報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「決断」

2016-12-19 19:48:39 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月17日13:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 敷島:「お、来たか」

 科学館の業務用駐車場に1台のミニバンが到着する。
 中から降りて来たのは、運転してきたマネージャーの篠里と、後ろに乗っていた初音ミクだった。

 ミク:「たかお社長!」
 敷島:「無事に到着したな。篠里君、ご苦労さん」
 篠里:「いえ、これも業務命令ですから。人間のアイドルのマネージャーには無いことですよ」
 敷島:「だろうな」

 ミクのオーバーホールは、仕事の関係でこの時間に行われる。
 通常の整備はDCJから敷島エージェンシーに派遣されている技術者が行うが、オーバーホールなどの本格的なものについてはここで行われる。
 本来はもっと前に行われるはずだったのだが、スケジュールの都合で今日になった。

 マリオ:「道ヲ開ケテクダサイ!」
 ルイージ:「取材ハ拒否シマス!」

 アリスが製造したバージョン5.0の兄弟、赤い塗装のマリオと緑の塗装のルイージがミクの護衛に当たる。

 敷島:「おい、バックヤードじゃ集る人もマスコミもいねーよ」
 シンディ:「全く。こいつらは……」

 マリオとルイージに大げさに護衛をされながら、ミクは研究室に入った。

 エミリー:「社長。プロフェッサー平賀は・夕方に・こちらに・参ります」
 敷島:「わざわざ取りに来てくれるの?」
 エミリー:「本日は・東京都心大学に・特別講義に・来て・おります。その・帰りに・寄るそうです」
 敷島:「そうなのか。じゃあ、エミリーを借りた御礼をしないとな」
 シンディ:「御馳走の準備をしないとね」
 敷島:「いや、平賀先生と夜のナンギン(大宮駅東口南銀座。主に飲み屋街))とキタギン(大宮駅東口北銀座。主に風俗街)を楽しむのだ!」
 シンディ:「ほほぉ……。マスターに報告しておくわ」
 エミリー:(アンドロイドマスターたるもの、遊びも全力ということね)
 シンディ:「アルエットの自爆装置は取り外したの?」
 敷島:「ああ。水素電池駆動が危険だって流布されたもんだから、アルエットの場合は大慌てさ。とはいえ、今さらアルエットをバッテリー駆動に改造なんかできないから、自爆装置だけ取り外してな」
 シンディ:「良かった。アルエットがお蔵入りにされなくて……」
 敷島:「最初はそうだったんだ。倉庫に閉じ込められて、アルエットのヤツ、気を落としてたもんな」
 シンディ:「やっぱり!?」
 敷島:「強化ガラス張りのブースに置くことにしたんだけど、ルディのあの大爆発ぶりだろ?強化ガラスったって、無理だよな」
 シンディ:「だよねぇ……」
 敷島:「自爆装置は取り外したし、元々ここはそういったロボットの実験施設だった所なんだから、大目に見てくれということにした」
 シンディ:「よくそれで通ったわねぇ……」

 敷島はチラッとエミリーを見た。

 敷島:「ボカロ達のおかげさ」
 シンディ:「えっ?」
 敷島:「とある音楽家に頼んで、1曲作ってもらったんだ。その歌をミクに歌わせたら、アルエットが爆発しないか心配する声は激減したよ」
 シンディ:「ボーカロイドの歌は人間の心に響くって言われるものねぇ……」
 敷島:(ヘタすりゃ人間の脳幹までストップさせるんだとよ)

 敷島は何も知らぬシンディに、心の中でツッコミを入れた。
 エミリーは微笑を浮かべているだけだったが、まるで自分だけが知っている者だという優越感に浸っているような気がした。

 敷島:「それだけじゃない。ロボットの活動まで止めるくらいだ。東京決戦の時、ミクの歌が頭の中に響いてきてノビてたんだろ?」
 シンディ:「よく分かったわね。頭が割れるように痛くなって、気持ち悪くなって、もうオイルやら何やら吐き散らしてたよ」
 敷島:「もしかして、ミクのあの歌はロボット達が聴くと、まるでジャイアンの歌のように聴こえるのか?」
 シンディ:「どうだろうねぇ……」

 敷島達が展示室エリアに行くと、アルエットが満面の笑みを浮かべながらやってきた。

 アルエット:「わあ!またお姉ちゃん達と会えたー!」
 シンディ:「ちょっとツラいことがあったけど、もう心配無いよね?」
 アルエット:「うん!」
 エミリー:「いい子に・してたか?」

 アルエットはシンディに抱きつき、エミリーはアルエットの頭を撫でていた。

 敷島:「優秀なお前をお蔵入りにはさせないからな」

 敷島もまたアルエットの頭を撫でた。

[同日15:00.天候:晴 ロボット未来科学館]

 敷島:「ああ、そうか。……うん、分かった。じゃあ、そういう方向でスケジュールを調整しといて。……ああ、よろしく」

 敷島は通用口の外で事務所と電話をしていた。
 早速、再起動したシンディが脇に控えていたのだが、そこへエミリーがやってきた。

 エミリー:「ちょっと・社長と・話が・したい。席を・外して」
 シンディ:「私が伝えておくよ。なに?」

 するとエミリー、眉を潜めた。

 エミリー:「直接・話が・したい」
 シンディ:「わ、分かったよ」

 シンディは慌てて館内に入り、代わりにエミリーが敷島に近づいた。

 敷島:「……あ、マルビプランニングの飯田さん、いつもお世話になっております。……はい、今度の企画の件について、うちのボカロを出させて頂くという件ですね。現在のところ、空いているのはMEIKOとルカになりますが、どちらに……」

 敷島は今度は付き合いのある制作会社の担当者と電話をしていた。
 エミリーは無表情でゆっくりと敷島に近づいて行く。
 そして、スリットの深いロングスカートの間から覗く右足の脛から何かを取り出した。
 それは大型ナイフ。
 まるで前期型のシンディが振るっていたそれそのものだ。
 エミリーはそっと敷島に近づき……。

 1:ナイフを振り上げた。「お前はアンドロイドマスター失格だ。だから死んでもらう」
 2:ナイフを敷島に渡した。「あなたをアンドロイドマスターと認めます」
 3:ナイフを再びしまった。「いや……。現時点では、まだ判断できない」
 4:ナイフを持ったまま立ち尽くした。「ブロックが掛かっている?どういう意味だ?」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「ボーカロイドは兵器?」

2016-12-19 14:43:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月17日09:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 敷島はシンディの再起動に立ち会う為、科学館に来ていた。
 傍らにはエミリーが付き添っている。
 敷島には本当の顔を見せているが、アリスを含む他の者には一切それを見せていない。
 今ではもう確信している。
 エミリーがマルチタイプでありながら、どうしてロボットのように振る舞っていたのかを。
 登録されたオーナーをも超越するアンドロイドマスターの称号を得た人間が現れるまで、待ち続けていたのだと。
 その最有力候補者として、敷島がクローズアップされているのだと。

 アリス:「シンディは10時から再起動させるわ。それで何?話って……」

 敷島は小会議室を借りて、アリスと話をすることにした。

 敷島:「ボーカロイドの本来の用途って何なんだ?」
 アリス:「そりゃもちろん、歌って踊るアンドロイドじゃない。それ以外に何かあるの?」
 敷島:「ウィリーは別のことに使おうとしたらしいな?」
 アリス:「ええ、じー様はね。彼女らの放つ電気信号を使って、大量虐殺テロを企んでた」
 敷島:「何だそれ!?」
 アリス:「ボーロカイドがどうして人気が出るのか?それは彼女達の見た目のキャラクターもそうだけど、本当は人間の心に響く歌を歌うからでしょ?」
 敷島:「そうだ」
 アリス:「これはアタシの分野から外れて大脳物理学辺りの分野になるんだけど、人間の歌声と違って、ボーカロイドの歌声って人間の脳に何か作用があるんだって。ま、じー様の言葉だけどね」
 敷島:「何だって?」
 アリス:「だから、じー様は『上手くすれば、聴いた人間の脳幹の活動を停止させるようなヤツができるかもしれんのぅ……』なんて言ってたっけ」
 敷島:「そんなことが可能なのか?」
 アリス:「じー様の考えてたことだからねぇ……。でもKAITOとMEIKOを捕らえていた時、『これは100%成功する!』なんて言ってたよ」

 敷島は口をあんぐり開けた。

 アリス:「結局タカオ達に強奪されちゃって、それ以上の研究と実験は強制終了させられたけど」
 敷島:「実験したのか?」
 アリス:「実験したよ。確か、テキサス州のド田舎で試したと思う。アタシはいなかったけどね。でもテレビで、『テキサス州の片田舎で謎の大量死!』なんてニュースをやっていたような気がする」
 敷島:「マジか……!その研究データは?」
 アリス:「知らないよ。どこかに破棄したんじゃない?じー様じゃ、ボーカロイドは造れなかったし」
 敷島:「造れなかった!?シンディを造れるようなヤツが!?」
 アリス:「ただ単に歌って踊れるだけのロイドなら造れるよ。そうじゃなくて、じー様が求めていた効果を発揮するタイプね。あれはどうしても、プロフェッサー南里の開発したものだけになるらしいね」
 敷島:「ということは……MEIKOとKAITO、ミクとリンとレン、そしてルカか」
 アリス:「1番危険なのはミクだと思う」
 敷島:「何でだ?」

 アリスはミクを遠隔監視している端末を見た。
 ミクに関して直接操作できる権限は、敷島と平賀にしか与えられていない。
 敷島の持っている端末のホーム画面を開いた。
 比べてみる為に、井辺にアクセス権限のあるMEGAbyteの端末と比べてみる。

 アリス:「ほら見てここ。『Lock』って書いてあるでしょ?」
 敷島:「ああ」

 どちらにも書いている。
 そこに触って解除できるのは、ミクに関しては敷島と平賀だけだ。
 試しに今度はルカの方を見てみる。
 同じくロックされている部分があるが、解除した先の画面に違いがあった。
 ミクにだけ、『Limiter』とある。

 アリス:「これよ、これ」
 敷島:「何だこれは?」

 それに敷島が触ると、こんな表示が出て来た。

 『ここから先は アンドロイドマスター のみ、アクセスが許可されています。アンドロイドマスター の生体認証とパスワード入力が必要となります。よろしれば、“次へ”をタップしてください』

 タップすると、生体認証がまずあった。
 どうやら虹彩認証らしい。
 カメラのレンズの所に自分の目を合わせると、何とOKであった。
 だが、今度はパスワード入力が求められた。
 これは分からない。
 だが、暗くなったタブレット画面に、後ろに控えてニヤけた笑みを浮かべたエミリーが一瞬映った。

 エミリーは知っているのだ!

 敷島がバッと振り向くと、エミリーは元の無表情に戻った。

 アリス:「どうしたの、タカオ?」
 敷島:「……いや、何でもないさ。とにかく、ここまでセキュリティが厳重なら、そんなに心配無いだろう。KR団も、ここまでは嗅ぎ付けていないようだしな」
 アリス:「タカオなら、ボーカロイドを本来の用途で使うだろうからって思っていたのよ」
 敷島:「本来の用途しか知らなかったんだよっ!悪かったな!」
 アリス:「本来の用途で使って、何も悪いことは無いよ」
 敷島:「全く……。他にウィリーが俺達に黙って墓場に持って行きやがったヤツはあるか?」
 アリス:「そんなの知らないよ。じー様が墓場に行くまで、アタシは何も知らなかったんだから」
 敷島:「う……。それもそうか」

[同日10:30.天候:晴 科学館・研究室エリア]

 研究員A:「起動値全て異常ありません」
 研究員B:「アンチウィルスソフト、インストール完了です」
 研究員C:「全てのソフトウェア、作動に異常は出ていません」
 アリス:「OKだね。シンディ、どう?気分は?」
 シンディ:「……おはようございます。今日は2016年12月17日でよろしいですか?」
 アリス:「そうよ。新協定により、あなたの自爆装置は取り外したから」
 シンディ:「了解しました」

 シンディは紺色のビキニショーツだけはいている状態で、上半身は裸だった。
 もっとも、胸の所には白い布が被せられている。
 研究員達がシンディに接続しているケーブルなどを取り外した。

 アリス:「いつもの服はそこにあるから。もう着ていいよ」
 シンディ:「はい」

 シンディが研究室から出ると、外には敷島とエミリーが待ち構えていた。

 シンディ:「社長、姉さん」
 敷島:「よお、気分はどうだ?」
 シンディ:「オーバーホールも受けられたので、調子は良好です」
 敷島:「そりゃあ、良かった」
 シンディ:「あの、自爆装置を取り外したということですが……」
 敷島:「ルディが大爆発しやがったもんで、鷲田のオッサン達が震え上がっただけのことさ。ま、証拠隠滅用の自爆装置だ。今は必要無いだろう」
 シンディ:「ええ、まあ……」
 エミリー:「敷島・社長、シンディは・来週から・復帰・させます・か?」
 敷島:「ああ。そのつもりだ」
 エミリー:「シンディ。私が・お前の・代理を・務めた。引き継ぎを・行うので・左手を・出して」
 シンディ:「うん」

 シンディは右手にはめている紺色の革手袋を取った。
 エミリーは白手袋を取って、シンディと手を合わせる。
 掌に赤外線通信のレンズが付いており、それで互いに情報交換するということが可能だ。

 敷島:(もしかして、俺とのやり取りのことも送信したのか?こいつは……)
 シンディ:「……うん、受信に成功したわ」
 エミリー:「敷島・社長。これまでの・業務について・シンディに・引き継ぎました。あとは・よろしく・お願い・致します」
 敷島:「わ、分かった。今までありがとう」

 エミリーの口調、表情はいつもの通りだったが、敷島にはエミリーが何か含んだ言い方をしたような気がしてならなかった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「ボーカロイドの謎」

2016-12-19 10:23:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月13日17:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島はアリスに再び電話した。

 アリス:「今度は何?」
 敷島:「ちょっと聞きたいんだが、ウィリーがボーカロイドを狙った理由って何だ?」
 アリス:「は?」
 敷島:「いや、昔さ、うちのボーカロイドがウィリーに狙われたことがあるんだ。最初は南里所長に対する嫌がらせ的に思ってたんだけど、今にして思えばもっと他に理由があったんじゃないかって思ってさ……」

 少し間があって、向こうから驚愕の声が聞こえて来た。

 アリス:「そんなことも知らなかったの!?」
 敷島:「な、何だよ?何か、マズかったか?」
 アリス:「おっどろいたー!よくそんなんで、今まで何も無かったわねぇ!」
 敷島:「だから何だよ?」
 アリス:「タカオの強力な運について、研究したくなってきたわ」
 敷島:「だから何だってんだ!?ボカロが一体何だというんだ!?」
 アリス:「タカオ、ボーカロイドがどうしてあんなに人気が出ているのか知ってる?」
 敷島:「彼女達が頑張ってくれてるからだ」
 アリス:「それは当たり前。もちろん、タカオの売り方が上手だからというのもあるよ。だけどね、あのコ達には特殊な能力が……。あ、はい。……あ、そうですか」
 敷島:「何だ?どうした?」
 アリス:「ゴメン!ちょっと急用!また後で」

 アリスの電話が切れてしまった。

 敷島:「一体、何だって言うんだ……?」

[同日19:00.天候:曇 同地区内 某ライブハウス]

 初音ミク:「皆さーん!こんばんはー!初音ミクでーす!」

 敷島は、たまたま近くのライブハウスでミクがソロライブをやるというので、急いで駆け付けた。
 今ではもう井辺を総合プロデューサーに選任し、更には専属マネージャーを付けて任せている状態である。

 篠里:「あ、社長!どうなさったんですか?」

 ステージ裏に行くと、専属マネージャーの篠里が驚いた様子で敷島を見た。

 敷島:「いや、ちょっとミクの様子を見に来ただけだ。何しろ、俺が最初にプロデュースしたボーカロイドだからな」
 篠里:「はあ……」

 そうしているうちにミクの歌が始まった。

 ミク:「もっとずっと笑えるように♪流星にお願いしたら♪……」

 いつものミクの歌声。
 今では多くの固定ファンが付き、物販コーナーのグッズは売り切れ続出だ。
 『スター1人抱えられればビルが建つ』と敷島は親会社の役員に言われたが、正にその通りである。

 篠里:「いつ聴いても心に響きますね。僕もファンの1人でしたから、マネージャーになれて幸せです」
 敷島:「ああ。面接の時、キミのその様子を見てピンと来たからね。うん、期待してるよ」

 敷島はしばらくの間、ミクの歌を聴いていた。
 だが、いつものミクの歌だ。
 どこも変な所は無い。
 出力の調整によって、そのままロボットが歌っている声から人間と聴き間違うほどの歌声まで調整可能だ。
 歌の内容によって、ミクは自分で調整して歌う。

 エミリー:「お気づきになりませんか?」

 エミリーはこそっと敷島に耳打ちした。
 バックヤードには篠里の他、スタッフもいるからだ。

 敷島:「やはり何かあるのか?」

 するとエミリーは普段は見せない、人を小馬鹿にしたような顔になった。
 シンディならたまに見せなくもないが、エミリーがその顔をしたのは初めてだった。

 エミリー:「他のボカロとも聴き比べた方がよろしいかもしれませんね」
 敷島:「ミクだけが特別なのか?それとも、他のボカロも共通しているのか?」
 エミリー:「それは御自分で判断なさいませ」

 ミクが一通り歌い終わる。
 いつしか終演時間の21時に迫っていた。

 ミク:「ありがとうございまーす!あっという間に、時間が過ぎてしまいましたね。わたし、本当はもっともっと歌いたいんです。でも、2時間というお約束ですからね。……」

 エミリーが曲目を見てニヤッと笑った。

 エミリー:「ミクの歌はあと2曲です。その2曲が大きなヒントです。これを聴いて、どういうことなのか御理解ください。できなければ……アンドロイドマスター失格です」
 敷島:「あとの2曲?」

 折しもステージでミクがその2曲を紹介する。

 ミク:「最後の2曲は、あえて懐かしい歌を歌わせてもらいます。皆さんも何年か前、この東京の中心部を多くのロボットが暴れてご迷惑をお掛けした事件を覚えていると思います。この2曲はその時、私が歌ったものです。博士達はこの歌のおかげで、暴走ロボットの動きが止まったと仰っています。聴いてください。“初音ミクの消失”“浅黄色のマイルストーン”」

 ミクがタイトルを読み上げると、敷島はハッと気づいた。

 敷島:「そうなんだ。あの東京決戦の時……」

 
(“東京決戦”当日。降りしきる雨の中、日比谷公園を占拠した前期型シンディ率いるバージョン3.0の軍団。しかしミクの歌う“初音ミクの消失”を電波に載せて放ったところ、大手町界隈を除く他のロボット軍団は強制シャットダウンで活動を停止した)

 ミク:「ボクは生まれそして気づく所詮ヒトの真似事だと……」

 いきなりテンポの早いセリフから始まる。
 とても人間の口ではできないくらいだ。

 エミリー:「う……」

 エミリーが右のこめかみを押さえてフラついた。

 敷島:「エミリー!?」

 エミリーが床に座り込む。
 まるで貧血を起こしたかのようだ。
 ミクのあの歌はマルチタイプでさえも、出力を落とすほどの力があるのか。

 敷島:「! だから、俺がビルに突入してもシンディが待ち構えているということは無かったんだな!」

 放置されたバスを使い、それでバージョン3.0軍団の包囲網に突撃した敷島。
 そこからウィリーの潜むビルに飛び込んだが、シンディが待ち伏せしているということは無かった。
 エミリーがこうして倒れているように、シンディもまたどこかで倒れていたのかもしれない。

 エミリーが復帰したのは、ミクが“浅黄色のマイルストーン”を歌い始めた時。

 エミリー:「キツかったです。……お分かりになりましたか?」

 エミリーがよろよろと立ち上がる。

 敷島:「ああ。分かったよ。確かに、ウィリーなら悪用しそうだな」

 敷島はエミリーが立ち上がるのに、手を貸してやった。

 敷島:「ミク達ボーカロイドに出力のバカ高い歌を歌わせ続ければ、世界中のロボットがブッ壊れて大混乱になるってことだからな。ウィリーがやりそうなテロだ。それで狙ってたんだ。なるほどなるほど。MEIKOやKAITOをヤツから取り戻して正解だったよ」
 エミリー:「それもあるんですけど、まだ他にあるんですよ」
 敷島:「なにっ!?」

[同日21:30.天候:曇 ライブハウス→敷島エージェンシー]

 ミク:「たかお社長が来てくれてたなんて嬉しいです!」
 社長:「ああ。たまには俺も様子を見に行こうと思ってさ」
 エミリー:「初音ミク。あまり・社長に・引っ付くな」
 ミク:「あっ、ごめんなさい!」

 運転は篠里が行い、助手席にはエミリーが座っている。

 エミリー:「社長。後で・今回の・ライブに・対する・ファンの・アンケートを・よく・お読みに・なって・ください」

 エミリーはいつものロボット喋りになって、敷島にそう言った。

 敷島:「わ、分かった!」
 篠里:「アンケートの内容の精査なら、僕達でやりますよ」
 敷島:「あ、いや。ミクは特別なんだ。今回は俺がやる」
 篠里:「はあ……」
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