報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰省前夜の魔の嵐」

2016-12-27 19:18:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月27日23:00.天候:曇 東京都台東区上野 学校法人東京中央学園・上野高校]

 もう既に学生達は冬休みに入っているはずだ。
 ましてやこんな深夜の学校に、学生達がいようはずがない。
 だが、その敷地内に2人の男子学生がいた。

 生徒A:「坂田君!」
 坂田:「細川さん!」

 どうやら2人の男子生徒の名は、坂田と細川というらしい。
 坂田は中肉中背、細川はその名字には合わず、デップリとした体型であった。
 呼び方からして坂田が下級生、細川が上級生なのだろう。
 坂田は手ぶらであったが、細川は大きなボストンバッグを持っていた。
 運動部員が運動着や部活で使う道具を運ぶのに使うあれだ。
 一体、何が入っているのか。

 細川:「さあ、早く旧校舎に入ろう!そして、あの壁の向こう側を調べるんだ!」

 細川の目がらんらんと輝いている。
 一体何が彼をそうさせるのか。

 坂田:「は、はい……」

 坂田という名の生徒は呼び出されただけなのか、あまり乗り気ではないようだ。

 細川:「大丈夫。この時間はもう警備員さんは仮眠に入ってて、旧校舎は機械警備しか入っていない。もちろんこのまま入ったりしたら、すぐに警報が鳴るけど、これを借りておいた」

 細川は一枚のカードキーを取り出した。

 細川:「ロック解除の暗証番号も知ってるよ。卒業した先輩から聞いたんだ」

 細川は慣れた手つきで旧校舎、今は教育資料館と呼ばれている古めかしい建物の入口に取り付けられいる電子ロックの操作盤にカードキーを通した。

〔暗証番号を入力してください〕

 細川:「243-1468、覚え方は『伏見仁志、牢屋へ』だよ。作者の知り合いが実刑を食らって刑務所へ行ったという意味だ。何をやらかしたのかな?」
 坂田:「閲覧者の皆さん、絶対ウソですから!電話番号だと思って掛けたら、顕正会仙台会館に繋がりますよ!?」
 細川:「はっはっはっ!キミこそ何を言ってるんだい?」

〔警備を解除します〕

 細川:「ほら、開いた」
 坂田:「マジっすか……」
 細川:「さあ、入ってみよう」

 真夜中の教育資料館は、古めかしい旧校舎の佇まいをそのまま流用しているだけあって、まるで悪魔でも棲んでいるかのような不気味さである。
 細川は用意のいいことに、懐中電灯まで持って来ている。
 その懐中電灯が2人の行き先を照らす。

 細川:「さっき、黒田先生から聞いた話はこの辺だったよね?」
 坂田:「ええ……多分……」
 細川:「あった!ここだ!うん、これで間違い無いよ!ここだけ壁の色が違う!」
 坂田:「確かにそうですね……」
 細川:「よし!」

 細川は肩から重そうな大きなバッグを下ろし、床に置いた。
 そして、いそいそとその中身を開ける。

 坂田:「細川さん、これ……!」

 後輩の反応に大満足の細川は、嬉しそうな顔をしてその物を持ち上げた。

 細川:「うふふふ……!僕のお父さんは、日曜大工が趣味でねぇ。電動ノコギリをこっそり借りてきたんだ」
 坂田:「……!」

 坂田は開いた口が塞がらなかった。
 まさか、これで先ほど教師から聞いた怪談話の正体を暴こうというのか。
 この2人の生徒は新聞部員であるのだが、部室の大掃除をしていると、昔の部員達が作った新聞や取材メモを発見することができた。
 その時、今から20年も前に学校で怪談話の特集を組んだとあった。
 その多くが旧校舎を舞台にしたものであった。
 一緒に大掃除をしていた顧問の黒田にこのことを話すと、実は黒田も旧校舎にまつわる怖い話を知っているのだという。
 そこで大掃除が終わったら、実際にその現場に連れて行き、黒田の知っている怖い話を聞かせてやろうということになった。
 その話を聞いた後で解散したわけだが、何故か坂田は細川に呼び出され、こうしてやってきたというわけである。

 細川:「スイッチ、オン!!」

 細川は電動ノコギリのスイッチを入れた。
 ノリノリの細川に応えるかのように、大型バイクのエンジン音にもよく似た電動ノコギリの甲高い響きが館内にこだまする。

 坂田:「細川さん、やめてください!やっぱりダメですよ、こんなことは!!」

 坂田は慌てて細川を止めに入った。
 だが、そんな坂田を細川は突き飛ばす。

 細川:「何するんだよっ!?これから凄い秘密が見れるかもしれないじゃないか!僕はね、感じるんだよ!この中で強大な怨念が渦巻いているのを!この学校には昔から怪奇現象ばかりが起こっていた!悪霊がいたんだ!それを何年か前の先輩達が封じたという噂だ!今までどこに封じていたんだろうと思っていたけど、黒田先生の話を聞いてハッキリ分かったんだ!ここだよ!ここに悪霊達は眠っているんだ!ヒャーッハッハッハッ!!」

 坂田にはもう細川を止めることはできなかった。
 細川は電ノコを振り上げると、何も躊躇うことなく、壁に切りつけた。
 壁は抵抗することなく、その体内を曝け出していく。
 だが、暗くてよく見えない。
 細川はお構いなしに電ノコを振り回し、壁に開いた穴を押し広げて行く。
 と、その音が不意に止んだ。
 細川がポカンと穴の中を見ている。
 中に、かわいらしい少女が立っていたのだった。
 小学生くらいだろうか。
 よく見てみると、輪郭が闇ににじんで溶けている。
 当たり前だが、生きている人間ではないらしい。
 でも、害意は無さそうだ。

 細川:「どうしたんだい?ん」

 細川が電ノコを床に置いて、優しく話し掛けた。

 少女:「お兄ちゃんが……」

 少女の幽霊はそう呟いた。
 坂田には思い当たる節があった。
 黒田が聞かせてくれた話。

 坂田:「黒田先生の話に出て来た兄妹のうちの妹の方じゃないですか?空襲の時、ここに逃げ込んでそのまま行方不明になったっていう……」
 細川:「そうか……」

 細川は大きく頷いた。

 細川:「お兄さんの霊とはぐれたのか。かわいそうになぁ」

 そう言いながら、まるで迷子の子を保護するかのように細川は手を差し出した。

 細川:「出ておいで。一緒に捜してあげるからさ」

 細川の言葉に少女は細川の手を掴み、スッと壁の中から抜け出した。
 青ざめた唇が、言葉を形作る。

 少女:「ずうっと、この中に1人でいたの……」
 細川:「うん、そうか。それはさぞ寂しかったろうねぇ。でも、もう大丈夫だよ。僕達がお兄さんを捜してあげるからね。確か黒田先生の話だと、キミ達はここに入り込んでから……。!?」

 ところが、少女は細川の話を聞いていなかった。
 ガシッともう片方の小さな手で、細川の腕を掴んだ。

 少女:「だから、おなかがすいてるの!!」
 細川:「わあっ!?」

 少女は細川の喉元に食らい付いた。
 あふれ出す血をちゅうちゅうと啜る。
 細川は全く動かない。
 牙に毒か麻酔でもあるんだろうか?
 あっという間に血を吸い尽すと、今度は坂田を見た。

 少女:「わたし、お兄ちゃんの血を浴びたの。それから血が欲しくてたまらないの……!」
 瞳が玉虫色に光っている。
 坂田は動けない。
 ぼうっと立ち尽くす自分の首に、少女が鋭い牙を突き立てたところで、彼の意識は途絶えた。

[12月28日07:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷]

 稲生:「……という夢を見たんです。かなり生々しいものでしたよ」
 マリア:「ふーむ……。いや、夢じゃないと思うね」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「試しにテレビ点けてみたら?」
 稲生:「は、はい」

 稲生は自分のスマホを取り出すと、それでワンセグテレビを点けた。
 すると朝のニュースに、東京中央学園にて変死体が2つ発見された旨のことが流れていた。
 全身の血を抜き取られ、ミイラ化した状態だったという。

 稲生:「僕の母校でこんなことが……!」
 マリア:「行ってみる価値はありそうだな。もしかしたら、また魔界の穴が開いたのかもしれない」
 稲生:「そうですね」
 
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“Gynoid Multitype Cindy” 「敷島家のクリスマス」

2016-12-27 14:52:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月24日13:00.天候:晴 東京都中央区 JR有楽町駅前]

 結月ゆかり:「みなさーん、こんにちはー!MEGAbyteでーす!」

 有楽町駅前広場の特設ステージにて、ミニライブを行うMEGAbyte。
 ここには総合プロデューサー兼MEGAbyteマネージャーの井辺が来ている。
 MEGAbyteもだいぶ名前と顔が知られて来た感があった。

 井辺:「すいません、もう少し照明の方を下手の方にズラして頂けますか?……はい」

 井辺もMEGAbyteの売り込みに余念が無い。

 Lily:「それでは聴いてください。MEGAbyteのクリスマスソングで……」

[同日14:00.天候:晴 東京都中央区内]

 ライブが終わって車で移動するMEGAbyte。

 井辺:「お疲れさまでした。いいステージだったと思います」
 ゆかり:「ありがとうございます!」
 未夢:「お役に立てて何よりですぅ〜」
 Lily:「お安い御用です」

 褒められた時の反応に性格が出るボーカロイド達。

 井辺:「この後は一旦事務所に戻りまして小休止の後、特別なイベントに出て頂きます」
 ゆかり:「特別なイベント?」
 Lily:「枕営業は用途外ですよ、プロデューサー?」
 未夢:「あらあら……」
 井辺:「違います。18時より、都内のホテルでパーティが行われます。それにコンパニオン兼余興として歌のミニステージがありますので、それに出て頂きます」
 Lily:「プロデューサー、それって……?」
 井辺:「はい。『敷島家のクリスマスパーティ』です」
 Lily:「やっぱり……」
 井辺:「敷島家と言っても、実際はそれにプラス招待された外部の方も来られるとのことです。ですので、実質的なVIP対応になります」
 ゆかり:「上手くできるかな……」
 井辺:「科学館の時のイベントを思い出して頂ければ、上手く行くと思います」
 未夢:「ありましたねぇ、そんなこと……」

[同日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F 敷島エージェンシー]

 敷島:「はー……」
 井辺:「社長、只今戻り……あれ?どうしました、社長?」
 シンディ:「今日のクリスマスパーティをどうやってバックレるか思案中なんですって」
 井辺:「は?ですが、『敷島家のクリスマスパーティ』は毎年恒例行事のもので、敷島家の血脈者は全員参加が義務付けられているとのことですが……」
 敷島:「井辺君、今すぐ敷島家に養子縁組して、俺の代わりに行ってきてくれないか?」
 井辺:「業務命令ではないので拒否します。もうボーナスは頂きましたし……
 敷島:「くそ……」
 井辺:「そんなにクリスマスパーティが嫌なのですか?」
 敷島:「そうだ。今から日蓮正宗に入信して、『宗教上の理由なのでお断わりします』にするか!」
 井辺:「勘当されるのがオチだと思います」
 敷島:「くそ……」
 井辺:「何がそんなに懸案なのですか?」
 敷島:「ジジィ達にペコペコするのがいい加減嫌になってきた」
 井辺:「社長、それなら先日、東西新聞社の大原社主と会食されたではありませんか」
 敷島:「仕事でお世話になる方はいいの!仕事だと思って割り切れるから。単なる親戚付き合いなのに、腹の探り合いだぜ?勘弁してくれよ」
 井辺:「これもまた同族企業の宿命ですよ、社長」
 シンディ:「そうよ。だったら、これも仕事だと思って割り切ればいいじゃないの」
 敷島:「井辺君も来てくれよ」
 井辺:「当たり前です。お忘れですか?今回のパーティにはMEGAbyteも招待されているんです。プロデューサーの私も同行しませんと」
 敷島:「そうだったな。MEGAbyteに任せて、俺は帰るか!……はぐわっ!?」

 直後、シンディから高圧電流食らう敷島だった。

 シンディ:「いい加減にしろ、このバカ社長」
 井辺:「ははは……」(乾笑)

[同日18:00.天候:晴 東京都文京区後楽 東京ドームホテル]
(敷島家が勢ぞろいしているので、この場でのみ、敷島家の者は名前表記とす)

 孝之亟:「それで例の件はどうなのかね?進んでいるのかね?ワシはねぇ、あれだけが今時分の楽しみでねぇ……」
 孝夫:「…………」
 峰雄:「孝夫、黙ってないで答えなさい!」
 孝夫:「あ、はい。まあ、一応……」
 孝之亟:「ワシ好みのデザインに仕立て上げてくれる約束じゃ」

 孝之亟はシンディを見た。

 孝之亟:「特に、お前の秘書に似た娘のデザインじゃぞ?」
 孝夫:「分かってますって」
 貴婦人:「こんばんは、敷島社長」
 孝夫:「こんばんは」
 貴婦人:「奥様とお坊ちゃまは?」
 孝夫:「あ、えーと……」
 シンディ:「あちらにおいでです」
 貴婦人:「是非お食事したいですわ」
 孝夫:「は、はあ……。では、最高顧問。私は今の方の応対がございますので、これにて失礼!」
 峰雄:「ああっ、待ちなさい!まだ話は終わっとらんぞ!」

 敷島はアリスとトニーと合流した。

 アリス:「どうしたの、タカオ?もう接待は終わったの?」
 孝夫:「強制終了だ、べらもうめ!招待客のおかげで助かった!」
 貴婦人:「んまぁ!可愛らしいお坊ちゃまね!私、幼児教育の研究を行っておりますチャッピー池田と申します。将来はお受験なさるのねー?」
 孝夫:「いやあ、そうなんですよ。是非とも息子には、高い教育を受けさせたいと思っておりまして……」
 チャッピー池田:「あら、私の本をお読み下さったのねぇ?いいことですわー」
 孝夫:「はい。池田先生のお噂はかねがね……」

 シンディは後ろに控えながら、とても敷島の行動について理解できなかった。

 接待が嫌だと言っていたのに、今はこの幼児教育専門家の貴婦人を接待している。
 一体、どういう意味なのかと……。

 シンディ:(人間について、私はまだ全てを理解していないみたい……)
 孝夫:「(老い先短い老害ジジィ共の相手より、未来ある子供の為に動く方が建設的だよ)それで先生、何か料理をお持ちしましょうか?あのローストビーフなんか美味しそうですよ」
 峰雄:「あいつめ、最高顧問を無視してあんなババァを相手にしてやがる……!」
 シンディ:「会長?」
 峰雄:「キミは秘書だろう!?だったらすぐに孝夫を連れ戻してこい!」
 シンディ:「ええっ!?」

 さすがのシンディも、この命令には素直に従うべきなのか迷ってしまった。

 シンディ:(姉さんならどうするだろう……?)

 尚、結局、敷島は老害ジジィ……もとい、本社役員達の相手をするハメになり、幼児教育研究家の相手はアリスが行ったという。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師の闇」

2016-12-27 11:03:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月25日20:00.天候:雪 長野県北部 マリアの屋敷]

 稲生:「えー、それでは皆さん、宴もたけなわではございますが、まもなく今年のパーティも終了となります。最後に、我らが無二の大師匠、ダンテ先生から講話を賜りたいと存じます。ダンテ先生、よろしくお願いします!」

 司会のノリが既に顕正会の総幹部会風になっていることに気がつかない、元顕正会員の稲生。

 ダンテ:「今年のパーティも大変に盛り上がりました。新弟子の皆さん方は再びそれぞれの師匠の元で修行を再開することになるけれども、けしておろそかにしてはなりません。そこで、その新弟子を迎えている組の師匠達に申し上げたいことがある。というのは、師匠というのは弟子を教導するのが役目である。無論、新弟子の自主性を尊重するという方針に異議並びに疑義を挟むつもりは無いけれども、もっとマシな指導をするように。それと……」
 イリーナ:「うーむ……何かすっかり信用されとらんなぁ……」
 ポーリン:「オマエのせいだろ」
 イリーナ:「いやいやいや、昨晩姉さんの弟子が暴走したことに先生はお怒りなのよ」
 ポーリン:「普段の態度が悪いのはオマエの方だろう!」
 ダンテ:「……ウォッホン!!」
 イリーナ:「あ……」
 ポーリン:「あ……」
 ダンテ:「……であるからして、特に私が注意申し上げたいのは……」
 アナスタシア:(おもしろ師匠姉妹が約2名……w)

 15分ほどダンテの話が続いた。

 ダンテ:「……そういうわけであるから、今後ともより一層、精進して頂きたいものであります。それでは」
 稲生:「ありがとうございました。特別顧問のミシェル先生は……」
 ミシェル:「…………」(無言で両手でバツ印を作る)
 稲生:「それでは只今を持ちまして、第383回クリスマス・パーティを終了致します。ご苦労様でした!」

 だから何故にノリが顕正会の総幹部会……。

[同日21:00.天候:曇 マリアの屋敷]

 稲生:「お、雪やんだ」

 稲生達は最後の来客を送り出して屋敷に戻った。
 パーティ会場はメイド人形達が大急ぎで片付けを行っている。

 稲生:「長野の冬は寒いですねぇ……」
 マリア:「スコットランドの冬ほどじゃないさ。それよりパーティの司会、とても良かったよ」
 稲生:「ありがとうございます」
 マリア:「この分だと、また来年もやらされるな」
 稲生:「はは、僕で良ければ……」
 マリア:「来年は『未成年の飲酒は厳禁とす』という規則が作られそうだ」
 稲生:「フランスの法律では、何歳から飲酒OKでしたっけねぇ……。日本と違って、だいぶ低年齢でOKだったような……」
 マリア:「いやいや、ここは日本なんだから、日本の法律に従えって」
 稲生:「それもそうですね」
 イリーナ:「稲生君、マリア、ご苦労さま」
 稲生:「あっ、先生」
 イリーナ:「あとの片づけは人形達がやってくれるから、もう休んでいいよ」
 稲生:「ありがとうございます」
 イリーナ:「稲生君、年末年始の帰省はいつからだったっけ?」
 稲生:「はい。29日から4日までです」
 イリーナ:「そう。もう少し、ゆっくりしてきてもいいんだよ」
 稲生:「えっ?でも、もう往復の乗車券は買っちゃいましたし……」

 因みにマリアの分もある。

 稲生:「先生も御一緒して頂けると、両親も大喜びなんですけどね」
 イリーナ:「この歳になると、もう年末年始で浮かれることも無いんだよ。ま、年寄りはここで留守番してるさ。行こうと思えば魔界にも行けるし、ま、私のことは気にせずに行っといで」

 イリーナは目を細めて言った。

[同日23:00.天候:曇 マリアの屋敷]

 稲生は久しぶりに湯船に浸かった。
 パーティの最中はゆっくりできず、自室に備え付けのシャワーだけだった。
 そこから上がると、外でダニエラが待ち構えていた。

 稲生:「あれ?どうしたの?」
 ダニエラ:「…………」

 ダニエラは手に小さな水晶球を持っていた。

 稲生:「えっ?大食堂のテーブルの下に落ちていたの?……誰かの忘れ物かな?分かったよ。僕が届けてくる」

 稲生は水晶球を受け取ると、西側のイリーナとマリアの居住区に向かった。

 稲生:「あー、でも、先生達寝ちゃったかなぁ……」

 そう思いつつ、西側1階のリビングルームに行く。

 稲生:(あっ、先生いた)

 意外なことに、部屋の中からイリーナの声が聞こえた。
 いつも寝ているイメージのイリーナだが、夜遅くまで起きているのだろうか?
 いつもなら気軽に入って行く稲生だが、この時ばかりは何故か入ってはいけないような気がした。
 しょうがないので、イリーナが何を喋っているのか聞いてみることにした。
 イリーナは誰かと電話しているかのような喋り方をしていた。

 イリーナ:「お前は知り過ぎた……!」

 威圧感のある声だった。

 イリーナ:「知らずにいればいいものを、なぜ調べて回るのだ……!」

 そしてイリーナは千枚通しというか、アイスピックのようなものを水晶球に突き刺した。
 それがズブズブと水晶球の中に入って行く。

 イリーナ:「七不思議を全て知った者には死を!それが昔からの理(ことわり)!」

 そしてイリーナは満足そうな、サディスティックな笑みを浮かべた。

 イリーナ:「呪い針を打ち込んだ。脳にまで食い込み、絶対に外れることの無い魔法の針だ……!」

 イリーナは冷たく笑う。

 イリーナ:「何故だって?……言ったはず。お前は知り過ぎた。だから、生かしておくわけにはいかぬ……!」
 稲生:(な、何かヤバい!)

 稲生が慌ててこの場を離れようとした時だった。

 イリーナ:「……ユウタ君、何も逃げなくてもいいのよ。あなたは、こっち側の者なんだから」
 稲生:「えっ……!?」
 イリーナ:「こっちへいらっしゃい」

 稲生は部屋の中に入った。

 イリーナ:「で、何の用でここに来たの?」
 稲生:「あ、あの……ダニエラさんがこれを食堂で拾いまして……」
 イリーナ:「ああ。誰かの忘れ物ね。後で捜しておくわ。預かるよ」
 稲生:「すいません」
 イリーナ:「さっきのことなんだけどね……。まあ、こんな活動してると、色々とあるわけよ。魔法の秘密を探ろうだとか、まあ、色々。中には一般人に知られるとマズいものもあるから、口封じをすることもある」
 稲生:「そんな……!」
 イリーナ:「まあ、普通に生活してる分には何も無いから。偶然知ってしまうなんて、そんなこと……。故意に調べて回ったりしているヤツだね。もちろん、稲生君は見習とはいえ魔道師なんだから、むしろどんどん知っていいのよ?知識は悪じゃない」
 稲生:「はあ……」
 イリーナ:「そういうわけだから、今夜はもうお休みなさいな」
 稲生:「はい……」

 これ以上何か言うと、自分まで何かされると感じた稲生は素直に引き下がるしか無いと思った。
 それを見送ったイリーナは、魔道書を見た。

 イリーナ:(素質のある者には2つのパターンがある……か。1つは魔道師の存在に気づいてその秘密を探ろうとする者。もう1つはそうする前に、グランドマスターに発見されて弟子入りされる者……。稲生君は後者、か……)
 
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