[7月11日11:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 四季グループ本社]
敷島峰雄:「敷島家の親族の1人であり、また、甥でもある敷島孝夫が生死の縁から生還したことは真に喜ばしい限りでございます」
敷島俊介:「担当医の話によりますと、意識回復後は脳に障害らしき障害は全く無いとのことです。これは医学的に、とても珍しい事象とのことであります」
記者:「孝夫社長は脳幹に何らかの衝撃を受けて昏睡状態だったとのことですが、それにも関わらず何の障害も無いということなんですか?」
俊介:「担当医の話によれば、そういうことです」
峰雄:「医学的なことに関しましては、私達は何もお答えできません」
俊介:「ただ、2ヶ月以上もベッドに横になっていたことで、肉体的な弱体化と言いますか、そういうものはありますので、その状態から回復させる為にはしばらくの間、リハビリが必要とのことです」
峰雄:「あくまで肉体的なリハビリであり、脳に障害は無い為にそちらでの問題はありません」
[同日同時刻 天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F]
敷島エージェンシーの事務所にも、クライアントからの電話が殺到していた。
井辺:「……はい。今、本社の方で役員による記者会見が行われておりますので、それをご覧頂ければと……。はい……はい……」
緒方:「……確かに社長の意識は回復されましたが、退院や職場復帰の予定はまだ経っておりませんので、分かり次第追ってご連絡を……」
篠里:「……まだこちらにも詳しい連絡は入っておりませんので、何とも申し上げられないのですが、恐らく本人から何らかの発表はあるかと思いますので……」
総合プロデューサーの井辺だけでなく、たまたま事務所にいた初音ミクや巡音ルカのマネージャー達も総出で電話対応に当たっている。
それだけではなく……。
MEIKO:「はい、敷島エージェンシーでございます。……あ、はい。いつもお世話になっております」
手の空いているボーカロイドまで。
鏡音リン:「ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われておりませんYo〜!」
エミリー:「!?」
リンのイタズラ対応に、エミリーのゲンコツが飛ぶ。
ジュニアアイドルに電話対応させるとこうなる?
エミリー:「大変失礼致しました。敷島エージェンシーでございます」
七海:「七海です。今、そんなに大変な状況なんですか?」
エミリー:「七海か。どうした?」
七海は平賀が製作した、本邦初のメイドロイドである。
番号順ではない為、姉妹という感覚は無いのだが、他にも名前に“海”が入っているメイドロイド達を“海”シリーズと呼ぶ。
特に七海の場合、本邦初ということもあり、最初は命令の内容を聞き間違えるなどのポンコツメイドぶりを発揮していた。
今ではだいぶ学習し、やっと優秀なメイドロイドになっている。
派生機はメイドだけでなく、敷島エージェンシーの事務員もやっている。
七海:「平賀博士からの伝言で、『初音ミクを検査したい』と」
エミリー:「初音ミクを?」
七海:「敷島社長の昏睡の原因が脳幹への衝撃と聞いて、平賀博士が近くにいた初音ミクを疑っているようです」
エミリー:「ほお……」
エミリーは事務室の外にいるミクをチラッと見た。
エミリー:「……おおかたの予想は付いているが、それで私は初音ミクをどうすれば良い?」
七海:「明日、都内で講演があるので、その後で都心大学に連れて来てほしいと……」
エミリー:「分かった。幸い明日の午後は、ミクの予定が空いている。マネージャーにも伝えておこう」
エミリーは電話を切った。
エミリー:(ミクのヤツ、社長のすぐ近くで『鉄腕アトム』でも歌ったのか……?)
[7月12日16:00.天候:晴 東京都区内某所 都心大学]
ここで客員教授でもある平賀は、ミクを実験室に入れた。
エミリー:「初音ミクの行動記録を調べるのですか?」
平賀:「そうだ。人間の脳幹に影響を与える歌が歌えるのは、ミクしかいない」
エミリー:「ミクのことですから、何も悪気があったとは思えませんが?」
平賀:「分かってるさ。だが、脳幹に衝撃を与えておきながら、後遺症を全く出さないことが本当にできるのかが気になるだろ」
エミリー:「……あなたは、脳科学は全くの別分野でしょう?」
平賀:「もちろんだ。ただ、まだ俺もボカロのことを全部分かっちゃいない。それを知る為だ」
平賀は初音ミクの目(カメラ)に映り、その記憶をたどり始めた。
平賀:「これか!?これだ!」
ミクの映像が不鮮明になる箇所がある。
ミクもまた損傷を受けた。
時折、画面が真っ暗になる時間もある。
で、画面が物凄く荒っぽい状態になっている時だった。
〔ミク:「……皆……歌う……。だから……私も……歌います」
敷島:「何が!?」
ミク:「そーらを越えてー♪ラララ♪星のかーなたー♪」
敷島:「こ、こら!その歌は……!」〕
画像が不鮮明ながら敷島の声は聞こえている。
そして、敷島が耳を塞いで伏せるのが何とか分かった。
直後、大爆発音と共にミクの映像が切れた。
平賀:「やっぱり……」
エミリー:「実はマザーの動きが突然止まったことがあって、それで……それまで不利だった私の形勢が逆転することになったのですが……」
エミリーのその時のメモリーとミクのメモリーを照合すると、見事に一致するのだ。
ミクが歌い始めた時間と、マザーの動きが止まる時間と……。
エミリー:「ミクも戦ったのですね。マザーと……」
平賀:「だが、代償は意外と大きかったな。ま、それでも敷島さんが復活してくれて助かったけど……」
エミリー:「ええ」
平賀:「どれ、俺も北海道に行ってくるかな」
エミリー:「行かれますか」
平賀:「エミリー、お前も来るか?」
エミリー:「私が……?いいんですか!?」
平賀:「あー、向こうのDCJがシンディだけでなく、エミリーも見たいって言うからさ……」
エミリー:「はい!是非!」
平賀の誘いにエミリーの顔は明るくなった。
敷島峰雄:「敷島家の親族の1人であり、また、甥でもある敷島孝夫が生死の縁から生還したことは真に喜ばしい限りでございます」
敷島俊介:「担当医の話によりますと、意識回復後は脳に障害らしき障害は全く無いとのことです。これは医学的に、とても珍しい事象とのことであります」
記者:「孝夫社長は脳幹に何らかの衝撃を受けて昏睡状態だったとのことですが、それにも関わらず何の障害も無いということなんですか?」
俊介:「担当医の話によれば、そういうことです」
峰雄:「医学的なことに関しましては、私達は何もお答えできません」
俊介:「ただ、2ヶ月以上もベッドに横になっていたことで、肉体的な弱体化と言いますか、そういうものはありますので、その状態から回復させる為にはしばらくの間、リハビリが必要とのことです」
峰雄:「あくまで肉体的なリハビリであり、脳に障害は無い為にそちらでの問題はありません」
[同日同時刻 天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F]
敷島エージェンシーの事務所にも、クライアントからの電話が殺到していた。
井辺:「……はい。今、本社の方で役員による記者会見が行われておりますので、それをご覧頂ければと……。はい……はい……」
緒方:「……確かに社長の意識は回復されましたが、退院や職場復帰の予定はまだ経っておりませんので、分かり次第追ってご連絡を……」
篠里:「……まだこちらにも詳しい連絡は入っておりませんので、何とも申し上げられないのですが、恐らく本人から何らかの発表はあるかと思いますので……」
総合プロデューサーの井辺だけでなく、たまたま事務所にいた初音ミクや巡音ルカのマネージャー達も総出で電話対応に当たっている。
それだけではなく……。
MEIKO:「はい、敷島エージェンシーでございます。……あ、はい。いつもお世話になっております」
手の空いているボーカロイドまで。
鏡音リン:「ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われておりませんYo〜!」
エミリー:「!?」
リンのイタズラ対応に、エミリーのゲンコツが飛ぶ。
ジュニアアイドルに電話対応させるとこうなる?
エミリー:「大変失礼致しました。敷島エージェンシーでございます」
七海:「七海です。今、そんなに大変な状況なんですか?」
エミリー:「七海か。どうした?」
七海は平賀が製作した、本邦初のメイドロイドである。
番号順ではない為、姉妹という感覚は無いのだが、他にも名前に“海”が入っているメイドロイド達を“海”シリーズと呼ぶ。
特に七海の場合、本邦初ということもあり、最初は命令の内容を聞き間違えるなどのポンコツメイドぶりを発揮していた。
今ではだいぶ学習し、やっと優秀なメイドロイドになっている。
派生機はメイドだけでなく、敷島エージェンシーの事務員もやっている。
七海:「平賀博士からの伝言で、『初音ミクを検査したい』と」
エミリー:「初音ミクを?」
七海:「敷島社長の昏睡の原因が脳幹への衝撃と聞いて、平賀博士が近くにいた初音ミクを疑っているようです」
エミリー:「ほお……」
エミリーは事務室の外にいるミクをチラッと見た。
エミリー:「……おおかたの予想は付いているが、それで私は初音ミクをどうすれば良い?」
七海:「明日、都内で講演があるので、その後で都心大学に連れて来てほしいと……」
エミリー:「分かった。幸い明日の午後は、ミクの予定が空いている。マネージャーにも伝えておこう」
エミリーは電話を切った。
エミリー:(ミクのヤツ、社長のすぐ近くで『鉄腕アトム』でも歌ったのか……?)
[7月12日16:00.天候:晴 東京都区内某所 都心大学]
ここで客員教授でもある平賀は、ミクを実験室に入れた。
エミリー:「初音ミクの行動記録を調べるのですか?」
平賀:「そうだ。人間の脳幹に影響を与える歌が歌えるのは、ミクしかいない」
エミリー:「ミクのことですから、何も悪気があったとは思えませんが?」
平賀:「分かってるさ。だが、脳幹に衝撃を与えておきながら、後遺症を全く出さないことが本当にできるのかが気になるだろ」
エミリー:「……あなたは、脳科学は全くの別分野でしょう?」
平賀:「もちろんだ。ただ、まだ俺もボカロのことを全部分かっちゃいない。それを知る為だ」
平賀は初音ミクの目(カメラ)に映り、その記憶をたどり始めた。
平賀:「これか!?これだ!」
ミクの映像が不鮮明になる箇所がある。
ミクもまた損傷を受けた。
時折、画面が真っ暗になる時間もある。
で、画面が物凄く荒っぽい状態になっている時だった。
〔ミク:「……皆……歌う……。だから……私も……歌います」
敷島:「何が!?」
ミク:「そーらを越えてー♪ラララ♪星のかーなたー♪」
敷島:「こ、こら!その歌は……!」〕
画像が不鮮明ながら敷島の声は聞こえている。
そして、敷島が耳を塞いで伏せるのが何とか分かった。
直後、大爆発音と共にミクの映像が切れた。
平賀:「やっぱり……」
エミリー:「実はマザーの動きが突然止まったことがあって、それで……それまで不利だった私の形勢が逆転することになったのですが……」
エミリーのその時のメモリーとミクのメモリーを照合すると、見事に一致するのだ。
ミクが歌い始めた時間と、マザーの動きが止まる時間と……。
エミリー:「ミクも戦ったのですね。マザーと……」
平賀:「だが、代償は意外と大きかったな。ま、それでも敷島さんが復活してくれて助かったけど……」
エミリー:「ええ」
平賀:「どれ、俺も北海道に行ってくるかな」
エミリー:「行かれますか」
平賀:「エミリー、お前も来るか?」
エミリー:「私が……?いいんですか!?」
平賀:「あー、向こうのDCJがシンディだけでなく、エミリーも見たいって言うからさ……」
エミリー:「はい!是非!」
平賀の誘いにエミリーの顔は明るくなった。