報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生の孤独な戦い」 5

2017-05-13 20:59:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[月日不明 時刻不明 天候:晴 東京中央学園上野高校・旧校舎(幻影)]

 校長室の壁の中にある隠し部屋。
 その中に置かれている1つの木箱。
 その上には鍵が置かれていた。

「鍵?何だろう?」

 

 それを取って調べてみると、その鍵にはタグが付いていた。
 そこに書かれていた字はかすれて読みにくかったが、辛うじて『昇降口』と書かれているのが分かった。

「やった!これで出られる!」

 鍵を手に取り、校長室の外に出ようとした時だった。

「!!!」

 開け放たれた校長室のドアの前の廊下を、スーッと通り過ぎていく1人の女がいた。
 黒いローブを羽織り、そのフードは深く被っているので顔までは分からない。
 だが、フードから覗いたボサボサの髪は金髪であることは分かった。

「……!?」

 女はこちらを見向きもせずに、昇降口の方に向かった。
 恐る恐る廊下を覗いてみる。
 しかし、長く広がる廊下には人影など全く無かった。
 気のせいだったのだろうか。

 意を決して廊下を昇降口まで走る。
 なるべく物音を立てないように気をつけるが、どうしても古い木の床がギィギィと鳴ってしまう。
 そして何とか昇降口の入口まで辿り着いた。
 鍵を刺す前、一応周囲を見渡してみたが、誰もいない。
 何かが近づけば物音が鳴って、それで気づくはずだった。
 鍵を開け、柔らかな日差しが差し込む外の世界へと飛び出した。

 ……はずだった。

 ゴッ……!

「ぎゃっ……!!」

 突然、後ろから固い物で頭を殴り付けられ、は倒れ込んだ。
 そして、朦朧とした意識の中、何とか自分を殴り付けた者を確認した。
 それは、あの黒いローブを身にまとった魔女だった。

「チェック・メイト……!!」

 いつの間にか背後に現れた魔女は前髪に隠れた目、赤く冷たく光る瞳を男に向けると魔法の杖の先で何度も男の頭を殴り付けた……。

[月日不明 時刻不明(朝方か夕方) 天候:晴 東京中央学園上野高校・旧校舎(幻影)]

 稲生:「はわわ……!」

 稲生は校長室内のテレビに食い入っていた。
 隠し部屋から見つけた別のビデオテープ、木箱の上に乗っていたものだが、それを見つけて視聴したものである。
 このビデオテープの中には、何とか謎解きを半分くらい進めて脱出しようとしたが、ゾーイと思しき魔女に背後を取られ、後頭部を殴り付けられて殺される男達の末路が記録されていた。
 他にも非常口の鍵を見つけたものの、そこから脱出しようとすると、音も無く背後から現れたゾーイに、やっぱり後頭部を殴られて殺された者もいた。

 稲生:「チェック・メイト……。ふふふ……。『復讐完了』か。マリアさんがまだ魔女だった頃の決め台詞だ……」

 最近のマリアは魔女らしき所を見せることは無くなり、『チェック・メイト(復讐完了)』の決め台詞も最近は聞かれなくなっている。
 今では普通の魔法使いといった感じになりつつある。
 稲生と出会ってからそうなったということを本人も認めていることから、稲生には色々な意味で注目が集まっているという。

 稲生:「参ったな。これってつまり、せっかく鍵を見つけても、ゾーイを何とかしないと後ろから襲われるということか……」

 それなら背中を取られないようにすれば良いのではないかと思うのだが、どうしてもドアを開ける時、一瞬背中を見せることになり、ゾーイはそれを目ざとく見つけて襲うようだ。

 稲生:「うーん……。何かいい方法は無いだろうか」

 試しにビデオテープを最後まで見たものの、それ以上のヒントは映っていなかった。
 いや、厳密にはあった。
 地下室の鍵が女子トイレの中にあるようだ。
 直近で確認したところ、まず最初に手に入れることができる鍵が地下室の鍵らしい。
 稲生は女子トイレに向かった。

 稲生:「うん、あった」

 女子トイレの洗面台の上に、普通に置かれていた。
 タグを見ると、ちゃんと『地下室』と書いてある。
 これを持って、階段を地下1階まで下りた。
 鉄扉をその手に入れた鍵で開ける。
 かび臭い臭いが稲生の鼻を襲った。
 色々な資材が置かれている倉庫。
 その奥にもドアがある。

 稲生:「ん!?」

 そのドアを開けようとしたが、その向こう側から何か声が聞こえた。
 人間の話し声ではない。
 何か、動物の唸り声のような……?
 鍵は掛かっていなかった。

 稲生:「…………」

 慎重にドアを開けると、こちらも埃被った資材などが置かれていた。

 稲生:「あれは……!?」

 古い棚の上に赤いバルブハンドルを見つけた。

 稲生:「あれでトイレの水が流せるかもしれないな」

 稲生がバルブハンドルを取ろうとした時だった。

 化け物:「シャアアアアアッ!」
 稲生:「わっ!?」

 旧校舎で魔道師達に襲ってきた黒い化け物が1匹、天井のダクトから現れた。

 化け物:「シャアアアアア!!」

 今の稲生には戦う術が無い。

 稲生:「くっ……!!」

 稲生はバルブハンドルを取って、急いで部屋の外に出ようとした。
 バルブハンドルが他の資材に当たり、その衝撃で鉄パイプなどが倒れて化け物に当たる。
 それで化け物が仰け反ったら、今度はキャビネットに当たって、それが化け物に倒れて来た。

 稲生:「今だ!」

 稲生はドアを開けようとした。

 稲生:「あれ!?」

 だが、ドアが開かない!
 鍵は掛かっていない。
 鍵は内鍵になっていて、こちら側から開け閉めできるのだが、もちろん稲生は閉めていないし、今実際見ても閉まっていない。
 どういうことだろう?

 稲生:「えいっ!」

 どうやら、向こう側から押さえつけられているらしい。
 化け物はあくまで一時的な足止めをしているだけで、倒したわけではない。
 すぐに自分を下敷きにしたキャビネットを跳ね上げ、稲生の所に向かってこようとする。
 稲生が力任せに開けようとすると、向こうの部屋に置かれている資材がドアの前に置かれ、それで開扉を妨害しているようだった。
 そして、少し開いた隙間からは……。

 ゾーイ:「HAHAHAHA...You must die.」(ハハハハ……。死んじゃえ)

 黒いローブのフードを深く被り、更に金色の前髪で右目は隠れているが、覗いた左目で稲生を見据えながら不気味な笑みを浮かべたゾーイがいた。

 稲生:「くそっ!」

 稲生はエレーナがそうしていたように、ドアを蹴破るようにして何とかこじ開けた。
 そして、すぐに部屋から飛び出す。
 化け物もすぐ後ろに迫っていたが、階段室のドアを閉めて地下室に閉じ込めた。

 稲生:「助かった……!」

 ドアのすぐ向こう側では化け物が悔しそうに喚いてドアを叩いていたが、トゲトゲの棒状に変化した手の形状からして、ドアを開けることはできないようだ。
 稲生はその場にへたり込んだが、すぐに立ち上がった。

 稲生:「こうしてる場合じゃない。次に進もう」

 稲生は自分を奮い立たせると、階段を駆け登った。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする