報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生の孤独な戦い」 2

2017-05-11 19:26:06 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[月日不明 時刻不明(夕方?) 東京中央学園上野高校・旧校舎]

 稲生:「う……うう……ん……」

 稲生が目を覚ますと、そこは東京中央学園の旧校舎の中だった。
 古いソファが置かれていたり、古めかしい洋服ダンスや柱時計が掛けられている。
 そして何より、重厚な机と椅子が置かれていた。
 どうやらここは校長室らしい。
 確か、教育資料館となってからは、この部屋は閉鎖されていたはずだが……。

 稲生:「何で僕はここに……?」

 稲生は自分の身に起きたことを思い出そうとした。

 稲生:(確か僕は3階の女子トイレで、後ろから肩を撃たれたんだ!)

 急いで稲生は自分の肩を確かめたが、特段大ケガした様子は無い。
 一体、どういうことなのだろうか?

 稲生:「と、とにかくここから出なきゃ!」

 部屋の中は真っ暗というわけではなかった。
 窓の外から低い太陽の光が差し込んでいる。
 今は朝方なのか、それとも夕方なのか……。
 壁の振り子時計を見ると、6時を過ぎていた。
 これでは尚更、今が朝なのか夕方なのか分からない。
 重厚な木目調のドアを開けると、見たことのある廊下が続いていた。
 校長室は1階にある。
 職員室や事務室の隣だ。
 その前を通り過ぎて、昇降口のドアを開けようとした。
 ところが、本来だったら内鍵のはずなのに、どういうわけだかこちら側にも鍵穴があった。

 稲生:「こんな鍵だったっけ?」

 稲生は首を傾げた。
 因みに荷物は全く無い。
 盗られてしまったのか、魔法具もスマホも無かった。

 稲生:「はっ、そうだ!だったら職員室!」

 稲生は職員室へ向かった。
 ここの職員室も、まるで現役時代のように机や椅子が並んでいた。
 確か教育資料館となってからは、ここも単なる資料室になっていたはずなのだが……。
 とにかく稲生は、机の上にある黒電話を取り出した。
 だが、全く発信音がしない。

 稲生:「くそっ!……あ、窓を開ければいいじゃん」

 稲生は職員室の窓際に駆け寄った。
 だが、鍵が開いても、まるで嵌め殺しになっているかのように開かなかった。

 稲生:「どういうことなんだ?」

 他の窓も試してみたが、全くダメだった。
 思い余って、椅子を叩きつけてみたが、弾かれるだけだった。

 稲生:「はー……はー……!と、閉じ込められた!?」

 稲生は自分が置かれた状況を把握した。
 職員室の中に鍵束があるのは常識なのだが、ありそうな場所を探しても無かった。

 稲生:「事務室!それか用務員室だ!」

 しかし、そこを探しても鍵など無かった。

 稲生:「一体、どうすれば……!」

 稲生は頭を抱えた。
 ふと気づいたのだが、階段の様子がおかしい。
 というのは、旧校舎には階段が2つあるのだが、1つは防火シャッターが閉まっていて、そもそも階段室に入れない。
 もう1つは2階から上の階段が椅子や机やらが積み上げられており、上がることができないようになっていた。
 そして、地下に下りる階段の方には何も無かった。

 稲生:「参ったなぁ……」

 稲生は階段の電気スイッチを押した。
 すると、地下階への階段踊り場の照明が点灯した。
 それでも薄暗いものだったが、点灯しないことには真っ暗でしょうがない。
 階段を下りてみる。
 下り切った先には倉庫の入口ドアがあったが、そこは鍵が掛かっていた。

 稲生:「ん?」

 だが、階段の下にある物が落ちていた。

 稲生:「これは……?」

 拾ってみると、何かの部品のようだった。
 蛍光灯の下に持って行って、よく調べてみる。
 fuseと書かれていた。
 つまり、電源ヒューズである。

 稲生:「何でこんなものがここに?」

 稲生はそれを持って行くことにした。

 稲生:「あっ……!」

 その時、稲生は思い出した。
 自分が“魔の者”に狙われ、冥鉄汽船“クイーン・アッツァー”号に閉じ込められた時のことを。
 確かあの時も、こういうヒューズが鍵となった記憶がある。
 アッツァーの時は針金だけのレトロなヒューズだったが、こちらはちゃんと真空管らしきものに入っている。
 稲生は用務員室に行くと、そこからゴム手袋を見つけた。
 そして今度は職員室に行く。
 案の定、校舎内のブレーカーはここにあった。
 ゴム手袋をはめて電源ボックスを開けると、確かに1ヶ所、ヒューズの抜けている所がある。
 アッツァーの時は感電しないように注意を払いながら、針金をペンチで留める必要があった。
 今のは簡単で、まるでインクカートリッジのようにカチッとはめるだけで良いようだ。
 それで、この部分が通電したような感じがした。

 稲生:「これで多分……」

 稲生は先ほど、防火シャッターの下りていた階段へ向かった。
 シャッターの横のスイッチボックスは開いていた。
 それで昔のエレベーターのボタンような、△形のスイッチを押すとシャッターがギギギと軋み音を上げて開いた。

 稲生:「あれ?」

 開いたのはいいのだが、この階段もまた2階へ上がろうとすると、什器がそれを邪魔していた。
 稲生の力ではビクともしない。
 どうやら、どうあっても稲生を2階から上に上がらせたくないらしい。
 その代わり、こちらの階段室には外に出る非常口がある。
 非常口ゆえ、本来ならこれも内側から開くようにしなければならないのだが、どういうわけだかここも鍵穴があった。
 で、当然ながら鍵が掛かっていた。

 稲生:「マジか……。一体、どうすれば……」

 とにかく、今行ける場所で何かヒントを探さなくてはならないようだった。
 不思議なのは、この旧校舎、ある程度の不気味さはある。
 まあ、古めかしい木造校舎で、学校の怪談のオンパレードという先入観もあるからだろう。
 だが、朝か夕かは不明だが、外からの光が差し込んでいて、けして1階は真っ暗というわけではない。
 気の持ちようによっては、ノスタルジーを感じるかもしれないところだ。

 稲生:「てか、マリアさん達は一体どこに行ったんだろう?」

 稲生は首を傾げながら、再び廊下に出た。

 稲生:「!?」

 すると、レトロな電話のベルが聞こえてきた。
 職員室からではなく、職員室の前にある赤い公衆電話からだった。
 確かこれは、教育資料館の中にも展示してある。
 展示品としての存在なのに、どうして今こうして稼働しているのだろうか?
 10円玉しか投入できず、しかも回転ダイヤル式だった。

 稲生:「も、もしもし?」
 ???:「ゾーイにヒドい目に遭わされたらしいね
 稲生:「ゾーイ?誰ですか、それ?

 電話口の相手は若い男性の声だった。
 英語で稲生に話し掛けている。
 稲生も英語で返した。

 男性:「とにかく、まずはそこから脱出しないと。キミはゾーイの魔法に掛けられている状態なんだ。脱出すれば、キミは彼女の作った幻影から逃れられる
 稲生:「どうすればいいんですか?
 男性:「鍵を探すのは当たり前だが、あいつ、獲物を閉じ込める度に鍵の場所を変えるからなぁ……。だけど、いいヒントにはなるかもしれない
 稲生:「ヒントって?
 男性:「今行ける所を隈なく探して、ビデオテープを見つけるんだ。そこにはキミの前、そこに閉じ込められた人の末路が記録されているはずだ
 稲生:「わ、分かりました

 稲生は電話を切って、その場を離れた。
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