報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「ロイドの目」

2017-08-13 22:06:21 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月1日14:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 平賀は鞄の中からペンライトを取り出して、シンディの右目を照らした。
 まるで、眼科医もしくは健康診断の時の問診みたいである。

 敷島:「平賀先生、シンディの右目は?もしかして、故障ですか?」
 平賀:「いや……」

 その後で自分のノートPCを取り出す。
 それを操作した後で、

 平賀:「シンディ、このモニタにお前のカメラを映してくれ」
 シンディ:「分かりました」

 シンディが一瞬目を閉じてまた開けると、PCのモニタにシンディの視界が映る。

 平賀:「もう1度行くぞ」

 平賀はもう1度ペンライトをシンディの目に当てた。
 当然、画面も光で白くなる。
 ところが、なかなか補整されない。

 平賀:「多分、調子が悪いのはここじゃないかな」

 周囲の光の強さに応じて、それを補整する機能。
 確か、逆光補整とか言ったか。
 それが故障したらしい。

 敷島:「先生、早く直してください」
 平賀:「シンディを使って、何か撮影記録でもするんですか?」
 敷島:「いえ、別に無いですけど……」
 平賀:「それなら慌てなくても大丈夫ですよ。今日は御自宅に帰って、アリスにその件を伝えるといいでしょう。点検レポートは出しておきますから」

 人間で言う診断書みたいなものか。

 敷島:「で、でも……。見えづらくて大変そうですよ」
 平賀:「シンディ?お前、カメラ以外に“目”も調子悪いのか?」
 シンディ:「いえ、それは大丈夫です」
 平賀:「“目”がやられてるのなら安全上も問題なので、早目の修理が必要ですが、カメラなら安全上の問題は無いでしょう」
 敷島:「え?ん???」
 シンディ:「あ、社長。このカメラ、私の目とは違いますよ」
 敷島:「は?」
 シンディ:「これは社長達が私の見たものを解析する為のカメラです。私の……視点……視界……としての目はまた別にあるんです」
 敷島:「意味が分からんぞ。どういうことだ?」
 平賀:「敷島さん、人間の目ですが、我々は見たものをそのまま脳に記憶するでしょう?もっとも、無意識に見ていたものについてはあまり記憶されませんが……」
 敷島:「ええ」
 平賀:「だけど、その記憶を他人が見ることはできない。超能力者や魔法使いでさえ不可能でしょう」
 敷島:「口や図、絵で説明するしかないですね」
 平賀:「シンディ達はそれ用の目、つまりカメラが別に存在するということです。要は、目が3つあるんですよ、彼女らは」
 敷島:「え!?」
 平賀:「だけど通常は、この左右の2個で十分です。だから、ましてや他人に見せる記憶用のカメラたる目が今故障しても、それを使う予定が無ければ急いで直す必要は無いということです」
 シンディ:「社長、アルエットを思い出して」
 敷島:「アルエット?」

 マルチタイプ8号機のアルエット。
 但し、7号機までの規格をフルモデルチェンジしたものだから、エミリーやシンディからは実妹ではなく、従妹として見られている。
 それでも、可愛がられてはいるのだが。

 敷島:「あ……!」

 アルエットも目が3個ある。
 もっとも、通常は左右に2個だけだ。
 3個目は前頭部の髪の中に隠れている。
 それも、目玉が隠れているのではなく、このPCのモニタの上にさりげなく付いている超小型カメラである。

 平賀:「御理解頂けましたか?エミリーやシンディの場合、3個目の目が2個目の目玉の中に同居しているんですよ」

 平賀は鞄の中から何かの部品を取り出した。

 平賀:「これはメイドロイド用の“目玉”です。彼女らもオプションで3個目の目を取り付けることができまして、七海には取り付けてるんですけども。これを見てください」

 左目と右目。
 見た目には違いが無いように見えるが……。

 平賀:「瞳孔の部分だけが、彼女達の本来の目です。彼女達が『視覚』として必要な部品。記録用のカメラは瞳孔の下にあります」
 敷島:「虹彩の中に隠れているんですね」

 平賀がさっき光を当てたのは、強い光を当てて瞳孔がちゃんと動くか確認したらしい。
 で、ちゃんと動いた。
 だからシンディの言う調子の悪いカメラとは、記録用の第3の目だったというわけである。

 平賀:「記録用のカメラは1つだけでいいので、片目にしか付けていないんですよ」
 敷島:「あれ?でも前に『2つ付けた』とか仰ってませんでした?」
 平賀:「人間のような視点での映像が撮れるかどうかの実験だったんです。でも、ダメでしたね。今は超小型でもかなり解像度の高い映像を記録できるカメラがありますから、我々が後で確認するだけならそれ1個で十分だと思ったんです」
 敷島:「要は監視カメラの映像だとか、家庭用のカムコーダみたいなものですね」
 平賀:「今さっき見た時、画質的にはそんなものだったでしょう?でも、我々が確認する分にはその程度の画質でも十分ですし、解像度を上げることも可能です。よって、彼女達の『視覚』用のカメラは人間と同じく両目に2個必要ですが、記録用の第3の目は1つで十分ということなんです」
 敷島:「その、視覚用の2個のカメラで見たものをそのままメモリーに記録し、それを後で我々が見ることはできないんですか?」
 平賀:「できません。何故なら、記録できないからです」
 敷島:「???」
 平賀:「ドライブレコーダーと同じです。必要の無い画像まで保存していたら、あっという間に容量が一杯になるでしょう?だから過去の物から自動的に消去して行き、事故発生時などの部分は記録として残すというものですね。彼女らは、人間の脳ほどまだ緻密じゃないんです。今現在も見たままの映像を記録しっ放しにしていたら、あっという間に人工知能が容量オーバーで停止します」
 敷島:「はあはあ……」
 平賀:「それに、カメラだけじゃありませんからね。他にも聴覚として聞いたものを記録していますから、視覚だけじゃないんですよ。だから、あくまで『2つの目』は彼女らの『視覚』用としての用途に留めておかなくてはならないんです」
 敷島:「何だか難しいなぁ……」

 因みに記録用の第3の目は、常に外部取り付け用のメモリに記録しているとのこと。
 彼女達は第3の目では、『視覚』として使用することができない。
 要は人間の目、左右どちらかに、常に映像記録用のカメラも付けていると見れば良い。
 彼女達の場合、それがそのまま目の中にあるということだ。
 あと、2つの目はセンサーも付いているので、距離感などはそれで測るらしい。

 平賀:「本当はこんな目が無くても大丈夫なんですよ。でも、人間そっくりに造るんであればね、必要ですから。アンドロイドはバージョンと違い、機能美だけではなく、造形美も追及しなければなりません。お掃除ロボットのルンバだって、『視覚』はあるけど、目玉らしいものは無いでしょう?彼女達の『視覚』も、それだけでは目玉とは言えないんですよ。でも、人間のように造るのであれば、当然目玉も必要です」
 敷島:「色々、無駄にしているような気が……」
 平賀:「そういうものですよ。人間の体には、実はあまり必要の無いものとかあるんですよ。例えば、体毛って何か実用性ありますか?無いでしょう。それどころか、美容として剃り落してしまいますよね。だから彼女達には、頭髪はあっても体毛はありません」
 敷島:「確かに」

 もちろん、眉毛とかまつ毛はある。

 敷島:「難しいですけど、目玉1つ取っても、かなり凝った造りになっているんですね」
 平賀:「そういうことです」
 敷島:「それじゃ、50億円して当然だ。……デイジーはかなり安く買い叩かれたんですって?」
 平賀:「買い手が付かなかったんだからしょうがないじゃないですか」
 敷島:「すいません。うちの老害が注文しておきながら、勝手に……おっと!」

 敷島はシンディがすぐ横にいるのを思い出して口を噤んだ。
 シンディとしては、敷島孝之亟を介護・介助していて楽しかったと述懐している。
 恐らく、生みの親であるウィリアム・フォレスト博士をそうしていたかのように思えたのだろう。
 尚、9号機のデイジーは、メーカー希望小売価格としては25億円だったが、実際の買値は10億円ほどだったとのこと。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする