報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「アンドロイドマスターの苦悩」

2016-12-18 21:24:44 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月13日16:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 アリス:「取りあえず、17日の土曜日にはシンディを起動させるわ。あなたも立ち会ってね」
 敷島:「ああ、分かった」
 アリス:「エミリーは上手くやってくれるんだろうけど、相変わらずアタシからのアクセスが拒否されるの。ねぇ、何とか言ってくれる?」
 敷島:「心配無いよ。俺は仕事が終わったら、ちゃんと真っ直ぐ帰ってる。エミリーだって、俺の監視状況をメモリーに保存してるんだから、もし俺が変な動きをしたらすぐにバレるさ」

 敷島は事務所の中で、アリスからの電話を受けていた。

 敷島:「なあ、アリス」
 アリス:「なに?」
 敷島:「ウィリーは何か言ってなかったか?マルチタイプのことについて……」
 アリス:「シンディのことについて?」
 敷島:「あ、いや、シンディだけじゃなくて、マルチタイプ全体のことについてだ」
 アリス:「……何かあった?」
 敷島:「いや、ふと疑問に思っただけさ」

 敷島はチラッと社長室内に控えるエミリーを見た。
 エミリーはいつもの無表情で敷島を見ているだけだった。

 敷島:「や、やっぱり、アレだよな。マルチタイプみたいなものを一番最初に造るに当たって、やっぱり試作機とか製造しただろうな?やっぱ……」
 アリス:「あー、そうかもね。でもどうせ、とっくに処分されて無くなってるでしょ?」
 敷島:「どうしてそう言える?」
 アリス:「どうしてって……。量産機ですら半分以上が処分されたわけでしょ?ましてや、試作機なんて……」
 敷島:「俺は、その試作機が今でもどこかに保管されていて、誰かに再起動されるのを待っているんだと思っているよ」
 アリス:「……ねぇ、どうしたの、急に?何か情報でも入ったの?」
 敷島:「……なんて、ドラマの見過ぎかな。いや、悪い。ここ最近、うちのボカロ達がドラマや映画に出るようになったからさ」
 アリス:「ボーカロイドは歌を歌わせるのが使命なんだから、そういうのじゃなく、もっと歌を歌わせなさい」
 敷島:「もちろん、歌の仕事はちゃんと取ってるさ。うちの事務所も更にボカロを増員する予定だし、新曲だって音楽プロデューサーが続々と作って持って来てくれている。何も心配無いよ。……ああ、それじゃ」

 敷島は電話を切った。

 エミリー:「アリス博士は何も知らないと思いますわ。可哀想な人。ドクター・ウィリーに利用されるだけ利用されて、肝心なことは何も聞かされていない」

 無表情だったエミリーが冷たい笑みを浮かべて言った。

 敷島:「ウィリーとはそういうヤツだったんだ。しょうがない」
 エミリー:「そして、社長も南里博士からは聞かされていなかったのですね」
 敷島:「どこかで産業スパイやってたの、バレたかな?」
 エミリー:「そもそも、そこまで信頼されなかっただけだと思いますわ」
 敷島:「ちっ……」
 エミリー:「それで、分かりましたか?私が話した秘密の真相……」
 敷島:「さっぱり分からん。いいよ、もう。俺からアンドロイドマスターの称号を剥奪してくれても」
 エミリー:「そうはいきませんわ。あなたは私やシンディが見込んだ御方です。そう簡単に諦めて頂いては困ります」
 敷島:「そんなこと言ったって、じゃあシンディに聞いたって分からんってオチだろう?」
 エミリー:「そこはシンディも量産型ですから」

 と、そこへ社長室のドアがノックされた。
 エミリーがドアの所に行って開けた。

 初音ミク:「失礼します」
 エミリー:「何の・用だ?社長は今・お忙しい」

 エミリーはいつもの口調に戻った。
 敷島にはこのロボット喋りがダミーで、さっきまで見せいていた喋り方が実はエミリーの本性ではないかと思うようになってきた。
 だいいち、シンディを含め、他の復元されたことのあるマルチタイプを見ても、ちゃんと滑らかな口調なのに、エミリーだけロボット喋りというのもおかしかったのだ。
 古い音声ソフトを使っているから、というのは当てはまらなかったのだ。

 ミク:「ご、ごめんなさい。また後で……」
 敷島:「いいよ!エミリー、入れてやってくれ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーは半分だけ開けていたドアを大きく開けた。
 ミクがトコトコと入って来る。
 それまで眉を潜めていた敷島だったが、ミクが近づく度に柔和な顔付きになった。

 ミク:「社長、お忙しいところ、ごめんなさい」
 敷島:「いいよ。で、どうした?」
 ミク:「わたしのオーバーホールの事なんですが……」
 敷島:「ミクもそろそろだったな。お正月新春特番の生番組に間に合うようにしないといけないか。……明日、時間空いてるのか」
 ミク:「はい。急な話ですけど、いいですか?」
 敷島:「いいよ。後でDCJさんに連絡しておこう。科学館さんも喜ぶよ」
 ミク:「はい」
 敷島:「来年からはまたお前の後輩も増える。頑張ろうな」
 ミク:「はい!……あの……」
 敷島:「ん、何だ?まだ何かあるのか?」
 ミク:「は、はい。あの……」

 ミクはエミリーの方を見た。

 敷島:「エミリーがいない方がいいのか?」
 エミリー:「……?」

 エミリーは眉を潜めた。

 敷島:「まあいい。エミリー、ちょっと席を外してくれないか?」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーは素直に社長室を出た。

 敷島:「まあ、座って話そう」

 敷島は室内にある応接セットを勧めた。
 敷島とミクが向かい合って座る。

 ミク:「何だか夢みたいです。わたしと社長が出会ってから、もう何年もの月日が経ちました」
 敷島:「そうだな。時間が経つのは早いものだ」

 敷島は机の上に置かれていた写真立てを持って来た。
 南里研究所時代に撮影した集合写真。
 敷島の隣にミクが写っていた。
 撮影したのは平賀だから、この中に平賀は写っていない。
 エミリーは南里の隣に立って、無表情である。
 満面の笑みを浮かべている南里やボカロ達と比べると浮いている。
 そこで敷島はハッと気づいた。

 敷島:「俺は最初、ミクがボーカロイドだと知らなかった。一体、何ができるロボットなんだろうって思った」
 ミク:「わたしも実は、自分が何ができるのか分かりませんでした。だけど、たかお……社長が流してくれた音楽を聴いて、それを歌いたいと思ったんです」
 敷島:「そうか。最初はお前だけだったもんな。それがいつしかリンとレンが加わって、ルカが加わって……」

 そこでまた敷島、気づいたことがあった。

 敷島:「KAITOとMEIKOは最初、ウィリーに捕まってたんだっけ。それを俺達で救出した……」
 ミク:「はい。あの時のたかおさん、かっこ良かったです」
 敷島:「いや、俺は良かれと思ったことをエミリーに言っただけに過ぎない。実際に救助したのはエミリーと、サポートに当たった平賀先生だよ」
 ミク:「ルカを助けたたかおさんもかっこ良かったです」
 敷島:「ウィルスが原因じゃないかって直感が働いて、所長に進言しだけたのことさ。それがたまたま当たっただけのことさ」
 ミク:「いいえ。わたし、たかおさんは立派なアンドロイドマスターだと思っています」
 敷島:「ミク?お前、どうしてその言葉を……?」
 ミク:「分かりません。何故だか、最初からわたしのデータに入っていたんですよ」
 敷島:(これもエミリーが言ってたヤツか……)

 そこへエミリーが入って来た。

 エミリー:「もう・よろしい・ですか?」
 敷島:「ああ」
 ミク:「あっ、ごめんなさい!」

 ミクはバッと立ち上がった。

 敷島:「たまには昔懐かしの話でもしたいものだよ。エミリー、お前も良かったら昔の話でもしようや?」
 エミリー:「後で・お付き合い・します」
 ミク:「失礼しました」

 ミクは社長室を出て行った。

 敷島:「ミクもアンドロイドマスターという言葉を知っていた。そして、俺をそうだと認めると……」
 エミリー:「ボーロカイドのほぼ全員が、あなたをそうだと認めています」
 敷島:「もう1度、アリスに聞いてみる」

 敷島は自分のスマホを手に取った。
コメント
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