報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生の孤独な旅」 4

2017-05-18 20:59:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月10日09:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生はチェックアウトするべく、フロントに向かった。

 オーナー:「ああ、稲生さん」
 稲生:「お世話になりました」
 オーナー:「次の行き先なんですけどね、神奈川県相模原市には行ったことがありますか?」
 稲生:「ええ。確か何年か前、合宿に行ったことが……」
 オーナー:「ではタチアナという魔道師は御存知ですね?」
 稲生:「タチアナ!タチアナ・イシンバエワさんですね!知ってますよ!」
 オーナー:「ではそこに向かってください。タチアナさんの家から魔界に通じる穴があるそうで、そこからイリーナ先生達の所へ行けます」
 稲生:「は、はい!」

 稲生は一瞬面食らった。
 だが、行くしかないと思った。

[4月10日09:15.天候:晴 都営地下鉄森下駅・新宿線ホーム]

〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが、長い10両編成で到着します。白線の内側まで、お下がりください〕

 朝ラッシュのピークは過ぎている時間帯ではあるが、まだまだホームには乗客は多く、強風と共にホームに入って来た都営地下鉄の車両も乗客が多かった。

〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです〕

 稲生は最後尾に乗り込んだ。
 先頭車は雌車女性専用車となっている為、運転台付き車両好みの鉄ヲタをも排除されてしまう。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 電車は多くの乗客を乗せて出発した。

〔この電車は各駅停車、笹塚行きです。次は浜町、浜町。明治座前です。お出口は、右側です〕
〔The next station is Hamacho.〕

 稲生は頭の中で鉄ヲタの知識をフルに活用していた。

 稲生:(笹塚→京王電鉄本線特急→高尾→JR中央本線普通→藤野……)

[魔界時間同日同時刻 アルカディア王国・王都アルカディアシティ郊外]

 リシーツァ:「イリーナさん、取りあえず反乱軍の一個大隊を殲滅しておきました」

 緑色の鱗に覆われ、背中には大きな黒いコウモリ型の翼を生やし、頭には角を2本生やしたドラゴンが人語でイリーナに報告した。

 イリーナ:「ありがとう、リシーちゃん。よくやったわ」

 イリーナは地面に寝そべるドラゴンの頭をナデナデした。
 リシーツァは目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。

 安倍:「いや、これいいわけ無いよなぁ……」

 政府軍達はドラゴンが放ったブレス(火炎)によって引き起こされた大火の鎮圧に当たらなければならなかった。

 イリーナ:「何ですか?反乱軍の動向を探り切れなかったばかりか、別のドラゴンを懐柔されて使われたことは、政府の恥部だと思いますが?」
 横田:「クフフフフフ……。ドラゴンは怪獣ですね。怪獣を懐柔するとは、さすがはノルマン将軍(反乱軍のリーダー)です」
 安倍:「しかし、首謀者を捕らえて裁判に掛けねばならんのに、遺体ごと消し炭にしてどうする?」
 イリーナ:「日本人は甘いですわ。これくらいやらないと、またナメられて反乱起こされますわよ」
 横田:「怪獣を懐柔……」
 安倍:「アルカディア王国は第2の日本国を目指しています。かつての満州国でもいいでしょう。いずれにせよ法治国家でありたいわけで、イリーナ師のやり方はいささか乱暴のようにも見えるわけです」
 横田:「怪獣を懐柔……」
 イリーナ:「欧米じゃテロリストは射殺して当然なんです。それはお分かりでしょう?ペルーの日本大使公邸事件だって、あの極左ゲリラ達は殆ど射殺されています」

 日本ではあまり報道されなかったが、あの極左ゲリラには10代少女の構成員もいたという。
 だが、ほぼ全員射殺された。

 イリーナ:「ましてや王国政府に抗う反乱軍です。鎮圧の為には多少手荒な方法を使ってでもしませんと、国民の被害が広がりますよ」
 横田:「怪獣を懐柔……」
 安倍:「いずれにせよ、ルーシーが何と言うかだな」
 横田:「クスン……」

 横田、オヤジギャグをスルーされ続ける。
 スススっとマリアの近くまで行き……、油断しているマリアの尻に手を伸ばした。

 エレーナ:「この人、チカンでーす!」

 エレーナがガシッと横田の手を掴んだ。

 エレーナ:「さてオジさん!ケーサツ行きたくなかったら10万円払ってよね!」
 横田:「そ、そんな……!私はまだ何もやっていない……!それでもボクはやっていない!」
 マリア:「まだ、だと?」
 アンナ:「エレーナ、それ明らかに痴漢デッチ上げ女のセリフ……」

 10万円を惜しんだ横田はマリアにボコられることになった。

[日本時間4月10日09:33.天候:晴 都営地下鉄(京王新線)新宿駅]

 稲生を乗せたメチャ混みの電車が新宿駅に着こうとした時だった。

 女性客:「ちょっと!やめてください!痴漢です!」
 男性客:「ええっ!?」
 稲生:(痴漢!?)

 ホームに停車してドアが開くと同時に、痴漢とされた男が引きずり降ろされた。

 稲生:(良かったなぁ、あの痴漢。捕まえてくれたのが普通の女性で。あれが魔女さんだったら、電車が来る直前の線路の上にバシルーラされたと思う)

 稲生は空いた車内の、空いた座席に座ってしみじみと思った。

〔「京王新線直通、各駅停車の笹塚行きです。まもなく発車致します」〕

 痴漢(とされた男)は京王電鉄の車掌と交替した都営地下鉄の車掌に引き渡された。

 稲生:(笹塚駅から準特急、京王八王子行きに乗って、北野駅で降りる。北野駅で京王高尾線に乗り換えて高尾まで行って、そこから中央本線に乗り換えればいいな)

 稲生は頭の中でルート検索しながらそう思った。
 尚、最初からJRを使わない理由は、京王線の方が運賃が安いからである。
 ただでさえ、持ち合わせが少なくなっている状態だからだ。

 電車は鉄道会社が変わっても、引き続き地下トンネルの中を進んだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする