[7月31日14:34.天候:晴 JR札幌駅→特急“スーパー北斗”16号車内]
〔お待たせ致しました。まもなく7番線に、14時45分発、函館行き、特別急行“スーパー北斗”16号が入線致します。……〕
ディーゼルカーのアイドリング音が響くホームに、自動放送が響き渡る。
敷島:「あー、食った飲んだ飲んだ食った……」
アリス:「いい快気祝いだったわね」
敷島:「あれ、快気祝いかよ?」
アリス:「どうせ会社でもやってくれるんでしょ?」
敷島:「あー、そうか……。俺の快気祝いじゃなくて、俺がむしろ迷惑を掛けた……何というか、お詫び会にしたいくらいだな」
アリス:「立場上、快気祝いされる側なんだから、おとなしく受け取っておきなって」
敷島:「んー……」
そこへ列車が入線してきた。
どこかで整備してきたものなのか、折り返し運転ではなく、当駅始発である。
“ライラック”の789系0番台の先頭部分はJR北海道のコーポレートカラーである萌黄色だったが、それとよく似た先頭形状を持つキハ281系はコバルトブルーである。
これは噴火湾をイメージしたものとのこと。
JR北海道では単に281系と呼んでいるが、これだとJR西日本の電車281系と混同する為、一般にはキハ281系と呼ばれることが多い(他例では、721系というとJR北海道のそれとJR東日本のそれがある。両者とは全く設計が違うが、混同を避ける為、後から製造された東日本の方において頭にEを付ける)。
グリーン車の乗降ドアの横に車掌室へのドアがあり、そこに白い制服姿の車掌が乗り込むとドアが開いた。
敷島:「今度もちゃんと車掌が乗ってるな、うん。よし。これも黄泉の国行きではない」
アリス:「何言ってるの。夢の続きは寝てからにして」
敷島:「いや、アリス。本当に俺は、昔の埼京線の電車に乗ってだなぁ……」
アリス:「はいはい。見事なグッドエンディングだったわね」
敷島:「ったく、他人事だと思って……」
前の乗客に続いて乗り込むと、車掌室がオープンカウンターのようになっているのが目についた。
そこで車掌が忙しく発車の準備を行っている。
敷島:「今度はちょっと雰囲気が違うな」
“ライラック”の789系のグリーン席はレザーシートだったが、こちらはモケットである。
敷島:「変わった構造だな」
グリーン車は2人席に通路を挟んだ1人席が特徴の3列シートであり、“ライラック”とは違って1両まるごとグリーン車であるのだが、中央で2列席と1列席が左右逆になるという構造だった。
重心を均等にする為の対策なのだろうが……。
敷島:「こいつらのせいで、しばらくの間、重心が傾くだろうなぁ……」
敷島はエミリーとシンディを見て呟いた。
敷島:「まだお前ら、自重100キロ超えしたままだよな?」
エミリー:「私は130キロまで軽量化できました」
シンディ:「私は150キロ」
敷島:「何で20キロも違うんだ?見た目の体型は同じなのに」
シンディ:「私の方が、姉さんよりも、ジェットエンジンの航続距離が延びたからです」
シンディは自分の足を指さして言った。
敷島:「何でまた?」
シンディ:「いざとなったら、北海道までアリス博士を抱えて飛べるようにと……」
敷島:「ああ、そう……。DCJさんにも謝っておこう」
アリス:「御礼という発想は無いの!?」
[同日14:45.天候:晴 特急“スーパー北斗”16号3号車内]
尚、鋼鉄姉妹においては席順が変則的になっている。
具体的には敷島とアリスが仲良く2人席の4Cと4Dなのだが、エミリーとシンディは1人掛けの4Aと5Aである。
この姉妹は座席を向かい合わせにした。
考えてみると、この方が護衛になっているかもしれない。
アリス:「今度は仕事しないの?」
敷島:「150通くらいあったメールのチェックと、その返信だけで今日はいいだろう。それに、昼飯を思ったよりも食べた上、サッポロビールまで行っちゃったからな。少し寝てるよ」
列車は定刻通りに発車した。
新型車両ではあってもディーゼルカーなのだから、走り出す際に大きなアイドリング音がするはずだが、この車両においては微かに聞こえてくる程度だった。
敷島はグリーン車自慢の角度の深い座席を倒した。
アリス:「着いたら起こすよ。シンディの電気ショックで」
シンディ:「お任せください」
シンディはニヤッと笑った。
敷島:「普通に起こしてくれ!」
エミリー:「あ、思い出した。シンディ、前に借りて来た電気鞭返す」
シンディ:「姉さん、今頃……」
アリス:「エミリーにも電気鞭作ってあげようか?」
エミリー:「私ですか?」
アリス:「シンディとお揃いで新しいの作るよ?」
エミリー:「それではお願いしてよろしいですか?」
アリス:「ええ。タカオが浮気しそうになったら、それで引っ叩いていいからね」
エミリー:「はあ……」
シンディ:「博士。その役回りはむしろ私ですよ」
アリス:「あら、そう?」
Sぶりはどちらも変わらないとされているが、シンディの方が最近はSっ気が上になりつつある。
敷島:「何だか爆睡するのが怖くなったから、ラジオでも聴いてるよ」
グリーン車には、今や珍しくなったオーディオサービスがある。
航空機のそれのように、チューブ式のイヤホンを差して聴くタイプだ。
敷島:「あれ?ボーカロイドの歌だ」
敷島が起き上がった。
アリス:「ほんと?何チャンネル?」
敷島:「えーと……このチャンネルだ。普通にポップ系で流されるとは……」
アリス:「初音ミクの歌?」
敷島:「そうだな。俺が寝てる間に、新曲出したんだな」
エミリー:「夏に見合った曲です。井辺プロデューサーが、さる有名な音楽家さんに作曲を依頼できたそうです」
敷島:「井辺君もできる男だなぁ……。あれ?ここの旋律……」
アリス:「なに?」
敷島:「いや、“初音ミクの消失”に似てたような気がするんだが……」
エミリー:「さる有名な音楽家さんとのことですので、もしかしたら、その筋の方なのかもしれません」
敷島:「なるほど。そういうことか……」
北海道だからこそ、むしろ初音ミクという発想に敷島は口角を上げた。
それがこういう列車のオーディオに流れていることから、ミクの有名さに驚いたりもした。
ミクを売り出していたのは、敷島自身であるのだが……。
〔お待たせ致しました。まもなく7番線に、14時45分発、函館行き、特別急行“スーパー北斗”16号が入線致します。……〕
ディーゼルカーのアイドリング音が響くホームに、自動放送が響き渡る。
敷島:「あー、食った飲んだ飲んだ食った……」
アリス:「いい快気祝いだったわね」
敷島:「あれ、快気祝いかよ?」
アリス:「どうせ会社でもやってくれるんでしょ?」
敷島:「あー、そうか……。俺の快気祝いじゃなくて、俺がむしろ迷惑を掛けた……何というか、お詫び会にしたいくらいだな」
アリス:「立場上、快気祝いされる側なんだから、おとなしく受け取っておきなって」
敷島:「んー……」
そこへ列車が入線してきた。
どこかで整備してきたものなのか、折り返し運転ではなく、当駅始発である。
“ライラック”の789系0番台の先頭部分はJR北海道のコーポレートカラーである萌黄色だったが、それとよく似た先頭形状を持つキハ281系はコバルトブルーである。
これは噴火湾をイメージしたものとのこと。
JR北海道では単に281系と呼んでいるが、これだとJR西日本の電車281系と混同する為、一般にはキハ281系と呼ばれることが多い(他例では、721系というとJR北海道のそれとJR東日本のそれがある。両者とは全く設計が違うが、混同を避ける為、後から製造された東日本の方において頭にEを付ける)。
グリーン車の乗降ドアの横に車掌室へのドアがあり、そこに白い制服姿の車掌が乗り込むとドアが開いた。
敷島:「今度もちゃんと車掌が乗ってるな、うん。よし。これも黄泉の国行きではない」
アリス:「何言ってるの。夢の続きは寝てからにして」
敷島:「いや、アリス。本当に俺は、昔の埼京線の電車に乗ってだなぁ……」
アリス:「はいはい。見事なグッドエンディングだったわね」
敷島:「ったく、他人事だと思って……」
前の乗客に続いて乗り込むと、車掌室がオープンカウンターのようになっているのが目についた。
そこで車掌が忙しく発車の準備を行っている。
敷島:「今度はちょっと雰囲気が違うな」
“ライラック”の789系のグリーン席はレザーシートだったが、こちらはモケットである。
敷島:「変わった構造だな」
グリーン車は2人席に通路を挟んだ1人席が特徴の3列シートであり、“ライラック”とは違って1両まるごとグリーン車であるのだが、中央で2列席と1列席が左右逆になるという構造だった。
重心を均等にする為の対策なのだろうが……。
敷島:「こいつらのせいで、しばらくの間、重心が傾くだろうなぁ……」
敷島はエミリーとシンディを見て呟いた。
敷島:「まだお前ら、自重100キロ超えしたままだよな?」
エミリー:「私は130キロまで軽量化できました」
シンディ:「私は150キロ」
敷島:「何で20キロも違うんだ?見た目の体型は同じなのに」
シンディ:「私の方が、姉さんよりも、ジェットエンジンの航続距離が延びたからです」
シンディは自分の足を指さして言った。
敷島:「何でまた?」
シンディ:「いざとなったら、北海道までアリス博士を抱えて飛べるようにと……」
敷島:「ああ、そう……。DCJさんにも謝っておこう」
アリス:「御礼という発想は無いの!?」
[同日14:45.天候:晴 特急“スーパー北斗”16号3号車内]
尚、鋼鉄姉妹においては席順が変則的になっている。
具体的には敷島とアリスが仲良く2人席の4Cと4Dなのだが、エミリーとシンディは1人掛けの4Aと5Aである。
この姉妹は座席を向かい合わせにした。
考えてみると、この方が護衛になっているかもしれない。
アリス:「今度は仕事しないの?」
敷島:「150通くらいあったメールのチェックと、その返信だけで今日はいいだろう。それに、昼飯を思ったよりも食べた上、サッポロビールまで行っちゃったからな。少し寝てるよ」
列車は定刻通りに発車した。
新型車両ではあってもディーゼルカーなのだから、走り出す際に大きなアイドリング音がするはずだが、この車両においては微かに聞こえてくる程度だった。
敷島はグリーン車自慢の角度の深い座席を倒した。
アリス:「着いたら起こすよ。シンディの電気ショックで」
シンディ:「お任せください」
シンディはニヤッと笑った。
敷島:「普通に起こしてくれ!」
エミリー:「あ、思い出した。シンディ、前に借りて来た電気鞭返す」
シンディ:「姉さん、今頃……」
アリス:「エミリーにも電気鞭作ってあげようか?」
エミリー:「私ですか?」
アリス:「シンディとお揃いで新しいの作るよ?」
エミリー:「それではお願いしてよろしいですか?」
アリス:「ええ。タカオが浮気しそうになったら、それで引っ叩いていいからね」
エミリー:「はあ……」
シンディ:「博士。その役回りはむしろ私ですよ」
アリス:「あら、そう?」
Sぶりはどちらも変わらないとされているが、シンディの方が最近はSっ気が上になりつつある。
敷島:「何だか爆睡するのが怖くなったから、ラジオでも聴いてるよ」
グリーン車には、今や珍しくなったオーディオサービスがある。
航空機のそれのように、チューブ式のイヤホンを差して聴くタイプだ。
敷島:「あれ?ボーカロイドの歌だ」
敷島が起き上がった。
アリス:「ほんと?何チャンネル?」
敷島:「えーと……このチャンネルだ。普通にポップ系で流されるとは……」
アリス:「初音ミクの歌?」
敷島:「そうだな。俺が寝てる間に、新曲出したんだな」
エミリー:「夏に見合った曲です。井辺プロデューサーが、さる有名な音楽家さんに作曲を依頼できたそうです」
敷島:「井辺君もできる男だなぁ……。あれ?ここの旋律……」
アリス:「なに?」
敷島:「いや、“初音ミクの消失”に似てたような気がするんだが……」
エミリー:「さる有名な音楽家さんとのことですので、もしかしたら、その筋の方なのかもしれません」
敷島:「なるほど。そういうことか……」
北海道だからこそ、むしろ初音ミクという発想に敷島は口角を上げた。
それがこういう列車のオーディオに流れていることから、ミクの有名さに驚いたりもした。
ミクを売り出していたのは、敷島自身であるのだが……。