報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「2日目の昼」

2017-08-25 19:53:39 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月12日11:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 勾当台公園]

 初音ミク:「仙台の皆さーん、こんにちはーっ!初音ミクでーす!」
 鏡音リン:「ボーカロイドのセクシィ美少女担当、鏡音リンでーっす!」
 鏡音レン:「鏡音レンです。今日はボク達の野外ミニライブに来て下さって、本当にありがとうございます」

 野外ステージでミクとリン、レンがマイクを取る。

 リン:「そんじゃ早速、始めちゃうYo!リン達、ボーカロイドの基本曲!せーの……」
 ミク・リン・レン:「“千本桜 Sendai Version”!」

 ステージ裏では……。

 敷島:「よし。出だしはOKだな」
 スタッフ:「敷島エージェンシーさん、ちょっといいですか?」
 敷島:「はい、何でしょう?」
 スタッフ:「MC後の捌けの動きなんですけど……」
 敷島:「はいはい」

 今回敷島についているのはエミリー。
 エミリーに寄せられたファンレターには概ね好意的なことが書かれていたが、シンディにあっては、未だに前期型の反省を求める声が多く寄せられていた。
 これについて、敷島はマスコミの取材にこう答えたことがある。

 敷島:「例えばあなたが車を飲酒運転していたところ、歩行者を轢き殺してしまいました。その車は人の血を吸った曰く付きの車ということになり、廃車になりました。しかしあなたは刑務所を出所後、再び免許を取って同じ車種の車を買いました。その車は悪いですか?」

 というもの。

 敷島:「車は悪くないでしょう?悪いのは飲酒運転したドライバーですね。後期型のシンディを憎むというのは、飲酒運転したドライバーではなく、事故後に買われた新車を憎むようなものです。シンディを使って殺人テロを起こしていたウィリーは、奇しくもその車に轢き殺される(暴走した前期型シンディに惨殺される)という大罰が下りました。それでも被害者の皆さんの鎮魂の為、当時のJARA財団は前期型シンディを捕らえ、スクラップ工場に送って『死刑』を執行しました。後期型のシンディって悪いですか?」

 と、続けた。

 エミリー:「あの、社長」
 敷島:「どうした?」
 エミリー:「シンディの件なんですが……」
 敷島:「シンディがどうした?」
 エミリー:「昨日のライブの時の手紙と、未だに非難の手紙が来ることを気にしているようです」
 敷島:「そうか。人間の中でも、感情でしか動けないヤツがそんなことしてくるんだよな。もっとも、その感情に訴えてファンを獲得する俺達が言える権利は無い。シンディには申し訳無いが、それで苦しむのも贖罪の1つだと思ってもらいたい。何故俺が、あえて前期型のメモリーやデータをそのまま移すことを訴えたのかというと、それも大きな理由の1つなんだ」
 エミリー:「はい」

 ミク:「ありがとうございましたー!」
 リン:「イェーイ!皆、乗ってるぅ〜?」
 レン:「リン、真面目にやろうよ!……すいません、姉がフザけて……」

 しかし、観客からは笑いが起こる。

 リン:「夏なのに季節外れの歌、歌っちゃったねぃ!んじゃ、今度はみくみくが夏ならではの歌、皆に送っちゃうYo!」
 レン:「ノリやすい曲だと思うので、皆さん楽しんで聴いてください。それでは……」
 リン・レン:「“Earth Day”!」

 リンとレンが下手に捌け、代わりにミクが上手からやってくる。

 ミク:「天文学と理論思考♪瞑想中の頭ん中♪」

 ミクの歌に合わせて、最前列のファン達がヲタ芸を始めるほど。

 敷島:「よしっ、2人ともお疲れさん」

 ステージ裏に戻ってきた鏡音姉弟を迎える敷島達。
 これが人間のアイドルなら汗拭きタオルでも持ってくるところだが、ボーカロイドにはそんなものは不要である。
 ただその代わり……。

 エミリー:「早く体冷やして!」

 アイスノンの保冷剤や氷の入った袋を持ってくる。
 ボーカロイドもアンドロイド。
 他の精密機械と同じく、熱は大敵なのである。

 レン:「はいはい」
 リン:「ふぅーっ、氷冷たーい!てか、水浴びしたーい」
 敷島:「水浴びなぁ……」
 レン:「リン、水浴びならプールで水着グラビアの仕事してるじゃないか?」
 リン:「えーっ?だってあれお仕事だもん!」
 敷島:「エミリー、ホテルにフィットネスでプールとか無かったか?」
 エミリー:「確か、ホテルメトロポリタン仙台にそれは無かったと思います」
 敷島:「そうか。そこらの市民プールじゃ、さすがに目立つもんなぁ……」
 リン:「海は?昔、一緒に行ったじゃん!」
 敷島:「あの時は今ほど売れて無かっただろ?だからまだ良かったんだけど、あとはあれ、表向きはボーカロイドの海水耐用実験ってのもあったし」

[同日12:00.天候:晴 勾当台公園]

 ミク:「ありがとうございましたー!」
 リン:「ありがとうございましたー!」
 レン:「ありがとうございました!」

 そこでリンが一歩前に出る。

 リン:「みんなーっ!」

 敷島:「ん?」
 エミリー:「あいつ、また何か……」

 エミリーが眉を潜めた。

 リン:「リン、私……すっごく、楽しぃーっ!!」

 リンの最後の言葉に、大勢のファンから歓声が上がった。
 そして、ステージ裏へ。

 ミク:「リン、最後の凄く良かったよ!」
 レン:「何か、1番美味しい所、リンに持って行かれた気がするなぁ」
 リン:「しょ、しょうがないでしょ。自然と口から出ちゃったんだから」
 敷島:「皆、よくやったぞ」
 リン:「んっふっふ〜。グッズの売り上げは順調でしたかな〜?」
 レン:「そういうメタ発言はやめようよ」
 敷島:「ははは……。何だろ。さっきのリンのセリフには驚かされたけど、むしろ今のメタ発言の方がしっくり来るのは……」
 ミク:「それより、次の現場がありますよね?」
 敷島:「ああ。ミクは……」

 敷島達はミク達の次の現場を確認した。

 リン:「次の現場も来てくれるの?」
 敷島:「悪い。今度はエミリー達も仕事が入ってるんだ。科学館で、『マルチタイプの演奏会』」
 リン:「おおっ!」
 レン:「秘書に護衛にメイドに演奏と、マルチタイプの方が大変だね」
 エミリー:「マルチタイプの宿命だ。マスターに求められることは何でもする」
 リン:「だから高いんだね。リン達は10億円くらいだけど」
 レン:「だからそういうメタ発言……」
 エミリー:「バッテリーを交換したら、次の所へ行け。社長の昼食の時間が無くなる」
 敷島:「おっ、それは困るな」
 エミリー:「私は引き続き護衛をさせて頂きますので」
 敷島:「あー、そいつは助かるよ。(国分町はすぐそこなのに……)」
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“Gynoid Multitype Sisters” 「2日目の朝」

2017-08-25 10:34:42 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月11日22:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテルメトロポリタン仙台]

 井辺:「これは萌から聞いた話です」

 因みに萌とは、ひょんなことから井辺と知り合った妖精型ロイドである。
 KR団最後の女性科学者、吉塚広美(故人)が設計・製作したとされる。
 井辺と知り合った当時はまだ試作段階で性別も無かったが、DCJに保護された後は手に入れた設計図を元に改良され、性別も与えられて稼働している。
 今ではDCJロボット未来科学館のマスコット扱いになっている。
 井辺と共にKR団の東北拠点から脱出したという戦友である為か、井辺を1番に慕っている。

 井辺:「最近、科学館にロイドを売って欲しいというバイヤーみたいな人間が出入りしているというのです」
 敷島:「DCJはロボット製作部門がある。そこに売ってほしいと来るのは当然だろう?……まあ、科学館に行くのは違う気がするけど」

 あくまで科学館はパビリオン施設である。

 井辺:「それでも普通でしたら、そこに展示してあるロボットやロイドに興味を持って、『これはどこで売っているのか?』というなら分かりますよね」
 敷島:「当然だ。東京モーターショーみたいなものだな」
 井辺:「まるで直接買いに来たかのような素振りらしいんです」
 敷島:「本当にバイヤーだな。確かに萌だったら、色んな意味で実用性があるだろうからねぇ……」
 井辺:「いえ、それが萌やアルエットさんが欲しいというわけではないようです」
 敷島:「えっ?……まさか、ゴンスケが欲しいって?」
 井辺:「違います。シンディさんです」
 シンディ:「私ですか?……私は、非売品ですよ」
 敷島:「それに、DCJメーカー希望小売価格は50億円だ。そのバイヤーに払えるのか?」
 井辺:「『100億までならキャッシュで払う』とのことでした」
 敷島:「買う気満々だな、おい!……DCJさんは何と?」
 井辺:「シンディさんにあっては、既にオーナーとユーザーがおり、販売できないとお断わりしたそうです」
 敷島:「そりゃそうだろう。最高顧問の爺さんといい、シンディ、お前人気者だなー!」
 シンディ:「大変光栄です」
 敷島:「だったら、売ってやればいいじゃん。シンディのこの姿をベースにした9号機のデイジーがいただろ?どこに売られたんだか、俺は聞いてないけど。いっそのこと、10号機をシンディそっくりに造って、そのバイヤーに100億円で売り付けりゃいいんだ」
 シンディ:「ちょっと待って、社長。価格の計算が合わないんだけど……」
 井辺:「随分と値上げしましたね。社長と交渉したら、音を上げそうです」
 シンディ:「プッ……(笑)」
 敷島:「キミもさらっとギャグを言うな」
 井辺:「えっ???」
 敷島:「いや、いいんだよ。とにかく、エミリーやシンディにあってはデビューしていないにも関わらず、コアなファンが付いているくらいだ。どこかの金持ちが欲しがったのかもしれないな。うちの最高顧問が正にそうだったもんな」
 井辺:「とにかく、萌が言うにはそのバイヤーは、かなり熱心にシンディさんを欲しがっていた御様子。オーナーの奥様やユーザーの社長の所へ、いらっしゃるかもしれません」
 敷島:「多分、筋的にはアリスに先に話をしに行くだろうな。……あ、もしかしたらそれで科学館に来たのかもしれないぞ?」
 井辺:「なるほど。そう言われればそうですね」
 シンディ:「アリス博士とは直接接触はされていないようですね」
 敷島:「そりゃそうさ。あいつ、今は秩父の秘密研究所に出向中だからな。トニーも一緒だ」
 井辺:「3連休なのに、研究職もお忙しいんですね」
 シンディ:「井辺プロデューサー。秩父にはね、DCJの施設があるの」
 井辺:「ええ。それが研究所と営業所ですね。ビルの地上階が営業所。地下階が研究所」
 シンディ:「それだけじゃなく、近くには保養所もあるからね」
 井辺:「……なるほど。そういうことでしたか」
 敷島:「秩父の保養所まで行くのか?そのバイヤーとやらは?」
 井辺:「どうですかねぇ……」
 シンディ:「もし危険人物だとしたら、ちょっと心配ですね」
 敷島:「まあ、アリスも1人で“バイオハザード”シリーズのプレイヤーキャラできそうなヤツだからな」
 シンディ:「そういう問題じゃないって。……あー、“マリオ”と“ルイージ”が護衛に付いてるのか……」
 敷島:「お前から見れば頼り無い奴らだが、そこはバージョンシリーズの最新型だ。暴漢撃退には使えるだろう」

 マルチタイプにあっては、最新型が旧型に勝るとは限らないということが露呈してしまった(ジャニス&ルディ姉弟戦)。
 しかし、バージョンシリーズにあっては、最新型が旧型に勝って当然というのがある。

 敷島:「俺の所に来れば、話くらい聞いてあげるのに」
 井辺:「それは困ります。社長は今、このライブツアーの総責任者なのですし……」
 シンディ:「そうよ。それに、私の設計データはDCJさんが所有していることになってるのに、それとは直接関係無い社長が口出しするのはどうかと思うけど?」
 敷島:「ちっ、バレたか……」

[8月12日08:00.天候:晴 同ホテル2Fレストラン]

 井辺:「社長、おはようございます」
 敷島:「おっ、おはよう。先に食べてたよ」
 井辺:「はい」

 ホテル内のレストランでは、朝食ビュッフェを行っている所がある。

 井辺:「私は今日、仙台市科学館で結月さんと未夢さんに付こうと思いますが、社長はどうされますか?」
 敷島:「俺は午前中、ミクに付こうと思う。『マルチタイプの演奏会』は15時からだったな」
 井辺:「そうです。それでは私は午前中、結月さんと未夢さんに付きますので、午後は……」
 敷島:「夜はどうなってる?」
 シンディ:「KAITOがラジオに出演しますね。南里研究所時代にお世話になっていたラジオ局に、ゲスト出演するそうです」
 敷島:「ああ、あれか。他には?」
 エミリー:「MEIKOが仙台国際ホテルのレストランでディナーショーです。あと、巡音ルカが泉区のライブハウスでソロライブをやります」
 敷島:「泉区のライブハウスが。あそこがルカのデビュー地点だったもんな」

 もっとも、当初はアマチュアで歌っていた。

 敷島:「ミクとかはよく覚えてるんだけど、俺も一時期記憶喪失になったことがあるだろ?ルカをどうやってスカウトしたんだか、よく覚えてないんだ」
 エミリー:「DCJの試作機が平賀博士経由で南里研究所に送られたんですよ。最初は初音ミクを大人にした感じというコンセプトだったんですが、南里博士が色々と改造したら今に至ったわけです」
 敷島:「その時からDCJってあったのか。知らなかった」

 敷島はズズズとコーヒーを啜った。

 エミリー:「何かお持ちしますか?」
 敷島:「ああ。コーヒーもう一杯」
 シンディ:「プロデューサーは?」
 井辺:「ああ、すいません。では、適当に持って来てください」
 敷島:「学生の頃、レイチェルと一緒にアメリカ旅行した時、泊まったホテルの朝飯が足りなかったんだって?」
 井辺:「旅の疲れもあったのでしょう、きっと」
 敷島:「そうかな」
コメント (2)
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