報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「アンドロイドマスター候補者」

2016-12-22 21:01:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月17日18:00.天候:晴 JR大宮駅・ルミネ大宮]

 敷島達はルミネ大宮の中にある寿司店に入って夕食を取っていた。

 敷島:「平賀先生、うちのミクについてですが、どうも兵器としての機能もあるようですな」
 平賀:「初音ミクがですか?」
 敷島:「アリスから、ウィリーがどうしてボーカロイドを狙っていたのかの真相が分かりましたよ」
 平賀:「ああ……。それについては、自分も何となく想像は付いていたんです」
 敷島:「えっ!?」
 平賀:「今の敷島さんはボーカロイドをちゃんとした用途で活用して、しかもその性能を最大限に引き出しておられます。完璧です。だからこそ、余計なことは言わない方がいいのかなと思ったんです」
 敷島:「そうだったんですか。知らなかったのは私だけだったとはっ!」

 敷島は不快そうな顔をして、玉子焼きを口の中に放り込んだ。

 平賀:「いや、もちろん、自分も単なる想像です。だが、当たらずも遠からずだったようです」
 敷島:「どうしてそう思ったんですか?」
 平賀:「敷島さんも御存知の通り、初音ミクが日本で1番最初のボーカロイドではありません。その前に試作機であるMEIKOやKAITOもいました。もちろん、敷島さんが南里研究所に来られた時点で、既にウィリーの手に渡っていたわけですが……。でも、時期を同じくして鏡音リンやレンも稼働していたんですよ。その管理をナツにやらせて、どうして敷島さんは初音ミクだったんだろうと疑問に思いました。南里先生に聞いたら、『初音ミクの管理ができるのは敷島君だけだからじゃ』という答えしか返ってきませんでしたね。『フィールドテストを行うから、それでキミも分かるよ』ということでした。実際それで敷島さんが上手く立ち回ってくれたので、自分もそこで納得していたわけですが……」
 敷島:「他にもあるんでしょう?」
 平賀:「ええ。ただ、自分も確証は持てなかったので……」
 アリス:「確かに初音ミクにだけリミッターが付いていて、それを外すと、じー様のテロ願望を満たす結果になるんでしょうね。人間の脳幹を停止させる歌声を出すほどの」
 平賀:「そうなのかっ!?」 
 アリス:「じー様がそう言ってたよ。でも結局、初音ミクは手に入らなかったから、断念したって感じかな」
 平賀:「初音ミクを管理できるのは敷島さんしかいない。南里先生の仰る通りでしたね。さすが先生だ」
 敷島:「……そのリミッターを外す方法、エミリーは知ってるんですよ」
 平賀:「ほお……?」
 敷島:「もちろん、無闇やたらに教えるつもりは無いようです」
 平賀:「そりゃそうだ。ちゃんと南里先生は考えてらしてるんですね」
 敷島:「アンドロイドマスターって何ですか?」
 平賀:「敷島さんみたいな人のことを言うんですよ。敷島さんはエミリーとシンディを手なずけています。ボーカロイドからの信頼も厚い。並みの人間ではできないことです。特に、マルチタイプは人を見ますからね。シンディがいい例でしょう?」
 敷島:「そうですね」

 敷島はクイッとビールのグラスを空けると、

 敷島:(それ以上にエミリーがだよ!)

 という言葉も一緒に飲み込んだ。

 アリス:「あのシンディを使いこなしてるんだから、大したものだわ」
 平賀:「ホントにねぇ……。自分なんかエミリーだけで手一杯なのに……」
 敷島:「はあ……。(2人とも、そのエミリーからナメられてますよ)」

 敷島はシンディが狡猾かと思っていたのだが、それ以上に周囲の者全員を騙していたエミリーが凄いと思っている。
 持ち主の平賀を騙し切っているくらいだ。

[同日20:00.天候:晴 ルミネ大宮→JR大宮駅]

 食事が終わった後で、敷島達は平賀達を送るべく、乗り場の方へ向かった。

 平賀:「今日はどうも御馳走様でした。エミリーはシンディの代わりになれましたか?」
 敷島:「十分です。いや、十二分といった方がいいかもしれません」
 平賀:「そうですか。それは良かったです。もし、またエミリーが必要になったら言ってください。いつでもお貸しします」
 敷島:「ありがとうございます」

 敷島はエミリーをチラッと見た。
 エミリーはニッと笑った。
 飲食店を出た時、エミリーは丁寧に敷島に対して無礼なことを言ってしまい、申し訳無かったと謝罪した。
 それに対し、驚いたのは平賀だった。
 シンディと同様、まさかエミリーが敷島に無礼なことを言うとは思わなかったらしい。
 敷島は慌てて、それを打ち消した。
 自分があまりにも無知であったことに対する憤りであって、別にエミリーの言に腹を立てたのではないと。
 もちろん実際は、半分以上はエミリーの言動に腹が立ったのだが。
 ニッと笑うくらいはいつものエミリーでもあることなのだが、既に本性を知ってしまった敷島には、エミリーが別のロイドに見えてしまった。

 改札口で平賀とエミリーを見送った後、敷島達は西口のタクシー乗り場に向かった。

 シンディ:「あの、社長……」
 敷島:「何だ?」
 シンディ:「姉さんのこと、許してあげてください。姉さん、時々、物凄くストレートな言い方をすることがあるんで、もしかしたら、それで社長を怒らせてしまったかなって……」
 アリス:「いいのよ。タカオなんか、たまにストレートで言ってやんないと分かんないんだから」
 敷島:「悪かったな!……俺達が飯を食ってる間、エミリーと何か話したか?」
 シンディ:「そりゃあもう……」
 アリス:「そりゃ姉妹なんだから会話くらいあるよ。ね?シンディ」
 シンディ:「はい。あの……」

 シンディは物凄く言い難そうな顔をした。

 敷島:「いいよ。言ってくれ。ただ、俺も想像はつく」
 アリス:「なに?なに?」
 シンディ:「はあ……実は……」
 敷島:「エミリーが俺の所で働きたいって言ってるんだろう?」
 シンディ:「姉さんが社長に仕えたいと……あっ!」
 アリス:「なに?エミリーがタカオの所で働きたいって?」
 シンディ:「ええ。でも今は、姉さんは平賀博士がオーナーです。オーナー登録の二重登録は禁止されています」
 敷島:「まあ、そうだな」
 アリス:「確かにタカオとエミリーは長い付き合いだけど、どうして急に?」
 シンディ:「それは……」
 敷島:「記念館暮らしが退屈になったんだろう。科学館と違って、訪れる人も少ないしな」

 敷島はそう言って、タクシーにさっさと乗り込んだ。
 敷島の隣にアリス、助手席にシンディが乗り込んだ。
 シンディが運転手に行き先を告げて、タクシーが走り出した。

 シンディ:(きっと姉さん、社長にはっきりと言ったんだわ。社長に仕えたいって。平賀博士のことなんかどうでもいいからみたいなことも言ったんだ。それなら社長、怒るわ)

 シンディはそう思った。
 だいたい合っている予想だ。
 そこはさすが姉妹というべきか。

 敷島:(取りあえずは保留に持ち込んだが、エミリーのことだ。また今度会った時には、今度こそ迫ってくるだろう。もちろん拒否する権利はあるだろうが、エミリーの性格からしてそれすら拒絶するだろう。シンディが止めてはくれるだろうが、マルチタイプ同士が戦ったりしたら……怖すぎる。マズイな……。エミリーのヤツ、今までロボットのフリしていただけだったとは……想定外だった)

 多くのロイド達から慕われるようになった敷島。
 だが、そんな人格者が直面した問題。
 これにどう敷島は対応するのか。
 悩みはしばらく尽きないようだ。
コメント (2)
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