報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生の孤独な戦い」

2017-05-04 21:38:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月3日03:00.天候:晴 東京中央学園上野高校・旧校舎]

 稲生は旧校舎2階でダンテ一門の魔女と思われる者に遭遇した。
 ここで何か魔法の儀式を行っていたようだが、それがどうして稲生の母校で行っていたのかは分からない。
 ここが稲生の母校だということで、何か狼狽しているようだが……。

 稲生:「それで、あなたはここで何をしていたんですか?」

 稲生は魔女には必要以上に接近しないで聞いた。
 ダンテ一門の魔女は往々にして男嫌いであることが多いからだ。

 魔女:「ちょっとね……魔法の実験を……」
 稲生:「こんな所で?」
 魔女:「ええ。イリーナに連れて来られたということは、ここがどういう所かは知ってるわね?」
 稲生:「はい。魔界の入口が開いたそうですね。本当はそこから魔界に向かうはずだったんですけど、ちょっとアクシデントが起きてしまって……」
 魔女:「そうなの。大変ね」
 稲生:「そうなんです。どうして、こんな所で魔法の実験を行っていたんですか?」

 するとその魔女は、口をへの字に曲げた。
 フードを深く被っているので顔はよく見えないが、口元は見えた。
 稲生に聞かれて、嫌そうな顔をしているのが分かった。

 稲生:「あ、いえ!無理にとは言いません!」
 魔女:「……まあ、いいわ。私もまだまだ未熟者。自分の魔力にプラスして、魔界から流れて来る瘴気を利用しているのよ」
 稲生:「えっ???」
 魔女:「魔界から流れて来る瘴気を利用すると、実験が上手く行く。だから魔界の入口に近いここでやっているってわけ。分かる?」
 稲生:「そう、なんですか。それはとんだお邪魔をしてしまいましたね」
 魔女:「あなたがただの人間だったら……邪魔した罪とこれを見てしまった罪を償ってもらう為に、ここから生きて出すつもりは無かった。というか、実際そうしたい。けど、あなたがイリーナの弟子だとしたらそれはできない」

 門内破和の罪で、この魔女が処分されてしまうからだ。

 稲生:「分かりました。すぐ出て行きます。邪魔をして申し訳ありませんでした。あなたのこの実験のことも内緒にしておきます」
 魔女:「信じられないけど、信じるしか無いね」
 稲生:「それでは失礼します」

 稲生は教室のドアを開けた。

 魔女:「あっ……!」

 魔女は教室の外の異変に気付いた。
 だが、稲生はそれに気づかずに外に出てしまった。

 魔女:「……!まあ、しょうがないか。弟子とはぐれるイリーナが悪いんだもの」

 魔女は再び魔法陣の中央に差しているローソクに火を点けた。

 ???:「助けてくれ……!もう……しないから……」

 魔法陣の中から悲痛な男の叫び声が聞こえて来た。
 右手だけを、水面に出すような感じで出している。

 魔女:「……夜道で私に襲い掛かっておきながら、それか。私が人間のフリをしていた時、助けてくれと言ってもやめなかったくせに……!」
 ???:「うぎゃあああああああああっ!!」
 魔女:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。罪深き者に死の制裁を。ズァ・キ!」

[同日03:15.天候:曇 同学園旧校舎内]

 稲生:「な、何だこれ?」

 稲生は廊下の異変に気付いた。
 まずは、廊下が異様に暗いことだ。
 それは非常口誘導灯や火災報知器の赤ランプが消えているせいで、ほぼ真っ暗であることが分かった。
 放置された旧校舎なら、それは当たり前だっただろう。
 だが、今は一応教育資料館として最低限の改築はされており、通電もしている為、それらは点灯しているはずなのだ。
 停電してしまったのだろうか。
 異変は、もう1つあった。
 それは、廊下の曲がり角を曲がっても、また同じ廊下が続いていることだ。

 稲生:「し、しまった!無限廊下だ!」

 さっきの魔女のいる教室に戻ろうとしても辿り着けない。
 稲生はこの旧校舎に纏わる無限廊下の話を思い出した。
 恐らくその話の当事者達は、魔界の穴から魔界に行ってしまったのだろう。
 そして、魔道師やアルカディア政府関係者と違って、こちらの世界に戻って来る術を持たない。
 で、稲生のようにたった1人だけ取り残された男子生徒がいたのだが、彼もまた行方不明のままだと……。

 稲生:「くっ……!」

 いつの間にか稲生の横に、併走する影があった。
 それは半ば白骨化した男、歯をむき出して走っていた。
 その目が稲生を見る。
 それが誰だか、稲生は知っていた。
 旧校舎に取り残され、この無限廊下に閉じ込められた男子生徒だ。
 長い年月を死んで骨になってまで走り続けてきたのだ。
 彼の目は、何となく嬉しそうだった。
 稲生という仲間ができたと思っているのだ。
 このままでは稲生と彼は、永久に続くこの廊下を、ひたすら走り続けるのだろう。
 歪んだ世界の中を。

 稲生:「これはもしかして……!?」

 新校舎の無限廊下と言い、旧校舎の無限廊下といい、これは魔界の穴による影響ではないかと稲生は気付いた。
 魔界の穴が開く時、空間に歪みが生じる。
 その歪みに迷い込んだ者が、魔界に行けずにこの無限廊下をさ迷っているのではないかと思った。

 稲生:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。光よ、この闇に包まれた無限廊下に出口を示せ」

 稲生は魔法の杖を突き出した。
 だが、何も起こらない。

 稲生:「やはり、魔法名を言わないとダメか。魔法名、何だったっけなぁ……?」

 稲生は首を傾げた。
 すると、廊下の向こうから何かが近づいて来た。

 稲生:「ん?……わああああっ!」

 それは、腐乱死体と化した別の男子生徒。
 この無限廊下に閉じ込められた者は、1人だけではなかったのだ。

 稲生:「メラ!ギラ!バギ!イオ!」

 錯乱した稲生は、メチャクチャに攻撃魔法を放った。
 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。
 半白骨死体と腐乱死体に命中して、燃え上がった。
 そして、トイレの明かりが点灯した。
 通電している。
 どうして誰もいないはずの旧校舎で、トイレの電気が点いているのかの疑問は持たなかった。
 ただ、あそこに行けば無限廊下から脱出できると思った稲生はそこへ向かったのである。

 旧校舎のトイレはほとんど手付かずの状態であり、実は使用禁止のままである。
 なので未だに汲み取り式トイレのままだ。
 照明も新校舎のトイレよりも暗く、薄暗い蛍光灯の照明があるだけだ。
 それが煌々と輝いていた。

 稲生:「!?」

 男子トイレの壁には血文字で大きく、『3階へ行け』と書かれていた。

 稲生:「これもまた罠なんだろうなぁ……」

 稲生は泣きたくなってきた。
 だが恐らく、ここで逃げようとしたら、それもそれで死亡フラグのような気がしてしょうがなかった。
 さっきの魔女に応援を願おうとも思ったが、さっきの無限廊下を通らないといけないだろうし、そもそも頼んでも来てくれないだろう。

 稲生:「行くしかないのか……」

 稲生は絶望的な思いでトイレを出た。
 そして、近くの階段から3階へ向かったのだった。

 魔女:「あ、あの男……無茶しやがる……」

 件の魔女もまた無限廊下のせいで教室から出れなくなっていた。
 ただ、それを強制的に消す方法は知っていたので、魔法の実験が終わったらそれをやろうとは思っていた。
 結果的に稲生を助けることになるのだが、それでイリーナに恩を売っておいて損は無いだろうという打算もあった。
 だが、稲生はC級魔法の連発で強制的に無限廊下の呪いを破ってしまった。
 実は魔界の穴によって歪んだ空間に閉じ込められるのも去ることながら、閉じ込められた者の無念や怨念も相乗効果となってしまうのだった。
 稲生はそんな被害者達を魔法で滅してしまった。
 だが、逆にそれで無限廊下の呪いは弱まり、結果的に脱出に成功してしまったのだ。

 魔女:「イリーナも、面白いヤツを入れたねぇ……」

 魔女は実験の後片付けをすると、瞬間移動魔法でさっさと自分だけこの旧校舎から脱出した。
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