島達は店の裏口から出ると、急いで地下鉄の駅に向かった。

 技術員A:「凄いですね、主任」
 技術員B:「さすがは修羅場を何度も潜ってきた人達には恐れ入る」
コメント (5)
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