[4月11日07:00.天候:晴 魔王城・新館]
新館内にあるゲストルームエリア。
一国の統治者の居城に泊まれる立場にある者が過ごす部屋ということもあって、内装はとても豪華だ。
ゲストルームの中だけで更に部屋が分かれているものだから、稲生だけ別の部屋ということもなく、同じゲストルームに泊まった。
さすがに寝る場所だけは別だが。
稲生:「うう……ん……」
久しぶりに自分のスマホのアラームで起きたような気がする。
稲生:「昨夜飲み過ぎた……」
久しぶりの酒についつい痛飲してしまったきらいがある。
周りの雰囲気にのまれて、というのもあるが、それで一瞬、稲生は大学時代の合コンを思い出してしまった。
顔を洗う為に1人で使わせてもらっているベッドルームを出る。
もちろん、ベッドルームは他にもいくつかあり、魔道師達はそこで寝ていた。
エレーナ:「おっ、稲生氏。おはよう」
稲生:「おはよう」
洗面台はエレーナが先に使っていた。
エレーナ:「ちょっと待っててくれ。今終わる」
稲生:「あ、うん。いいよ。……マリアさんは?」
エレーナ:「マリアンナはそっちでシャワー使ってる。見る?」
稲生:「いや、いいよ!」
エレーナ:「稲生氏が見たところで、今さらキレないと思うが?」
稲生:「後が怖いからやめておく」
エレーナ:「それ、変態理事に聞かせてやりたいね」
稲生:「全く。先生も一緒に入ってるの?」
エレーナ:「いや、見てないね。多分、まだ寝てるんじゃない?」
稲生:「『あと5分』を1時間以上繰り返すような人だからなぁ……」
稲生は首を傾げた。
エレーナ:「朝食は8時からだぞ?どうする?イリーナ先生の希望通りにしたら、夕方になっちゃうよ?」
稲生:「それは困る。とはいえ、男の僕が女性の寝室に起こしに行くのもなぁ……」
エレーナ:「いいんじゃない?師匠を弟子が起こしに行くだけの話なんだし、もし素っ裸で寝ていたとしても、それはそもそも男の弟子に起こされる方が悪い。だったら、その前に起きろって話」
稲生:「エレーナも、なかなかストイックだねぇ……」
クロ:「ニャ〜ン」
エレーナの使い魔の黒猫がイリーナの寝ている部屋に入ろうとしている。
エレーナ:「おっ、どうやらクロが起こしてくれるみたいだぞ?」
稲生:「さすがに他人の使い魔に起こされるというのもアレじゃない?」
エレーナ:「うちのポーリン先生はともかく、イリーナ先生はあまりそういうの気にしない人だろ?」
稲生:「そうかもしれないけど、できれば機嫌を損ねない方がいい。分かった分かった。僕が起こしに行く」
クロ:「ニャ〜」
稲生:「クロ、いいから僕が行くよ」
だが、クロはドアノブに飛び掛かると、それに掴まって器用にドアを開けた。
稲生:「クロ、いいから!」
稲生が薄暗い寝室の中に入ると、確かにイリーナが仲良く2人で寝ていた。
稲生:「何だ、やっぱり寝てるじゃないの、仲良く2人で。しょうがない。マリアさんがシャワーから戻って来たら、マリアさんにお願いし……って、ええーっ!?」
稲生は慌てて再びイリーナのベッドに振り向いた。
イリーナと仲良く手を繋いで寝ている男が1人。
稲生:「横田理事!?何なんだ、これは!?」
稲生の驚愕の声にイリーナが目を覚ました。
イリーナ:「んん……?あれ?横田君、何やってんの?」
横田は大きな欠伸をした。
横田:「あぁふ……横田です。昨晩の宮中晩餐会における大興奮は、未だ冷めやらぬものであります」
エレーナ:「横田理事がイリーナ先生に夜這い!?」
エレーナが鼻息を荒くしている。
横田:「私も何が何だかさっぱり……。皆様の酔った勢いに気圧され、私もついつい痛飲させて頂いた記憶まではあるのですが……」
稲生:「イリーナ先生から手を放せ!変態!」
稲生、日本の警察官や警備員が持つような伸縮性の警棒によく似た形の魔法のステッキを出して横田に振るった。
横田:「い、稲生さん!落ち着いて!」
稲生:「落ち着いてられるか!さっさと出てけ!」
稲生がバシバシと横田を叩き出す。
だが、横田がイリーナとマリアの寝室を飛び出すと、更なる苦難が待っていた。
マリア:「師匠を手籠めに掛けようとするとはいい度胸だ……!」
ゴゴゴゴと魔法のオーラを全身から出して立ちはだかるマリアがいた。
横田:「あ、嗚呼……大いなる勘違いの予感がしますが……?」
エレーナ:「で、言い訳は何?」
横田:「これは推察ではございますが、きっと酔っ払って前後不覚になった私、仮眠室に入ろうとして部屋を間違えたのでございましょう」
エレーナ:「どこをどう間違えたら、使用人仮眠室とVIPルームを間違えるのやら……」
エレーナは呆れた。
横田:「お、おお待ちを!ぼ、ぼぼ、暴力はいけません!は、は、話し合おうじゃありませんか!」
直後、魔王城内に魔法の爆発音と1人の大絶叫がこだましたのは言うまでも無い。
[4月28日05:30.天候:晴 神奈川県相模原市緑区(旧・藤野町) タチアナの家]
午前10時には魔王城新館をあとにし、旧館の魔法陣から人間界に戻った。
ルートが決まっているのか何だか分からないが、再びタチアナの家に戻って来た。
稲生:「うわっ、3週間近く経ってますよ?」
イリーナ:「魔界と人間界とでは次元から時間から違うからね。私の力でも、このくらいの誤差がせいぜいだね」
マリア:「ユウタ、浦島太郎とやらは何の誤差補正もしなかったから、数百年も経ってしまったらしいぞ」
稲生:(竜宮城は魔界にあったのか?)
尚、エレーナはポーリンの仕事を手伝うことになったらしく、今は同行していない。
イリーナ:「まだ朝早くて皆寝てると思うから、静かにね」
稲生:「はい。って、朝5時半って……。さっき、朝食食べたばかりなのに……」
マリア:「ランチを少し早めに取ればいいだろう」
稲生:「それもそうですね」
すると魔法陣の部屋に、イリーナへの伝言が置かれていた。
何でも今、都内のホテルにダンテが宿泊しているらしい。
稲生:「大師匠様がまた日本に来られてるんですか」
イリーナ:「日本でも何かあるのかねぇ……。よし。御挨拶に行こう」
稲生:「はい。……って、先生!瞬間移動魔法使わないんですか?」
イリーナ:「『魔法を節約』だよ」
マリア:(魔法を使うのを面倒臭がる魔法使いって……)
稲生:(でもそうなると、あの藤野駅までキッツイ坂をまた……か)
3人の魔道師達は静かにタチアナの店を出ると、朝日が昇る直前の道を歩いた。
新館内にあるゲストルームエリア。
一国の統治者の居城に泊まれる立場にある者が過ごす部屋ということもあって、内装はとても豪華だ。
ゲストルームの中だけで更に部屋が分かれているものだから、稲生だけ別の部屋ということもなく、同じゲストルームに泊まった。
さすがに寝る場所だけは別だが。
稲生:「うう……ん……」
久しぶりに自分のスマホのアラームで起きたような気がする。
稲生:「昨夜飲み過ぎた……」
久しぶりの酒についつい痛飲してしまったきらいがある。
周りの雰囲気にのまれて、というのもあるが、それで一瞬、稲生は大学時代の合コンを思い出してしまった。
顔を洗う為に1人で使わせてもらっているベッドルームを出る。
もちろん、ベッドルームは他にもいくつかあり、魔道師達はそこで寝ていた。
エレーナ:「おっ、稲生氏。おはよう」
稲生:「おはよう」
洗面台はエレーナが先に使っていた。
エレーナ:「ちょっと待っててくれ。今終わる」
稲生:「あ、うん。いいよ。……マリアさんは?」
エレーナ:「マリアンナはそっちでシャワー使ってる。見る?」
稲生:「いや、いいよ!」
エレーナ:「稲生氏が見たところで、今さらキレないと思うが?」
稲生:「後が怖いからやめておく」
エレーナ:「それ、変態理事に聞かせてやりたいね」
稲生:「全く。先生も一緒に入ってるの?」
エレーナ:「いや、見てないね。多分、まだ寝てるんじゃない?」
稲生:「『あと5分』を1時間以上繰り返すような人だからなぁ……」
稲生は首を傾げた。
エレーナ:「朝食は8時からだぞ?どうする?イリーナ先生の希望通りにしたら、夕方になっちゃうよ?」
稲生:「それは困る。とはいえ、男の僕が女性の寝室に起こしに行くのもなぁ……」
エレーナ:「いいんじゃない?師匠を弟子が起こしに行くだけの話なんだし、もし素っ裸で寝ていたとしても、それはそもそも男の弟子に起こされる方が悪い。だったら、その前に起きろって話」
稲生:「エレーナも、なかなかストイックだねぇ……」
クロ:「ニャ〜ン」
エレーナの使い魔の黒猫がイリーナの寝ている部屋に入ろうとしている。
エレーナ:「おっ、どうやらクロが起こしてくれるみたいだぞ?」
稲生:「さすがに他人の使い魔に起こされるというのもアレじゃない?」
エレーナ:「うちのポーリン先生はともかく、イリーナ先生はあまりそういうの気にしない人だろ?」
稲生:「そうかもしれないけど、できれば機嫌を損ねない方がいい。分かった分かった。僕が起こしに行く」
クロ:「ニャ〜」
稲生:「クロ、いいから僕が行くよ」
だが、クロはドアノブに飛び掛かると、それに掴まって器用にドアを開けた。
稲生:「クロ、いいから!」
稲生が薄暗い寝室の中に入ると、確かにイリーナが仲良く2人で寝ていた。
稲生:「何だ、やっぱり寝てるじゃないの、仲良く2人で。しょうがない。マリアさんがシャワーから戻って来たら、マリアさんにお願いし……って、ええーっ!?」
稲生は慌てて再びイリーナのベッドに振り向いた。
イリーナと仲良く手を繋いで寝ている男が1人。
稲生:「横田理事!?何なんだ、これは!?」
稲生の驚愕の声にイリーナが目を覚ました。
イリーナ:「んん……?あれ?横田君、何やってんの?」
横田は大きな欠伸をした。
横田:「あぁふ……横田です。昨晩の宮中晩餐会における大興奮は、未だ冷めやらぬものであります」
エレーナ:「横田理事がイリーナ先生に夜這い!?」
エレーナが鼻息を荒くしている。
横田:「私も何が何だかさっぱり……。皆様の酔った勢いに気圧され、私もついつい痛飲させて頂いた記憶まではあるのですが……」
稲生:「イリーナ先生から手を放せ!変態!」
稲生、日本の警察官や警備員が持つような伸縮性の警棒によく似た形の魔法のステッキを出して横田に振るった。
横田:「い、稲生さん!落ち着いて!」
稲生:「落ち着いてられるか!さっさと出てけ!」
稲生がバシバシと横田を叩き出す。
だが、横田がイリーナとマリアの寝室を飛び出すと、更なる苦難が待っていた。
マリア:「師匠を手籠めに掛けようとするとはいい度胸だ……!」
ゴゴゴゴと魔法のオーラを全身から出して立ちはだかるマリアがいた。
横田:「あ、嗚呼……大いなる勘違いの予感がしますが……?」
エレーナ:「で、言い訳は何?」
横田:「これは推察ではございますが、きっと酔っ払って前後不覚になった私、仮眠室に入ろうとして部屋を間違えたのでございましょう」
エレーナ:「どこをどう間違えたら、使用人仮眠室とVIPルームを間違えるのやら……」
エレーナは呆れた。
横田:「お、おお待ちを!ぼ、ぼぼ、暴力はいけません!は、は、話し合おうじゃありませんか!」
直後、魔王城内に魔法の爆発音と1人の大絶叫がこだましたのは言うまでも無い。
[4月28日05:30.天候:晴 神奈川県相模原市緑区(旧・藤野町) タチアナの家]
午前10時には魔王城新館をあとにし、旧館の魔法陣から人間界に戻った。
ルートが決まっているのか何だか分からないが、再びタチアナの家に戻って来た。
稲生:「うわっ、3週間近く経ってますよ?」
イリーナ:「魔界と人間界とでは次元から時間から違うからね。私の力でも、このくらいの誤差がせいぜいだね」
マリア:「ユウタ、浦島太郎とやらは何の誤差補正もしなかったから、数百年も経ってしまったらしいぞ」
稲生:(竜宮城は魔界にあったのか?)
尚、エレーナはポーリンの仕事を手伝うことになったらしく、今は同行していない。
イリーナ:「まだ朝早くて皆寝てると思うから、静かにね」
稲生:「はい。って、朝5時半って……。さっき、朝食食べたばかりなのに……」
マリア:「ランチを少し早めに取ればいいだろう」
稲生:「それもそうですね」
すると魔法陣の部屋に、イリーナへの伝言が置かれていた。
何でも今、都内のホテルにダンテが宿泊しているらしい。
稲生:「大師匠様がまた日本に来られてるんですか」
イリーナ:「日本でも何かあるのかねぇ……。よし。御挨拶に行こう」
稲生:「はい。……って、先生!瞬間移動魔法使わないんですか?」
イリーナ:「『魔法を節約』だよ」
マリア:(魔法を使うのを面倒臭がる魔法使いって……)
稲生:(でもそうなると、あの藤野駅までキッツイ坂をまた……か)
3人の魔道師達は静かにタチアナの店を出ると、朝日が昇る直前の道を歩いた。