[12月12日12:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階 敷島エージェンシー]
〔「それでは現場に中継が出ています。お台場の山門さん」「はい、こちら山門です。私は今、ロボット大サーカスの会場跡地に来ています。ご覧頂けますでしょうか?かなりの大爆発だったことが予想される、あのクレーター。これは、たった1機のマルチタイプと呼ばれる型のアンドロイドが自爆した跡なわけです。この大爆発で……」〕
敷島:「くそっ」
昼休みになり、敷島は社長室で弁当をつつきながら、室内のテレビのチャンネルを回していた。
〔「この大爆発の影響で現在も尚、ゆりかもめ線で運休が続いています。また、道路につきましては、首都高湾岸線と国道357号線にも通行止めとなっている部分があります。ご利用の方はご注意ください」〕
エミリー:「敷島・社長。13時から・プロフェッサー平賀による・記者会見が・行われます」
敷島:「知ってる。今回の事件について、研究者としての見解を述べるんだろう」
アレックス(ルディ)があれだけの大爆発を起こしたのは、動力が燃料電池(水素電池)だったからではないかと言われている。
水素電池なだけに、水素爆発を起こしたからなんて述べたマスコミもあった。
それに対し、旧型のエミリーとシンディはバッテリー駆動である為、自爆装置を起動させても、せいぜい部品が数メートル飛散するだけだろうと思われている。
実はこれが、未だに水素電池がロボットの間で普及しない原因とも言われている。
[同日同時刻 天候:曇 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]
アリス:「取りあえず、キリのいい所で休憩しましょう。ランチタイムよ」
研究員A:「はい」
研究員B:「分かりました」
シンディの修理をしていたアリス達。
研究室内に、科学館のバックヤードエリアだけに鳴る昼休みのチャイムを合図に、休憩に入ることにした。
アルエット:「あの、アリス博士。お姉ちゃんはどうですか?」
アリス:「修理は順調よ。予定通り、明後日には直るわ。オーバーホールも完了してね」
アルエット:「良かった……」
アリス:「私達はランチタイムに入るからね、あなたも持ち場に戻って」
アルエット:「はい」
だがアルエット、トイレに寄ったアリスについてくる。
アルエットもルディなどと同様、水素電池駆動なのだが、もう1つ困ったことがあった。
水素電池駆動だと廃水が発生する。
これもまた人間に近づく一歩だと、アルエットを発明した故・十条達夫博士は考えたようだが、人間の不便な部分をあえて再現してしまう形となり、使い勝手の悪さが指摘されるようになった。
廃水を人間の尿に見立て、排水を排尿行為に重ねることで、より人間に近くなったことをアピールする狙いがあったようだが、どうしても排水(排尿)の際は展示ブースから離れなければならないなどの不便さが発生している。
エミリーやシンディをバッテリー駆動から水素電池駆動に改造する計画があったものの、今ではあまり実現性は無い。
また、量産化に成功したメイドロイドやセキュリティロボットも、従来通りのバッテリー駆動になっている。
アリス:「終わったら、持ち場に戻るのよ」
アルエット:「はい」
爆発性のある水素を使用すること、そして構造上、廃水が発生する点がクリアできない時点では、水素電池方式はロボットの世界においては普及しないだろう。
[同日13:00.天候:晴 敷島エージェンシー]
予定通り、平賀がマルチタイプ研究の先駆者として記者会見を行っていた。
実際の先駆者は南里志郎や十条兄弟などであるのだが、いずれも故人である。
直接師事をしていて、現時における先駆者となっている平賀が出ることになった。
尚、アリスにあっては、世界的なマッドサイエンティスト、ドクター・ウィリーの孫娘である為、出ていない。
敷島は社長室のテレビでそれを見ていた。
井辺:「社長、前々から疑問に思っていたのですが……」
敷島:「何だ?」
井辺:「どうしてロイドには、自爆装置なんて付いてるんですか?」
敷島:「井辺君、それは絶対に聞いてはいけないタブーだよ」
井辺:「も、申し訳ありません!」
敷島:「いや、いい。どうも平賀先生の見解だと、エミリー達が旧ソ連でスパイロボットとしての用途があった際、証拠隠滅の為に搭載された装置らしいな。それが何故か規格化されたまま、今に至るってところかな」
〔「……マルチタイプの歴史は、東西冷戦の時代まで遡ります」〕
敷島:「おっ、平賀先生、話し出した。大丈夫かな?エミリーやシンディは元々、旧ソ連の人型兵器だったってのはタブーになってるんだが……」
それが何故日本にいるのかは、複雑な歴史がある。
〔「スパイ活動としての役割も与えられた彼女達には、万が一、敵に捕まった場合に備えて、自爆してでも機密を保持することが求められていました。その時の自爆装置が規格化され、今に至っていると考えられています」〕
平賀も敷島と似たようなことを言った。
〔「平賀教授は規格化してしまったことに疑問を感じなかったのですか?」「感じてはいましたが、故・南里先生の御遺作とあっては、勝手に規格を変えるわけにはいかないと判断したものです。また、エミリーやシンディに関しまして、彼女らはバッテリー駆動である為、万が一、自爆装置が作動したとしても、お台場の事件ほどの大爆発はしないものと考えています」〕
やはり、問題は水素電池の方に向けられた。
そして矛先は、現時点で唯一、水素電池で稼働しているアルエットに向けられた。
〔「アルエットにも自爆装置は付いていまして……えー、そうですね……。その……水素電池駆動である以上、そうなった場合は、お台場の事件並みの大爆発になるものと思われます……はい」〕
敷島:「おいおいおい!それじゃ、『アルエットは危険だから直ちに処分しろ!』みたいな流れになるじゃないか!」
〔「……もちろんです。自爆装置の取り外しと、定期的な検査によって、爆発は阻止したいと思います」〕
敷島:「なに?そんなに簡単に取り外せるものなの?」
と、そこへ敷島のスマホが鳴る。
敷島:「はい、もしもし?……ああ、アリスか。どうした?」
アリス:「どうしたもこうしたも、プロフェッサー平賀が余計なことを言ったせいで、シンディの自爆装置まで取り外さないといけなくなったじゃない。3日の予定が1週間になりそうよ」
敷島:「そんなに難しいのか!……てか、確かに今は必要の無い装置ではあるな。スパイ活動に失敗して捕まった時の隠蔽用なら」
アリス:「そういうことね」
敷島は電話を切った。
敷島:「するとエミリー、お前も自爆装置の取り外し改造を受けることになるな」
エミリー:「御不要の・装置なら・取り外して・ください」
敷島は机の上に乗っている写真立てを見た。
そこには南里研究所時代に撮った集合写真があり、敷島と平賀に挟まれた南里が満面の笑みを浮かべて写っている。
敷島:「所長もまさか、こんなことになるとは思っていなかっただろうなぁ……」
〔「それでは現場に中継が出ています。お台場の山門さん」「はい、こちら山門です。私は今、ロボット大サーカスの会場跡地に来ています。ご覧頂けますでしょうか?かなりの大爆発だったことが予想される、あのクレーター。これは、たった1機のマルチタイプと呼ばれる型のアンドロイドが自爆した跡なわけです。この大爆発で……」〕
敷島:「くそっ」
昼休みになり、敷島は社長室で弁当をつつきながら、室内のテレビのチャンネルを回していた。
〔「この大爆発の影響で現在も尚、ゆりかもめ線で運休が続いています。また、道路につきましては、首都高湾岸線と国道357号線にも通行止めとなっている部分があります。ご利用の方はご注意ください」〕
エミリー:「敷島・社長。13時から・プロフェッサー平賀による・記者会見が・行われます」
敷島:「知ってる。今回の事件について、研究者としての見解を述べるんだろう」
アレックス(ルディ)があれだけの大爆発を起こしたのは、動力が燃料電池(水素電池)だったからではないかと言われている。
水素電池なだけに、水素爆発を起こしたからなんて述べたマスコミもあった。
それに対し、旧型のエミリーとシンディはバッテリー駆動である為、自爆装置を起動させても、せいぜい部品が数メートル飛散するだけだろうと思われている。
実はこれが、未だに水素電池がロボットの間で普及しない原因とも言われている。
[同日同時刻 天候:曇 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]
アリス:「取りあえず、キリのいい所で休憩しましょう。ランチタイムよ」
研究員A:「はい」
研究員B:「分かりました」
シンディの修理をしていたアリス達。
研究室内に、科学館のバックヤードエリアだけに鳴る昼休みのチャイムを合図に、休憩に入ることにした。
アルエット:「あの、アリス博士。お姉ちゃんはどうですか?」
アリス:「修理は順調よ。予定通り、明後日には直るわ。オーバーホールも完了してね」
アルエット:「良かった……」
アリス:「私達はランチタイムに入るからね、あなたも持ち場に戻って」
アルエット:「はい」
だがアルエット、トイレに寄ったアリスについてくる。
アルエットもルディなどと同様、水素電池駆動なのだが、もう1つ困ったことがあった。
水素電池駆動だと廃水が発生する。
これもまた人間に近づく一歩だと、アルエットを発明した故・十条達夫博士は考えたようだが、人間の不便な部分をあえて再現してしまう形となり、使い勝手の悪さが指摘されるようになった。
廃水を人間の尿に見立て、排水を排尿行為に重ねることで、より人間に近くなったことをアピールする狙いがあったようだが、どうしても排水(排尿)の際は展示ブースから離れなければならないなどの不便さが発生している。
エミリーやシンディをバッテリー駆動から水素電池駆動に改造する計画があったものの、今ではあまり実現性は無い。
また、量産化に成功したメイドロイドやセキュリティロボットも、従来通りのバッテリー駆動になっている。
アリス:「終わったら、持ち場に戻るのよ」
アルエット:「はい」
爆発性のある水素を使用すること、そして構造上、廃水が発生する点がクリアできない時点では、水素電池方式はロボットの世界においては普及しないだろう。
[同日13:00.天候:晴 敷島エージェンシー]
予定通り、平賀がマルチタイプ研究の先駆者として記者会見を行っていた。
実際の先駆者は南里志郎や十条兄弟などであるのだが、いずれも故人である。
直接師事をしていて、現時における先駆者となっている平賀が出ることになった。
尚、アリスにあっては、世界的なマッドサイエンティスト、ドクター・ウィリーの孫娘である為、出ていない。
敷島は社長室のテレビでそれを見ていた。
井辺:「社長、前々から疑問に思っていたのですが……」
敷島:「何だ?」
井辺:「どうしてロイドには、自爆装置なんて付いてるんですか?」
敷島:「井辺君、それは絶対に聞いてはいけないタブーだよ」
井辺:「も、申し訳ありません!」
敷島:「いや、いい。どうも平賀先生の見解だと、エミリー達が旧ソ連でスパイロボットとしての用途があった際、証拠隠滅の為に搭載された装置らしいな。それが何故か規格化されたまま、今に至るってところかな」
〔「……マルチタイプの歴史は、東西冷戦の時代まで遡ります」〕
敷島:「おっ、平賀先生、話し出した。大丈夫かな?エミリーやシンディは元々、旧ソ連の人型兵器だったってのはタブーになってるんだが……」
それが何故日本にいるのかは、複雑な歴史がある。
〔「スパイ活動としての役割も与えられた彼女達には、万が一、敵に捕まった場合に備えて、自爆してでも機密を保持することが求められていました。その時の自爆装置が規格化され、今に至っていると考えられています」〕
平賀も敷島と似たようなことを言った。
〔「平賀教授は規格化してしまったことに疑問を感じなかったのですか?」「感じてはいましたが、故・南里先生の御遺作とあっては、勝手に規格を変えるわけにはいかないと判断したものです。また、エミリーやシンディに関しまして、彼女らはバッテリー駆動である為、万が一、自爆装置が作動したとしても、お台場の事件ほどの大爆発はしないものと考えています」〕
やはり、問題は水素電池の方に向けられた。
そして矛先は、現時点で唯一、水素電池で稼働しているアルエットに向けられた。
〔「アルエットにも自爆装置は付いていまして……えー、そうですね……。その……水素電池駆動である以上、そうなった場合は、お台場の事件並みの大爆発になるものと思われます……はい」〕
敷島:「おいおいおい!それじゃ、『アルエットは危険だから直ちに処分しろ!』みたいな流れになるじゃないか!」
〔「……もちろんです。自爆装置の取り外しと、定期的な検査によって、爆発は阻止したいと思います」〕
敷島:「なに?そんなに簡単に取り外せるものなの?」
と、そこへ敷島のスマホが鳴る。
敷島:「はい、もしもし?……ああ、アリスか。どうした?」
アリス:「どうしたもこうしたも、プロフェッサー平賀が余計なことを言ったせいで、シンディの自爆装置まで取り外さないといけなくなったじゃない。3日の予定が1週間になりそうよ」
敷島:「そんなに難しいのか!……てか、確かに今は必要の無い装置ではあるな。スパイ活動に失敗して捕まった時の隠蔽用なら」
アリス:「そういうことね」
敷島は電話を切った。
敷島:「するとエミリー、お前も自爆装置の取り外し改造を受けることになるな」
エミリー:「御不要の・装置なら・取り外して・ください」
敷島は机の上に乗っている写真立てを見た。
そこには南里研究所時代に撮った集合写真があり、敷島と平賀に挟まれた南里が満面の笑みを浮かべて写っている。
敷島:「所長もまさか、こんなことになるとは思っていなかっただろうなぁ……」