報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ロボット大サーカス」 2

2016-12-06 19:38:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月5日18:00.天候:晴 東京都江東区臨海部分 タクシー車内]

 敷島とシンディはマンスリーマンションに帰宅する為、タクシーに乗っていた。

 敷島:「何だって?あのピエロが?」
 シンディ:「ええ。一瞬、ルディの反応がしたの」
 敷島:「何で、ルディがサーカスなんかにいるんだよ?」
 シンディ:「分からないけど……」
 敷島:「……待てよ。確かジャニスとルディは俺達を出し抜いて、フィリピン行きの貨物船で密航したはずだ。で、どういう経緯だか分からないが、麻薬組織で使われることになった。ところが態度が悪い姉弟は、恐らくボスの不興でも買って、壊されることになったんだろう。ジャニスは見事に壊されたけども、ルディは逃げ延びた。……というところまでは想像が付くよ。で、どうしてサーカスに?」
 シンディ:「あのサーカス、ここへ来る前はフィリピンで興行してたんでしょう?きっとルディが紛れ込んだんだわ」
 敷島:「何でわざわざ日本に?あいつは俺達から逃げてフィリピンに行ったんじゃないか。わざわざ戻ってくる動機があるのか?」
 シンディ:「きっと、私達に復讐する為よ。今はサーカスのピエロとして働きながら機会を伺ってるんだわ」
 敷島:「そうかなぁ……???」
 シンディ:「あのピエロに会えないかしら?」
 敷島:「ちょっと待て」

 敷島はパンフレットを開いた。

 敷島:「木曜日は休演日とあるな。恐らく団長が休みたいのと、ロボットのメンテナンスでもあるんだろう。この時を狙ってみるか。……あ、そうだ」
 シンディ:「なに?」
 敷島:「リンとレンも、水曜日はあまりスケジュールが入ってないな。ボーカロイドで唯一、ルディ達と会った奴らだ。あいつらにも照合してもらおう」
 シンディ:「そうね。それがいいわ。姉さんも呼んだら?」
 敷島:「平賀先生がこっちに用事がある時じゃないと無理だよ」
 シンディ:「動画を姉さんに送信するわ。それで照合してもらいましょう」
 敷島:「動画ってお前、公演は撮影禁止だぞ?」
 シンディ:「しょうがないじゃない」

 シンディは左目を指さした。
 そこにはシンディが見た物をメモリーに記録するカメラが内蔵されている。

 敷島:「……なるほど。ま、仕様だからしょうがないか」
 シンディ:「そういうこと。いいでしょ?」
 敷島:「ああ、頼んだぞ。……ていうか、俺も平賀先生に連絡だけはしておくか。信じる信じないはあなた次第ですってな」

[同日19:00.天候:晴 ロボット大サーカス・関係者専用エリア]

 アレックス(ルディ)はショーに使用するトラのロボットを洗っていた。

 サンダーボルト:「よっ、新人。ちゃんとやってるか?」
 アレックス:「はい!」
 サンダーボルト:「んー?あー、これじゃダメだ。汚れが落ちてないぞ。もっとちゃんと力を入れて磨け」
 アレックス:「はい!」

 アレックスはサンダーボルトに言われた通り、力を入れてガシガシ洗った。

 団長:「おい、マーガレット。あの新米ロボットはちゃんとやってるか?」
 マーガレット:「ええ。あそこで白いトラを磨いてますよ」
 団長:「は?白い?うちにホワイトタイガーのロボットなんていたか?」

 団長は真っ白いトラのロボットを磨いているアレックスに近づいた。

 団長:「おい、アレックス。何だこの白いのは?」
 アレックス:「あ、団長。黒と茶色の汚れを落としたところです」
 団長:「そうかい、そいつぁ感心だなぁ……って、このドアホ!それは汚れじゃねぇ!塗装だ!お前は塗装と汚れの区別も付かんのか!クビだ、クビ!!」
 アレックス:「はい、首」

 アレックス、トラロボットの首を外して団長に渡す。

 団長:「バッキャロ!ふざけるな!お前なんかこうだ!!」

 団長、アレックスに電気鞭を振り下ろす。
 だが、アレックスがそれを瞬時に避けた為、鞭は機器が剥き出しになったトラロボットの首の中に当たった。
 ロボットに流れている電気が、鞭を通して団長に……。

 団長:「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーっ!」
 マーガレット:「あら、感電しちゃった。ドジねぇ、全く。あははははははっ!」
 アレックス:「ごめんなさい。つい、避けちゃった」
 マーガレット:「あなた、いいフットワークしてるわねぇ。訓練すれば、きっと高度なショーに出られるようになるわ」
 団長:「その前に俺の身とカネが持たねぇよ!勘弁しやがれ!!」

[12月6日10:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 鏡音レン:「鏡音レン、入ります」
 鏡音リン:「な、なぁに……?リン、何も悪いことしてないYo〜?」

 社長室に入る鏡音リンとレン。

 敷島:「ああ、いや。別に説教ってわけじゃない。……ってかリン、お前、何かやましいことでもあるのか?」
 リン:「し、してないよ……何も」
 シンディ:「後でメモリーチェックやるからね」
 リン:「ええーっ!?」
 レン:「あ、あの、それより、何の話でしょうか?」
 敷島:「ああ。お前達、いつも仕事頑張ってくれてるからな。今度の水曜日はあまりスケジュールも入ってないみたいだし、今話題のロボットサーカスに連れて行ってやろうと思って」
 リン:「ええーっ!?リン、サーカスに売られちゃうの!?あんまりだYo〜!もうイタズラしないから許してぇ!」
 レン:「取りあえず、僕ができるのはバック宙ですが、空中ブランコとかできるかなぁ……」
 敷島:「いや、あの……『サーカスに出てもらう』とは言ってないからな?観客として連れて行ってやるって話だ」
 リン:「えっ?」
 レン:「と、言いますと?」
 敷島:「確かにお前達はボーカロイドの中でも、1番高い身体能力を持っている。そういうお前達から見て、サーカスがどんなものなのかを勉強してもらう。ロボット団員達がどういう動きをしているのか、それを勉強してもらって、次のライブとかに生かしてもらうというのが目的だ」
 リン:「なーんだ。心配して損したYo〜!」
 レン:「なるほど。ボクもバック宙以外に、何かやりたいと思っていたところです。サーカスの技を少しでもライブで披露したら、もっと盛り上がりますもんね」
 敷島:「そういうことだ。井辺君とマネージャーの吉井君には俺から言っておくから」
 シンディ:(本当は違う目的があるんだけどね。それにしても、まさか本当に平賀博士と姉さんまで来るなんて……。これで実は私の照合エラーでしたなんてなったら、姉さんに張り倒されそうな気がするなぁ……。『シンディ、敷島社長と・平賀博士の・貴重な・お時間を・無駄に・使わせるとは・良い度胸だ。タダで・済むと・思うな』なんて、胸倉掴まれて……)
 敷島:「ん、どうした、シンディ?フリーズしちゃって?」
 リン:「シンディ、顔が蒼くなってるYo?」
 レン:「何だか知りませんが、出力が低下してるみたいですよ、社長?」
 敷島:「やっぱりシンディのオーバーホール、年内にやった方がいいかなぁ……?」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「ロボット大サーカス」

2016-12-06 10:13:21 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月5日16:00.天候:晴 東京都内・臨海副都心(お台場)ロボット大サーカス会場]

 敷島:「平日にちょこっと視察するつもりが、最高顧問の爺さんに呼び出されたせいで、最後の部になってしまった」
 シンディ:「いいじゃない。このまま直帰できるでしょう?」
 敷島:「会社の方で何も無ければな」
 勝又:「やあ、どうもどうも!」
 敷島:「勝っちゃん!」
 勝又:「私もクール・トウキョウ推進委員会の1人だからね、こっそり視察に来た」
 敷島:「勝っちゃんの場合、都議会議員なんだから、堂々と視察の申し込みをしてVIP対応してもらったら?」
 勝又:「いや、そういうわけにはいかない。さ、早く入ろう」

 敷島達は普通にチケットを提示して、会場の中に入った。
 公演はだいたい2時間くらい行われる予定とのこと。

[同日17:30.天候:晴 同場所]

 敷島:「鉄腕アトムではロボット人権宣言が出されて、こういうサーカスは批判の対象になっていたが、今はどうなんだろうね?都条例レベルでいいから、ロイド人権保護条例とか無いの?」
 勝又:「いやぁ、無いねぇ……。俺が上に提案しても、『漫画とアニメの見過ぎだ!』と一蹴されるだけだ」
 敷島:「実際にアトムレベルのロボットが世に出ない限りは無理か」
 勝又:「そうだねぇ……」
 シンディ:「…………」(←アトムレベルというか、それに近いロイドがいるのだが、近過ぎてすっかり忘却レベルの敷島達)

〔「さあさあ、皆様!お待たせ致しました!ここでいよいよ、当サーカスの花形スター、ミスター・サンダーボルトの登場です!」〕

 敷島:「おっ、公演終了30分前でデカいのを一発やる。ボカロのイベントと流れは似てますな」
 勝又:「ま、興行師の考えることは基本同じってことだろう」
 シンディ:「何をやるのかしら?」

 と、そこへ大型バイクのエンジン音が会場内に響いた。
 今や、サーカスでバイクのスタントショーを行うのはベタな法則になってきてはいる。
 実際のこのサーカスでも、ロボット団員によるバイクスタントが行われた。
 それを今一度やろうというのか。

 10メートル上の台に駆け登る1台の大型バイク。
 その台からは、バイク1台分がやっと通れる幅の通路があり、その先には……。

 敷島:「げ!?」
 勝又:「おっ?!」
 シンディ:「!!!」

 ライオンなどの猛獣にさせる火の輪潜りの火の輪。
 これが3つ並べられた。
 当然、火が点く。

 尚、観客からは見えないバックヤードでも、その様子を見守る者がいた。

 アレックス(ルディ):「マーガレットさん、さっきの空中ブランコ、とても盛り上がってたよ」
 マーガレット:「ありがとう」
 アレックス:「それにしても、サンダーボルトさん、本当に凄いや。あんなことができるんだもんなぁ……」
 マーガレット:「そうね。人間のサーカス団員でも、あれができるには相当の訓練が必要だけど、ロイドでもできる者は限られてるわ。最低でも1万分の1秒まで測れる能力は必要ね」
 アレックス:「そうなんだー。(……あれ?僕も測れるぞ?)」

 と、ついにサンダーボルトがバイクを発進させた。
 タイヤが1個分の幅しか無い通路を急加速で進む。
 そして、ついに火の輪の中に飛び込んだ。
 向こう側の台に着地するが、それだけでは終わらない。
 更に何往復も行う。
 その度に火の輪の数が増えて行き、ついに5連となった。
 それも、難無く潜り抜ける。

〔「皆さん、サンダーボルトのアクションはこれだけではございません。最後のプログラムにて、最も危険なショーをお目に掛けます。それはサンダーボルトの名に相応しいスタントショーであります。どうかお楽しみに!」〕

 再び観客席へ……。

 敷島:「そうか!ここは公道じゃないから、ロイドが車やバイクに乗ってもいいのか!」
 勝又:「そうだよ。なに、今頃気づいたの?てか、キミん所だって、ボーカロイドを自転車に乗せてるじゃん?」
 敷島:「えー……と……」
 シンディ:「社長、“千本桜”」
 敷島:「お、そうだった!」

 初音ミクの持ち歌“千本桜”、歌詞の中に自転車が登場することから、ライブでもミク自身が乗ったり、コーラスとして出ている鏡音リンやレンが乗ったりしている。

 敷島:「ん?なに?じゃ、ボカロが公道でチャリ乗ったら違反なの?」
 勝又:「いや、別に自転車は今のところ免許は要らないからいいんだけどね……」

 客にも緊張感を強いるスタントショーの多いロボットサーカス。
 その緊張感をほぐす役割を担うのが、ピエロの寸劇である。
 このサーカスにもそれは存在する。

 勝又:「あっ、いけない。今夜、党本部主催の会食があるんだった。そろそろ行かなくちゃ」
 敷島:「議員さんは大変だね。その会食も、キミが国会議員になる為のフラグ立て?」
 勝又:「……だといいんだけどね」
 敷島:「もし国会議員選挙に出るんだったら投票するよ」
 勝又:「ありがとう」
 シンディ:(社長の場合、それでも埼玉県選出の候補者しか投票できないんじゃ……?)
 敷島:「シンディ、勝又センセーを見送るぞ」
 シンディ:「はい」

 シンディは人間2人と共に席を立った。
 ちょうど背後では、小柄な体型のピエロが寸劇を行っている。
 なかなか上手くやっているのか、時折観客席から笑いが起きた。

 シンディ:「!?」

 シンディはバッと背後を振り向いた。
 記憶のファイルの中に適合する者とよく似た反応があったからだ。
 それはルディ。

 シンディ:(あのピエロ?まさか……)

 あいにくとピエロは、それ自身が着ぐるみなのか、顔で判断することはできなかった。
 スキャンしようにも、だいぶ離れているのでそれができない。

 敷島:「シンディ、何やってるんだ?早く来い!」
 シンディ:「あ、はい!」

 シンディは後ろ髪を引かれる思いで、会場をあとにした。

 勝又:「なかなか面白いショーでした。内容は他のサーカスでもやっていそうものばかりでしたが、それをロボットにやらせるというアイディア自体は悪い物では無いと思いましたね」
 敷島:「うちのボーカロイドも人間のアイドルと似たようなことばかりなので、いつ飽きられやしないかと冷や冷やしていますよ。時々ミュージカルとか、演劇関係にも出させてもらって、ボカロにできて、人間にはできないことを模索しているところです」
 勝又:「いいことだと思います。クール・トウキョウに御協力お願いします。それじゃ、また」

 勝又はタクシーに乗り込んだ。

 敷島:「じゃあ、俺達も帰ろうか」
 シンディ:「あ、あの、社長……」
 敷島:「何だ、どうした?」

 シンディが言い難そうな顔をしている。
 久しぶりにその顔を見る敷島は、興味深そうにシンディの顔を覗き込んだ。
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