報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「南里ロボット研究所」

2017-08-18 19:34:00 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月11日05:47.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 地下鉄仙台駅南北線ホーム]

 エミリー:「社長、そろそろ電車の来る時間です」
 敷島:「ううーん……!そうか……」

 バスはダイヤ通りに到着した。
 こんな夜中から早朝に掛けては、高速道路もその先の一般道路も渋滞することは無い。
 ところが敷島にとって1つの誤算があった。
 後述するが、そもそも敷島達が早朝に仙台入りをしたのには理由がある。
 その目的地に行って目的を果たして、後から新幹線で入りするメンバー達と合流する為であった。
 誤算というのは、仙台市地下鉄のダイヤ。
 東京メトロより30分以上も始発が遅い。
 このことに気がつかなかった為、敷島達は地下鉄の乗り換えに30分以上要したのである。
 敷島達は駅が開くのを待って、そこから今度は電車が来るまでの間、ベンチで休んでいた。

 エミリー:「モーニングコーヒー、缶入りでよろしければ……」
 敷島:「ありがとう。昔はよく缶コーヒーを飲んでいたものだ」

〔2番線に、泉中央行きが参ります。……〕

 敷島:「南里研究所時代は特にな」
 MEIKO:「車の中によくあったもんね」
 敷島:「そうだな」

 始発電車が入線してくる。
 仙台市地下鉄も、今は全駅にホームドアが付いている。
 新しい東西線は開業時からであるが、南北線にあっては後付けである。
 それでもホーム監視の駅員無しでワンマン運転できたのは、短い4両編成だからだろう。

〔仙台、仙台。東西線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 ツツジの花をイメージした色の座席に座る。
 ガラガラの車内であるが、エミリーは荷物を手に敷島の横に立つだけで座らない。

 敷島:「最終電車ならぬ、始発電車か。油断はできんな……」
 MEIKO:「夢の世界からもう脱出できたんだから、何も心配しなくても大丈夫でしょうよ」
 敷島:「いやいや……」

〔2番線から、泉中央行きが発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 どちらかというとチャイムに近い発車メロディが鳴る。

〔「ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 敷島:「いいか?運転席に行く前にバージョン4.0の腹を掻っ捌いて、乗務員室の鍵を手に入れるんだ」
 エミリー:「お任せください」
 MEIKO:「やれやれ……┐(´д`)┌」

 電車が走り出す。

〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通りはこちらです〕
〔The next stop is Hirosedori station.〕
〔日蓮正宗日浄寺へは北仙台で、妙遍寺へは八乙女でお降りください〕

 初音ミク:「社長、昔の研究所に行って何をするんですか?」
 MEIKO:「そうそう。私も気になってた」
 敷島:「まあまあ、焦るなよ。ちゃんと着いたら教えるからさ」

 敷島はそう言って缶コーヒーを口に運んだ。

[同日06:03.天候:晴 泉中央駅→南里研究所跡]

 電車が黒松駅を出ると地上を走り始める。
 その様子は地下鉄というより、どこかの私鉄のような雰囲気でもある。
 黒松駅を出て八乙女駅に向かう途中に、池のようなものが見えてくる。
 その横を電車が走り、真美沢堤と呼ばれている。
 当ブログでは公開していないが、前期型シンディが初めてエミリーと戦闘を行った場所とされる。
 但し、途中で不利になると見るや、部下のバージョン3.0を囮にして逃げるという卑怯な点が散見された。
 今でもこの池の底には、エミリーが破壊したロボットが沈められているとの噂だ。

(※設定があやふやだった“ボーカロイドマスター オリジナル”と“ボーカロイドマスター リメイク版”は設定がかなり変わっています。ここでは後者のリメイク版の設定を踏襲しています。オリジナル版ではシンディとの初戦は研究所界隈となっています)

〔泉中央、泉中央。終点です。お出口は、左側です。ドア付近の方は、開くドアにご注意ください〕

 MEIKO:「社長、そろそろ着きますよー」
 敷島:「……おっ!缶コーヒー飲んでも、すぐには目が覚めないものだなー」
 ミク:「人間もスリープ状態に入るんですか」
 敷島:「うん。スリープ状態入ったな」

 電車が到着してドアが開く。

〔泉中央、泉中央。終点です〕

 敷島:「どれ、降りるとするか」

 敷島達は電車を降りて、地上の改札口に向かった。
 この駅は半地下構造になっていて、改札口が地上、ホームが地下にある構造である。

 ミク:「ここからは何で行きますか?」
 敷島:「まだバスは無いだろう。タクシーでいいよ」
 エミリー:「分かりました」

 駅を出てタクシー乗り場に向かう。
 荷物があったのでトランクを開けてもらい、その中に荷物を置く。
 助手席に座ったエミリーが行き先を告げた。

 エミリー:「のぞみケ丘までお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 タクシーが走り出した。

 ミク:「社長、これ……」

 ミクが車内の広告を見つけた。
 髪の色と同じエメラルドグリーンの爪が目立つ指で、ある広告を指さした。
 今日これからライブを行うセキスイハイムスーパーアリーナのアクセスにこのタクシーを是非、というものだった。

 敷島:「なるほどな」
 MEIKO:「このままこれで行っちゃう?」
 敷島:「バカ言え。まずは仙台駅で皆と合流してからだよ。バラバラで行動したらダメだよ」
 MEIKO:「はーい」

[同日06:30.天候:晴 仙台市泉区のぞみケ丘 南里ロボット研究所跡]

 ニュータウンのぞみケ丘の外れに、その研究所だった建物は建っている。
 ニュータウン造成後は町の診療所としてオープンしたが、近くに総合病院がある為、あっという間に廃業した。
 売りに出されているところを南里が購入。
 研究所として再オープンした。
 財団発足後、南里死亡後は放置状態になっていたが、アリスが購入。
 また、半ば強制的に敷島も同居することになった。
 しばらくはこの状態が続いていたが、アリスがDCJにヘッドハンティングされ、敷島もまた、財団崩壊後に四季エンタープライズの敷島俊介社長からの後押しで敷島エージェンシーの社長に就任した為、再び無人の建物となった。
 今現在はDCJ仙台支社所属の営業所として登記されているのだが、実態は倉庫である。

 エミリー:「ここでお願いします」
 運転手:「はい」

 車道入口の門の前でタクシーを降りた。
 しかし門は固く閉ざされ、チェーンと南京錠で固定されている。
 この門は南里研究所自体には無かったものである。

 敷島:「鍵っと……」

 しかし、敷島は鍵を持っていた。
 それで門の鍵を開ける。

 敷島:「じゃ、行くか」

 それで門を開けると、敷島達は思い出の研究所に足を踏み入れた。
 まずは建物に向かうまでの車路。
 登り坂になっている。
 この坂は敷島の血を吸った坂だ。
 暴走した鏡音レンが敷島を刺殺せんと包丁で刺した坂である。
 敷島は一命を取り留め、レンは財団に捕らえられてスクラップ処分を待つだけとなっていたが、鏡音リンの嘆願と敷島がスクラップを望まなかったことでレンの処分は免れている。

 敷島:「ここが俺の刺されたところだ」
 MEIKO:「本人の前じゃ言えないわね」
 ミク:「わたしが気づいていながら、ごめんなさい……」
 敷島:「今さらいいよ」

 当時、ボーカロイドの無断外出は禁止されていたので、研究所から一歩でも外に出たらエミリーが駆け付けることになっていたが、この坂はまだ敷地内、つまり私道だったことが災いした。

 敷島:「今となっちゃ、いい思い出だ。ここをメモリアルパークにしたいくらいだよ」

 思えば、『不死身の敷島』伝説はこの時から始まっていたのかもしれない。
コメント (5)
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“Gynoid Multitype Sisters” 「バスの旅」 3

2017-08-18 12:22:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月11日03:20.天候:晴 福島県本宮市 東北自動車道下り・安達太良(あだたら)サービスエリア]

 バスが2回目の休憩箇所に到着する。

 敷島:「んむ……?」

 それまでは寝ていたのだが、やはり停車すると目が覚めてしまうのは高速バス旅に慣れた人間のサガか。

 敷島:(しょうがねぇ)

 敷島はビールの空き缶を捨てに行くがてら、バスを降りることにした。

 敷島:「何か涼しいな……」
 エミリー:「現在の気温21.6度です」
 敷島:「あー、そりゃ涼しいわ〜……って!」

 敷島が後ろを振り向くとエミリーがいた。

 敷島:「今度はお前か」
 エミリー:「今度……は?」
 敷島:「羽生でも俺は降りたんだよ。そしたら付いて来たのはミクだった」
 エミリー:「ミクが?」
 敷島:「俺への監視は厳しいな」
 エミリー:「それはそうです。その体、社長お1人の物だけではないということです」
 敷島:「なるほど。いや、俺はちょっと缶ビール捨てに降りたんだ」
 エミリー:「いつの間に……」
 敷島:「羽生で降りた時。寝酒代わりにな。そしたら、2回目のここで起きたってわけ。それまでは爆睡していたつもりなんだが……」
 エミリー:「器用でいらっしゃいますね」
 敷島:「あー?……あー、まあそういうことでもあるか。まあいいや。何かいつもより涼しいから、トイレ行きたくなってきた。ちょっと行ってくる」
 エミリー:「行ってらっしゃい。ついでに何か買っておきますか?」
 敷島:「……水でいいよ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーは自動販売機でペットボトル入りのミネラルウォーターを購入した。
 それを手に、トイレの入口で待つ。

 エミリー:「…………」
 敷島:「お待たせ」
 エミリー:「お帰りなさいませ。水を購入しておきました」
 敷島:「そうなのか。いや、水道の水でいいと思ったんだが、まあいいや。ありがとう」
 エミリー:「バスに戻りますか?」
 敷島:「ああ。他にやることが……」
 エミリー:「!!!」

 エミリーは両目をギラリと光らせた。
 そして敷島の前に立つと、すぐにバッと振り返る。
 建物の陰から1人の男が飛び出して、エミリーに鉄パイプを振り下ろした。
 エミリーはそれをあえて左手で受け止め、体を低くして右手で男の腹部を軽くパンチ。
 そして受け止めた左手から電気を流して痺れさせた後、右手で顔面に拳を……入れる前に寸止めした。

 エミリー:「何のマネだ?……用途:執事、製造番号4番、ロイ!」
 ロイ:「いやー、申し訳無い。ちょっとドッキリを……」
 村上:「おー!相変わらず、鬼のように強いマルチタイプじゃのぅ……」
 敷島:「村上教授!……何やってるんですか、こんな所で?」
 村上:「ワシも仙台に行く所ぢゃ(^_^)v」

 村上大二郎は駐車場に止まっているキャンピングカーを指さした。
 最近はお手軽価格の軽ワゴンタイプも流行っているそうだが、村上のはマイクロバスを改造した本格的なものだ。
 家族と一緒に乗っているのだろうか。

 敷島:「……何しに?」
 村上:「息子夫婦と愛しのマイプリティ……もとい、孫娘に会いに行くのとボーカロイドの活躍ぶりを見に行くところだ」

 村上はボーカロイド達のライブのチケットを取り出した。

 村上:「最近はチケットを取るのも難しくなるくらい活躍しているそうじゃな」
 敷島:「おかげさまで。平賀先生経由で取りましたね?」
 村上:「おー、さすが分かっておるの〜」
 敷島:「平賀先生の大学でも、ボーカロイドのファンクラブがあるそうなんで……」
 村上:「凄い人気ぶりじゃの」
 エミリー:「社長。そろそろバスの出発する時間ですので……」
 敷島:「おっ、そうだ」
 村上:「ワシの車に乗り換えんか?」
 敷島:「うちのボーカロイドのナンバー1とスターを輸送中なんでね、またの機会にさせて頂きますよ」
 村上:「それは残念だ」

 敷島とエミリーはバスに戻った。

 敷島:「全く。あの爺さんも無茶しやがる。ヘタにロイをぶっ壊したらどうするんだよ。なあ?エミリー」
 エミリー:「そうですね。私は責任を負いかねます」
 敷島:「あー、それでいいよ」

 エミリーは敷島がプライバシーカーテンを閉めるのを確認してから、自分も充電コンセントを繋いだ。

 エミリー:(それにしても……)

 バスは安達太良サービスエリアを出発した。
 今後、何事も無ければ仙台駅西口まで直行することになる。

 エミリー:(ロイのヤツ、戦い方がキールに似ていた……。もしかしてロイは、キールのデータを受け継いでいる?まさか……)

 そして、キャンピングカーに戻った村上とロイ。

 村上:「ただいまじゃ」
 助手:「先生、あのマルチタイプとロイを戦わせるなんて無茶させないでくださいよ」

 運転席に座っている若い助手が文句を言った。

 助手:「いくらマルチタイプの生の戦闘データが欲しいとはいえ……」
 村上:「心配要らん。シンディなら壊してたかもしれんが、エミリーなら手加減すると思った。ワシの予想大当たりぢゃ(^_^)v」

 ロイがキャンピングカーのキッチンで入れたコーヒーを出す。

 ロイ:「でも、よろしいんですか?私のデータ更新の際、あのマルチタイプ5号機のキールのものを一部インストールしたことがあの御方にバレたら……私が壊されるだけでは済まないかもしれませんよ?」
 村上:「十条さんは道を誤った。マルチタイプの開発者じゃったからあれに拘ったのは理解できるが、しかしやはりあれはじゃじゃ馬じゃ。じゃじゃ馬を個人で飼い慣らせることができると明らかに判断できるのは、この日本でただ2人」
 助手:「敷島エージェンシーの敷島社長と、東北工科大学の平賀先生だけですか」
 村上:「いや、それは違うぞ」
 助手:「は?」
 村上:「敷島社長は合っているが、少なくとも平賀君は飼い慣らせるほどの力はあるまい。南里博士が見込んだのはマルチタイプを飼い慣らせる力ではなく、それを作る力じゃ。作る力を持ち合わせているからといって、飼い慣らせる力があるとは限らんよ」
 助手:「なるほど。確かに特撮モノの合体ロボだって、操縦しているのはそれの製造者ではなく、専属のパイロットですもんね」
 村上:「うむ。つまりはそういうことじゃ。平賀君の動向を見るに、ついにはエミリーをも手放しかねん状態になってる。それほど手に余る存在だということなんじゃ」
 ロイ:「もし敷島社長が、合体ロボが出てくる特撮番組でラスボスを張る悪の組織のリーダーだったとしたら大変なことになりますね」
 村上:「あのKR団をして傘下組織扱いになるじゃろうな」

 村上はズズズとロイに入れてもらったコーヒーを入れた。

 村上:「ワシは執事ロイドでも作って売る方が合っとるよ」
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