報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「東京メトロ有楽町線」

2017-08-14 12:24:39 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月5日15:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 四季エンタープライズ本社・社長室]

 敷島孝夫:「……それでは来週、今度の3連休、イベントで仙台に行って来ます」
 敷島俊介:「毎年の通りだな。都内でイベントやった方が盛り上がるだろうに、お前のこだわりには脱帽するよ」
 孝夫:「いえ。ボーカロイドはそれぞれ生まれの地は異なれど、活動の開始地点は仙台なんですよ。そしてそれまで売れなかったミクに、ミニライブという形でライブさせてもらえたのは、向こうの夏休みイベントのおかげでしてね。その恩返しです。それに、向こうにもちゃんとしたイベント施設はありますから、十分盛り上がれると思いますよ」
 俊介:「先般の北海道ライブの時は、赤字が出ない程度だった。いや、収益自体はむしろ良い方だったんだが、とある『テロとの戦い』で、誰かが費用を費やしてしまったものだからなぁ……」
 孝夫:「も、申し訳ありません。ですがもう、『テロとの戦い』は終焉したも同然。なので、今度こそ純利益はごっそり入れることができるかと……」
 俊介:「そうしてもらわないと兄さん……うちの会長がいい加減キレるよ」
 孝夫:「叔父さんに見込んでもらってから、既に何年も経ちました。常に成果を提示することで、その応えとしたいと思います」
 俊介:「それなら会長も文句は無いと思うな。分かった。会長には私から言っておくから、孝夫は存分にやりたいことをやりなさい」
 孝夫:「ありがとうございます」

 敷島は社長室をあとにした。

 孝夫:(稼ぐ時はドカッと稼ぐが、その後で「キングボンビー」がその稼ぎを持って行くパターンか……)

[同日15:29.天候:晴 東京メトロ池袋駅・有楽町線ホーム]

 敷島:「今日も暑いな。エミリー、暑くないか?」
 エミリー:「私は大丈夫です。耐熱温度は高いので」
 敷島:「そりゃ素晴らしい」

〔まもなく3番線に、新木場行きが参ります。乗車位置で、お待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれ掛かるのは危険ですからおやめください〕

 トンネルの向こうから、HIDランプとフルカラーLEDの行き先表示が接近してくる。

 敷島:「どんなに電車が新しくなっても、基本は変わらんものだな」
 エミリー:「はい」

〔池袋、池袋。丸ノ内線、副都心線、JR線、西武池袋線、東武東上線はお乗り換えです。3番線は、新木場行きです〕

 電車に乗り込む敷島達。

 敷島:「車内は涼しい」

 空いているオレンジ色の席に座るが、エミリーはそのまま立つ。

〔「31分発、各駅停車、新木場行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 敷島:「そういえば昔、南里研究所のクーラーが故障した時、お前だけが涼しい顔していたな」
 エミリー:「そうです」

 ボーカロイドや人間達が暑さに耐えかねて弱音を吐いているところ、エミリーと平賀奈津子(当時は未婚の為、赤月奈津子)だけが涼しい顔をしていた。
 もっとも奈津子の場合、机の下に仕掛けた氷水入りのバケツに足を突っ込んでいた上、PCのUSBポートから電源を取った扇風機の風に当たっていたのだが。
 因みに敷島はエアコンの効いた車で、MEIKOや巡音ルカの送迎で見事に逃げていた。

 敷島:「実に懐かしい」

 そうしているうちに発車の時間がやってきて、短い発車メロディが鳴った。
 これは各駅ごとに違い、しかもそれぞれ曲名が付いている。
 池袋駅A線(新木場方面)は“bright”という。
 車両のドアが動いてからホームドアが動く。
 車両のドアが閉まってからホームドアが閉まり、それの戸閉を確認してから、車掌が更に発車オーライのブザーを押してようやく走り出すものだから、JRのホームドア無し駅の発車に慣れていると、まだるっこしく感じるかもしれない。

〔東京メトロ有楽町線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は永田町、有楽町方面、新木場行きです。次は東池袋、東池袋です。乗り換えのご案内です。都電荒川線は、お乗り換えください〕

 東京決戦では地上線ばかりが取り沙汰されていたが、地下もまたバージョン3.0の軍団に蹂躙されていたという。
 地上にいた連中は初音ミク達の歌により、“強制停止”の信号を受けて停止したが、地下には届かなかった為である。
 もし敷島達がウィリアム・フォレストのビルに、地下から潜入する作戦を立てていたなら、ものの見事に失敗したであろうとされている。
 無謀ながら、堂々と正面突破の選択が正解だったというわけだ。
 尚、後からやってきた平賀は、メイドロイドの七海と強力してビルの消火設備を破壊し、地下階を水没させたことにより、地下からのバージョン軍団突入を食い止めたという。
 当時の主力だったバージョン3.0は、生活防水以外の防水が施されていなかった為。
 『どんな精密機械も水ブッ掛けりゃブッ壊れる』という敷島のメチャクチャな理論が効いた結果になった。
 後で平賀が急いでエミリーに、海水に潜っても平気な防水加工を施したことは言うまでもない。

 敷島:「おっ、井辺君の方も制作会議が終わったみたいだぞ」
 エミリー:「MEGAbyteの出演するテレビですか?」
 敷島:「そう。ボーカロイドというだけで、なかなかクイズ番組とかバラエティとか出れなかったもんな」
 エミリー:「井辺プロデューサーも、なかなかやり手のようです」
 敷島:「うん。非常に助かる。おかげで俺も、『テロとの戦い』に専念できたしな」
 エミリー:「もうこれで戦いに赴く必要は無いのですね」
 敷島:「うーん……。こちらから仕掛けることは無いが、向こうさんがどう出てくるかだからねぇ……」
 鷲田:「戦いに赴く必要は無いが、しかし事後処理には強力してもらいたい」
 敷島:「鷲田警視……!いつの間に!?」
 村中:「公安警察をナメてもらっては困るよ。取りあえず豊洲駅まで行く前に、桜田門駅で降りてもらおうかな」
 鷲田:「例の北海道の件で、聞きたいことがある」
 敷島:「あー……。ま、ここで断ったら、『転び公妨』されそうなんで行きます」
 鷲田:「お前、警察ナメてんだろ」
 村中:「『転び公妨』……オウムの時によくやってたなぁ……」
 敷島:「やってたんかいw 宗教テロに関しては、公明党に任せておけば創価の圧力で潰してもらえますから大丈夫ですよ」
 エミリー:「社長……」
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“Gynoid Multitype Sisters” 「ロイドの目」

2017-08-13 22:06:21 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月1日14:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 平賀は鞄の中からペンライトを取り出して、シンディの右目を照らした。
 まるで、眼科医もしくは健康診断の時の問診みたいである。

 敷島:「平賀先生、シンディの右目は?もしかして、故障ですか?」
 平賀:「いや……」

 その後で自分のノートPCを取り出す。
 それを操作した後で、

 平賀:「シンディ、このモニタにお前のカメラを映してくれ」
 シンディ:「分かりました」

 シンディが一瞬目を閉じてまた開けると、PCのモニタにシンディの視界が映る。

 平賀:「もう1度行くぞ」

 平賀はもう1度ペンライトをシンディの目に当てた。
 当然、画面も光で白くなる。
 ところが、なかなか補整されない。

 平賀:「多分、調子が悪いのはここじゃないかな」

 周囲の光の強さに応じて、それを補整する機能。
 確か、逆光補整とか言ったか。
 それが故障したらしい。

 敷島:「先生、早く直してください」
 平賀:「シンディを使って、何か撮影記録でもするんですか?」
 敷島:「いえ、別に無いですけど……」
 平賀:「それなら慌てなくても大丈夫ですよ。今日は御自宅に帰って、アリスにその件を伝えるといいでしょう。点検レポートは出しておきますから」

 人間で言う診断書みたいなものか。

 敷島:「で、でも……。見えづらくて大変そうですよ」
 平賀:「シンディ?お前、カメラ以外に“目”も調子悪いのか?」
 シンディ:「いえ、それは大丈夫です」
 平賀:「“目”がやられてるのなら安全上も問題なので、早目の修理が必要ですが、カメラなら安全上の問題は無いでしょう」
 敷島:「え?ん???」
 シンディ:「あ、社長。このカメラ、私の目とは違いますよ」
 敷島:「は?」
 シンディ:「これは社長達が私の見たものを解析する為のカメラです。私の……視点……視界……としての目はまた別にあるんです」
 敷島:「意味が分からんぞ。どういうことだ?」
 平賀:「敷島さん、人間の目ですが、我々は見たものをそのまま脳に記憶するでしょう?もっとも、無意識に見ていたものについてはあまり記憶されませんが……」
 敷島:「ええ」
 平賀:「だけど、その記憶を他人が見ることはできない。超能力者や魔法使いでさえ不可能でしょう」
 敷島:「口や図、絵で説明するしかないですね」
 平賀:「シンディ達はそれ用の目、つまりカメラが別に存在するということです。要は、目が3つあるんですよ、彼女らは」
 敷島:「え!?」
 平賀:「だけど通常は、この左右の2個で十分です。だから、ましてや他人に見せる記憶用のカメラたる目が今故障しても、それを使う予定が無ければ急いで直す必要は無いということです」
 シンディ:「社長、アルエットを思い出して」
 敷島:「アルエット?」

 マルチタイプ8号機のアルエット。
 但し、7号機までの規格をフルモデルチェンジしたものだから、エミリーやシンディからは実妹ではなく、従妹として見られている。
 それでも、可愛がられてはいるのだが。

 敷島:「あ……!」

 アルエットも目が3個ある。
 もっとも、通常は左右に2個だけだ。
 3個目は前頭部の髪の中に隠れている。
 それも、目玉が隠れているのではなく、このPCのモニタの上にさりげなく付いている超小型カメラである。

 平賀:「御理解頂けましたか?エミリーやシンディの場合、3個目の目が2個目の目玉の中に同居しているんですよ」

 平賀は鞄の中から何かの部品を取り出した。

 平賀:「これはメイドロイド用の“目玉”です。彼女らもオプションで3個目の目を取り付けることができまして、七海には取り付けてるんですけども。これを見てください」

 左目と右目。
 見た目には違いが無いように見えるが……。

 平賀:「瞳孔の部分だけが、彼女達の本来の目です。彼女達が『視覚』として必要な部品。記録用のカメラは瞳孔の下にあります」
 敷島:「虹彩の中に隠れているんですね」

 平賀がさっき光を当てたのは、強い光を当てて瞳孔がちゃんと動くか確認したらしい。
 で、ちゃんと動いた。
 だからシンディの言う調子の悪いカメラとは、記録用の第3の目だったというわけである。

 平賀:「記録用のカメラは1つだけでいいので、片目にしか付けていないんですよ」
 敷島:「あれ?でも前に『2つ付けた』とか仰ってませんでした?」
 平賀:「人間のような視点での映像が撮れるかどうかの実験だったんです。でも、ダメでしたね。今は超小型でもかなり解像度の高い映像を記録できるカメラがありますから、我々が後で確認するだけならそれ1個で十分だと思ったんです」
 敷島:「要は監視カメラの映像だとか、家庭用のカムコーダみたいなものですね」
 平賀:「今さっき見た時、画質的にはそんなものだったでしょう?でも、我々が確認する分にはその程度の画質でも十分ですし、解像度を上げることも可能です。よって、彼女達の『視覚』用のカメラは人間と同じく両目に2個必要ですが、記録用の第3の目は1つで十分ということなんです」
 敷島:「その、視覚用の2個のカメラで見たものをそのままメモリーに記録し、それを後で我々が見ることはできないんですか?」
 平賀:「できません。何故なら、記録できないからです」
 敷島:「???」
 平賀:「ドライブレコーダーと同じです。必要の無い画像まで保存していたら、あっという間に容量が一杯になるでしょう?だから過去の物から自動的に消去して行き、事故発生時などの部分は記録として残すというものですね。彼女らは、人間の脳ほどまだ緻密じゃないんです。今現在も見たままの映像を記録しっ放しにしていたら、あっという間に人工知能が容量オーバーで停止します」
 敷島:「はあはあ……」
 平賀:「それに、カメラだけじゃありませんからね。他にも聴覚として聞いたものを記録していますから、視覚だけじゃないんですよ。だから、あくまで『2つの目』は彼女らの『視覚』用としての用途に留めておかなくてはならないんです」
 敷島:「何だか難しいなぁ……」

 因みに記録用の第3の目は、常に外部取り付け用のメモリに記録しているとのこと。
 彼女達は第3の目では、『視覚』として使用することができない。
 要は人間の目、左右どちらかに、常に映像記録用のカメラも付けていると見れば良い。
 彼女達の場合、それがそのまま目の中にあるということだ。
 あと、2つの目はセンサーも付いているので、距離感などはそれで測るらしい。

 平賀:「本当はこんな目が無くても大丈夫なんですよ。でも、人間そっくりに造るんであればね、必要ですから。アンドロイドはバージョンと違い、機能美だけではなく、造形美も追及しなければなりません。お掃除ロボットのルンバだって、『視覚』はあるけど、目玉らしいものは無いでしょう?彼女達の『視覚』も、それだけでは目玉とは言えないんですよ。でも、人間のように造るのであれば、当然目玉も必要です」
 敷島:「色々、無駄にしているような気が……」
 平賀:「そういうものですよ。人間の体には、実はあまり必要の無いものとかあるんですよ。例えば、体毛って何か実用性ありますか?無いでしょう。それどころか、美容として剃り落してしまいますよね。だから彼女達には、頭髪はあっても体毛はありません」
 敷島:「確かに」

 もちろん、眉毛とかまつ毛はある。

 敷島:「難しいですけど、目玉1つ取っても、かなり凝った造りになっているんですね」
 平賀:「そういうことです」
 敷島:「それじゃ、50億円して当然だ。……デイジーはかなり安く買い叩かれたんですって?」
 平賀:「買い手が付かなかったんだからしょうがないじゃないですか」
 敷島:「すいません。うちの老害が注文しておきながら、勝手に……おっと!」

 敷島はシンディがすぐ横にいるのを思い出して口を噤んだ。
 シンディとしては、敷島孝之亟を介護・介助していて楽しかったと述懐している。
 恐らく、生みの親であるウィリアム・フォレスト博士をそうしていたかのように思えたのだろう。
 尚、9号機のデイジーは、メーカー希望小売価格としては25億円だったが、実際の買値は10億円ほどだったとのこと。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「アタシポンコツアンドロイド」

2017-08-12 20:00:58 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月1日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館・研究室]

 アリス:「はい、それじゃ左手見せてみて」
 エミリー:「はい」

 エミリーは台の上に左手を乗せた。
 アリスが電動ドライバーを持ってきて、エミリーの左腕を開ける。

 アリス:「……ちょっと、左手動かしてみて」
 エミリー:「はい」

 ギギギギギ……!

 アリス:「ここのシャフト、曲がってる。どこかぶつけた?」
 エミリー:「キュルキュルキュルキュキュル……。いいえ。記憶にありません」
 アリス:「いや、待て。これは……内部からの衝撃……。あー、なるほど。有線ロケットパンチ用のワイヤーが引っ掛かったのか」
 エミリー:「ローケットアームはここ最近、使用していません」
 アリス:「そうなのよねぇ……。これも不要なら取り外して、もっと別なのにしましょうか」
 エミリー:「あいにくですが、そのような決定権は平賀博士にあります」
 アリス:「分かってる。ただ、シンディにも同じものが取り付けられてるわけだからね。シンディなら、私に決定権があるわ」
 エミリー:「さようでございます」
 アリス:「まあいいや。ワイヤーを巻き直して。多分、前回使った際、巻き方が悪くて緩んだ所に、シャフトが引っ掛かって、何かの衝撃で引っ張られた為に歪んだんだわ」
 エミリー:「ちょっと失礼します。ロケットアーム!」

 エミリーは明後日の方向に、左手の有線ロケットアームを発射した。
 極細のワイヤーに繋がった手首から先が勢い良く飛ぶ。
 それは壁に手をついて、衝撃を吸収するはずだった。

 ブチィッ!ガッシャーン!!

 エミリー:「うっ……ぐっ……!!」

 何と!最大まで伸ばした際、ワイヤーが切れて、廊下に面した強化ガラス窓を突き破ってしまった。

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

〔非常事態発生、非常事態発生。当館研究室エリアにおいて、武装ロボットの暴走が発生したもよう。関係者は直ちに展示室エリアより、エントランスホールへ避難してください。セキュリティロボットが緊急警備体制に入ります。速やかな退避が遅れた場合、安全の保障はできません〕

 アリス:「ちょちょちょ!タイムタイム!ストップ!ストップ!」
 エミリー:「ひ、左手が……」

 エミリーの左手から火花が飛び散った。
 バージョン5.0の量産先行機であるマリオとルイージが飛んできた。
 これはウィリアム・フォレスト博士が設計だけしていたものを、養孫のアリスが組み立てたものである。
 設計図通りに作った試作機はもっと不細工な面構えだったが、これは敷島の策略によって全機破壊された(敷島の乗った地方の電車を襲ったのだが、敷島のゴルフクラブ乱れ投げの真意が読めず、硬直していたところ、架線とボディをクラブが接触。交流2万ボルトの電流が一気に流れ込んで来たことで全機爆発した)。
 赤と青の塗装が特徴のマリオと緑と青の塗装が特徴のルイージは、アリスが勝手にアレンジ設計したタイプである。
 こちらの方がスマートで性能も良い為、量産型もこちらの先行機をモデルにしている。

 マリオ:「エミリー様!ついにやってくれましたね!」
 ルイージ:「我らが主を襲うとは!こちらにも考えがありますよ!」
 アリス:「ちょっとあんた達、これは誤解だって!」

 だがエミリー、下位機種のバージョン兄弟に居丈高に出られたことで表情を変える。

 エミリー:「やってみろ!バラバラの鉄屑に変えてやる!!」
 ルイージ:「『エミリー様の最上位機種としての横暴に耐えられません。先立つ不孝をお許しください』」
 マリオ:「『死ぬ前に 1度は見たい 初音ミク 縞パン推しか 白パン推しか』」
 エミリー:「遺書と辞世の句、誤字・脱字に気をつけてあの世に行くが良い!」

 エミリーは残った右手を光線銃に変形させた。

 アリス:「もうっ!いい加減にしなさい!!」

 アリスは電話をガチャッと切った。
 すると、警報が止まった。

〔ド♪ミ♪ソ♪ド〜♪「こらちは警備室です。先ほどの警報は、確認により、誤報と判明致しました。どうぞ、ご安心ください。これより、原因の調査に入ります。関係者の方は、調査にご協力ください。繰り返し、警備室よりお知らせ致します。……」〕

 マリオ:「はーい……」
 ルイージ:「はーい……」
 エミリー:「さっさと正座!」
 アリス:「エミリー、あなたも反省しなさい」
 エミリー:「すみません。反省」
 アリス:「大昔の猿芝居しないの!いいから早く、左手を回収してきなさーい!!」

[同日14:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー・役員応接室]

 敷島:「まさか、平賀先生に御来社頂けるとは……」
 平賀:「こちらのDCJに用事があったついでです」

 平賀は大学教授であると同時に、DCJの外部執行役員でもある。
 つまり、DCJ内における地位は主任クラスのアリスや鳥柴よりずっと上ということになる。

 平賀:「いやホント、敷島さんが復活してくれてホッとしました。『不死身の敷島』の名前はダテじゃありませんね」
 敷島:「いや、相変わらず悪運だけ強いってなだけですよ」
 平賀:「意識が無くなっている間、幽霊電車に乗り込んでしまって、そこから脱出したんですって?」
 敷島:「夢の話だと、誰も信じてくれないんです」
 平賀:「知り合いの精神医学者に問い合わせてみたんですが、そういうことってあるみたいですよ」
 敷島:「ええっ!?」
 平賀:「敷島さんは乗り物、取り分け鉄道が大好きです。生死の境をさ迷っている間、いかにも幽霊電車のような電車に乗り合わせた夢を見て、そこから脱出できないと死ぬという自己暗示が掛かった状態だったと」
 敷島:「は?」
 平賀:「敷島さんは無事にそこから脱出できた。つまり、それで掛かった自己暗示を抜け出すことができたわけです」
 敷島:「それじゃどうして自己暗示が掛かったのかの説明ができていないです……」
 平賀:「おっと。そこまでは聞いて無かった」
 敷島:(バカと天才は紙一重って本当だな……)

 だが、とても厚い一重の紙であろう。

 シンディ:「失礼します」

 シンディはコーヒーを入れて来た。

 敷島:「実は今朝、東京決戦の現場となったビルの一画に建立された祠を訪ねて来ましたよ。シンディも一緒に」
 平賀:「そうですか」

 平賀はそのままブラックでコーヒーを啜った。
 が、そのままではやはり苦かったか、砂糖をスプーン一杯入れる。

 敷島:「今さらながらですけど、シンディの名前を碑文から削除することに同意して頂いてありがとうございます」
 平賀:「自分、実はシンディの自爆装置を取り外すことには反対でした。もしこいつがまたウィリーの意向を最優先にしようとしたら、自分がそいつの自爆装置を起動させてやる為です」
 敷島:「しかし、取り外しは国家公安委員会からの命令ですよ」
 平賀:「分かっています。一抹の不安はまだあるものの、敷島さんの管理下に置かれている以上は、敷島さんを信じたいと思います」
 敷島:「私も責任重大ですね。分かりました。エミリーも私をマスターとしているわけですから、こうなったら2人まとめて……」
 平賀:「それより、エミリーはどうしました?」
 敷島:「ああ。エミリーは左手の調子が悪いので、アリスが修理しています」
 平賀:「左手?何かしたんですか?」
 敷島:「いえ、何も。……何も無いはずですが」
 平賀:「まあ、左手の損傷くらいならアリスでも直せるでしょう。じゃあ、自分は代わりにシンディを診てみましょうか」
 敷島:「無料点検ですか」
 平賀:「後でシンディを貸してもらえませんか?」
 敷島:「いいですよ。エミリーが戻ってきたら、交替ということにしますので」
 平賀:「で、今調子の悪い所はあるか?」
 シンディ:「はい。実はカメラの調子が……」

 シンディは右目を指さした。

 敷島:「なにっ!?」
 平賀:「そうなのか」

 敷島は驚愕し、平賀は悠然としていた。
 その違いとは何だろうか?
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“Gynoid Multitype Sisters” 「思い出の地」

2017-08-11 19:30:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月1日06:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「ふうーっ!」

 敷島は洗面台でバシャバシャと顔を洗っていた。

 アリス:「なに、もう起きたの?」
 敷島:「ああ。長く休んでいて皆に迷惑を掛けたからな。朝一の電車で行きたい」
 アリス:「ねぇ、いっそのこと都内のワンルームマンション借りるのやめて通勤にしたら?新幹線定期、買おうと思えば買えるんでしょ?」
 敷島:「まあ、それはそうだが……」
 シンディ:「確かに経費はその方が安いです」
 アリス:「ほら、シンディもそう言ってることだし」
 敷島:「その代わり、東京駅からは都営バスだな」
 アリス:「何でそうなるのよ……」
 敷島:「ま、今日だけは新幹線だ」
 シンディ:「もうKR団も完全崩壊して、他のテロ組織も逃げて行きました。もう心配は無いと思いますが」
 敷島:「しばらく考えさせてくれ」

 敷島は首を横に振った。

[同日06:38.天候:晴 JR大宮駅・新幹線ホーム]

 朝日の差す新幹線ホームで始発列車を待つ敷島とシンディ。

 敷島:「だいたい、今のマンションじゃ狭くなるだろう。そういった意味もあって、平日限定でワンルームマンション暮らしをしていたんだぞ」
 シンディ:「確かにそうですねぇ。やっぱり私が代わりに記念館暮らしを……」
 敷島:「それだと平賀先生が却って怒るから」
 シンディ:「ああ……」

〔14番線に、“なすの”252号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、上野に止まります。……〕

 敷島は目を凝らして、臨時ホームの方を見た。

 シンディ:「何です?」
 敷島:「いや、昨夜見たのは何だったのかなぁ……ってさ。どう見ても200系だったんだが……」
 シンディ:「疲れていて、目の錯覚でも起こしたのでしょう。私のカメラには映っていませんよ」

 シンディは自分の右目を指さして言った。
 因みにロイド達の目、実際にカメラとして稼働しているのは片目だけである。
 もう片目は人間そっくりに見せる為だけのダミー。
 カメラではない片目はライトになっている。
 あと、電源ランプとして白目の部分が淡く光っている。
 暗い所だと、白目の所が淡く緑色に光るので分かるのだが、明るい所だと分からない。
 が、暗い所で白目の部分が淡く緑色に光っている様は不気味であることは否めない。
 他にも暗視機能を使用している際、瞳に当たる部分が赤く光る為に、それも多少不気味な所で改善が望まれている。
 ……といっても、これは現時点での話。
 実は点検などでカメラの位置が右目から左目に移されることもあるし、両目に設置されてライトが取り外されることもある。

〔「14番線、ご注意ください。“なすの”252号の到着です。9号車のグリーン車以外、全て自由席です。黄色い線まで、お下がりください」〕

 東北新幹線では古参のE2系電車が入線してくる。

 敷島:「“最終電車”ならぬ、“始発電車”」
 シンディ:「は?」

 敷島達は先頭の1号車に乗り込んだ。
 1つ手前の小山駅始発で、朝一の電車ということもあって、車内は空いていた。
 2人席に座る。
 こちらは西側なので、夏の日差しが差し込んでくることはない。
 今ではもう発車ベル(電子電鈴)は新幹線ホームだけとなった。
 列車は1分だけ停車すると、すぐに発車した。

 敷島:「実を言うとな、ボーカロイドの皆に早く会いたいというのもあるんだ。早くても、9時には出発するスケジュールとかあるだろ?」
 シンディ:「確かにそうですね。……あ、でも、今日は無いですよ。1番早くて、KAITOが9時半に敷島映画撮影所に入る予定になっています」
 敷島:「そうか。KAITOのヤツ、映画出演の話が来ていたな」
 シンディ:「はい。あと、同じ時間でMEGAbyteが四季エンタープライズ自社番組、『ピコピコドン!ブレインパワー』の収録があります」
 敷島:「MEGAbyte?あれ、Lilyが……」
 シンディ:「LilyのMEIKOとのユニットは兼任ですよ。MEGAbyteを抜けたわけではありません」
 敷島:「そうか。概要は聞いてるんだけど、やっぱ俺が寝てた間に色々とあったみたいだな。やはり早目に会社に行くことにして正解のようだ」
 シンディ:「そうですね」

[同日07:04.天候:晴 JR東北新幹線“なすの”252号1号車内]

 列車は上野駅の地下深いホームを出発した。
 新幹線ホームが地下になっている駅は、上野駅以外知らない。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 地下トンネルを進んでいた列車は、秋葉原駅の横で地上に出る。
 秋葉原駅中央口バスプールのすぐ横だ。
 だから、ヨドバシアキバも車窓によく映る。
 列車は隣を走る通勤電車とほぼ同じ速度で東京駅を目指すわけだが、高架部分としてはそこよりも一段高い場所を走る。
 大手町のオフィス街が見えて来たら、もう到着だ。
 そんな中、シンディは車窓から、あるビルをずっと見つめていた。
 建設されてから僅か数年しか経っていない、新しい超高層ビルである。

 敷島:「あれは……かつて、ウィリーが東京決戦の時に潜んでいたビルだな」
 シンディ:「ええ」

 もちろん当時のビルは十条伝助の奸計により大爆発・崩壊の憂き目に遭っており、跡形も無くなっている。
 今のビルはその跡地に建てられた、全く別のビルである。
 元々が取り壊しが予定され、テナントも全部引っ越した後のビルであった。
 だから大崩壊の際も、直接巻き込まれたことによる死傷者はいなかった。
 ただ、それに巻き込まれたウィリーの死体だけが回収不能となっただけだが。

 敷島:「ちょっとだけ寄って行くか?」
 シンディ:「ですが……」
 敷島:「まあ、いざとなったらタクシーで向かえばいいさ」
 シンディ:「分かりました」

[同日07:20.天候:晴 東京都千代田区大手町 某オフィスビル敷地内]

 ビルの公開空地となっている部分の一画に、小さな神社が建てられている。
 これは東京決戦で犠牲になった人々への鎮魂を願ったものだという。
 更に、回収できなかったウィリアム・フォレスト博士の遺体が残された場所ということで、その供養も目的とされている。

 シンディ:「こんな、大きなビルの一画に、こういうものがあったなんて知りませんでした……」
 敷島:「意外とあるよ、こういうの。どこかのビルには、その屋上に神社があったりとかな。それもまた外国人にはカルチャーショックなんだって」
 シンディ:「まさか、ウィリアム博士まで供養してれるなんて……」
 敷島:「死者に鞭打たないのが日本人の美徳でね。ま、俺的には黙っててもあのマッドサイエンティストは地獄行きだろうから、それで化けて出て来られても困るんで、こういう神社でも建ててやるから、化けて出るなよー的に思ってるんだけど」

『……これは俗に「東京決戦」と呼ばれ、当時世界的なマッドサイエンティスト(狂科学者)として有名なウィリアム・フォレスト容疑者が側近のガイノイド(女性型の人間型ロボット)とロボット軍団を使役し、東京都心において大規模なテロ活動を行った……』

 神社内に設置された説明文にはシンディの名前が出てこなかった。

 シンディ:「あれ?私の名前が出てこない……」
 敷島:「ああ。最初は出す予定だったんだがな。後期型のお前が稼働を始めて、それが贖罪の為としてちゃんと動いているのが分かったんで、俺から頼んで、お前の名前は伏せてもらうことにした」
 シンディ:「そうだったんですか……」
 敷島:「そこで初めて平賀先生と大ゲンカだよ。丸1日口論した」
 シンディ:「ああ……。何か、申し訳ないです。私ごときの為に……」
 敷島:「いや、いいんだいいんだ。でも、時々思うよ。いつの日か、お前やアリスに復讐しに来るヤツがいるんじゃないかってさ。最初、KR団がそうかなと思ったんだが、どうやら違うみたいだ」
 シンディ:「社長……」
 敷島:「そろそろ行くか。タクシーで」
 シンディ:「はい」
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“Gynoid Multitype Sisters” 「上りの旅」 Final

2017-08-10 19:30:54 | アンドロイドマスターシリーズ
 敷島達を乗せた“はやぶさ”38号は順調に運転を続けている。
 新函館北斗発が18時36分で、下車駅の大宮着は22時38分という約4時間の新幹線旅である。
 その間、車中では何も無いので、それまでに出て来た用語を少し解説したいと思う。

 四季グループ:

 グループの持ち株会社である(株)四季ホールディングスを頂点に、数十もの関連企業を持つ総合芸能企業。
 本社は東京都豊島区池袋。
 名前は創業者一族である敷島家の“敷”→“四季”としたもの。
 因みに言っておくが、JR東日本の“四季島”もまた日本の古い国名“敷島”の敷を四季に置き換えたものであるが、こちらのネタの方が先であるので誤解の無いように!
 映画制作会社もグループの屋台骨として存在する大企業である。
 ホールディングスの会長に敷島孝夫の伯父である敷島峰雄、社長に叔父の敷島俊介がいる。
 他にも大叔父などが役員名簿に名前を載せていたりするのだが、顧問とか相談役などに就いており、あまり顔は出していないもよう。
 グループ内でも一、二を争う四季エンタープライズはアイドル事業部門においての売り上げが高い。
 創業者は敷島孝之亟。
 元々はストリップ劇場を運営する会社から始まった。
 尚、グループ会社の中には元々単立だったり、他の企業グループに所属していたものが四季グループに吸収したり、合流したりしたものもある。
 敷島俊介の後押しを受けて設立された敷島エージェンシーも、このようなグループ企業の1つである。
 敷島エージェンシーの経営状態によっては、四季エンタープライズに吸収し、ボーカロイド部門として活動させることも視野に入れられている。
 他に存在が確認されているグループ企業には、(株)敷島不動産がある。
 恐らく、グループ企業の不動産管理を一手に引き受けている企業と思われる。

 “オホーツク旅情歌”:

 初音ミクの持ち歌の1つであるバラード。
 作曲は彩木雅夫氏、作詞は鈴木宗敏氏、編曲はHIROMU氏。
 作中ではストーリーの進行上、歌詞の中に重大なものが隠されているという設定だった。
 本来はアルバム“彩木雅夫 feat.初音ミク 手紙 -Letter-”の中に収録されている曲の1つ。
 彩木雅夫氏は“長崎は今日も雨だった”などの作曲者でもあるが、近年はボーカロイド(特に初音ミク)の持ち歌も作っているもよう。
 その為、先述のアルバムに収録されている曲の殆どが昭和の歌謡曲風のものである。
 MEIKOが歌う“モーニング・ブルース”もあるが、当作品でもディナーショーの時によく歌うという設定で使用させて頂いている。
 作中では、オホーツク海に向かっては初音ミクが海中投棄された場所、内陸に向かってはマザーブレインが眠っている場所を指した歌だとされた。

 ※歌謡曲繋がりで、“森ヶ崎海岸”を使わせて頂こうかなと思ったのだが、後でんっ?さんに怒られそうだったので辞めた。
「“森ヶ崎海岸”を歌謡曲とは何事だ!」
 と怒られそうだったので。
 いや、でも何度聴いても、あれ歌謡曲にしか聴こえないんだよなぁ……。
 実際、学会の合唱団でも1人ずつソロで歌うことがあるみたいだし。
 

 バージョン4.0の5.0改造機:

 KR団のアジトの大爆発から敷島を守り抜いたバージョン4.0の一種。
 見た目は5.0のようにスマートなものだが、4.0の部品をほぼ流用していることから、純粋な5.0とは認められていない。
 4.0は確認されているだけで、500〜600機ほど製造されたということなので、型番に1000を足すようになっている。
 敷島を助けた機種は333号機であった為、ボディにはそれに1000を足した1333号機とされた。
 在来機種と違って知能は高く、5.0のように滑らかな口調で言葉を喋る。
 1333号機が敷島を助けたのは、かつて普通の4.0だった頃、エミリーに命を助けてもらったから。
 エミリーとしては早く敷島と合流したかった為、たかだかザコロボットには目をくれなかっただけと思われるが、それが数年後、敷島を助けることになる。
 現在は北海道の農家に引き取られ、農作業ロボットとして稼働しているもよう。

 マザーブレイン:

 マルチタイプの試作機とされたロイド。
 しかし、エミリーやシンディには家族意識が無かった。
 マザーの実験データを基に量産機であるエミリー達が作られたことから、マルチタイプの母ということでマザーと呼ばれた。
 最終的にはアジトの自爆装置が働き、大爆発に巻き込まれたことで大損傷。
 エミリーに頭部だけ回収された。
 現在、内部の解析が行われているもよう。

 電気鞭:

 元々はシンディが部下のバージョン・シリーズを従える為に使用していたもの。
 普段は腰のベルト代わりに巻いている。
 電力の出力は調整可能のようで、ロイドであっても放電状態の鞭で叩かれれば感電してしばらくの間、動きが取れなくなる。
 ロボットサーカス団の団長も似たような鞭を使用していたことから、ロボットに携わる関係の所に流通しているようである。
 マルチタイプにおいては銃火器の使用が禁止された為、飛び道具としては光線銃に切り換えられ、近接戦用として電気鞭ということにするようである。

[同日22:38.天候:晴 JR東北新幹線“はやぶさ”38号9号車内→JR大宮駅]

 南下を続けていた列車だったが、左手にもう一本の線路が並行してくる。
 上越・北陸新幹線用の線路だ。
 更にその高架橋の外側に“ニューシャトル”の軌道が並行してくると、大宮到着はもうすぐである。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。大宮の次は、上野に止まります〕

 深夜ともなると、乗換案内をしなくなる自動放送。
 この時点で、もう北陸新幹線の終電は終わっているからというのもある。

〔「大宮でお降りのお客様、ご乗車ありがとうございました。14番線到着、お出口は左側です。大宮からのお乗り換えをご案内致します。北陸新幹線は、本日の運転を終了しております。上越新幹線下り、Max“たにがわ”417号、越後湯沢行きは18番線から、22時54分。……」〕

 エミリー:「シンディ、そろそろお2人を起こせ」
 シンディ:「はいはい」

 通路を挟んだ隣の席に座る敷島夫妻は、すっかり寝落ちしていた。

 シンディ:「博士、社長。もうすぐ到着ですよ」
 アリス:「Mmm……」
 敷島:「おっ、つい寝落ちしてしまった」

 敷島とアリスは大きく伸びをした。

 敷島:「本当に1日掛かりだったなぁ……」
 エミリー:「そうですね」
 シンディ:「博士、大丈夫ですか?」
 アリス:「腰が痛ェ……(>_<)」
 敷島:「何だい、まだ20代なのにだらしないな」
 アリス:「うるさいわね」

 車窓に大栄橋と『カニトップ』の看板が見えて来たら、そろそろデッキに移動した方が良い。
 列車はホームに滑り込んだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕

 敷島:「久しぶりに帰ってきたなぁ……」

 ホームの中を湿った風が吹き抜ける。

 アリス:「なに感傷に浸ってるのよ。早く帰って、トニーの顔でも見なさいよ」
 敷島:「おっ、そうだった」
 エミリー:「タクシー乗り場はあちらです」
 敷島:「ああ」

 敷島達は改札に向かう階段を降り始めた。

 敷島:「! あれは何だ!?」

 敷島は下り方向を指さした。
 中央の臨時ホームから出発していった下り列車だと思われるが、後ろ姿が200系!?

 アリス:「何よ、いきなり……」
 シンディ:「何も見えませんが?」
 エミリー:「何かありましたか?」
 敷島:「気のせいか?」
 エミリー:「旅の疲れと眠気で、幻をご覧になったのでは?」
 敷島:「そ、そうかな……。(そういえば北陸新幹線の終電が終わったって言ってたな……)」
 アリス:「早く帰ろう。私も疲れたよ」
 敷島:「ああ」

 『最終電車』の運転はまだ終わっていない。
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