報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプの光と闇」 2

2016-12-13 19:22:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月12日12:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階 敷島エージェンシー]

〔「それでは現場に中継が出ています。お台場の山門さん」「はい、こちら山門です。私は今、ロボット大サーカスの会場跡地に来ています。ご覧頂けますでしょうか?かなりの大爆発だったことが予想される、あのクレーター。これは、たった1機のマルチタイプと呼ばれる型のアンドロイドが自爆した跡なわけです。この大爆発で……」〕

 敷島:「くそっ」

 昼休みになり、敷島は社長室で弁当をつつきながら、室内のテレビのチャンネルを回していた。

〔「この大爆発の影響で現在も尚、ゆりかもめ線で運休が続いています。また、道路につきましては、首都高湾岸線と国道357号線にも通行止めとなっている部分があります。ご利用の方はご注意ください」〕

 エミリー:「敷島・社長。13時から・プロフェッサー平賀による・記者会見が・行われます」
 敷島:「知ってる。今回の事件について、研究者としての見解を述べるんだろう」

 アレックス(ルディ)があれだけの大爆発を起こしたのは、動力が燃料電池(水素電池)だったからではないかと言われている。
 水素電池なだけに、水素爆発を起こしたからなんて述べたマスコミもあった。
 それに対し、旧型のエミリーとシンディはバッテリー駆動である為、自爆装置を起動させても、せいぜい部品が数メートル飛散するだけだろうと思われている。
 実はこれが、未だに水素電池がロボットの間で普及しない原因とも言われている。

[同日同時刻 天候:曇 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 アリス:「取りあえず、キリのいい所で休憩しましょう。ランチタイムよ」
 研究員A:「はい」
 研究員B:「分かりました」

 シンディの修理をしていたアリス達。
 研究室内に、科学館のバックヤードエリアだけに鳴る昼休みのチャイムを合図に、休憩に入ることにした。

 アルエット:「あの、アリス博士。お姉ちゃんはどうですか?」
 アリス:「修理は順調よ。予定通り、明後日には直るわ。オーバーホールも完了してね」
 アルエット:「良かった……」
 アリス:「私達はランチタイムに入るからね、あなたも持ち場に戻って」
 アルエット:「はい」

 だがアルエット、トイレに寄ったアリスについてくる。
 アルエットもルディなどと同様、水素電池駆動なのだが、もう1つ困ったことがあった。
 水素電池駆動だと廃水が発生する。
 これもまた人間に近づく一歩だと、アルエットを発明した故・十条達夫博士は考えたようだが、人間の不便な部分をあえて再現してしまう形となり、使い勝手の悪さが指摘されるようになった。
 廃水を人間の尿に見立て、排水を排尿行為に重ねることで、より人間に近くなったことをアピールする狙いがあったようだが、どうしても排水(排尿)の際は展示ブースから離れなければならないなどの不便さが発生している。
 エミリーやシンディをバッテリー駆動から水素電池駆動に改造する計画があったものの、今ではあまり実現性は無い。
 また、量産化に成功したメイドロイドやセキュリティロボットも、従来通りのバッテリー駆動になっている。

 アリス:「終わったら、持ち場に戻るのよ」
 アルエット:「はい」

 爆発性のある水素を使用すること、そして構造上、廃水が発生する点がクリアできない時点では、水素電池方式はロボットの世界においては普及しないだろう。

[同日13:00.天候:晴 敷島エージェンシー]

 予定通り、平賀がマルチタイプ研究の先駆者として記者会見を行っていた。
 実際の先駆者は南里志郎や十条兄弟などであるのだが、いずれも故人である。
 直接師事をしていて、現時における先駆者となっている平賀が出ることになった。
 尚、アリスにあっては、世界的なマッドサイエンティスト、ドクター・ウィリーの孫娘である為、出ていない。
 敷島は社長室のテレビでそれを見ていた。

 井辺:「社長、前々から疑問に思っていたのですが……」
 敷島:「何だ?」
 井辺:「どうしてロイドには、自爆装置なんて付いてるんですか?」
 敷島:「井辺君、それは絶対に聞いてはいけないタブーだよ」
 井辺:「も、申し訳ありません!」
 敷島:「いや、いい。どうも平賀先生の見解だと、エミリー達が旧ソ連でスパイロボットとしての用途があった際、証拠隠滅の為に搭載された装置らしいな。それが何故か規格化されたまま、今に至るってところかな」

〔「……マルチタイプの歴史は、東西冷戦の時代まで遡ります」〕

 敷島:「おっ、平賀先生、話し出した。大丈夫かな?エミリーやシンディは元々、旧ソ連の人型兵器だったってのはタブーになってるんだが……」

 それが何故日本にいるのかは、複雑な歴史がある。

〔「スパイ活動としての役割も与えられた彼女達には、万が一、敵に捕まった場合に備えて、自爆してでも機密を保持することが求められていました。その時の自爆装置が規格化され、今に至っていると考えられています」〕

 平賀も敷島と似たようなことを言った。

〔「平賀教授は規格化してしまったことに疑問を感じなかったのですか?」「感じてはいましたが、故・南里先生の御遺作とあっては、勝手に規格を変えるわけにはいかないと判断したものです。また、エミリーやシンディに関しまして、彼女らはバッテリー駆動である為、万が一、自爆装置が作動したとしても、お台場の事件ほどの大爆発はしないものと考えています」〕

 やはり、問題は水素電池の方に向けられた。
 そして矛先は、現時点で唯一、水素電池で稼働しているアルエットに向けられた。

〔「アルエットにも自爆装置は付いていまして……えー、そうですね……。その……水素電池駆動である以上、そうなった場合は、お台場の事件並みの大爆発になるものと思われます……はい」〕

 敷島:「おいおいおい!それじゃ、『アルエットは危険だから直ちに処分しろ!』みたいな流れになるじゃないか!」

〔「……もちろんです。自爆装置の取り外しと、定期的な検査によって、爆発は阻止したいと思います」〕

 敷島:「なに?そんなに簡単に取り外せるものなの?」

 と、そこへ敷島のスマホが鳴る。

 敷島:「はい、もしもし?……ああ、アリスか。どうした?」
 アリス:「どうしたもこうしたも、プロフェッサー平賀が余計なことを言ったせいで、シンディの自爆装置まで取り外さないといけなくなったじゃない。3日の予定が1週間になりそうよ」
 敷島:「そんなに難しいのか!……てか、確かに今は必要の無い装置ではあるな。スパイ活動に失敗して捕まった時の隠蔽用なら」
 アリス:「そういうことね」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「するとエミリー、お前も自爆装置の取り外し改造を受けることになるな」
 エミリー:「御不要の・装置なら・取り外して・ください」

 敷島は机の上に乗っている写真立てを見た。
 そこには南里研究所時代に撮った集合写真があり、敷島と平賀に挟まれた南里が満面の笑みを浮かべて写っている。

 敷島:「所長もまさか、こんなことになるとは思っていなかっただろうなぁ……」
コメント (2)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「マルチタイプの光と闇」

2016-12-13 12:11:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月12日09:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル前]

 敷島を乗せたタクシーがビルの前に到着する。
 そこの前には大勢のマスコミが待ち構えていた。

 記者A:「おはようございます、敷島社長!」
 敷島:「おはようございます」
 記者B:「昨日のマルチタイプ暴走事件について、どう思われますか?」
 記者C:「昨日の事件は敷島エージェンシーさんにとっても、他人事ではないと思いますが?」
 敷島:「昨日の事件については、とても残念なことだと思っております。確かに元々暴走していたルディを抱え込んでしまったサーカス団さんには気の毒でしょうが、まだ暴走の原因がはっきりしていないことには、具体的なことは申し上げられません」
 記者A:「敷島社長の秘書のシンディさんの損傷具合はいかがですか?」
 敷島:「修理可能な範囲です。只今、デイライト・コーポレーションさんにて鋭意修理を行っております」
 記者D:「そちらの方、えーっと……すいません、代替機ですか?」
 敷島:「えーと、ですねぇ……」

 記者Dが敷島と一緒にタクシーから降りて来た者を見ながら聞いた。
 で、何故か答えに詰まる敷島。
 そこにいたのは……。

 エミリー:「秘書代行として・シンディの・代わりに・3日間・お世話に・なります。エミリー・ファースト・です。よろしく・お願い・します」
 敷島:「ちょっと待て。俺はまだ承認してないぞ?別に3日くらいシンディがいなくたって、俺1人で何とかする。一海もいるしな」
 エミリー:「プロフェッサー平賀の・ご命令・です。御理解・願います」
 記者E:「あの平賀教授の?やはり今回の事件は、KR団が関わっているということですか?」
 敷島:「ああ、いえ!そういうことじゃなくて……!ま、まだ現時点では何も言えません。その辺につきましては、むしろ警視庁の方から何かあると思いますので、そちらにお願いします」
 記者F:「こちらのロイドに対して、何か暴走対策の強化といった予定はあるのでしょうか?」
 敷島:「元々こちらは二重三重の対策を取ってありますので、こちらのロイドについては何も御心配は要りません。すいません、そろそろ会社に行きませんと……」

 敷島がエントランスから中に入ろうとする中、エミリーと出迎えに来た井辺が敷島を先導した。
 そして、ようやくエレベーターに乗り込む。

 井辺:「大丈夫ですか、社長?」
 敷島:「ああ。助かったよ。ありがとう、2人とも」
 井辺:「記者会見の準備とかはしますか?」
 敷島:「今回のは事件なんだから、警視庁の記者会見の方が先だろう?マスコミからの取材申し込みに対しては、そう言っといてくれないか。どうせ事件に絡んだ質問をするだろうから、警察の見解を待ってからだってさ」
 井辺:「分かりました」

 ピンポーン♪
〔18階です〕

 敷島達はエレベーターから降りた。

 敷島:「……ってか、本当にエミリーはシンディの代わりをやる気か?」
 エミリー:「イエス。よろしく・お願い・致します」
 敷島:「…………」
 井辺:「社長、エミリーさんはシンディさんの同型機ですから、特に心配は無いと思われますが……」
 敷島:「いや、仕事の出来に関して心配してるんじゃない」
 井辺:「は?」
 敷島:(シンディの監視が無くなったから、自由に遊びに行こうと思っていたのに……!今度はエミリーの監視かよ!)

 敷島は社長室に入ると、すぐに平賀に電話した。

 敷島:「あ、おはようございます。敷島ですが、今電話大丈夫ですか?」
 平賀:「もちろん。今、テレビで見てたんですがね、さすがは敷島さんだ。凄い囲み取材でしたね」
 敷島:「私はその囲み取材されるミク達を守る側なのに、される方になるってどんだけだよって思います」
 平賀:「敷島さんは……いや、敷島エージェンシーさんはただの芸能プロダクションじゃないですからね」
 敷島:「まあ、そうなんですけどねぇ……」
 平賀:「それより、そろそろマスコミが嗅ぎ付けそうですよ」
 敷島:「何がですか?」
 平賀:「アレックスと名乗っていたルディが、どうしてあのタイミングで爆発したかの原因です。どうも件のサーカス団は、団員のロボットに対して、お世辞にも厚遇とは言えない待遇をしていたようですね。それでいて、ミスしたらとんでもない仕置きをするといった、大昔の女工哀史もびっくりの待遇だ」
 敷島:「シンディのメモリーを見せてもらいましたが、確かにアレックス……ルディは仲間の団員を破壊された恨みがきっかけとなって暴走したようです」
 平賀:「そこで問題なのが、敷島エージェンシーさんなんですよ」
 敷島:「えっ?」
 平賀:「恐らく、マスコミが聞いてくるでしょう。サーカスもアイドルも、ロボットやロイドを人間へのエンターテイメントとして活動していることに共通点があります。敷島エージェンシーさんでは、まさかあのロボット大サーカスみたいな待遇はしていないでしょうね、と」
 敷島:「バカな!こっちはちゃんと定期的にメンテナンスを行っていますよ。DCJさんとも契約してね。今日なんか、MEIKOがオーバーホールに入ってます」
 平賀:「それならいいんですが……」
 敷島:「それより私が電話したのは、エミリーのことなんですよ」
 平賀:「エミリーがどうかしましたか?」
 敷島:「いえ、あの……シンディがいないのは3日間だけですし、それくらいでしたら私1人で何とかできるので、別にエミリーをお貸し頂かなくても……と」
 平賀:「それは甘いってなもんです。敷島さんはKR団の残党から命を狙われかねない身です。やはり護衛は必要ですよ」
 敷島:「でもそれは、平賀先生も同じなのでは?」
 平賀:「大丈夫。代わりに七海を連れて来てるので。自分の護衛には七海で十分です」
 敷島:「ですかねぇ……」

 七海の仕様は、もはやただのメイドロイドではなく、簡素的なマルチタイプと言って良いくらいの頑丈さと力を持っている。
 なので、最高顧問には七海みたいな仕様のものを造れば良いのではないかと思われている。

 平賀:「ま、ずっと記念館に閉じ込めておくのも何ですから、こういう機会に外に出してやらないとエミリーもかわいそうなんでね。シンディだと思って使ってやってくださいよ」
 敷島:「かわいそう……ね。分かりましたよ。レンタル料はサーカス団にでも請求してください。どうせ払ってもらえないだろうけど……。それじゃ、失礼します」

 敷島は電話を切った。

 エミリー:「敷島・社長。コーヒー・です」
 敷島:「ありがとう。財団時代……いや、南里研究所時代からそれやってくれてたな」
 エミリー:「イエス」
 敷島:「あの頃は七海もよく研究所に来ていて、七海にコーヒー頼むと、紅茶とコーヒーをブレンドした『紅ヒー』なるものを持って来て、よくお前に怒られてたっけな。『ふざけるな!どこを・どう・漢字変換したら・そうなるのだ!』ってな」
 エミリー:「お恥ずかしい・ことです」
 敷島:「もはや俺と平賀先生で、『おっ?またメイド長さんの指導入ったー!』なんてネタにしてたよ」

 今や七海がメイドロイドの長みたいなものであるが、その七海が未だにエミリーのことを「メイド長」と呼ぶのだ。

 敷島:「あれから10年くらい経つのか?懐かしいなぁ……」

 敷島はコーヒーをズズズと啜った。
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