報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「上りの旅」 2

2017-08-07 19:09:50 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月31日14:34.天候:晴 JR札幌駅→特急“スーパー北斗”16号車内]

〔お待たせ致しました。まもなく7番線に、14時45分発、函館行き、特別急行“スーパー北斗”16号が入線致します。……〕

 ディーゼルカーのアイドリング音が響くホームに、自動放送が響き渡る。

 敷島:「あー、食った飲んだ飲んだ食った……」
 アリス:「いい快気祝いだったわね」
 敷島:「あれ、快気祝いかよ?」
 アリス:「どうせ会社でもやってくれるんでしょ?」
 敷島:「あー、そうか……。俺の快気祝いじゃなくて、俺がむしろ迷惑を掛けた……何というか、お詫び会にしたいくらいだな」
 アリス:「立場上、快気祝いされる側なんだから、おとなしく受け取っておきなって」
 敷島:「んー……」

 そこへ列車が入線してきた。
 どこかで整備してきたものなのか、折り返し運転ではなく、当駅始発である。
 “ライラック”の789系0番台の先頭部分はJR北海道のコーポレートカラーである萌黄色だったが、それとよく似た先頭形状を持つキハ281系はコバルトブルーである。
 これは噴火湾をイメージしたものとのこと。
 JR北海道では単に281系と呼んでいるが、これだとJR西日本の電車281系と混同する為、一般にはキハ281系と呼ばれることが多い(他例では、721系というとJR北海道のそれとJR東日本のそれがある。両者とは全く設計が違うが、混同を避ける為、後から製造された東日本の方において頭にEを付ける)。
 グリーン車の乗降ドアの横に車掌室へのドアがあり、そこに白い制服姿の車掌が乗り込むとドアが開いた。

 敷島:「今度もちゃんと車掌が乗ってるな、うん。よし。これも黄泉の国行きではない」
 アリス:「何言ってるの。夢の続きは寝てからにして」
 敷島:「いや、アリス。本当に俺は、昔の埼京線の電車に乗ってだなぁ……」
 アリス:「はいはい。見事なグッドエンディングだったわね」
 敷島:「ったく、他人事だと思って……」

 前の乗客に続いて乗り込むと、車掌室がオープンカウンターのようになっているのが目についた。
 そこで車掌が忙しく発車の準備を行っている。

 敷島:「今度はちょっと雰囲気が違うな」

 “ライラック”の789系のグリーン席はレザーシートだったが、こちらはモケットである。

 敷島:「変わった構造だな」

 グリーン車は2人席に通路を挟んだ1人席が特徴の3列シートであり、“ライラック”とは違って1両まるごとグリーン車であるのだが、中央で2列席と1列席が左右逆になるという構造だった。
 重心を均等にする為の対策なのだろうが……。

 敷島:「こいつらのせいで、しばらくの間、重心が傾くだろうなぁ……」

 敷島はエミリーとシンディを見て呟いた。

 敷島:「まだお前ら、自重100キロ超えしたままだよな?」
 エミリー:「私は130キロまで軽量化できました」
 シンディ:「私は150キロ」
 敷島:「何で20キロも違うんだ?見た目の体型は同じなのに」
 シンディ:「私の方が、姉さんよりも、ジェットエンジンの航続距離が延びたからです」

 シンディは自分の足を指さして言った。

 敷島:「何でまた?」
 シンディ:「いざとなったら、北海道までアリス博士を抱えて飛べるようにと……」
 敷島:「ああ、そう……。DCJさんにも謝っておこう」
 アリス:「御礼という発想は無いの!?」

[同日14:45.天候:晴 特急“スーパー北斗”16号3号車内]

 尚、鋼鉄姉妹においては席順が変則的になっている。
 具体的には敷島とアリスが仲良く2人席の4Cと4Dなのだが、エミリーとシンディは1人掛けの4Aと5Aである。
 この姉妹は座席を向かい合わせにした。
 考えてみると、この方が護衛になっているかもしれない。

 アリス:「今度は仕事しないの?」
 敷島:「150通くらいあったメールのチェックと、その返信だけで今日はいいだろう。それに、昼飯を思ったよりも食べた上、サッポロビールまで行っちゃったからな。少し寝てるよ」

 列車は定刻通りに発車した。
 新型車両ではあってもディーゼルカーなのだから、走り出す際に大きなアイドリング音がするはずだが、この車両においては微かに聞こえてくる程度だった。
 敷島はグリーン車自慢の角度の深い座席を倒した。

 アリス:「着いたら起こすよ。シンディの電気ショックで」
 シンディ:「お任せください」

 シンディはニヤッと笑った。

 敷島:「普通に起こしてくれ!」
 エミリー:「あ、思い出した。シンディ、前に借りて来た電気鞭返す」
 シンディ:「姉さん、今頃……」
 アリス:「エミリーにも電気鞭作ってあげようか?」
 エミリー:「私ですか?」
 アリス:「シンディとお揃いで新しいの作るよ?」
 エミリー:「それではお願いしてよろしいですか?」
 アリス:「ええ。タカオが浮気しそうになったら、それで引っ叩いていいからね」
 エミリー:「はあ……」
 シンディ:「博士。その役回りはむしろ私ですよ」
 アリス:「あら、そう?」

 Sぶりはどちらも変わらないとされているが、シンディの方が最近はSっ気が上になりつつある。

 敷島:「何だか爆睡するのが怖くなったから、ラジオでも聴いてるよ」

 グリーン車には、今や珍しくなったオーディオサービスがある。
 航空機のそれのように、チューブ式のイヤホンを差して聴くタイプだ。

 敷島:「あれ?ボーカロイドの歌だ」

 敷島が起き上がった。

 アリス:「ほんと?何チャンネル?」
 敷島:「えーと……このチャンネルだ。普通にポップ系で流されるとは……」
 アリス:「初音ミクの歌?」
 敷島:「そうだな。俺が寝てる間に、新曲出したんだな」
 エミリー:「夏に見合った曲です。井辺プロデューサーが、さる有名な音楽家さんに作曲を依頼できたそうです」
 敷島:「井辺君もできる男だなぁ……。あれ?ここの旋律……」
 アリス:「なに?」
 敷島:「いや、“初音ミクの消失”に似てたような気がするんだが……」
 エミリー:「さる有名な音楽家さんとのことですので、もしかしたら、その筋の方なのかもしれません」
 敷島:「なるほど。そういうことか……」

 北海道だからこそ、むしろ初音ミクという発想に敷島は口角を上げた。
 それがこういう列車のオーディオに流れていることから、ミクの有名さに驚いたりもした。
 ミクを売り出していたのは、敷島自身であるのだが……。
コメント (6)
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“Gynoid Multitype Sisters” 「上りの旅」

2017-08-07 10:27:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月31日11:25.天候:晴 特急“ライラック”16号→JR札幌駅]

 車内チャイムが流れる。
 “ハイケンスのセレナーデ”の一部をオルゴールにしたものだ。
 抑揚の無い男声の自動放送が流れた後で、東北・北海道新幹線と同じ声優(ジーン・ウィルソン)と思われる女性の英語放送が流れる。

 敷島:「この英語、聞き取れる?」
 アリス:「ええ」
 敷島:「だろうな」

 敷島が頷いたのは、発音やアクセントがアリスの喋る英語とよく似ていたからである。
 学会関係(創価じゃないよ!)でよく海外にも行く平賀に言わせると、アリスはアメリカの南部育ちだった割に、喋る英語はイギリス人のそれに近いという。
 アリスが育った児童養護施設の運営者はアメリカ人ばかりであり、その後引き取ったウィリアム・フォレスト博士は北部出身とはいえ、やはりアメリカ国籍だから、それがどうしてイギリス英語になるのかが分からない。
 実際の出身地が不明である為、もしかしたらイギリス生まれではないのかというのが敷島の予想である。
 まるで映画やドラマのように、白人の男女が突然児童養護施設を訪れて、アリスを預けて行ったのだという。

 ただ、ウィリアム博士が引き取った後で、当時から既に稼働していたシンディ(前期型)が幼いアリスの姉・母親代わりだったことを考えると……。
 シンディが、居合わせた外国人客と何か英語で話をしている。
 そのシンディの英語が、さっきの放送のイギリス英語とそっくりだったもので、もしかしたらシンディのせいではないかという疑いも……。

 敷島:「イギリスのBBCのアナウンサーと、アメリカのニュースキャスターじゃ、確かに喋り方が違うな!」
 アリス:「そうね」
 エミリー:「到着しました」
 敷島:「おっ、じゃあ降りよう」

 ホームに降り立つ。
 因みに荷物は大きいものだが、鋼鉄姉妹達が軽々と持っている。
 旭川駅以上にディーゼルエンジンを唸り立てる列車が喧しいが、これも北のターミナル駅ならではの風物詩か。
 これでも学園都市線が電化されたということもあって、だいぶディーゼルカーの数は減ったとのこと。

 アリス:「で、どうやって行くの?」
 敷島:「任せておけ。……エミリーに」
 エミリー:「お任せください」
 アリス:「……ま、そうなるわね」
 敷島:「札幌駅からなるべく近くて、ジンギスカン食える店だ」
 エミリー:「かしこまりました」
 敷島:「歩くグーグル先生w」
 エミリー:「いや、グーグルは場所と行き方までしか教えないけど、こっちは先導や護衛までしてくれるから」
 敷島:「……と、その前にだ」

 札幌駅も自動改札機が設置されているが、敷島達はそこには行かず、有人改札口へ向かう。

 敷島:「ちょっと途中下車したいんですが……」

 乗車券は大宮までだが、敷島達はここまでの特急券(“ライラック”16号)も添えて差し出した。

 駅員:「それでは……」

 駅員は乗車券に札幌駅のハンコを押した。
 途中下車の制度に足枷を掛けてくる『大都市近郊区間』(この区間内においては途中下車が認められていない)であるが、札幌都市圏は該当しない(時刻表のどこを見てもそんなことは書いていない)。

 エミリー:「こちらです」

 エミリーの先導で現地に向かう。
 尚、途中下車の歴史はとても古く、東海道本線が全通した明治時代のことである。
 長距離のキップを持った乗客において、当時の鉄道当局が正式に途中下車を認めたとのこと。
 東海道本線全通直後はまだ列車の速度も遅く、設備も貧弱だったことから、夜に途中下車して駅前の旅館に泊まり、朝そこから再出発するという旅客が多かった背景がある。
 乗り鉄の中には、この途中下車印を集める者もいる。

[同日同時刻 天候:曇 東京都内某所 某テレビ局]

 Lily:「Welcome to my HELL♪闇夜の世界へ♪」
 MEIKO:「『お前は私に暴言を吐いた。ただそれだけの理由だ。死んでも悔しがれ』」
 Lily:「私達が乗ってしまった♪地獄行きの列車♪途中で降りることは♪できない♪」
 MEIKO:「冥界行きのキップ♪それは決して♪手にすることのできない♪手にしてはいけない♪魔法の紙♪」

 ロックが得意なLilyにMEIKOが新ユニットとして組んだら、随分とダークな内容になった件。

 AD:「はい、オッケーです!」

 歌番組の収録だった。

 MEIKO:「お疲れさん」
 Lily:「いえ、お疲れさまです」
 MEIKO:「ロックなんて久しぶりよ。今はディナーショーでバラードとかの方が多いからね」
 Lily:「そうなんですか?」
 MEIKO:「ロックって言えるのかどうか微妙だけど、最近歌ったのが“悪食娘コンチータ”?ミュージカルの」
 Lily:「あのミュージカル、私も観てました!MEIKOさん、素敵でした!」
 MEIKO:「ボーカロイドが、どうやって食事をするシーンをやるのか不思議だったけどねぇ……」

 主演を張ったMEIKO。
 但し、悲劇の悪役であるが。
 キリスト教七つの大罪の悪魔の1つである“飽食の悪魔”(ミュージカルでは“悪食”となっている)ベルゼブブに取り憑かれた女領主バニカ・コンチータの半生を描いたもの。
 悪魔に取り憑かれた彼女は食人鬼となり、最後には自害してしまう。
 その自害の仕方というのが……。
 巡音ルカ演じる魔道師が突入した際には、既に自害していたバニカと彼女が産んだ赤ん坊が1人だけ残されていたという。

 Lily:「私も主演で出たいです」
 MEIKO:「うん、頑張って。悪役の私を倒す役がいいかしら?」
 LIly:「いえ、そんなことは……」

 控室でそんなことを話していると、スタッフがやってきた。

 スタッフ:「すいませ〜ん、次の準備お願いします〜」
 Lily:「あ、はい!」
 MEIKO:「分かりましたー」

 MEIKO達は席を立った。

 MEIKO:「社長達、今どこかしら?」
 Lily:「エミリーさん達のGPSによると、札幌市内ということです」
 MEIKO:「飛行機ならあっという間だけど、電車だと一日掛かりね。社長達も大変だね」
 Lily:「そうですね」

[同日12:30.天候:晴 北海道札幌市街 某ジンギスカン料理店]

 敷島:「おい、アリス!俺の分まで食うな!」
 アリス:「ランチだからって、量が少ないのよ。お代わりいい?」
 敷島:「食い過ぎだ、オマエは!サーセン、ビールお代わり!」
 アリス:「そういうあなたは飲み過ぎだから!」

 大変というわけでもなく、結構良い旅のようである。
コメント (4)
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