報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「北海道紀行」 2

2017-05-29 23:48:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月2日05:34〜05:46.天候:曇 新木場駅りんかい線ホーム→JR京葉線ホーム]

 新木場駅りんかい線ホームに新木場行きの始発電車が到着する。

〔しんきば、新木場、終点です。JR線、東京メトロ有楽町線はお乗り換えです。1番線の電車は折り返し、各駅停車、大崎行きです〕

 ここまでの乗客が降りて行くが、この時点ではまだそんなに乗客は多くない。
 りんかい線の名に相応しく、電車を降りると潮の香りがするような気がする。
 また、風も強い。
 どちらかというと、首都高辺りから吹いてくる風が強いような気がする。
 エミリーは強い風でスリットの深いスカートが捲れ上がるのも気にせず、片手で大きなキャリーバッグを持ち、階段を上った。

 敷島:「こういう時、力持ちのロイドがいてくれると助かるな」
 エミリー:「ありがとうございます。何でもお申し付けください」

 本来なら、両手でやっとこさ抱えて登るような大型のケースをエミリーは片手で軽々と運んだ。
 改札口を出て、右手に向かう。
 ほとんどお隣さんと言っても差し支えない場所にJRの改札口があり、そこから京葉線乗り場に向かった。
 新木場駅は二層構造になっており、下層部分を有楽町線とりんかい線、上層部分を京葉線が使用している。

 敷島:「久しぶりの早起きだから眠い」

 敷島はホームで電車を待っているまでの間、大きな欠伸をした。

 エミリー:「新幹線の中でお休みになってはいかがでしょうか?」
 敷島:「そうだねぇ……」
 エミリー:「移動中はほぼ何もできない状態です。本日、会社の方は四季エンタープライズの矢沢専務にお願いしていますし、実際のことは北海道に到着してからになると思います」
 敷島:「まあ、そうだな」

 敷島が頷いていると、ようやく電車の接近時間になった。
 今日は今のところ、京葉線などの千葉方面のJR線には大きな遅れが出ているような情報は出ていない。

〔まもなく2番線に、各駅停車、東京行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は、10両です。次は、潮見に止まります〕

 ワインレッドの帯を巻いた電車がやってくる。
 ヘッドライトのHIDランプが眩しく光る。
 因みにエミリーの左目(パーツ交換や点検などにより右目に変更されることもある)に仕掛けられたサーチライトはLEDになっている。
 再び電車が巻き起こす風と、折からの海風でエミリーのスカートが靡くが本人は全然気にしていない。

〔しんきば、新木場。ご乗車、ありがとうございます。次は、潮見に止まります〕

 早朝の電車ながら車内はそこそこ賑わっていたが、新木場駅でぞろぞろと降りて来た。
 上り電車よりも下り電車目的の乗客が多いのは、偏に舞浜駅までが目的地の者達だろう。
 敷島達はそんな乗客達を尻目に、先頭車両に乗り込んだ。
 運転席の後ろに立つ。
 ホームで流れる発車メロディは、特段珍しいものではない。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 先ほどのりんかい線の電車と似たチャイムが3回鳴ってドアが閉まる。
 ここから東京駅までは、ほんの10分ほどだ。

〔この電車は京葉線、各駅停車、東京行きです。次は、潮見です〕

 敷島:「ボカロ達はちゃんと東京駅に向かってるかな?」
 エミリー:「御心配要りません。ちゃんと向かっております。鏡音リンだけが不規則な動きをしておりますが……」
 敷島:「それってつまり……?」

 エミリーが左目のサーチライトを一瞬光らせて答えた。

 エミリー:「はしゃぎ回っているということですね。後で、叩き聞かせておきます」
 敷島:「いや、言い聞かせてくれればいい」
 エミリー:「ゲンコツでも、ビンタでも、お尻ペンペンでも、社長のお好きな刑を言い渡してください」
 敷島:「よし。それなら、鞭打ちの刑だw」
 エミリー:「かしこまりました。あいにくですが今、電気鞭はシンディが持っていますので、シンディと合流するまでお待ちください」

 今、エミリーが巻いている腰のベルトは普通のベルトだが、同じ服装をしているシンディの場合、腰のベルトは実は電気鞭になっていたりする。

 敷島:「冗談だよ。とにかく、体罰を普通にするな。リンには言い聞かせてくれればいいって」
 エミリー:「社長がそう仰るのでしたら、そうします」

 エミリーは残念そうに頷いた。
 マルチタイプは往々にしてドSになるような設計になっているようである。

 エミリー:「社長、9号機のデイジーはいつ再稼働されますか?」
 敷島:「買い手が付くまでは難しいだろうな。ただ、何しろ孝之亟の爺さんが100%好みで設計した為に、なかなか万人受けしなくてなぁ……」

 マルチタイプ後継機でありながら、その性能を一介のメイドロイドにまで落としたというのは大きなマイナスである。
 しかしまたマルチタイプ規格の性能にするには、公安委員会の許可を取り付けなくてはならない。
 エミリーやシンディのKR団との戦いや、人間を守る為の行動が、却ってお役所関係からは危険視されてしまったのが大きい。

 敷島:「とにかく、買い手が付くまでは会社の倉庫で寝ててもらうしかない」
 エミリー:「せっかく作られたのに、マスターがいないとは可哀想です」
 敷島:「何とか買い手が付くように、俺達も売り込んでみるさ」

 稼働していなくても、維持費が掛かってしまうのがロイドだ。
 また、処分するにしても、それはそれで大きな費用が掛かってしまう。
 敷島が後期型シンディの再稼働に最終的に賛成したのは、そこが大きな理由だ。
 とはいえさすがに、バージョン・シリーズなどが暴れ回っていた中、いきなり現れたシンディにはさすがにびっくりしたが。

 エミリー:「ありがとうございます」

 彼女達のサーチライトは本来、両目に設置することが可能だ。
 しかし今はLEDだけでも十分明るい為、片目だけで良いということになった。
 鉄腕アトムは両目にサーチライトを備え、両目点灯しているが、実際は片目だけで十分足りる。
 そして何より、いくら省電力のLEDとはいえ、両目を点灯させるとバッテリーの消費が大きくなるからというのも理由だ。
 余った片目はカメラを仕掛け、今の視点を常時録画できるようにしている。
 何だかんだ言って、芸は細かい。

 尚、これから電車は地下トンネルを進むことになるが、トンネル内などの暗い所では、彼女らの瞳がうっすらと光っているのが分かる。
 これは電源ランプが人間でいう眼球部分の奥にある為、それがレンズを通して鈍い光として出てしまっているのが理由。
 要はそれでロイドがちゃんと電源が入っているかどうか判断が付くわけであるが、知らない人間が見たら不気味に見えるかもしれない。

 敷島:「今日は平日だから、もっと時間経てば満員電車になるぞ。痴漢が出るくらいの」
 エミリー:「社長、私のお尻でよろしかったらどうぞ触ってください。あ、オッパイもモミモミします?」
 敷島:「お前は痴女か!」
 エミリー:「とんでもない。私は敷島さんの忠実な秘書であり、メイドであり、性奴隷です」
 敷島:「最後だけ違う!」
 
コメント
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