[12月27日23:00.天候:曇 東京都台東区上野 学校法人東京中央学園・上野高校]
もう既に学生達は冬休みに入っているはずだ。
ましてやこんな深夜の学校に、学生達がいようはずがない。
だが、その敷地内に2人の男子学生がいた。
生徒A:「坂田君!」
坂田:「細川さん!」
どうやら2人の男子生徒の名は、坂田と細川というらしい。
坂田は中肉中背、細川はその名字には合わず、デップリとした体型であった。
呼び方からして坂田が下級生、細川が上級生なのだろう。
坂田は手ぶらであったが、細川は大きなボストンバッグを持っていた。
運動部員が運動着や部活で使う道具を運ぶのに使うあれだ。
一体、何が入っているのか。
細川:「さあ、早く旧校舎に入ろう!そして、あの壁の向こう側を調べるんだ!」
細川の目がらんらんと輝いている。
一体何が彼をそうさせるのか。
坂田:「は、はい……」
坂田という名の生徒は呼び出されただけなのか、あまり乗り気ではないようだ。
細川:「大丈夫。この時間はもう警備員さんは仮眠に入ってて、旧校舎は機械警備しか入っていない。もちろんこのまま入ったりしたら、すぐに警報が鳴るけど、これを借りておいた」
細川は一枚のカードキーを取り出した。
細川:「ロック解除の暗証番号も知ってるよ。卒業した先輩から聞いたんだ」
細川は慣れた手つきで旧校舎、今は教育資料館と呼ばれている古めかしい建物の入口に取り付けられいる電子ロックの操作盤にカードキーを通した。
〔暗証番号を入力してください〕
細川:「243-1468、覚え方は『伏見仁志、牢屋へ』だよ。作者の知り合いが実刑を食らって刑務所へ行ったという意味だ。何をやらかしたのかな?」
坂田:「閲覧者の皆さん、絶対ウソですから!電話番号だと思って掛けたら、顕正会仙台会館に繋がりますよ!?」
細川:「はっはっはっ!キミこそ何を言ってるんだい?」
〔警備を解除します〕
細川:「ほら、開いた」
坂田:「マジっすか……」
細川:「さあ、入ってみよう」
真夜中の教育資料館は、古めかしい旧校舎の佇まいをそのまま流用しているだけあって、まるで悪魔でも棲んでいるかのような不気味さである。
細川は用意のいいことに、懐中電灯まで持って来ている。
その懐中電灯が2人の行き先を照らす。
細川:「さっき、黒田先生から聞いた話はこの辺だったよね?」
坂田:「ええ……多分……」
細川:「あった!ここだ!うん、これで間違い無いよ!ここだけ壁の色が違う!」
坂田:「確かにそうですね……」
細川:「よし!」
細川は肩から重そうな大きなバッグを下ろし、床に置いた。
そして、いそいそとその中身を開ける。
坂田:「細川さん、これ……!」
後輩の反応に大満足の細川は、嬉しそうな顔をしてその物を持ち上げた。
細川:「うふふふ……!僕のお父さんは、日曜大工が趣味でねぇ。電動ノコギリをこっそり借りてきたんだ」
坂田:「……!」
坂田は開いた口が塞がらなかった。
まさか、これで先ほど教師から聞いた怪談話の正体を暴こうというのか。
この2人の生徒は新聞部員であるのだが、部室の大掃除をしていると、昔の部員達が作った新聞や取材メモを発見することができた。
その時、今から20年も前に学校で怪談話の特集を組んだとあった。
その多くが旧校舎を舞台にしたものであった。
一緒に大掃除をしていた顧問の黒田にこのことを話すと、実は黒田も旧校舎にまつわる怖い話を知っているのだという。
そこで大掃除が終わったら、実際にその現場に連れて行き、黒田の知っている怖い話を聞かせてやろうということになった。
その話を聞いた後で解散したわけだが、何故か坂田は細川に呼び出され、こうしてやってきたというわけである。
細川:「スイッチ、オン!!」
細川は電動ノコギリのスイッチを入れた。
ノリノリの細川に応えるかのように、大型バイクのエンジン音にもよく似た電動ノコギリの甲高い響きが館内にこだまする。
坂田:「細川さん、やめてください!やっぱりダメですよ、こんなことは!!」
坂田は慌てて細川を止めに入った。
だが、そんな坂田を細川は突き飛ばす。
細川:「何するんだよっ!?これから凄い秘密が見れるかもしれないじゃないか!僕はね、感じるんだよ!この中で強大な怨念が渦巻いているのを!この学校には昔から怪奇現象ばかりが起こっていた!悪霊がいたんだ!それを何年か前の先輩達が封じたという噂だ!今までどこに封じていたんだろうと思っていたけど、黒田先生の話を聞いてハッキリ分かったんだ!ここだよ!ここに悪霊達は眠っているんだ!ヒャーッハッハッハッ!!」
坂田にはもう細川を止めることはできなかった。
細川は電ノコを振り上げると、何も躊躇うことなく、壁に切りつけた。
壁は抵抗することなく、その体内を曝け出していく。
だが、暗くてよく見えない。
細川はお構いなしに電ノコを振り回し、壁に開いた穴を押し広げて行く。
と、その音が不意に止んだ。
細川がポカンと穴の中を見ている。
中に、かわいらしい少女が立っていたのだった。
小学生くらいだろうか。
よく見てみると、輪郭が闇ににじんで溶けている。
当たり前だが、生きている人間ではないらしい。
でも、害意は無さそうだ。
細川:「どうしたんだい?ん」
細川が電ノコを床に置いて、優しく話し掛けた。
少女:「お兄ちゃんが……」
少女の幽霊はそう呟いた。
坂田には思い当たる節があった。
黒田が聞かせてくれた話。
坂田:「黒田先生の話に出て来た兄妹のうちの妹の方じゃないですか?空襲の時、ここに逃げ込んでそのまま行方不明になったっていう……」
細川:「そうか……」
細川は大きく頷いた。
細川:「お兄さんの霊とはぐれたのか。かわいそうになぁ」
そう言いながら、まるで迷子の子を保護するかのように細川は手を差し出した。
細川:「出ておいで。一緒に捜してあげるからさ」
細川の言葉に少女は細川の手を掴み、スッと壁の中から抜け出した。
青ざめた唇が、言葉を形作る。
少女:「ずうっと、この中に1人でいたの……」
細川:「うん、そうか。それはさぞ寂しかったろうねぇ。でも、もう大丈夫だよ。僕達がお兄さんを捜してあげるからね。確か黒田先生の話だと、キミ達はここに入り込んでから……。!?」
ところが、少女は細川の話を聞いていなかった。
ガシッともう片方の小さな手で、細川の腕を掴んだ。
少女:「だから、おなかがすいてるの!!」
細川:「わあっ!?」
少女は細川の喉元に食らい付いた。
あふれ出す血をちゅうちゅうと啜る。
細川は全く動かない。
牙に毒か麻酔でもあるんだろうか?
あっという間に血を吸い尽すと、今度は坂田を見た。
少女:「わたし、お兄ちゃんの血を浴びたの。それから血が欲しくてたまらないの……!」
瞳が玉虫色に光っている。
坂田は動けない。
ぼうっと立ち尽くす自分の首に、少女が鋭い牙を突き立てたところで、彼の意識は途絶えた。
[12月28日07:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷]
稲生:「……という夢を見たんです。かなり生々しいものでしたよ」
マリア:「ふーむ……。いや、夢じゃないと思うね」
稲生:「えっ?」
マリア:「試しにテレビ点けてみたら?」
稲生:「は、はい」
稲生は自分のスマホを取り出すと、それでワンセグテレビを点けた。
すると朝のニュースに、東京中央学園にて変死体が2つ発見された旨のことが流れていた。
全身の血を抜き取られ、ミイラ化した状態だったという。
稲生:「僕の母校でこんなことが……!」
マリア:「行ってみる価値はありそうだな。もしかしたら、また魔界の穴が開いたのかもしれない」
稲生:「そうですね」
もう既に学生達は冬休みに入っているはずだ。
ましてやこんな深夜の学校に、学生達がいようはずがない。
だが、その敷地内に2人の男子学生がいた。
生徒A:「坂田君!」
坂田:「細川さん!」
どうやら2人の男子生徒の名は、坂田と細川というらしい。
坂田は中肉中背、細川はその名字には合わず、デップリとした体型であった。
呼び方からして坂田が下級生、細川が上級生なのだろう。
坂田は手ぶらであったが、細川は大きなボストンバッグを持っていた。
運動部員が運動着や部活で使う道具を運ぶのに使うあれだ。
一体、何が入っているのか。
細川:「さあ、早く旧校舎に入ろう!そして、あの壁の向こう側を調べるんだ!」
細川の目がらんらんと輝いている。
一体何が彼をそうさせるのか。
坂田:「は、はい……」
坂田という名の生徒は呼び出されただけなのか、あまり乗り気ではないようだ。
細川:「大丈夫。この時間はもう警備員さんは仮眠に入ってて、旧校舎は機械警備しか入っていない。もちろんこのまま入ったりしたら、すぐに警報が鳴るけど、これを借りておいた」
細川は一枚のカードキーを取り出した。
細川:「ロック解除の暗証番号も知ってるよ。卒業した先輩から聞いたんだ」
細川は慣れた手つきで旧校舎、今は教育資料館と呼ばれている古めかしい建物の入口に取り付けられいる電子ロックの操作盤にカードキーを通した。
〔暗証番号を入力してください〕
細川:「243-1468、覚え方は『伏見仁志、牢屋へ』だよ。作者の知り合いが実刑を食らって刑務所へ行ったという意味だ。何をやらかしたのかな?」
坂田:「閲覧者の皆さん、絶対ウソですから!電話番号だと思って掛けたら、顕正会仙台会館に繋がりますよ!?」
細川:「はっはっはっ!キミこそ何を言ってるんだい?」
〔警備を解除します〕
細川:「ほら、開いた」
坂田:「マジっすか……」
細川:「さあ、入ってみよう」
真夜中の教育資料館は、古めかしい旧校舎の佇まいをそのまま流用しているだけあって、まるで悪魔でも棲んでいるかのような不気味さである。
細川は用意のいいことに、懐中電灯まで持って来ている。
その懐中電灯が2人の行き先を照らす。
細川:「さっき、黒田先生から聞いた話はこの辺だったよね?」
坂田:「ええ……多分……」
細川:「あった!ここだ!うん、これで間違い無いよ!ここだけ壁の色が違う!」
坂田:「確かにそうですね……」
細川:「よし!」
細川は肩から重そうな大きなバッグを下ろし、床に置いた。
そして、いそいそとその中身を開ける。
坂田:「細川さん、これ……!」
後輩の反応に大満足の細川は、嬉しそうな顔をしてその物を持ち上げた。
細川:「うふふふ……!僕のお父さんは、日曜大工が趣味でねぇ。電動ノコギリをこっそり借りてきたんだ」
坂田:「……!」
坂田は開いた口が塞がらなかった。
まさか、これで先ほど教師から聞いた怪談話の正体を暴こうというのか。
この2人の生徒は新聞部員であるのだが、部室の大掃除をしていると、昔の部員達が作った新聞や取材メモを発見することができた。
その時、今から20年も前に学校で怪談話の特集を組んだとあった。
その多くが旧校舎を舞台にしたものであった。
一緒に大掃除をしていた顧問の黒田にこのことを話すと、実は黒田も旧校舎にまつわる怖い話を知っているのだという。
そこで大掃除が終わったら、実際にその現場に連れて行き、黒田の知っている怖い話を聞かせてやろうということになった。
その話を聞いた後で解散したわけだが、何故か坂田は細川に呼び出され、こうしてやってきたというわけである。
細川:「スイッチ、オン!!」
細川は電動ノコギリのスイッチを入れた。
ノリノリの細川に応えるかのように、大型バイクのエンジン音にもよく似た電動ノコギリの甲高い響きが館内にこだまする。
坂田:「細川さん、やめてください!やっぱりダメですよ、こんなことは!!」
坂田は慌てて細川を止めに入った。
だが、そんな坂田を細川は突き飛ばす。
細川:「何するんだよっ!?これから凄い秘密が見れるかもしれないじゃないか!僕はね、感じるんだよ!この中で強大な怨念が渦巻いているのを!この学校には昔から怪奇現象ばかりが起こっていた!悪霊がいたんだ!それを何年か前の先輩達が封じたという噂だ!今までどこに封じていたんだろうと思っていたけど、黒田先生の話を聞いてハッキリ分かったんだ!ここだよ!ここに悪霊達は眠っているんだ!ヒャーッハッハッハッ!!」
坂田にはもう細川を止めることはできなかった。
細川は電ノコを振り上げると、何も躊躇うことなく、壁に切りつけた。
壁は抵抗することなく、その体内を曝け出していく。
だが、暗くてよく見えない。
細川はお構いなしに電ノコを振り回し、壁に開いた穴を押し広げて行く。
と、その音が不意に止んだ。
細川がポカンと穴の中を見ている。
中に、かわいらしい少女が立っていたのだった。
小学生くらいだろうか。
よく見てみると、輪郭が闇ににじんで溶けている。
当たり前だが、生きている人間ではないらしい。
でも、害意は無さそうだ。
細川:「どうしたんだい?ん」
細川が電ノコを床に置いて、優しく話し掛けた。
少女:「お兄ちゃんが……」
少女の幽霊はそう呟いた。
坂田には思い当たる節があった。
黒田が聞かせてくれた話。
坂田:「黒田先生の話に出て来た兄妹のうちの妹の方じゃないですか?空襲の時、ここに逃げ込んでそのまま行方不明になったっていう……」
細川:「そうか……」
細川は大きく頷いた。
細川:「お兄さんの霊とはぐれたのか。かわいそうになぁ」
そう言いながら、まるで迷子の子を保護するかのように細川は手を差し出した。
細川:「出ておいで。一緒に捜してあげるからさ」
細川の言葉に少女は細川の手を掴み、スッと壁の中から抜け出した。
青ざめた唇が、言葉を形作る。
少女:「ずうっと、この中に1人でいたの……」
細川:「うん、そうか。それはさぞ寂しかったろうねぇ。でも、もう大丈夫だよ。僕達がお兄さんを捜してあげるからね。確か黒田先生の話だと、キミ達はここに入り込んでから……。!?」
ところが、少女は細川の話を聞いていなかった。
ガシッともう片方の小さな手で、細川の腕を掴んだ。
少女:「だから、おなかがすいてるの!!」
細川:「わあっ!?」
少女は細川の喉元に食らい付いた。
あふれ出す血をちゅうちゅうと啜る。
細川は全く動かない。
牙に毒か麻酔でもあるんだろうか?
あっという間に血を吸い尽すと、今度は坂田を見た。
少女:「わたし、お兄ちゃんの血を浴びたの。それから血が欲しくてたまらないの……!」
瞳が玉虫色に光っている。
坂田は動けない。
ぼうっと立ち尽くす自分の首に、少女が鋭い牙を突き立てたところで、彼の意識は途絶えた。
[12月28日07:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷]
稲生:「……という夢を見たんです。かなり生々しいものでしたよ」
マリア:「ふーむ……。いや、夢じゃないと思うね」
稲生:「えっ?」
マリア:「試しにテレビ点けてみたら?」
稲生:「は、はい」
稲生は自分のスマホを取り出すと、それでワンセグテレビを点けた。
すると朝のニュースに、東京中央学園にて変死体が2つ発見された旨のことが流れていた。
全身の血を抜き取られ、ミイラ化した状態だったという。
稲生:「僕の母校でこんなことが……!」
マリア:「行ってみる価値はありそうだな。もしかしたら、また魔界の穴が開いたのかもしれない」
稲生:「そうですね」