[12月12日18:30.天候:晴 東京都江東区東雲(しののめ) 某マンスリーマンション]
マスコミの取材からタクシーで逃れ、平日限定で寝泊まりしているマンスリーマンションに到着する。
アリスの勤務先の都合上、現住所は埼玉県さいたま市の賃貸マンションだが、何かあった時にすぐに会社に行けるよう、同じ江東区内に住まいを抱えた次第。
まだ墨田区菊川にあった頃は、徒歩圏内のマンションを借りていた。
今のマンションは敷島エージェンシーの本社が豊洲に移転した際、敷島が借りたもの。
当初は新木場のウィークリーマンションだったが、東雲に移って今に至る。
カードキーによるオートロックなので、防犯も期待できる。
エミリー:「シンディの・データに・よりますと・すぐに・御夕食との・ことですね。すぐに・御用意・致します」
敷島:「ああ」
マンスリーマンションなくらいだから、周辺のキャナルコートと比べると、とても高層とは言えない。
部屋に入る時もカードキー。
部屋の中は12帖ほどの広さのフローリングに、ロフトが付いている。
エミリーが食事の支度をしている最中に、敷島はプライベート用のPCを立ち上げた。
それからネットを繋いで、画面にあるモノを映す。
二海:「はい、マスター。お坊ちゃまは只今、よく眠っておられますわ」
画面にはベビーベッドでスヤスヤ眠る息子のトニーの姿があった。
二海の左目にも、マルチタイプと同様のカメラが内臓されている。
ネット回線を通じて、このように観ることが可能なのだ。
メイドロイドが単なる家政婦ロボットと違う点がここにある。
敷島:「そうか。アリスもシンディの修理や、最高顧問の爺さんのムチャぶり注文で忙しいからな。悪いけど、しっかり面倒見てくれよ」
二海:「かしこまりました」
[同日19:30.天候:晴 同場所]
味見のできないロイドに料理ができるのかというと、それはできる。
レシピさえ覚えさせておけば、あとは寸分違わずその通りに作るからである。
なので、レシピよりも濃い味・薄味がお望みなら、事前にそれを伝えれば良い。
〔「……というわけでありまして、今回の事件につきましては……」〕
敷島がテレビを点けると、たまたまニュースをやっていて、しかも鷲田警視が記者会見に出ていた。
どうやら、ルディが自爆した事件について、ようやく警察が記者会見をしたらしい。
〔「最近のロボットはどうも出しゃばりが過ぎているようですが、今回の事件については明らかな犯罪行為、テロ行為であります。我々警察としましては、ロボットを使ったテロだけでなく、ロボット自身のテロも阻止しないといけないと考えております。人間をナメるなと言いたい」〕
敷島:「……さすが鷲田警視。何か、KR団の犯行声明を聞いているみたい……」
敷島は呆れた顔をしながら、エミリーの作った夕食を口にした。
ちゃんとレシピ通りに作られているせいか、味は悪くない。
〔「たった今、入ったニュースです。世界的なロボットテロ組織、KR団こと、ケイン・ローズウェル財団の再興を宣言した内容がネット回線を通じて行われたもようです」〕
敷島:「は!?」
エミリー:「!?」
テレビの画面には、まるでイスラムのテロ組織の犯行声明のような映像が映し出されていた。
画面の中央にリーダーらしき者が大きな身振り手振りで何か喋り、その後ろでショットガンやマシンガンを構えた部下らしき男2人が護衛のように立っている。
〔「ロボットは人間の奴隷である!一部の人間がその尊厳を捨て、パートナーシップを掲げているその態度にはもう我慢ならぬ!最近のロボットは調子に乗り過ぎている所がある!我々人間がキチンと躾をしなければならない!我々は新生ケイン・ローズウェル財団の旗揚げをこれより宣言する!ロボットの分際でありながら人間に成り済まし、その仕事を奪わんとしている!これは由々しき事態である!それを使う人間も同罪だ!草の根分けても全て排除する!」〕
敷島:「協賛者、鷲田警視じゃないのか?」
と、そこへ敷島のスマホが鳴る。
敷島:「はい、敷島でござい。あ、鷲田警視。今さっき、記者会見見ましたよ。まあ、録画でしょうけど」
鷲田:「それどころじゃない。今、新KR団の旗揚げ宣言を見たか?」
敷島:「何か、ネットで流れているみたいですね。ガスマスクを被って顔を隠している以外は、まるでイスラムの過激派です。……てか、思想が鷲田警視に似てるじゃないですか。もしかして、後ろで銃構えてるの警視ですか?」
鷲田:「やっぱりキミには、1度留置場に入ってもらう必要がありそうだな?ええ?」
敷島:「でも思想的には、警視寄りでしょ?」
鷲田:「ロボットは奴隷かもしれんが、ロイドは労働者程度に捉えておいた方が無難だということが分かったよ」
敷島:「おおっ?!……さっきの記者会見と言ってることが違くないですか?」
鷲田:「キミ、ちゃんと私の会見を聞いていたのか?さすがの私も、ロボットとロイドを区別するようにしてるよ。ところがKR団は違うだろう?さっきの新生旗揚げ宣言を聞いてみても、やはりロボットとロイドをごちゃ混ぜにしているようだ」
敷島:「エミリーとシンディのこと、評価してくれるんですね?」
鷲田:「ああ。だが、調子に乗るなよ?もしまた人間に危害を加えるようなことがあったら、容赦無くバラバラにしてやる。もちろん、キミも使用者責任でムショに入ってもらうことになる」
敷島:「ええ、分かってますよ。何かいつの間にか、『アンドロイドマスター』の称号が与えられてるみたいで、まあ、頂いてるからにはそれに恥じないようにやりますよ」
鷲田:「その意気だ。それで、早速本題だが……」
敷島:「何でしょう?」
鷲田:「どうもあのサーカス団は、新KR団のフロント企業だったみたいだな。団長の遺体はルディの自爆に巻き込まれて、完全に黒焦げ&バラバラ死体だ。だが、追跡から車で少し逃げたおかげで、サーカス団のテント自体は半壊程度で済んだ。で、警察でそこを調べたんだが……。どうも、胡散臭い所と繋がっている証拠がわんさか出て来た」
敷島:「そうですか。それが、新KR団だと……」
鷲田:「それと生き残ったロボット達が証言していた。ルディが暴走した原因は、面倒を見てくれた先輩ロボットを団長によって無残に破壊された怒りによるものらしいな」
敷島:「その先輩ロボットって……?」
鷲田:「ああ、失礼。ロイドだったな。あの、空中ブランコの技を披露していた……マーガレットってヤツだったかな」
敷島:「確かに千秋楽の時、失敗してブランコから落ちていたけど……。それで壊れたようには見えなかったが……」
鷲田:「壊されたんだろ?だから、ブチ切れたってわけだ。ったく、そういう所まで人間に成り済ます必要は無いというに……!」
敷島:「…………」
鷲田:「なあ、敷島社長よ。人間そっくりのロボットをロイドと称するのは構わんが、人間並みの感情を持たせるというアイディアは誰が考えたんだ?」
敷島:「えーと……南里所長……ですか?あと、十条兄弟とかドクター・ウィリーとか……」
鷲田:「私が思うに、その理由はキミが考えているほどポジティブなものではなく、もっとネガティブに理由なんじゃないか?」
敷島:「そんなことは知りませんよ。私はポジティブに考えていますし、彼女達もそのようにしてくれています。南里所長達は違うことを考えていたのかもしれませんが、今は今の路線で行って間違い無いと思っていますので」
鷲田:「そこまでの自信があるのなら別にいいんだがね。とにかく、気をつけたまえ。旧KR団は、なるべく普通の人間を巻き込まないようにしていたが、新生旗揚げを宣言しやがったバカ共は、人間を巻き添えにすることも厭わないみたいなことも言ってる」
敷島:「もちろん、気をつけますよ」
敷島は電話を切った。
エミリー:「食事が・終わりましたら・お風呂の・準備を・致しますか?」
敷島:「ああ、頼むよ」
エミリー:「かしこまりました」
敷島:(俺の目が黒いうちは、俺をユーザーやオーナーと認めているロイド達を暴走させたりゃしねーよ)
マスコミの取材からタクシーで逃れ、平日限定で寝泊まりしているマンスリーマンションに到着する。
アリスの勤務先の都合上、現住所は埼玉県さいたま市の賃貸マンションだが、何かあった時にすぐに会社に行けるよう、同じ江東区内に住まいを抱えた次第。
まだ墨田区菊川にあった頃は、徒歩圏内のマンションを借りていた。
今のマンションは敷島エージェンシーの本社が豊洲に移転した際、敷島が借りたもの。
当初は新木場のウィークリーマンションだったが、東雲に移って今に至る。
カードキーによるオートロックなので、防犯も期待できる。
エミリー:「シンディの・データに・よりますと・すぐに・御夕食との・ことですね。すぐに・御用意・致します」
敷島:「ああ」
マンスリーマンションなくらいだから、周辺のキャナルコートと比べると、とても高層とは言えない。
部屋に入る時もカードキー。
部屋の中は12帖ほどの広さのフローリングに、ロフトが付いている。
エミリーが食事の支度をしている最中に、敷島はプライベート用のPCを立ち上げた。
それからネットを繋いで、画面にあるモノを映す。
二海:「はい、マスター。お坊ちゃまは只今、よく眠っておられますわ」
画面にはベビーベッドでスヤスヤ眠る息子のトニーの姿があった。
二海の左目にも、マルチタイプと同様のカメラが内臓されている。
ネット回線を通じて、このように観ることが可能なのだ。
メイドロイドが単なる家政婦ロボットと違う点がここにある。
敷島:「そうか。アリスもシンディの修理や、最高顧問の爺さんのムチャぶり注文で忙しいからな。悪いけど、しっかり面倒見てくれよ」
二海:「かしこまりました」
[同日19:30.天候:晴 同場所]
味見のできないロイドに料理ができるのかというと、それはできる。
レシピさえ覚えさせておけば、あとは寸分違わずその通りに作るからである。
なので、レシピよりも濃い味・薄味がお望みなら、事前にそれを伝えれば良い。
〔「……というわけでありまして、今回の事件につきましては……」〕
敷島がテレビを点けると、たまたまニュースをやっていて、しかも鷲田警視が記者会見に出ていた。
どうやら、ルディが自爆した事件について、ようやく警察が記者会見をしたらしい。
〔「最近のロボットはどうも出しゃばりが過ぎているようですが、今回の事件については明らかな犯罪行為、テロ行為であります。我々警察としましては、ロボットを使ったテロだけでなく、ロボット自身のテロも阻止しないといけないと考えております。人間をナメるなと言いたい」〕
敷島:「……さすが鷲田警視。何か、KR団の犯行声明を聞いているみたい……」
敷島は呆れた顔をしながら、エミリーの作った夕食を口にした。
ちゃんとレシピ通りに作られているせいか、味は悪くない。
〔「たった今、入ったニュースです。世界的なロボットテロ組織、KR団こと、ケイン・ローズウェル財団の再興を宣言した内容がネット回線を通じて行われたもようです」〕
敷島:「は!?」
エミリー:「!?」
テレビの画面には、まるでイスラムのテロ組織の犯行声明のような映像が映し出されていた。
画面の中央にリーダーらしき者が大きな身振り手振りで何か喋り、その後ろでショットガンやマシンガンを構えた部下らしき男2人が護衛のように立っている。
〔「ロボットは人間の奴隷である!一部の人間がその尊厳を捨て、パートナーシップを掲げているその態度にはもう我慢ならぬ!最近のロボットは調子に乗り過ぎている所がある!我々人間がキチンと躾をしなければならない!我々は新生ケイン・ローズウェル財団の旗揚げをこれより宣言する!ロボットの分際でありながら人間に成り済まし、その仕事を奪わんとしている!これは由々しき事態である!それを使う人間も同罪だ!草の根分けても全て排除する!」〕
敷島:「協賛者、鷲田警視じゃないのか?」
と、そこへ敷島のスマホが鳴る。
敷島:「はい、敷島でござい。あ、鷲田警視。今さっき、記者会見見ましたよ。まあ、録画でしょうけど」
鷲田:「それどころじゃない。今、新KR団の旗揚げ宣言を見たか?」
敷島:「何か、ネットで流れているみたいですね。ガスマスクを被って顔を隠している以外は、まるでイスラムの過激派です。……てか、思想が鷲田警視に似てるじゃないですか。もしかして、後ろで銃構えてるの警視ですか?」
鷲田:「やっぱりキミには、1度留置場に入ってもらう必要がありそうだな?ええ?」
敷島:「でも思想的には、警視寄りでしょ?」
鷲田:「ロボットは奴隷かもしれんが、ロイドは労働者程度に捉えておいた方が無難だということが分かったよ」
敷島:「おおっ?!……さっきの記者会見と言ってることが違くないですか?」
鷲田:「キミ、ちゃんと私の会見を聞いていたのか?さすがの私も、ロボットとロイドを区別するようにしてるよ。ところがKR団は違うだろう?さっきの新生旗揚げ宣言を聞いてみても、やはりロボットとロイドをごちゃ混ぜにしているようだ」
敷島:「エミリーとシンディのこと、評価してくれるんですね?」
鷲田:「ああ。だが、調子に乗るなよ?もしまた人間に危害を加えるようなことがあったら、容赦無くバラバラにしてやる。もちろん、キミも使用者責任でムショに入ってもらうことになる」
敷島:「ええ、分かってますよ。何かいつの間にか、『アンドロイドマスター』の称号が与えられてるみたいで、まあ、頂いてるからにはそれに恥じないようにやりますよ」
鷲田:「その意気だ。それで、早速本題だが……」
敷島:「何でしょう?」
鷲田:「どうもあのサーカス団は、新KR団のフロント企業だったみたいだな。団長の遺体はルディの自爆に巻き込まれて、完全に黒焦げ&バラバラ死体だ。だが、追跡から車で少し逃げたおかげで、サーカス団のテント自体は半壊程度で済んだ。で、警察でそこを調べたんだが……。どうも、胡散臭い所と繋がっている証拠がわんさか出て来た」
敷島:「そうですか。それが、新KR団だと……」
鷲田:「それと生き残ったロボット達が証言していた。ルディが暴走した原因は、面倒を見てくれた先輩ロボットを団長によって無残に破壊された怒りによるものらしいな」
敷島:「その先輩ロボットって……?」
鷲田:「ああ、失礼。ロイドだったな。あの、空中ブランコの技を披露していた……マーガレットってヤツだったかな」
敷島:「確かに千秋楽の時、失敗してブランコから落ちていたけど……。それで壊れたようには見えなかったが……」
鷲田:「壊されたんだろ?だから、ブチ切れたってわけだ。ったく、そういう所まで人間に成り済ます必要は無いというに……!」
敷島:「…………」
鷲田:「なあ、敷島社長よ。人間そっくりのロボットをロイドと称するのは構わんが、人間並みの感情を持たせるというアイディアは誰が考えたんだ?」
敷島:「えーと……南里所長……ですか?あと、十条兄弟とかドクター・ウィリーとか……」
鷲田:「私が思うに、その理由はキミが考えているほどポジティブなものではなく、もっとネガティブに理由なんじゃないか?」
敷島:「そんなことは知りませんよ。私はポジティブに考えていますし、彼女達もそのようにしてくれています。南里所長達は違うことを考えていたのかもしれませんが、今は今の路線で行って間違い無いと思っていますので」
鷲田:「そこまでの自信があるのなら別にいいんだがね。とにかく、気をつけたまえ。旧KR団は、なるべく普通の人間を巻き込まないようにしていたが、新生旗揚げを宣言しやがったバカ共は、人間を巻き添えにすることも厭わないみたいなことも言ってる」
敷島:「もちろん、気をつけますよ」
敷島は電話を切った。
エミリー:「食事が・終わりましたら・お風呂の・準備を・致しますか?」
敷島:「ああ、頼むよ」
エミリー:「かしこまりました」
敷島:(俺の目が黒いうちは、俺をユーザーやオーナーと認めているロイド達を暴走させたりゃしねーよ)