報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプ模様」

2016-12-05 19:17:02 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月1日10:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階 敷島エージェンシー]

 勝又:「『M3号機シンディ・サード。左記の機体において、国家公安委員会における規定を満たしたことを確認し、稼働継続の承認を行うこととします』……良かったじゃないか」
 敷島:「マルチタイプの個性の1つが潰されたんだ。手放しでは喜べないよ」
 勝又:「何で?ビームライフルの方がカッコいいじゃん」
 敷島:「鉄腕アトムのパクりみたいで、何か嫌なんだよ」
 勝又:「鉄腕アトムの時代に追いつけている。いいことだと思うよ?」
 敷島:「その前に早いとこ、自動運転カーを実用化させてもらいたいもんだね」
 勝又:「もうすぐそこまで来てるよ。恐らく、10年後にはもうとっくに当たり前になってるさ」
 敷島:「10年後か。で、父親とケンカした息子が1人でその車に乗って、大型トラックと出合い頭に衝突して事故死するんだろうね」
 勝又:「……天馬飛雄の話をしているのかい?仮にアトムが本当にできたとしても、キミなら御茶ノ水博士になれるさ」
 敷島:「いや、俺は科学技術の知識は持ち合わせていない。あくまで俺は、営業担当さ」
 勝又:「アトムと言えば、序盤辺りにロボットサーカスの話があるだろう?」
 敷島:「それがどうした?」
 勝又:「本当に東京に来るってよ。うちの議会でも、話題になった」
 敷島:「何か、都知事が1人で騒いでたそうじゃない。『クール・ジャパンは、まずクール・トウキョウからだ!』って」
 勝又:「まあね」
 敷島:「いっそのこと、キミが都知事になっちゃったら?」
 勝又:「そう簡単になれるもんじゃないって」
 敷島:「じゃあ、埼玉県知事になってくれよ。投票してやるぞ。埼玉県民として」
 勝又:「あのねぇ……。俺が埼玉県知事になったら、潰瘍性大腸炎を含む特定疾患の半分くらいの医療給付を廃止にするぞ」

 それは困る!

 敷島:「ん?」
 勝又:「ん?今、何か聞こえた?」
 敷島:「天の声かな?」
 シンディ:「失礼致します。お茶の替えでございます」
 敷島:「シンディ、さっき何か言ったか?」
 シンディ:「? いいえ。何かあったんですか?」
 敷島:「いや、何でもない。えー……何の話だったっけ?」
 勝又:「えーと……あ、ロボットサーカスの話。都知事が歓迎の意向を表明したもんだから、都内で大々的にやるよ。何しろ、珍しいからな」
 敷島:「本当に団員の殆どがロボットやロイドか。凄いサーカス団だな」
 勝又:「そういうこと。サーカス団としては日本全国を回りたいそうで、東京では明後日からの公演になる」
 敷島:「俺も視察に行って来るか。初日と千秋楽はメチャ混みだろうから、平日にちょこっとな」
 勝又:「ボーカロイドとは興行的にライバルになるかね?」
 敷島:「どうだろう。分野が違うからな。そんなに利害の対立は無いかもしれないね」

[同日同時刻 東京都・臨海副都心(お台場) ロボット大サーカス会場予定地]

 着々と会場の設営が行われている現場。
 その中で既に出来上がっているハウス(関係者専用の小屋)に、団長などのサーカス関係者がいた。
 彼らが一斉に目にしているのは、あのルディである。
 但し、フィリピンで拾った時とはだいぶ様子が変わっている。
 団長が船で日本に来る最中、ルディを修理した際にだいぶ装いを変えたらしい。
 金髪だった髪は黒髪に、顔立ちも白人からアジア系に近いものに変わっていた。

 団長:「フィリピンでブッ壊れたせいで、その時までのメモリーは全部消し飛んじまったが、逆に好都合ってもんだ。おい、さっさと起きろ」
 ルディ:「う……」
 団長:「どうだ、気分は?」
 ルディ:「ここは……?」
 女性団員:「団長、起動値が上がってるわ。順調よ」
 団長:「よっしゃ。今日からお前の名前はアレックスだ。早速、今日から働いてもらうぞ。マーガレット、お前がこいつの教育係をやれ」
 女性団員改めマーガレット:「私が?」
 団長:「そうだ。お前、アレックスの教育係をやっていただろ?その経験を生かしてだ」
 男性団員:「団長、前のアレックスは曲がりになりにも頭が良かったけど、こいつはどうだか分かりませんよ。だいたい、どこの馬の骨かも分からない少年ロイドですからね」
 ルディ改めアレックス:「僕、ロイドだから馬の骨なんて無いよ。……うわっ!」

 アレックス、団長から電気鞭で引っ叩かれる。

 団長:「キサマ!こいつを誰だと思ってる!?我がサーカス団のトップスター、サンダーボルトだぞ!」
 男性団員改めサンダーボルト:「まあまあ、団長。俺はサンダーボルトだ。ロイド同士、仲良くやろうぜ」
 スタッフロボット:「サンダーさん、公開調整の時間です」
 サンダーボルト:「おっ、今行く」

 サンダーボルトはスタッフのロボットと一緒に小屋を出て行った。

 アレックス:「あの人もロイドなんでしょ?ぶたれないんですか?」
 団長:「アホか。サンダーボルトはな、アメリカのさる有名な科学者に造ってもらった優秀なロイドだぞ?出自不明のお前とは出来が違うんだ」
 マーガレット:「おいで。見てみれば分かるわ」
 団長:「おい、マスコミが来てんだ。見せるんなら、目立たない所で見せろよ」
 マーガレット:「分かってます」

[同日18:00.天候:雨 敷島エージェンシー]

 敷島:「マジかよ。雨降るなんて聞いてないぞ」
 シンディ:「だから今日は暖かいんですね。誰か、傘持ってないか聞いてきますよ」
 敷島:「いいよいいよ。今日だけはタクシーで帰ろう」

 敷島とシンディは社長室を出た。

 井辺:「あ、社長、お疲れさまでした」
 敷島:「うん、お先に。……ん?その夕刊紙は?」
 井辺:「ああ、読み終わったので、休憩室にでも置いてこようかと思いまして」
 敷島:「お、何かロボットサーカスの記事が出てるみたいだな?」
 井辺:「そうですね。あ、お持ちになりますか?」
 敷島:「あー、じゃあ、今日だけもらおうかな。悪いね。もし他に読みたい人がいたら、領収証切ってもらって構わないから」
 井辺:「まあ、今日はどのボーカロイドも夜までスケジュールが入ってますので、わざわざ休憩室で新聞を読むマネージャーはいないと思いますが……」

 敷島とシンディは、ビルの前の通りでタクシーを拾った。
 車内で夕刊紙を読む。

 敷島:「へえ!結構スリリングな出し物をやってるんだなぁ……。お、何かロボット同士の対戦みたいなこともやってるみたいだぞ。シンディ、お前、飛び入りで参加してみるか?」
 シンディ:「どうせ、こういうのは演出でしょう?私と戦ったら、本気で壊しますので、御遠慮します」
 敷島:「はは(笑)、それもそうだな」

 敷島は新聞のページを繰ろうとした。
 シンディの目に、1枚の写真が飛び込んでくる。

 シンディ:「社長!」
 敷島:「な、何だ!?やっぱり飛び入り希望か?」
 シンディ:「違います!」

 シンディは写真の片隅に映る、団員と思しき少年ロイドに反応した。

 シンディ:「……気のせいか」
 敷島:「どうした、シンディ?」
 シンディ:「いえ、一瞬、ルディがいたような気がしたんです」
 敷島:「ルディが?……え?この少年?全然似てないぞ。気のせいじゃないか?」
 シンディ:「ええ、そうですね。すいません……」
 敷島:「お前のオーバーホール、年明けにしようかと思っていたけど、もう少し早めの方がいいかな?」
 シンディ:「お任せします」

 タクシーは規則正しくワイパーを動かしながら、敷島の寝泊まりしているマンスリーマンションに向かった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「腕交換終了」

2016-12-05 13:37:20 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月26日17:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 敷島:「おー、平賀先生の所も終了しましたか。なるほどなるほど……」

 閉館の音楽が館内に鳴り響く中、敷島は自分のスマホで平賀と連絡していた。
 エミリーの方も腕の交換が終わったらしい。

 平賀:「こちらは動作テストも順調でしたが、そちらはどうですか?」
 敷島:「あー、それなんですけどねぇ……」

 廊下の向こうが騒がしい。

 シンディ:「マスター!レーザーが止まりません!どうしたらいいですか!?」
 アリス:「こっちに向けないで!」
 西山館長:「か、回路を切れーっ!」
 敷島:「……しばらくの間、動作テストは続きそうです」
 平賀:「うちはまだ合法的な火炎放射器は残したままでしたから、その分、エラーも出にくかったんですが、シンディの場合は全部取り外しだから、エラーが出たままでしたかねぇ……」
 敷島:「こっちも火炎放射器を搭載した方がよろしいでしょうか?」
 平賀:「エミリーの専売特許ですからダメですよ」
 敷島:「ありゃりゃ……」

 敷島は肩を竦めた。

 敷島:「帰りは遅くなるのか……」
 平賀:「頑張ってください。それより、敷島さん、マルチタイプ新造計画の方はどうなりました?」
 敷島:「あー、もう決定ですよ。アルエットみたいな小型のヤツだったら個人所有でもいいでしょうが、エミリーやシンディタイプを個人所有は絶対危険だと何度も言ったんですが……」
 平賀:「アルエットも、あまり個人所有はお勧めできませんけどね。敷島さんの御親族なら、全員強そうだから大丈夫なんじゃないですか?」
 敷島:「いや、そんなことないですって」

 敷島は否定した。
 そして、電話を切った。
 するとまた掛かってくる。

 敷島:「今度は何だ?」

 画面を見ると、鷲田警視からになっていた。

 敷島:「もしもし?シンディの腕なら、合法(笑)ものに交換しましたよ?」
 鷲田:「何だ、その(笑)って?本当に合法的なものに交換したんだろうなぁ?」
 敷島:「心配無いですって。今度こそ公安委員会の目を誤魔化し……もとい、納得できるものになってますよ」
 鷲田:「何だか怪しいが、その件については保留にしておこう。それより、2つ情報が入ったんだ。いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」
 敷島:「じゃあ、悪いニュースからお願います」
 鷲田:「フィリピンの警察本部が、大規模な麻薬組織の摘発を行ったんだが、その本部アジトにロボットの残骸が転がっていたそうだ」
 敷島:「ああ!この前、ニュースでやってましたよ」
 鷲田:「発展途上国で人間そっくりのロボットなんて、そうそういないからな。一応、警視庁からフィリピン警察に頼んで、そのロボットの残骸を送ってもらったんだ」
 敷島:「正体は何でした!?」
 鷲田:「ジャニスとかいう、クソ女の方の残骸だった。どうも麻薬組織の幹部の話によると、護衛として雇ったんだが、どうも態度が悪くて破壊したらしいな」
 敷島:「相変わらず、人間の言う事聞かないままだったんですねぇ……」
 鷲田:「もう2度と復元なんかさせんぞ」
 敷島:「その方がいいと思います。ではもうジャニスが暴れることはないということですね」

 アメリカの研究所における戦いで、敷島の『走る司令室』ごと特攻してくるという確率は計算できなかったようで、実際それをやられたジャニスは避けることもできずにその攻撃をまともに受けた。
 敷島を含む人間達への遺恨を漏らしながら壊れた。

 敷島:「……それがいいニュース?」
 鷲田:「そうだ。人類の敵となるロボットが1つ壊れた。いいニュースだろ?」
 敷島:「じゃあ、悪いニュースって?」
 鷲田:「ジャニスの片割れ、ルディが相変わらず行方不明だ。現地警察が捜索しているが、欠片1つ見つからん」
 敷島:「それじゃ、まだフィリピンのどこかに潜伏してるってことですね」
 鷲田:「うむ。できればそいつも、日本で爆破解体してやりたいところだがな」
 敷島:「うーむ……」
 鷲田:「とにかく、情報提供だ。あんたも一応、正義の為にロボットを使うという心意気は分かったからな。私なりに応えてみた」
 敷島:「ようやく御理解頂けて、ありがたい限りです。万が一、ルディが日本国内に潜入してきた際は、うちのシンディを使ってでも捕まえてみせますよ」
 鷲田:「何なら、またバス特攻しても構わんぞ」
 敷島:「また都営バス使ったら、今度こそ東京都交通局から永久乗車禁止を通達されそうだ」
 鷲田:「誰が都バス使えといった。廃車寸前のバスをタダ同然で購入するとか、色々調達法はあるだろう」
 敷島:「あ、そうか」

[同日21:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「おーい、着いたぞー」

 敷島はマンションの地下駐車場に車を止めた。

 シンディ:「マスター」
 アリス:「あー、疲れた……」
 敷島:「泊まり込みにならなくて良かったなァ!」
 シンディ:「ご迷惑をお掛けしました」
 敷島:「いや、シンディのせいじゃない。気にするな」

 敷島達は車を降りて、エレベーターに向かう。

 敷島:「それより、レザーブラストの扱い方は大丈夫か?」
 シンディ:「ええ、何とか……」

 シンディの場合は右手の人差し指と左手の人差し指からレーザーを出せるように改造された。
 左手の有線ロケットパンチは引き続き使用できるが、出力の関係上、ロケットパンチを使いながら左側のレーザーは使えない。
 エミリーは左手は引き続き有線ロケットパンチ専用、右手の中央3本の指からのレーザー照射に留まった。
 よって、両手を使えるシンディの方が照射半径は広いということになる。
 目からビームという案もあったが、カメラを搭載している関係上、また片目はライトの役目も果たしている以上、どれかを潰す必要があるので、それは見送られた。

 敷島:「ただいまァ」
 二海:「お帰りなさいませ。お夕食の準備が整ってございます」
 敷島:「ありがとう。アリス、とにかく着替えてこいよ。早いとこ食べよう」
 アリス:「うん……」

 シンディは右手の手袋を外して、時々人差し指の第一関節部分を引っ込ませる。
 引っ込ませることで、そこからレーザーを発射することができるのだ。

 敷島:「おい、今レーザー出すなよ」
 シンディ:「もちろんです」
 敷島:「それにしても、ルディのヤツはどこに行ったんだ?」

 敷島はダイニングテーブルの自分の椅子に座りながらテレビのスイッチを入れた。

〔「……フィリピンでの長期興行を終えたロボット大サーカスですが、12月公演は日本に決まり、船便にてフィリピンを出航しました」〕

 敷島:「ロボット大サーカスか。俺はボーカロイドにアイドル活動させてるが、似たようなこと考えてる人間が他にいるんだな」
 シンディ:「世界で活躍してるだけに、敷島エージェンシーより先を行ってるって感じですね」
 敷島:「悪かったな。うちだって、ルカやMEIKOが海外レコーディングに行ったりしてるぞ」
 シンディ:「まあね」
 敷島:「そうだ。後学の為に、俺も1度ロボットサーカスを見に行ってみるか。今後のネタにできるかもしれない」
 シンディ:「萌に火の輪潜りさせる?」
 敷島:「それじゃ、まんまサーカスのネタを丸パクリだろ。それじゃダメだ」

 敷島は肩を竦めながら、二海の持ってきたスープに口をつけた。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「シンディの腕交換」

2016-12-05 10:14:23 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月26日12:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 アリス:「シンディの腕の交換が終わったわ。後は、動作テストを行うだけ。それで何も異常が無ければ終了だけど……」
 敷島:「見た目は変わらないな。アルエットの腕がモデルだって聞いたのに」
 アリス:「そりゃ、アルエットの腕のサイズそのまま付けるわけにはいかないでしょう?」
 敷島:「それもそうだな」
 九海(このみ):「いらっしゃいませー。メニューをどうぞ」
 敷島:「お?メニューがタブレットになったな。俺はビーフカレーでいいや。アリスは?」
 アリス:「ハンバーグセット」
 敷島:「よし」

 敷島はメイドロイド九海が手にしているタブレットの画面をタップした。

 九海:「ご注文ありがとうございます。今ならオイル交換無料です」
 敷島:「飲まねーよw」

 現在、シンディは研究室の中に横たわっている。

 アリス:「前の腕はどうする?」
 敷島:「国家公安委員会が処分しろだってさ」
 アリス:「分かったわ」
 敷島:「うちの最高顧問の爺さんのヤツも、新しい腕の方で造るわけだな?」
 アリス:「そういうことになるね。ただ、アタシはタッチしないよ」
 敷島:「えっ、どうして?」
 アリス:「アタシは研究・開発部門だから。製造部門はまた別になるからね。今回のシンディのヤツは別に製造するわけじゃないし、どちらかというと実験に近いものがあるから、アタシの出番ってわけ。ま、もっとも、シンディそのもののオーナーがアタシだからってのもあるんだけど」
 敷島:「そういうものなのかぁ……」
 アリス:「設計データがちゃんとあって、その通りに造れば何の問題も無いのであれば、あとは製造部門に委ねられるってわけね」
 敷島:「メイドロイドがそうだもんな」

 海シリーズ(名前に海と付く個体)は試作機または量産先行機であり、こちらは直接平賀が手掛けたものだが、そうではないものは工場生産の量産機であり、生産ラインの視察はしたものの、今は直接平賀がタッチしているわけではない。
 それと同じことだ。

 アリス:「午後からは直接実験を行うから、タカオはトニーを見てて」
 敷島:「分かった分かった」

[同日現地時間同時刻 天候:晴 フィリピン共和国ケソン市 ロボット大サーカス会場跡地]

 団長:「みんな!急いで撤収作業しろよ!?昨日は大雨でロクに作業できなかったんだから!」
 団員A:「それにしても、1ヶ月も興行した町を離れるのは寂しいものですね、団長?」
 団長:「まあ、そういうな。今度の興行先は日本だ。やっとロボット達も、涼しい環境で芸ができるってもんだ。……おい、そこ!気をつけろ!前もXのヤツが倒してブッ壊したんだから!」
 団員B:「はい!」
 団員C:「あの、団長!ちょっといいですか!?」
 団長:「あ、何だ?」
 団員D:「故障したロボットは修理に出しましたが、うちにあんなロボットいましたっけ?」
 団長:「なに?どんなヤツだ?1ヶ月も興行させてもらえるってんで、かなりロボットの数を増やしたからなぁ……」
 団員D:「少年のようなロボットなんですが……」
 団長:「少年?アンソニーは修理中だろ?修理が終わり次第、次の興行先の日本に送ってもらう予定のはずだ」
 団員D:「アンソニーには全然似ていません。白人の少年みたいな感じです。アンソニーは中東系ですから」
 団長:「こりゃ……!」

 撤去作業が進むサーカス会場の片隅に、半壊した少年のロボットが倒れていた。
 電源は完全に落ちている。

 団員E:「団長は御存知ですか?」
 団長:「アレックスに似てなくもないな……」
 団員E:「えっ?でも、アレックスは去年壊れて処分したはずじゃ……」
 団長:「ふーむ……Dが見つけたのか?」
 団員D:「はい。たまたまCと一緒にトラックを取りに行こうとしたら、あそこに倒れてたんです」
 団長:「ふーん……」
 団員E:「どうします、団長?一応、警察に届けましょうか?」
 団長:「……いや。よく見たらこいつは、アレックスの代わりができるかもしれねぇ。修理したらまた動けるようになるだろ。こいつも連れて行くぜ」
 団員D:「いいんですか?もし他に所有者がいたとしたら……」
 団長:「うるせぇっ!つべこべ言わねぇで、こいつを早いとこ見つからねぇうちに修理トラックに乗せるんだ!早くしろ!」

 団員達は急いでその少年ロボットを運んだ。
 ロボットというより、完全に人間の姿をしたロイドである。
 その損傷した腕は擦りむいている為に、判読不明になっていたが、名前がペイントされていた。
 『ルディ』と。

[同日15:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 ロボット未来科学館]

 アルエット:「私と同じだね!嬉しいな!」
 シンディ:「腕は軽くなって動きやすくなったけど、何か変な感じ」

 シンディは右手の人差し指からレーザーを照射し、的を焼き切った。
 普段の革手袋はしておき、レーザーを使用する際は手袋を外す。
 面倒ではあるが、こうすることで普段使いではないということを外部にアピールする狙いがある。

 敷島:「これなら国家公安委員会も文句は無いだろう」

 敷島は腕組みをしてうんうん頷いた。

 シンディ:「もう少しデータを蓄積しないと、上手く的に当てられません。あと、照射レベルの調整法も『学習』したいので、少し練習させてもらっていいですか?」
 アリス:「ええ。さすがにこれは非公開だから、地下の倉庫でやってね」
 敷島:「あと、シンディで何か変更点はあるか?」
 アリス:「いくらレザーブラストに交換したからって、このままではシンディの攻撃力は落ちたままになるからね。エミリーのデータを流用させてもらったわ」
 敷島:「具体的には?」
 アリス:「エミリーは近接戦が強いように設定されてるでしょう?」
 敷島:「エミリーに組み付かれたら2度と生還できないと思え、というのは俺が体を張って証明した」

 まだ南里研究所があった頃、エミリーが落雷の直撃を受け、そのショックで制御不能になり、暴走して敷島を追い回したことがあった。
 そんなエミリーの組み付きから生還した唯一の人間が敷島だ。
 エミリーが敷島を恐れて、ユーザー登録から外れたにも関わらず、今でも忠実に命令を聞く最大の理由である。

 アリス:「いや、アンタじゃ逆に説得力無いから。つまり、シンディも近接戦が得意なように設定したってこと」
 敷島:「なるほど。リアル・ストリートファイターってわけでもあるってことだな。それの実験はしないのか?」
 アリス:「後でダミー人形用意してやってみるよ」
 敷島:「せっかくだから、本当に格ゲーの女キャラの必殺技でも仕込んでみるか?」
 アリス:「やめときなって。作者が後で訴えられる恐れがあるから」
 敷島:「そっちかよ!」
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