報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「敷島の復活」

2017-08-05 22:41:58 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月3日14:00.天候:晴 北海道紋別郡遠軽町 厚生病院]

 エミリ―:「社長……!社長……!」

 集中治療室の前にいるのは平賀とエミリー。

 平賀:「まだ、ダメか……。こうなって来ると……」
 医師:「意識の回復の見込みについては、何とも申し上げられません。脳幹に何か強い損傷を受けた痕はあるのですが、不思議とその傷痕は癒えていまして、脳波にも異常は無い状態なんです」
 平賀:「脳幹に損傷を受ければ昏睡状態となり、植物人間のようになる。それは自分も聞いています。しかし、そんな簡単に治るものなんですか?」
 医師:「とても不思議です。何か、外部から直接ではなく、間接的な何かを受けたのかもしれません」
 平賀:「ただ、それは……意識さえ戻れば、すぐにでも退院できる状態だと?」
 医師:「もちろん、検査は必要です。結果によっては、です」
 平賀:「分かりました」
 エミリー:「わたし……電気流します。電気流せば、目を覚ましますよね?」
 平賀:「おいおい!」
 医師:「それは危険です。脳にどんな影響が出るか分かりません」
 平賀:「それ以前に、センターの電気系統がブッ壊れるだろうが。ダメダメ」
 エミリー:「……っ!でも、このままじゃ……!」
 医師:「敷島さんの身内の方ですか?」
 平賀:「あ、いえ。自分は敷島さんとは、約10年来の付き合いのある友人です」
 医師:「ご家族の方とお話したいことがあるのですが……」
 平賀:「そうですね……。自分で良ければ、彼の妻に伝言しますよ?」

 だが、平賀は担当医の言いたいことが粗方予想できた。
 平賀の身内にも、植物状態となってしまった者がいて、ついに家族が了承してしまったからである。

 平賀:「……やはり安楽死か」
 エミリー:「そんなことは……許しません」
 平賀:「おいおい、お前にそんな権限は無いぞ」
 エミリー:「平賀博士は賛成なんですか!?」
 平賀:「自分だって悔しいさ。これではまるで、KR団と相討ちになったようなものだ。少なくとも他のテロ組織も黙る『不死身の敷島』『テロリストを泣かせた男』が死んだと世界中に知られてみろ?テロ組織が大挙して日本に押し寄せてくるぞ」
 エミリー:「わたし……敷島さんが亡くなったら、舌を噛みます」
 平賀:「自爆装置は取り外してるぞ?」
 エミリー:「でも全ての機能をシャットダウンし、2度と再起動できないようにはなりますよね?」
 平賀:「そんなことするなよ?お前の妹達が寂しがるだろ?」
 エミリー:「シンディやアルエットは、私がいなくても……」
 平賀:「あとは、ボーカロイド達からとか……。特に、MEIKOからは『気楽に話せる相手がいなくて寂しい』とかなるぞ」

 ボーカロイドの中で稼働期間が最も長いMEIKOは年長者である為、それよりもっと年上のエミリーは良い『お姉さん』であるらしい(もちろん、規格は違うのだが)。

 平賀:「自分は、敷島さんは必ず帰って来ると思うんだ。人間の勘だから、お前達ロイドのように計算したわけじゃない。だけど、そんな気がするんだ」
 エミリー:「確かに、理解できない概算ですね。でも、それが人間なのですね」
 平賀:「そうだ。もしかしたら、自分が生きている間には意識が回復しないかもしれない。でも、お前達は稼働できている。メンテナンスさえすれば、お前達はあと何十年も稼働できるんだからな」
 エミリー:「はい……」
 平賀:「自分が寿命で死んでも、敷島さんのことは頼んだぞ?」
 エミリー:「分かりました。私めにお任せください」
 平賀:(ちょロイド……)

 とはいえ、医師から安楽死も視野に入れろという勧告については、アリスや敷島エージェンシー、そして四季グループ全体に衝撃を与えることになった。

[7月10日09:00.天候:晴れ 同病院]

 シンディ:「おはようございます。社長、今日も良い天気ですよ。さすが北海道は涼しいですね。東京では最高気温35度だというのに、こちらの最高気温は27度です。……って、これでも暑い方ですか。ボーカロイド達、今日も頑張ってますよ。今では冷却装置も良いものを取り付けてもらえたので、屋外ライブでも、だいぶ問題無くダンサブルな歌を歌えるようになったそうです」

 シンディは意識の無い敷島に語り掛けていた。
 ネットの情報で、こういう植物状態となった人間に話し掛けていると意識を取り戻すことがあると知ったからである。

 シンディ:「そうそう。MEGAbyteのことなんですけど、Lilyがソロ活動を始めたんですよ。Lilyって結構、ロックが似合う所があったじゃないですか。ロックを歌わせてみたら、意外と反響が良かったそうなんです。四季エンタープライズにもロックなアイドルで売れているユニットがあって、それと試しに組ませてみたら上手く行ったんですよ。あくまで、テレビ番組での企画という名目ですけど。……あ、そうそう。アリス博士はDCJ旭川営業所の視察に行かれました。夕方には戻って来ますので、どうか……」

 シンディは一旦退室しようとして、敷島ら背中を向けた。

 敷島:「……って……たい……」
 シンディ:「!?」

 シンディは敷島の口から声が発せられたような気がして、バッと後ろを振り向いた。
 仕様上、その際に両目がギラリと鋭い光を放ってしまう。

 敷島:「み、皆さん、さようなら……!」
 シンディ:「社長!?」
 敷島:「わあああっ!!」

 敷島が飛び起きた。

 敷島:「車掌室の非常ブレーキを引っ張ったのに、どうなってるんだ!?」
 シンディ:「社長!」
 敷島:「あ、あれ……?シンディ?何やってんだ?……ん?ここはどこだ?」

 敷島はキョロキョロと辺りを見回した。

 敷島:「何だ何だ?どうして俺はここにいるんだ?」
 シンディ:「社長……!良かったです……!!」

 シンディは敷島に抱きついた。

 敷島:「な、何か知らんが、取りあえず助かったらしいな……。やっぱり運転席のハンドルとかイジらず、車掌室に向かって正解だったわけだ……」

 その後、まるで奇跡でも見たかのような顔をした担当医が飛び込んできた。
 担当医などの医療スタッフの動き、そしてシンディが関係各所に一斉連絡している様子を見て、敷島は意識を取り戻したばかりでありながら、自分が今とんでもない状況に置かれていることを頭で理解したのである。
コメント
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