報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「中央本線と中央快速線」

2017-05-22 21:27:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月28日06:13.天候:晴 JR高尾駅]

〔まもなく高尾、高尾。お出口は、左側です。京王線は、お乗り換えです〕

 稲生達は朝早くから電車に乗り込んだ。
 早朝であっても東京駅まで向かう特別快速は賑わっていて、稲生達は着席することができなかった。

〔「2番線に到着致します。お出口は、左側です。この駅から電車のドアが自動で開きます。ドア付近にお立ちのお客様は、開くドアにご注意ください。中央本線普通列車で参りましたが、高尾駅より特別快速となります。立川までの各駅と、国分寺、三鷹、中野、新宿、四ツ谷、御茶ノ水、神田、終点東京の順に止まります。お乗り換えのご案内です。この電車の後に発車致します、特急“成田エクスプレス”7号、成田空港行きは1番線から6時22分の発車です。……」〕

 稲生:「“成田エクスプレス”かぁ……」

 稲生はふと何かを考えた。

 稲生:「この駅で乗り換えます。多分このまま行っても、先生に日本の通勤ラッシュを体験して頂くことになると思いますので」
 イリーナ:「あたしゃ別に構わないよ?」
 稲生:「いえ。まかり間違ってマリアさんが痴漢に遭ったら、中央快速線が1週間くらい全面ストップになる事態が発生すると思います」

 稲生の脳裏に銀座などで配られる新聞の号外が浮かんだ。
 『朝ラッシュの中央線で爆弾テロ!?』『無残に焼け焦げた電車』『死傷者数百名か!?』『車内は阿鼻叫喚の地獄絵図……』
 という大見出しまで想像した。

 マリア:「私はテロリストか!」
 イリーナ:「なるほど……」
 マリア:「何が『なるほど』ですか!」
 稲生:「まあまあ。やっぱり日本の鉄道の平和の為、乗り換えましょう」

 電車が高尾駅のホームに到着する。
 やっぱり降りるのは稲生達同様、立っている乗客だけのようだ。

 稲生:「ちょっとあの“成田エクスプレス”に空席が無いかどうか確認してきます」
 イリーナ:「あいよ」
 マリア:「見たところ、空席はありそうだけど……」
 イリーナ:「確か、全席指定でしょ?事前予約の」

 稲生は停車している“成田エクスプレス”に乗り込み、車掌と何か話していたが、すぐに降りて来た。

 稲生:「すいません、やっぱりダメでした」
 イリーナ:「満席だって?」
 稲生:「いえ。そもそも運賃制度的に、東京駅で途中下車できないそうです」
 イリーナ:「そういうことなの」
 稲生:「もう1つの案があるので、ちょっと待っててください」
 イリーナ:「お手並み拝見と行こうかね」

 因みに稲生のマニアックな手法などしなくても、中央快速線(中央線快速電車)は高尾駅から当駅始発電車がバンバン出ているので、それを狙って乗れば着席可である。

 稲生:(マリアさんとだったら、むしろ満員電車で密着したいところだけど、VIP並みの先生が一緒だからなぁ……)

 で、稲生は何しに行ったのかというと……。

[同日06:35.天候:晴 JR高尾駅]

〔おはようございます。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。3番線に停車中の電車は、6時40分発、“中央ライナー”4号、東京行きです。……〕

 稲生:「1度乗ってみたかったんです、“中央ライナー”。でもまあ、既に何度か乗ったことのある“あずさ”の車両ですが」
 イリーナ:「これならゆっくり寝れるねぃ……あふ……」

 因みにイリーナが乗ることにかこつけてグリーン券を買って来た稲生。
 もちろん、この費用はイリーナ持ちだ。
 弟子達のすぐ前に座るイリーナは、グイッと座席を倒すとフードを被って寝入る体勢に入った。
 グリーン車も満席になったらしく、さすがにイリーナの隣にもスーツ姿の通勤客が乗って来る。
 しかしイリーナがのんきに寝ているということは、何の害も無いのだろう。

〔「ご案内致します。この電車は6時40分発、中央線“中央ライナー”4号、東京行きです。停車駅は八王子、立川、新宿、終点東京の順です。ご利用の際は乗車券、回数券、定期券の他、普通車はライナー券、グリーン車はグリーン券が必要です。ライナー券またはグリーン券をお買い求めの上、指定の席にお掛けください。……」〕

 マリアはテーブルの上に置いたペットボトル入りの紅茶を飲んだ。

 稲生:(グリーン車は広くていいけど、マリアさんとくっつけないなぁ……)

 いっそのこと、帰りは高速バスにしようか考えているが、最近は高速バスも座席が広くなっている件。
 以前は気を使って、イリーナはグリーン車、稲生とマリアは普通車という風にしていたこともある。
 が、肝心のイリーナがそういうのを嫌っていた。
 因みにアナスタシア組は、常に車で移動することが多い。
 アナスタシア専用車まであるが、黒塗りの最新式のトヨタ・クラウンという件。
 ロシア人だが、トヨタ車が好きなのだろうか。
 恐らくそうだろう。
 多人数移動用に、同じく黒塗りのアルファードもあるくらいだ。

 そんなことを考えている間に発車の時間になり、静かに電車が発車した。
 車内チャイムが鳴って、男声の自動放送が流れる。
 それはJR東日本の新幹線と同じ声優であるが、JR北海道のと違って、それなりに抑揚のある声だ。
 その後で車掌の肉声放送があり、そこで東京駅到着が7時42分であるということが分かる。
 ダンテはシャングリラホテルに泊まっているらしく、起床時間も8時くらいだというから、ちょうど良いタイミングになるのではないかと思われる。
 マリアは魔道書を出して、それを読んでいる。
 元々、読書が趣味だったのかもしれない。
 赤い眼鏡を掛けないところを見ると、イリーナが書いたものなのかもしれない。
 ダンテが書いたものだとラテン語で書かれている為、それを解読する為の眼鏡を掛ける必要がある。

 稲生:(僕も魔道書読んだ方がいいな……。あ、忘れた(-_-;))

 稲生は狼狽した様子で座席を倒した。

 マリア:「? どうした?」
 稲生:「僕も少し休みます」
 マリア:「ああ。……まだゾーイとの戦いの疲れが?……まあ、無理も無いか」
 稲生:「いや、まあ、それは大丈夫ですが、と……」
 マリア:「ゾーイの気持ちも分からなくはないけど、だからってユウタを襲うのはお門違いさ。私が対処したから、それでいい?」
 稲生:「十分過ぎます。(あたかも、マリアさんだけ僕の為にやったみたいな言い方が気になるけど……)」

 実際はアンナもリンチに加担しているし、エレーナは表向き傍観していだけだが、恐らく見張り役兼任だろう。
 魔女も一枚岩ではないということだ。

 稲生:(男の魔法使いが何か上手くやれればいいんだろうけど……)

 3人の魔法使いを乗せた上り電車は、朝日を浴びながら東京都心へと向かう。
コメント (5)
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