報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界での一夜」

2017-05-20 22:47:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月10日18:00.天候:晴 魔界王国アルカディア首都アルカディアシティ]

 魔界高速電鉄(通称、アルカディアメトロ)の高架線。
 かつての旧日本国鉄の車両が多く運転されている。
 その環状線を走る103系は、明らかに昔の山手線の塗装をしていた(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/5/53/JNR_EC_Tc103-347.jpg)。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく1番街、1番街、お出口は右側です。中央線、地下鉄1号線、3号線、5号支線、7号支線、8号線と軌道線はお乗り換えです。この電車は環状線内回り、普通電車です。この駅で急行電車を先に通します。急行電車ご利用のお客様、向かいの6番線でお待ちください」〕

 電車がホームに滑り込む。
 どう見ても、山手線……というか大阪環状線に似ているかもしれない。
 対向の外回り電車はオレンジ色の103系だった。
 大きなエアー音と共に、ドアチャイムも無くドアが開く。
 ぞろぞろと降りる乗客は魔族よりも人間の方が多い。
 地上を走る高架鉄道は、地下の薄暗い場所を好む魔族が多く利用する地下鉄より治安が良いとされているが……。
 その中に混じって、稲生が降りて来た。
 稲生はこの街の南部郊外に住む妖狐の威吹と会って来たのだ。
 稲生が乗って来た103系の側面方向幕は、ただ単に『普通 Local 環状線 Loop line』と表示されているだけだ。

 マリア:「ユウタ!」
 稲生:「あっ、マリアさん、お待たせしました」
 マリア:「急がないと、そろそろ日が暮れる。早く魔王城に行こう」
 稲生:「はい」

 暴動で破壊されても1日で復旧する謎の鉄道。
 それどころか、地下鉄の路線数がいつもより増えているような気がするのは気のせいということにしておこう。
 改札口の外でマリアと合流した稲生は、その足で魔王城に向かった。

[同日18:30.天候:晴 魔王城新館]

 稲生:「僕、あまり正装していないんですけど、いいんですか?」
 イリーナ:「ローブを羽織っておけば、それでOKだよ」
 安倍:「やあ、キミ達。ご苦労さま」
 稲生:「安倍総理!」

 もちろん、日本国総理の安倍晋三首相のことではない。

 安倍:「今回の反乱を鎮圧してくれたことにルーシーが喜んで、特別に晩餐会を開くことになったんだ。そこのところ、忘れないようにね」
 イリーナ:「ダー。( ̄▽ ̄)」

 あえてロシア語で大きく頷くイリーナ。
 そして、ドヤ顔だ。
 で、何故か不機嫌そうな安倍。

 稲生:「マリアさん、何かあったんですか?」
 マリア:「反乱を対話で解決したかった首相に対し、『大いなる圧力』で解決した師匠と意見が対立した」
 稲生:「そうなんですか。あれ?新聞じゃ、反乱軍の総帥は死亡って……」
 横田:「横田です。先般の反乱軍鎮圧作戦における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 稲生:「うわっ、出た!」
 マリア:「痴漢!サイテー!」

 マリアはバッと稲生の後ろに隠れた。

 横田:「とんだ誤解ですな。今までのは、皆さまの緊張をほぐす為のほんのお茶目であります」
 稲生:「下着泥棒のどこがお茶目だ!」
 マリア:「Japanese Chikan!!」
 安倍:「まあまあ。横田の言動や行動については、私が目を光らせておこう」
 イリーナ:「うんうん、そうですね。因みに横田理事」
 横田:「何でありましょう?」
 イリーナ:「私からくすねたランジェリー(ガーターベルト含む)だけど、あとで誠意を見せてもらうわ」
 横田:「ととと、とんでもないことでございます!」
 マリア:「師匠からくすねたのか……」
 稲生:「よく先生からくすねられたね」
 安倍:「すいません。後で厳重注意しておきます。……只今、晩餐会の御用意をしておりますので、もうしばらくお待ち下さい」
 横田:「準備が整い次第、ご案内申し上げます」

 安倍と横田が豪華な控え室を出て行く。

 イリーナ:「皆、大丈夫?」
 マリア:「ええ」
 エレーナ:「まあ……」
 リリィ:「フヒッ……!無事……です」

 横田が出て行くと、一斉に自分の着けている下着が盗られていないか確認する女性達。
 マリアがスカートの上から確認する様子を見て、自然と目尻が下がる稲生だが、それは普通に男のサガというものだ。
 因みにアンナがいないのは、アナスタシアに呼び出しを食らい、急いで人間界に戻ったからである。
 稲生はマリアが今着けている下着が無事だということを確認すると、室内の調度品に目を通した。
 戸棚の中には、見たことも無い高そうな洋酒が並んでいる。

 稲生:「これ、勝手に飲んだら後で怒られるパターンですよね?」
 マリア:「いいんじゃないか?有料だというなら、後で師匠が払ってくれるさ」
 稲生:「余計、飲んだらヤバいことになりそうなのでやめておきます!」
 イリーナ:「こっちのブランデーは、人間界じゃなかなか手に入らない代物ばかりなんでね。頼めば、後でお土産に何本かくれるかもよ?」
 稲生:「マリアさんの下着と引き換えに?」
 マリア:「師匠のランジェリーと引き換えに?」
 イリーナ:「……別に横田理事に頼むわけじゃないのよ」

[同日19:00.天候:晴 魔王城新館・大食堂]

 ルーシー女王は満面の笑みを浮かべて稲生達に接してきた。
 王冠代わりの黒いティアラは、よく見るとコウモリの形をしている。
 出自がヴァンパイアということもあり、男の生き血として稲生のものを欲した。

 マリア:「私は正直、嫌ですねぇ……」
 稲生:「400mlなら、献血するつもりで行けば大丈夫ですよ」
 イリーナ:「そうそう。今のうちに統治者に媚びを売っておけば、何か困ったことがあっても国家で面倒見てくれるわよ」
 マリア:「ユウタの血を政治目的に使わないでください!」
 ルーシー:「Thank you so much!」

 ルーシーは大変喜んだ。
 因みに魔王主催の晩餐会だからといって、特に変な物が出てくるわけではない。

 リリィ:「フフフ……このキノコ料理……最高です」
 エレーナ:「これも美味いぞ」

 ポーリン組は素直に料理の味を楽しんでいた。

 ルーシー:「あと、できれば処女の生き血も欲しいのですが、用意できますか?」
 稲生:「まず、男の僕は除外ですね」
 イリーナ:(さっきユウタ君の血を欲しがったのは、ユウタ君が『童貞』だからなんだけどね。『童貞』に対し、今度は『処女』か……)

 イリーナとマリアとリリィ、そして稲生が同時にある女に視線を送った。

 エレーナ:「ちょっとこれは味付け辛過ぎるかな……ん?あ?なに?何スか?」
 マリア:「良かったな、エレーナ。女王陛下、直々の白羽の矢だぞ」
 ルーシー:「見たところ、“ベタな魔女の法則”の姿をしていますが、大丈夫なんですか?」
 イリーナ:「ええ。この中で唯一の処女です」
 リリィ:「フヒヒヒ……エレーナ先輩、おめでとうございます……」
 エレーナ:「は!?何それ!?全然嬉しくないんスけど!?アンナは!?アンナ呼び戻してくださいよ!」
 イリーナ:「あいにくとアーニャもレイプ被害者だからダメ。ナスターシャはビッチだし」
 ポーリン:「イリーナ。今の発言、アナスタシアに殺されても文句言えない」
 イリーナ:「じゃあ、決まりね。ユウタくんとエレーナ、それぞれ400mlずつ女王陛下に献上ってことで」
 稲生:「分かりました」
 エレーナ:「いや、納得いかないっス!」
 安倍:「稲生君はもっと料理を食べくれ。その方がルーシー好みの味わい深い血になる」
 稲生:「は、はい!」
 安倍:「エレーナさんは酒を控えるように。ルーシーはアルコール濃度の高い血は好まない」
 エレーナ:「ええっ!マジっスか!?」

 ある意味では楽しい晩餐会になったようである。
 尚、この時からリリィに課せられた禁酒令は解かれたもよう。
 酔っぱらってハイになったリリィが、隠れた趣味であるデスメタルを余興として披露した。
コメント (3)
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