報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「ミクのメモリー」

2017-08-06 12:18:43 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月11日11:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 四季グループ本社]

 敷島峰雄:「敷島家の親族の1人であり、また、甥でもある敷島孝夫が生死の縁から生還したことは真に喜ばしい限りでございます」
 敷島俊介:「担当医の話によりますと、意識回復後は脳に障害らしき障害は全く無いとのことです。これは医学的に、とても珍しい事象とのことであります」
 記者:「孝夫社長は脳幹に何らかの衝撃を受けて昏睡状態だったとのことですが、それにも関わらず何の障害も無いということなんですか?」
 俊介:「担当医の話によれば、そういうことです」
 峰雄:「医学的なことに関しましては、私達は何もお答えできません」
 俊介:「ただ、2ヶ月以上もベッドに横になっていたことで、肉体的な弱体化と言いますか、そういうものはありますので、その状態から回復させる為にはしばらくの間、リハビリが必要とのことです」
 峰雄:「あくまで肉体的なリハビリであり、脳に障害は無い為にそちらでの問題はありません」

[同日同時刻 天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F]

 敷島エージェンシーの事務所にも、クライアントからの電話が殺到していた。

 井辺:「……はい。今、本社の方で役員による記者会見が行われておりますので、それをご覧頂ければと……。はい……はい……」
 緒方:「……確かに社長の意識は回復されましたが、退院や職場復帰の予定はまだ経っておりませんので、分かり次第追ってご連絡を……」
 篠里:「……まだこちらにも詳しい連絡は入っておりませんので、何とも申し上げられないのですが、恐らく本人から何らかの発表はあるかと思いますので……」

 総合プロデューサーの井辺だけでなく、たまたま事務所にいた初音ミクや巡音ルカのマネージャー達も総出で電話対応に当たっている。
 それだけではなく……。

 MEIKO:「はい、敷島エージェンシーでございます。……あ、はい。いつもお世話になっております」

 手の空いているボーカロイドまで。

 鏡音リン:「ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われておりませんYo〜!」
 エミリー:「!?」

 リンのイタズラ対応に、エミリーのゲンコツが飛ぶ。
 ジュニアアイドルに電話対応させるとこうなる?

 エミリー:「大変失礼致しました。敷島エージェンシーでございます」
 七海:「七海です。今、そんなに大変な状況なんですか?」
 エミリー:「七海か。どうした?」

 七海は平賀が製作した、本邦初のメイドロイドである。
 番号順ではない為、姉妹という感覚は無いのだが、他にも名前に“海”が入っているメイドロイド達を“海”シリーズと呼ぶ。
 特に七海の場合、本邦初ということもあり、最初は命令の内容を聞き間違えるなどのポンコツメイドぶりを発揮していた。
 今ではだいぶ学習し、やっと優秀なメイドロイドになっている。
 派生機はメイドだけでなく、敷島エージェンシーの事務員もやっている。

 七海:「平賀博士からの伝言で、『初音ミクを検査したい』と」
 エミリー:「初音ミクを?」
 七海:「敷島社長の昏睡の原因が脳幹への衝撃と聞いて、平賀博士が近くにいた初音ミクを疑っているようです」
 エミリー:「ほお……」

 エミリーは事務室の外にいるミクをチラッと見た。

 エミリー:「……おおかたの予想は付いているが、それで私は初音ミクをどうすれば良い?」
 七海:「明日、都内で講演があるので、その後で都心大学に連れて来てほしいと……」
 エミリー:「分かった。幸い明日の午後は、ミクの予定が空いている。マネージャーにも伝えておこう」

 エミリーは電話を切った。

 エミリー:(ミクのヤツ、社長のすぐ近くで『鉄腕アトム』でも歌ったのか……?)

[7月12日16:00.天候:晴 東京都区内某所 都心大学]

 ここで客員教授でもある平賀は、ミクを実験室に入れた。

 エミリー:「初音ミクの行動記録を調べるのですか?」
 平賀:「そうだ。人間の脳幹に影響を与える歌が歌えるのは、ミクしかいない」
 エミリー:「ミクのことですから、何も悪気があったとは思えませんが?」
 平賀:「分かってるさ。だが、脳幹に衝撃を与えておきながら、後遺症を全く出さないことが本当にできるのかが気になるだろ」
 エミリー:「……あなたは、脳科学は全くの別分野でしょう?」
 平賀:「もちろんだ。ただ、まだ俺もボカロのことを全部分かっちゃいない。それを知る為だ」

 平賀は初音ミクの目(カメラ)に映り、その記憶をたどり始めた。

 平賀:「これか!?これだ!」

 ミクの映像が不鮮明になる箇所がある。
 ミクもまた損傷を受けた。
 時折、画面が真っ暗になる時間もある。
 で、画面が物凄く荒っぽい状態になっている時だった。

〔ミク:「……皆……歌う……。だから……私も……歌います」
 敷島:「何が!?」
 ミク:「そーらを越えてー♪ラララ♪星のかーなたー♪」
 敷島:「こ、こら!その歌は……!」〕

 画像が不鮮明ながら敷島の声は聞こえている。
 そして、敷島が耳を塞いで伏せるのが何とか分かった。
 直後、大爆発音と共にミクの映像が切れた。

 平賀:「やっぱり……」
 エミリー:「実はマザーの動きが突然止まったことがあって、それで……それまで不利だった私の形勢が逆転することになったのですが……」

 エミリーのその時のメモリーとミクのメモリーを照合すると、見事に一致するのだ。
 ミクが歌い始めた時間と、マザーの動きが止まる時間と……。

 エミリー:「ミクも戦ったのですね。マザーと……」
 平賀:「だが、代償は意外と大きかったな。ま、それでも敷島さんが復活してくれて助かったけど……」
 エミリー:「ええ」
 平賀:「どれ、俺も北海道に行ってくるかな」
 エミリー:「行かれますか」
 平賀:「エミリー、お前も来るか?」
 エミリー:「私が……?いいんですか!?」
 平賀:「あー、向こうのDCJがシンディだけでなく、エミリーも見たいって言うからさ……」
 エミリー:「はい!是非!」

 平賀の誘いにエミリーの顔は明るくなった。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「敷島の復活」

2017-08-05 22:41:58 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月3日14:00.天候:晴 北海道紋別郡遠軽町 厚生病院]

 エミリ―:「社長……!社長……!」

 集中治療室の前にいるのは平賀とエミリー。

 平賀:「まだ、ダメか……。こうなって来ると……」
 医師:「意識の回復の見込みについては、何とも申し上げられません。脳幹に何か強い損傷を受けた痕はあるのですが、不思議とその傷痕は癒えていまして、脳波にも異常は無い状態なんです」
 平賀:「脳幹に損傷を受ければ昏睡状態となり、植物人間のようになる。それは自分も聞いています。しかし、そんな簡単に治るものなんですか?」
 医師:「とても不思議です。何か、外部から直接ではなく、間接的な何かを受けたのかもしれません」
 平賀:「ただ、それは……意識さえ戻れば、すぐにでも退院できる状態だと?」
 医師:「もちろん、検査は必要です。結果によっては、です」
 平賀:「分かりました」
 エミリー:「わたし……電気流します。電気流せば、目を覚ましますよね?」
 平賀:「おいおい!」
 医師:「それは危険です。脳にどんな影響が出るか分かりません」
 平賀:「それ以前に、センターの電気系統がブッ壊れるだろうが。ダメダメ」
 エミリー:「……っ!でも、このままじゃ……!」
 医師:「敷島さんの身内の方ですか?」
 平賀:「あ、いえ。自分は敷島さんとは、約10年来の付き合いのある友人です」
 医師:「ご家族の方とお話したいことがあるのですが……」
 平賀:「そうですね……。自分で良ければ、彼の妻に伝言しますよ?」

 だが、平賀は担当医の言いたいことが粗方予想できた。
 平賀の身内にも、植物状態となってしまった者がいて、ついに家族が了承してしまったからである。

 平賀:「……やはり安楽死か」
 エミリー:「そんなことは……許しません」
 平賀:「おいおい、お前にそんな権限は無いぞ」
 エミリー:「平賀博士は賛成なんですか!?」
 平賀:「自分だって悔しいさ。これではまるで、KR団と相討ちになったようなものだ。少なくとも他のテロ組織も黙る『不死身の敷島』『テロリストを泣かせた男』が死んだと世界中に知られてみろ?テロ組織が大挙して日本に押し寄せてくるぞ」
 エミリー:「わたし……敷島さんが亡くなったら、舌を噛みます」
 平賀:「自爆装置は取り外してるぞ?」
 エミリー:「でも全ての機能をシャットダウンし、2度と再起動できないようにはなりますよね?」
 平賀:「そんなことするなよ?お前の妹達が寂しがるだろ?」
 エミリー:「シンディやアルエットは、私がいなくても……」
 平賀:「あとは、ボーカロイド達からとか……。特に、MEIKOからは『気楽に話せる相手がいなくて寂しい』とかなるぞ」

 ボーカロイドの中で稼働期間が最も長いMEIKOは年長者である為、それよりもっと年上のエミリーは良い『お姉さん』であるらしい(もちろん、規格は違うのだが)。

 平賀:「自分は、敷島さんは必ず帰って来ると思うんだ。人間の勘だから、お前達ロイドのように計算したわけじゃない。だけど、そんな気がするんだ」
 エミリー:「確かに、理解できない概算ですね。でも、それが人間なのですね」
 平賀:「そうだ。もしかしたら、自分が生きている間には意識が回復しないかもしれない。でも、お前達は稼働できている。メンテナンスさえすれば、お前達はあと何十年も稼働できるんだからな」
 エミリー:「はい……」
 平賀:「自分が寿命で死んでも、敷島さんのことは頼んだぞ?」
 エミリー:「分かりました。私めにお任せください」
 平賀:(ちょロイド……)

 とはいえ、医師から安楽死も視野に入れろという勧告については、アリスや敷島エージェンシー、そして四季グループ全体に衝撃を与えることになった。

[7月10日09:00.天候:晴れ 同病院]

 シンディ:「おはようございます。社長、今日も良い天気ですよ。さすが北海道は涼しいですね。東京では最高気温35度だというのに、こちらの最高気温は27度です。……って、これでも暑い方ですか。ボーカロイド達、今日も頑張ってますよ。今では冷却装置も良いものを取り付けてもらえたので、屋外ライブでも、だいぶ問題無くダンサブルな歌を歌えるようになったそうです」

 シンディは意識の無い敷島に語り掛けていた。
 ネットの情報で、こういう植物状態となった人間に話し掛けていると意識を取り戻すことがあると知ったからである。

 シンディ:「そうそう。MEGAbyteのことなんですけど、Lilyがソロ活動を始めたんですよ。Lilyって結構、ロックが似合う所があったじゃないですか。ロックを歌わせてみたら、意外と反響が良かったそうなんです。四季エンタープライズにもロックなアイドルで売れているユニットがあって、それと試しに組ませてみたら上手く行ったんですよ。あくまで、テレビ番組での企画という名目ですけど。……あ、そうそう。アリス博士はDCJ旭川営業所の視察に行かれました。夕方には戻って来ますので、どうか……」

 シンディは一旦退室しようとして、敷島ら背中を向けた。

 敷島:「……って……たい……」
 シンディ:「!?」

 シンディは敷島の口から声が発せられたような気がして、バッと後ろを振り向いた。
 仕様上、その際に両目がギラリと鋭い光を放ってしまう。

 敷島:「み、皆さん、さようなら……!」
 シンディ:「社長!?」
 敷島:「わあああっ!!」

 敷島が飛び起きた。

 敷島:「車掌室の非常ブレーキを引っ張ったのに、どうなってるんだ!?」
 シンディ:「社長!」
 敷島:「あ、あれ……?シンディ?何やってんだ?……ん?ここはどこだ?」

 敷島はキョロキョロと辺りを見回した。

 敷島:「何だ何だ?どうして俺はここにいるんだ?」
 シンディ:「社長……!良かったです……!!」

 シンディは敷島に抱きついた。

 敷島:「な、何か知らんが、取りあえず助かったらしいな……。やっぱり運転席のハンドルとかイジらず、車掌室に向かって正解だったわけだ……」

 その後、まるで奇跡でも見たかのような顔をした担当医が飛び込んできた。
 担当医などの医療スタッフの動き、そしてシンディが関係各所に一斉連絡している様子を見て、敷島は意識を取り戻したばかりでありながら、自分が今とんでもない状況に置かれていることを頭で理解したのである。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「敷島生還」

2017-08-04 19:48:40 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月10日10:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 フォーシーズンズ・ビルディング]

 四季グループの本社が入居するビル。
 そこでは臨時の役員会議が行われていた。

 敷島峰雄:「本日は忙しいところをお集まり頂き、真に申し訳無い。皆さんも御存知のように、グループ役員の1人であり、敷島エージェンシーの責任者でもある敷島孝夫の処遇について、可及的速やかなる対応を求められつつある為、今一度決めたいと思い、集まって頂いた次第です」

 四季ホールディングス会長の峰雄がマイクに向かって喋る。
 彼は親会社のホールディングスの会長であると同時に、四季エンタープライズの会長でもある。
 その隣に座る弟の敷島俊介がマイクに向かった。
 彼は四季エンタープライズの社長で、敷島孝夫を子会社の社長に据え付けた人物でもある。

 敷島俊介:「実は……彼が入院している病院の院長から先日連絡がありまして、『ほとんど意識の回復の見込みが無いので、安楽死も視野に入れてほしい』という通告を受けました」

 俊介の言葉に大会議室はざわついた。

 俊介:「もちろん生死に関することは敷島家の内部問題であり、彼自身の家族が決めることです。私も会長も親族ではありますが、意見を言う権利があるというだけで、決定権があるわけではありません。それで皆さんに決めて頂きたいのは、孝夫を社長職から外すかどうか……ってことなんですよ」
 役員A:「そんなに彼はヒドい状態なんですか!?」
 役員B:「ケガは大したこと無いということだが……」
 役員C:「だとしたら、考えるまでも無いですよ」
 峰雄:「もちろん、そうだろう。だが、彼も役員の1人。四季グループは確かに、敷島家が家業として始めた興行がきっかけで法人化した同族企業です。しかし、今や四季グループは親族だけで決めて良い中小企業ではない。皆さんの中には、敷島家とは関係の無い人達も沢山おられる。そんなあなた達は敷島家の事情に囚われない、忌憚の無い意見を言えるでしょう。どうか、御意見をお聞かせ願いたい」
 俊介:「そりゃやっぱり親族として、彼には早く業務復帰してもらいたいというのが本音ですよ。でも先月の株主総会で、やっぱり株主さんからも指摘を受けましたし、それでなくても、クライアントさんからの指摘もちょくちょくあると現場の社員から聞いています」
 役員D:「うちの業務は競合他社が大勢いる所なんですが、ライバル社からは嫌味を言われたという報告が上がっています」
 俊介:「どうするか考えるまでも無いという意見がありましたが、とにかく現在も尚、役員会においてはまだ何も正式な声明を出していないのが実情です。そしてそれも、もはや誤魔化しが効かない状態となりつつあります。役員会として、どのような声明を上げるのか、それを皆さんと相談したいと思い、集まって頂いたわけです」
 役員C:「だから、考えるまでもないでしょう。社長や会長には申し訳ありませんが、以前はどんな敏腕経営者だったとは言っても、それは単なる過去の栄光です。そして今はその辣腕を振るえないでいる。だとしたら、その職は降りてもらうというのは当然のことなんじゃないでしょうか?」
 役員E:「いや、待てよ。それで敷島エージェンシーの経営が傾いているというのなら確かにそうだが、今は代役で十分持ち堪えられているのだろう?」
 矢沢専務:「私がそうです」
 役員E:「いっそのこと、矢沢さんを社長に据えて、彼は顧問とか、副社長とか、あまり目立たない役に移すとかすればいいのでは?」
 役員F:「そんな小手先が通用しなくなってきたから、こういう臨時会が開かれたわけでしょう。医者が匙投げる状態では、もはや復帰など不可能です」
 役員E:「いや、しかしだな。少なくとも功績あった人間を、そのようにポイ捨てするような人事で良いのかということだぞ?」
 役員G:「確かに、孝夫社長に対する人気は業界でも有名です。彼自身、何度も経営者にスポットを当てた経済誌の取材を受けるほどでしたし……」
 役員H:「テロ組織と戦う社長、なんて新聞にも載りましたよ。それだけで四季グループの株価が上がりましたからね」
 役員C:「いや、だから、そんな過去の栄光にいつまでもすがりつくのはどうかって話なんですよ!」
 役員E:「すがりつける過去の栄光を築き上げた人を、そのままいなくするのも対外的にはどうかって話にもなりますよ?」
 峰雄:「難しい問題だ……」
 役員A:「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
 俊介:「何ですか?」
 役員A:「先ほど会長は『敷島家の問題だ』と仰いましたが、恐らく私の意見はそれに干渉することになると思います」
 峰雄:「分かった。言ってみてくれ」
 役員A:「孝夫社長は今、安楽死の危機に晒されているとのことですね。……安楽死して頂いて、それを理由に正式に解任するという形にするというのは?」

 再びざわつく室内。

 役員A:「それなら対外的にも理由や面子が成り立ちますし、擁護者の人達も諦められるでしょう」
 俊介:(孝夫の秘書ロボットが聞いたら、いきなり射殺されそうな意見だな)

 俊介は眼鏡を外して汗を拭った。

 役員A:「申し訳ありません。不謹慎な意見で」
 峰雄:「いや、良い。あくまで1つの意見として、受け止めておこう。他に意見のある者は?何でもいい。無ければ採決を……」

 その時、峰雄は窓の外に何かが飛んで来るのが見えた。

 峰雄:「いや、ちょっと待った」
 俊介:「は?」
 峰雄:「皆さん、ちょっと待ってもらえますか?」

 それはこのビルの屋上に着地した。
 それから何分かして、会議室の外が騒がしくなった。

 峰雄:「キミ、訪問者が誰か確認してくれ。もし屋上からやってきた者なら、この部屋に入れてやってくれ」
 秘書:「は、はい!」

 峰雄の横に控えていた秘書が会議室の外に出た。

 役員B:「会長、一体どうされたんですか?」
 峰雄:「敷島エージェンシーから早馬が飛んできた。果たして、どんな報告なのか……」

 会議室に飛び込んできた者はエミリーだった。

 エミリー:「あ、あのっ……!突然、申し訳ありません!」
 俊介:「孝夫の所の秘書ロボット!あ、いや、A氏の意見はあくまで1つの意見だから……」
 峰雄:「いや、違うだろう。……孝夫に何かあったのだね?」
 エミリー:「はい」
 峰雄:「言ってみなさい」
 役員C:「安楽死を家族が決定したか、それとも安楽死を待たずに……」
 エミリー:「社長が……敷島孝夫社長が意識を取り戻されました!」

 エミリーの言葉に、室内が静まり返った。

 エミリー:「北海道の病院にいる妹から連絡がありまして、孝夫社長が意識を取り戻されたと……そう、報告がありました」

 エミリーの言葉に、会議室内が1番ざわついた。

 峰雄:「そうか。やはり、あいつは不死身だったようだな」
 俊介:「会議の内容を変更します」

 俊介は眼鏡を外して涙を拭った後、机の上のマイクを取った。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「主人公不在の中で」 2

2017-08-04 16:45:13 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月23日10:00.天候:雨 都内某所 四季グループ株主総会会場]

 アデランス:「それではお時間になりましたので、これより第63回四季グループ株主総会を開会致します。株主の皆様、本日はお足元が悪い中、ご参加を賜り、真にありがとうございます。私、本日の司会進行役を務めさせて頂きます、アデランス八島と申します。よろしくお願い致します。それではまず、お手持ちの資料を参考に、決算についてご説明をさせて頂きたいと思います。担当は……」

 エミリー:「何だあいつは?」
 シンディ:「敷島エンターテイメント(※)に所属する芸人さんじゃない?」
 エミリー:「司会なら私がやっても良かったのに……」

 ※四季グループの1つであるお笑い事務所のこと。

 四季グループの役員達は次々に自分の担当する部署の成果報告を株主達に発表していった。
 四季グループの経営はけして不安定なものではなく、特にボーカロイドの活躍などで敷島エージェンシーが右肩上がりの経営をしたことは大いに株主達から評価を受けていた。
 その為、少なくとも経営状態に関して株主からの糾弾も無く、大抵は総会もスムーズに行くのがセオリーだった。
 それが今回は……。

 アデランス:「それでは、質疑応答に入らせて頂きます。株主の皆様の中で、質問をお持ちの方は、挙手をして頂き、指名された場合は、番号とお名前を賜りたいと存じます」
 株主A:「はい!」
 アデランス:「それでは、そちらの白ワイシャツの方。どうぞ」
 株主A:「番号307番、深井と申します。四季グループは年々グループ企業の数を増やしていますが、こちらの資料を見るに、全てのグループ企業が順風満帆な経営をしているようには見えません。特に四季グループは伝統的な総合芸能企業なわけですが、具体的に将来的なビジョンはどう考えているのでしょうか?」
 アデランス:「ありがとうございます。それではこの質問の回答は、四季ホールディングスの敷島峰雄会長よりさせて頂きます。会長、お願いします」
 峰雄:「えー、当グループの将来的なビジョンについてというご質問ですが……」

 その後、いくつかの質問が上がった。

 株主B:「四季エンタープライズのCMを流している番組が、随分と左寄りの偏向報道をしておりまして、例えば先週などはMCが『韓国に謝罪すべきだ』だとか、『中国に逆らうな』みたいなことを発言して、ネットは大炎上しました。これでは四季エンタープライズのイメージダウンになるかと思います。早々にあの番組から手を引いた方がよろしいかと思いますが、どうでしょうか?」
 株主C:「四季エンタープライズはアイドル事業を主に手掛けているわけですが、それに対してお笑い部門の敷島エンターテイメントの影が薄いように思います。最初の方が質問していた通り、アイドルとお笑い芸人は全くその方向性が違う為、将来的なビジョンが分かりにくいのが現状です。もしお笑い部門が弱小であるならば、いっそのこと切り捨てた方がいいと思いますが……」
 アデランス:「そ、それは困ります!」
 シンディ:「やっぱりか……」

 他にもアイドル事業部門において、本当にアイドルに枕営業はさせていないのかなどという質問が出た。
 経営状態は良い企業の株主総会においては、あまり経営状態に対する心配の声が上がらないのが特徴だ。

 敷島俊介:「枕営業をさせている事務所が存在するのは事実です。しかしそれは、そうでないと受れないアイドルを無理やり売らせる為にやらせていることです。当社ではそんなことしなくても、実力で売れるアイドルのみをスカウトし、或いはオーディションで合格できる逸材のみを採用しています。従いまして、当社ではそのようなことはさせていません」
 シンディ:「姉さん、良かったわね。この分だと……」
 エミリー:「ええ」

 この鋼鉄姉妹が心配しているのは、敷島孝夫のことだった。
 だが、ついに……!

 株主D:「707番、天笠と申します。グループ会社の敷島エージェンシーの社長が未だに生死の境を彷徨っておられると聞きました。それはとても心配ですが、しかし、いつまでも社長不在のままではちょっと困るんじゃないでしょうか?」
 アデランス:「この質問に対しての回答は……」

[同日13:00.天候:雨 同会場]

 株主総会が終わり、鋼鉄姉妹は他のスタッフと共に会場の片づけを手伝っていた。

 シンディ:「姉さん。明日、私、社長の様子を見に行くよ。マスター……奥様のアリス博士が行かれるから、そのお供でね」
 エミリー:「そう、か」

 敷島峰雄が株主の質問に回答し、それまでの敷島孝夫の手腕ぶりに免じてもう少し待ってもらうことはできた。
 だが、他の株主からも、いつまでも社長不在のままでは困るという至極正論な意見が上がった。
 いつ潰れてもおかしくない赤字企業なら、どうせならと放置で良いのだが、せっかくグループのホープとして経営が軌道に乗っている企業なのだから、対外的にも社長不在のままでは困るだろうとのことだ。

 エミリー:「せっかく……この体壊れるまで尽くしても良い人間を見つけたと思ったのに……」
 シンディ:「多分、来月の上旬も行くことになると思う」
 エミリー:「そうなのか?」
 シンディ:「ええ。明日行くのは、DCJ札幌支社の旭川営業所がオープンするようになって、その業務視察というのもあるからさ。……ほら、DCJの場合、営業所という名の研究所だから」
 エミリー:「なるほど。来月は?」
 シンディ:「マサチューセッツ工科大学の教授がアリス博士と知り合いらしくて、その方が北海道の大学の視察に来るんだって。新しい研究所ができたから、是非ともってことで。そのお供に行くのと、私みたいなマルチタイプにも興味があるから、私を見にくるってことかな」
 エミリー:「そうか。デイジーも売れたことだし、私達はもう何も心配無いのだが……」
 シンディ:「そうだね」
 エミリー:「社長の意識は戻らないが、自己修復……体の傷は治っているのだろう?」
 シンディ:「らしいけどね。だから意識さえ戻れば、あとは大丈夫みたいなんだけど……」

 喋りながら作業すると効率が落ちるのが人間だが、ロイドである彼女達はちゃんと作業効率はそのまま維持できた。
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“大魔道師の弟子” 「名前の無い夜行便」

2017-08-04 10:13:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月8日23:00.天候:晴 東京都渋谷区 バスタ新宿]

 未だ復旧の目を見ない埼京線を尻目に、稲生達はそれでごった返すホームに降り立った。
 埼京線も湘南新宿ラインも、本来は貨物線だった所を走っている。
 山手貨物線と言い、そこに設けられたホームには立ち往生している埼京線の電車がいた。
 もちろん、冥鉄の電車が紛れ込んでいるということはない。
 混乱するホームからコンコースに上がると、途中でトイレ休憩。
 バスタ新宿のトイレは増設はされたものの、未だに女子トイレが混雑するという話を聞いたからだ。
 それならまだ駅のトイレの方がマシというもの。

 稲生:「やっぱり夜行便に乗る人達でいっぱいですね」

 稲生の言の通り、バスタ新宿内は夜行便を待つ利用者達でごった返していた。

 イリーナ:「人間嫌いの種族なら、一思いに薙ぎ払いたくなる光景だねぇ……」
 稲生:「しないでくださいよ」
 イリーナ:「うんうん、大丈夫」

 稲生は発車案内板を見た。
 これとて、ゆっくり見れるほどの空間があるわけではない。

 稲生:「C7番乗り場ですね」

 基本、アルファベット毎に方面が決まっているという。
 信州方面はCであるらしい。
 但し、2号車以降はあぶれることもある為、旧来の26番乗り場(新宿西口)から出ることもある。
 向かう途中、自動販売機でペットボトルの飲み物を買う。

 稲生:「定番ですね」
 マリア:「そうだな」

 水とお茶。
 最近はようやくコンビニもオープンした。

 Cエリアの方は長蛇の列ができていた。
 稲生達が乗るのは全席指定であり、そこの発車票を見ると、『空席×』の表示が出ていた。
 つまり、満席ということである。

 稲生:「埼京線、やっと運転再開見込みが出てきましたね。もう日付が変わってからですよ。ヒドいもんだ」
 マリア:「よほどの事故だったのかな。あまり見たくないけど」
 稲生:「そうですねぇ……」

 因みにバスタ新宿内にはWi-Fiが飛んでいる。
 稲生もそれに接続して、タダ回線でネットをやっているわけだが。

 稲生:「あれ?別のWi-Fi飛んできた?」
 係員:「23時5分発、白馬行きの到着です!乗車券を準備してお待ちください!」
 稲生:「おっ、来た来た」

 入線してきたバスを見て、稲生は別のWi-Fiが飛んできた理由を知った。
 これから乗るバスに、それが仕掛けられていたのだ。

 
(オリジナルWi-Fiを搭載したアルピコ交通バス。写真は“バスターミナルなブログ”様より拝借。先方より掲載許可を受けています)

 ドアが開いて、乗客名簿を持った運転手が降りて来た。
 夜行便であるが、ワンマン運転であるらしい。
 そんなに長い距離を走るわけでもなく、それだけ途中休憩を長めに取っているからなのか。

 係員:「お荷物、お預かりしましょうか?」
 稲生:「お願いします」

 稲生が係員にキャリーバッグを渡そうとすると、箱乗りしていたミク人形とハク人形が飛び降り、マリアの肩に飛び移った。

 係員:「ん?」
 稲生:「あ、いや、ちょっとしたオモチャでして……」
 係員:「あ、そうですか」
 運転手:「乗車券を拝見します」
 イリーナ:「ダー!」

 イリーナはピッと運転手の帽子を指さした。

 運転手:「えっ?」
 イリーナ:「帽子にズッポシ!」

 運転手が帽子を取ると、その中にイリーナの乗車券が入っていた。

 運転手:「ええっ!?」
 マリア:「師匠、遊ばないでくださいよ。後ろ、つっかえてるんだから……」

 マリアは呆れて師匠のお茶目ぶりをたしなめた。

 運転手:「稲生様、9のBです」
 稲生:「はい」

 稲生達はバスに乗り込んだ。
 指定された後ろの席に向かう。

 稲生:「どうですか、先生?寝れそうですか?」
 イリーナ:「バッチリ!」
 稲生:「先生が爆睡できるのなら安心ですね」
 マリア:「といって、埼京線の事故を予知できなかったじゃないか」
 イリーナ:「事故っても、復旧まで寝れるという意味だったんだね」
 マリア:「何ですか、それ……」

 バスは夜行便であっても4列シートだ。
 それでも補助席が廃止されてる分、横幅とシートピッチは少し拡大されているのだが。
 JRバス関東の“楽座シート”に相当するグレードだろう。
 で、座席の上に何か置いてあった。
 毛布とかではない。

 稲生:「アルカディアタイムス日本語版だ」
 マリア:「私のは英語版だな」

 もちろん、これを置いたのはこのバス会社の者ではないだろう。
 勝手に配達される所は、某顕正新聞と同じだ。
 新聞を取って座席に座ると、稲生は新聞を広げてみた。

 『冥界鉄道公社総裁、辞任へ!』『労使関係悪化の責任を取り』『「全て私の不徳の致すところ。……でも退職金はがっぽり受け取れて功徳〜〜〜〜〜!!」』

 稲生:「ふわぁ……」

 稲生が新聞を読んでいる間に、バスはいつの間にか出発した。
 イリーナの隣の席にはまだ誰も座っていないところを見ると、途中のバス停から乗って来るのか、或いは……埼京線の事故で乗り遅れた者の所か。

 稲生:「何だかこの総裁、沖【修羅河童】さんに似てる」

 『会見の席でのらりくらりと質問を交わす総裁と、質問を続けるアルカディアタイムスのマイケル記者』

 マリア:「ま、ダメ総裁ってことだったんだろう」
 稲生:「後任は誰になるんでしょうね?」
 マリア:「書いてないな」

 『後任人事については未定であり、決定するまでは暫定的に副総裁が代行する見込み』

 ペラッと新聞を捲ると、大師匠ダンテのコメントが載っていた。

 『無制御列車問題については門内の愛弟子も巻き込まれたものであり、厳重に抗議したところである。後任総裁にあっては、しっかりとした鉄道経営を行ってもらいたいものである』

 稲生:「巻き込まれた弟子って、僕のこと?」
 マリア:「他にいないだろ?」
 稲生:「それもそうですね」

 稲生とマリアは笑った。
 因みにイリーナはロシア語版の新聞を顔の上に乗せて、アイマスク代わりにしていたという。

[同日同時刻 冥界鉄道公社・本社会議室]

 副総裁:「今回の件、上手く行ったな。よくやったぞ、山根君?」
 山根:「いえ、チョイ役でしたから。それにしても、別世界の人間をも巻き込んだあの劇、よく考え付きましたね」
 副総裁:「はははは!元々そのアイディアを言い出したのはキミじゃないか。子供の考えるアイディアも、素直に採用してみるものだ」
 山根:「ただの独り言だったのに……」
 副総裁:「いや、いい!ほんと、素晴らしいぞ!」

 山根幸太郎は、何故か見た目は小学校高学年でありながら、冥界鉄道公社乗員の制服を着ていた。

 山根:「あの電車の車掌は僕でした。でも、あれに乗った人達は、こんな子供がまさかとは思ったでしょう」
 副総裁:「キミはうちに就職してから、もう50年も経つ大ベテランじゃないか。50年前、鉄道員への夢を持ったまま事故で死んだ少年を採用してみたら、こんなに立派になった。素晴らしいことだよ」
 山根:「次の総裁さんは、ちゃんとした人だといいですね?」
 副総裁:「あんな修羅河童に権力持たせちゃイカンよ。退職金だけは払ってやって、厄介払いした後は改革に乗り出すぞ。まずは修羅河童が余計なことをしやがった点を修復する所からだ」
 山根:「はい!」

 山根は制帽を被ると、ピッと副総裁に敬礼して退室した。
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